「誰だてめぇ」
ドウェルグは十字架の前で眼鏡をかけた少女に声をかけた。
「あ……ちょっと待っててね」
少女は見えない誰かに一言かけてからドウェルグの方を向いた。
「勝手に入って御免なさい。鍵が開いていたからつい……あ、私は一年四組の更識 簪っていいます」
「謝罪は受け取った。それで、誰と話していた更識 簪?」
ドウェルグは簪に質問した。ドウェルグには簪が虚空に向かって話しているようにしか見えなかった。
「簪でいいですよ……ヘグニ=ドウェルグさんとルサルカ・シュヴェーゲリンさん」
「それじゃあ~簪ちゃん……貴女ひょっとして幽霊が見えるんじゃない?」
マレウスは簪に自身の予想を話した。簪は目を見開いてマレウスに近づいた。
「何で分かったの?貴女も見えるの?」
「ちょっと落ち着きなさい」
マレウスは簪に大きく揺さぶられたが落ち着くように言った。簪は落ち着きを取り戻しマレウスから離れた。
「アンナ、幽霊なんているのか?」
「死ぬ間際に強い情念があると稀に魂の欠片がマリィちゃんのところに行かないで残っちゃうのよ。でも欠片だからすぐに消えちゃうんだけどね」
マレウスの説明を聞いたドウェルグは納得したが同時に一つ疑問が湧いた。
「魂の欠片だったら俺達が感知出来るはずだが、俺には見えないぞ?」
「ドウェルグはまだ
ドウェルグは黒円卓に加入してまだそこまで日が経っていないので蓄えている魂の量はそこまで多くない。黒円卓全員に施されている魔術『
「成る程な……じゃあ何でこいつは見えるんだ?永劫破壊が施されていないのによ」
「多分だけど……魔眼持ちじゃないかしら。それもかなりレアな。しかも魂と対話出来る体質持ちとか……すごいわねぇ~」
マレウスは素直に感心していた。これほどの魔眼を持った人物とは滅多に会えないので軽く感動した。だがドウェルグは別のことが気になっていた。
「おい簪とかいったか……てめぇ何か諦められねぇことがあんのか?」
ドウェルグの言葉を聞いた簪は一瞬驚いたがすぐに答えた。
「諦められないことか……そうだね、あるかも」
そして、簪は自身の過去を語り始めた。
簪は日本の裏……つまり荒事に携わっている家の次女として生まれた。簪には一つ上の姉がおり、姉は幼少の頃から才覚を発揮していた。しかし簪は
「どうして姉が出来て、貴女は出来ないの?」
「お姉さんは貴女の年の時にはこんなことも出来ていたのに」
姉には多少劣るものの、世間一般では優秀だった。しかし、姉がそれを上回る天才であったため、簪は常に姉と比較され続けた。どんなに良い結果を出してもそれを上回る結果を出すので簪は姉より劣ると評価され続けた。普通なら心が折れてしまうが、簪には周りには見えない何か……幽霊が見えていた。それは落ち込み悲しんでいた簪を励まし、良き話し相手となった。だが周りには見えない何かと話しているように見え
「更識の次女はおかしい」
等と言われ、世間への体裁の為に簪は学校以外は自室に軟禁されるようになった。当然そんな生活を送っていると友人など出来ず、学校でも一人ぼっちだった。中学三年になったある日、簪は自身の父親に呼び出されISの日本代表候補生の試験を受けさせられた。簪は何とか合格することが出来たが、姉は国家代表になっており、またしても簪は姉と比較されてしまった。そうして簪はあることを悟ってしまった。
『才ある者にはどうあっても勝てない』
簪は努力することを諦めてしまおうと思ったが、何故か諦めることが出来なかった。諦めてしまったら自分が自分でなくなってしまうのではないかと思ったからだ。
それから、簪は何をやっても追い付けないまでも、幽霊に応援されながら今まで生きてきた。
「貴女は無能なままでいなさいな」
ある日、姉からそんな言葉を言われた。今までの頑張りや人生が否定されてしまい、簪は心が折れかけてしまったが、幽霊は簪の代わりに怒ってくれた。簪は幽霊に感謝し、心が折れずに足掻き続けた。
「こんなところかな?……面白いものでもなかったかな」
簪は自身の過去を話し終えて、ドウェルグとマレウスの反応を見た。ドウェルグは自身の過去と似た人物がいたことに驚き、マレウスは自身と似た渇望なのに方向性が真逆なのが面白いのか笑みをうかべていた。
「ねぇ簪ちゃん~私たちと一緒に来ない?」
「……え?」
マレウスは簪を勧誘した。いきなりのことに簪は驚いたがすぐに理由を聞いた。
