ガンナーは神と踊る   作:ユング

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どうやら俺の道理は大衆にとっての道理ではなかったみたいだ。
                              ****のある日の悟り


今回は閑話というか短編みたいなものだから、進展なし。
本当は土日のどちらかに投稿したかった……


第八話

生物は自分より小さなものを可愛がる性質があるという。それはオスでもメスでも関係なく存在し、だからこそ群れを成す生物たちは子ども達を護る習性があるわけだ。そして人間もまたこのような性質がある。ペットを思い出してみよう。ハムスターやイヌ、ネコなんでもいいがどれも可愛いだろう。勿論個人差はあるものの、大方可愛いという感想をもち、可愛がることだろう。では神はどうだろうか?その答えを知る機会が丁度ここにある。天津神たる月読尊ことツッキーがそれを示してくれる。

 

田中太郎が登下校に通り抜ける公園。朝が早く、田中太郎も通る心配もないこの公園には、それなりに人がいた。暖かな朝日に包まれて健康体操をしている人もいれば、公園内を散歩している人もいる。何故彼女がそこにいるのかという疑問は当然あるだろうが、今の彼女にとってそんなことはどうでもよいことであった。今、それどころではない事態に遭遇していたからだ。

 

彼女の視線の先には手乗りサイズの物体。つぶらな瞳、ふわっふわな毛並み、ちんまい黒い体躯。まだ生まれてからそれほど経過していないことが分かるその生物。なんという愛くるしさ満点、あざとい可愛さアピールであろうか。猫である。子猫である。可愛い可愛い猫である。将来を美猫になるだろうことが予測される、今もときめく愛くるしい猫である。この世すべての愛くるしさといっても過言ではないほど可愛い、とりあえず抱きしめたくなるほどの猫である。いやどれほどの言葉を尽くしても可愛いことには違いないのだし可愛いという言葉において他に言葉はないのだからそれが正しいのだけれどしかし自分の語彙の少なさを嘆きたくなるような可愛らしさはどうにかならないのかそれにしても可愛い猫だなぁオイ。

 なんというあざとさ。縦にすれば三百アザトース、横にすれば四百アザトースになるだろう。ちなみに一アザトースがごくごく一般的な普通の人があざといことをした時の数値なのは常識である。比較対象を出すのなら、某動画サイトの歌姫であれば二百アザトースは軽く記録するのも周知の事実であろう。それほどのあざとさをアピールした生物に対する月読尊の反応はといえば。

 

「ほう。ほほう。ほほほう。猫じゃ。猫じゃな。猫ではないか」

 

これである。これなのである。これなのであった。傍から見て動揺が明らかである。

 

「く、くく。こ、この妾にこやつをどうしろと?だきしめろと?もふれと?た愛でろと?神たる妾に、風がふけばそのまま旅立ってしまいそうなこの矮小な生物を高貴で気高くて美しくてとりあえずなんだかんだ凄い妾に持ち帰れと?」

 

その余りの可愛さに心打たれたのか、プルプルと何かを耐え忍ぶかのように振るえ、フラフラと近づき始める。誰に対してしているのか、その口からは言い訳がましい言葉がマシンガントークばりに躍り出ていた。

 

「まぁ妾は優しい神様じゃからここでこのようなかわいいではなく誰もいない状況下いや一人でいるというかわいそうな状況下にある何ら罪もない子猫を可愛がるのもやぶさかではないのじゃがそうする理由もないがかといってそうしない理由もないわけで今こうして妾という存在をその目に焼くつけることができた幸運だけでも一生分の運を使い果たしたといっても過言ではあるまいがまだまだ先は長いのだし妾は慈悲深いから妾が目をかけてやらんこともないのにゃではなくないのじゃそもそもネコという生き物はどこかの異国であれば死者の国に魂を運んでくれるという伝承があったようななかったようなということは黄泉の国にもいそうな気もするから妾がこうして可愛がるということになんら不思議はないというそんな仮定が生まれるわけであるがそれについつい惹かれる妾ではないということをここに証明しようぞいやいやそれでも神とは言え一人の女子として愛いもの愛いとして接するべきであるからしてそうしたらあの馬鹿で愚かでくそったれな弟なんかは明らかに妾に絡んでくることを考えると下手に動くことはできないわけで別に妾はあの愚弟を恐れているわけではなくこう三貴子の一柱という立場のものがそう気安く下賤な生物に関わっていいはずがないわけなのでからといって―――――」