「……どういうことですか?」
「まぁ私の興味本意なんだけどね~貴女のことが気に入ったっていうのが一つね。もう一つは貴女をこのまま放っておくとね、悪~い人達に捕まっちゃうかもしれないから保護しようって思ったからよ」
「悪い人達?」
「それは一緒に来てくれたら説明してあげるわ」
簪はマレウスの言葉に迷っていた。初対面の人に気に入ったと言われ、悪い人達に捕まるかもしれないと言われたら誰だって警戒する。ドウェルグはただ黙って事の行く末を見守っていた。
「……一緒に行きます。それで何か変わるかもしれないから」
「それじゃあ決定~♪今度の休みの朝に教会に来てね?」
「分かりました」
「じゃあ今日は帰りなさいな♪」
「失礼します」
簪は幽霊と話しながら教会を後にした。
「アンナ、何であんなこと言ったんだ?」
ドウェルグはマレウスの言動が気になっていた。何やら簪に感じたことがあったのか、やたらと気に入った印象だった。
「それは貴方もでしょ?」
ドウェルグはマレウスに図星をつかれ、ばつが悪そうに顔を背けた。
「それじゃあ寝ましょうか~」
マレウスは機嫌良く寝室に入っていった。
「それじゃあ報告に行きましょうか」
土曜日、ドウェルグとマレウス、簪は教会に集まっていた。簪は幽霊を連れて来て、ドウェルグはアタッシュケースを持っていた。
「報告って……外出届は出してないんですけど?」
「そんなものは要らないわよ。……来たわね」
マレウスが簪の質問に答えていると、突然扉が輝き始めた。しばらくすると光は収まり、マレウスが扉を開けると
「何……これ……」
黄金に輝く廊下と繋がっていた。簪は別のところに繋がっている事の他にも、廊下が
「良く来てくれた、更識 簪。ドウェルグにマレウス、ご苦労だった。席につけ」
廊下を進み、メルクリウスを除いた黒円卓のメンバーが集まっているところに着くと、ラインハルトは簪を歓迎した。ラインハルトはドウェルグとマレウスに席につくように言うと、二人は深々と頭を下げてからそれぞれの席についた。
「この人達は……」
簪はラインハルトを見た瞬間、自身の目を疑った。こんな強大な光輝いた魂を見たことがなく、思わず後退りしそうになった。
「まずはドウェルグにマレウス。報告をあげよ」
ドウェルグとマレウスはアタッシュケースから資料を出し、各面々に配っていった。
「それではまず……」
ドウェルグは話しを始めた。
「ふむ……ご苦労。カール」
ラインハルトはドウェルグとマレウスの話しを聞いてメルクリウスを呼んだ。すると
「何かな獣殿」
ラインハルトのすぐ横からメルクリウスが現れた。ドウェルグと簪を除く面々はメルクリウスに対して嫌悪感のある眼差しを向けた。
「卿の目から見て、この少女はどうかね?」
「そうですね……魔術師としての才覚は確かなものかと。渇望も中々のもの……永劫破壊もものに出来ると考えているが、どうだろうか?」
「卿と概ね同じ意見だ。さて、更識 簪といったかな。卿は我が爪牙になる覚悟はあるかな?」
ラインハルトは簪を黒円卓に勧誘した。簪はラインハルトの気迫に押されながらも逆に質問した。
「私は……貴方の爪牙になれば自身を変えることが出来ますか?」
「それは卿次第だが、きっかけにはなるだろう」
「分かりました。貴方の爪牙になります」
「卿の覚悟、しかと受け取った。カール、彼女に魔名と
「彼女の魔名は
メルクリウスから魔名と呪いを授かった簪は呪いについて考えていた。自身でも思い当たる節があるのか、少々苦い表情になった。
「ヘレナよ、卿はマレウスの元で基礎的な魔術を学ぶといい。卿は聖槍十三騎士団黒円卓第八位補佐とする。話しは以上だ……Sieg Heil!」
『Sieg Heil!』
ラインハルトが話し終えると、簪を除いた全員が立ち上がり敬礼した。
「へぇ~新しい人か~よろしくね♪」
会議が終わると、シュライバーは簪に声をかけた。簪は驚きながらもシュライバーと会話を始めた。ドウェルグはシュピーネのもとに行き、ブルーティアーズを渡した。そして、仕事があると言われ準備を始めた。
「……あれ?私は?」
マレウスは一人で立っていると、ザミエルに闘技場まで引っ張られていった。その顔は泣きそうな表情だった。
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