 

いまだ息をつくことなく一息で言えているのはある意味で神の証明になるだろう。支離滅裂で何を言いたいのかさっぱりわからないがとりあえず可愛がりたいことだけは分かった。じりじりとその距離を順調に縮めている。

 すると、子猫の方が月読尊に近寄ったではないか!その顔を足に擦り寄らせてみぃと鳴く。

 

「ふっ…こ、これは不可抗力なのにゃ。妾から触ったわけではなくて、こ奴の方からすり寄ってきたのだから妾は悪くないのにゃ。必然的にこうして抱き上げるように見えているのはこ奴が身の程知らずにも妾の手の中に入ってきたからであって、決して妾から抱き上げたわけじゃないのにゃ。つまりこ奴が今妾の手の中にいることは何も不思議ではないのにゃ」

 

などと顔にだらしない笑みを浮かべて可愛がる。でっれでれである。神ですら斯様にデレさせるとはさすが子猫、フラグ一級建築士の称号をデフォで持つ生物よ。月読尊の語尾が完璧ににゃんこ語にシフトチェンジしている。

 

「むっ?どこへ行くのにゃ。危ないのにゃ」

 

そういうお前はどこへ向かっているのかという話である。子猫が身じろぎして、ツッキーの腕からするりと抜け出す。そして、走り始めた。時々立ち止まってはツッキーを伺う様子は彼女についてこいと言わんばかりである。

 

「妾について参れというのかにゃ?」

 

無礼者、などと言っているが、顔は思いっきりにやけたままである。とりあえずそのだらだらに緩んだ顔をどうにかしてこいとどこからか突っ込みが出そうである。そんなツッキーの様子などお構いなしに子猫は走っていく。その後ろをツッキーが追っていく。子猫が走っていく先には森が広がっていた。

園路から少しわき道に逸れて進むと辿り着く森。日の光を遮るほど群生した森はこの公園の触れてはならない裏の顔。数年前までは何もなかったはずのエリアにいつの間にか侵食するように存在を現し、公園の半分以上を覆うほどになった不気味な森。地元の人たちは国にお願いして、何度か木を伐採してもらったこともあったが、数日経てば何事も無かったかのように元通りになっていて、今では誰も彼もが気味悪く思い、子ども達に入ることを禁じたいわくつきの場所である。そこに足を踏み入れた瞬間であった。

 

「な、なんじゃこの森は?!何が起こった!妾の術が解かれたじゃと!?」

 

浮かれに浮かれて、意識がどこかへ飛んでいた月読尊は一気に正気へとたたき落とされた。先ほどまで自らに書けていた術が強制的に解除されたためだ。人の目から己を隠すための術だ。今はまだ目立ちたずに水面下で行動しようとしていたのに、これではパーになってしまった。漏れでる神気をこの国の呪術師に補足されてしまったら、少々面倒くさいことになる。

 

「厄介なことに今この国には羅刹王もいる。別に戦ってもよいのじゃが、今に限ればそれは得策ではない。何より妾の目的を邪魔されるのは避けたいのじゃ」

 

空を見上げる。空にはただ晴れ渡った青と燦燦と姉神の象徴たる太陽が照っているだけだ。しかし、月読尊の目には今は見えていないものがはっきりと写っていた。

 

「……急いで術を掛け直すべきなのじゃが、この空間では呪力の流れがおかしくなるのじゃ」

 

月読尊は術を発動した際の異常事態に思考をめぐらせる。この森に一歩入った瞬間、いきなり呪力が流れ込んできたと思ったら、術が解除された。そして、先ほど試しに適当に力を発動させたら、発動した瞬間に呪力が戻ってきた。つまりこの森ではあらゆる力が元の形に強制的に戻されるというのだ。

 

「なんともけったいな場所に連れてこられたものじゃ。人間の仕業とも思えぬし、一体どこぞの神格の仕業なのかのう?」

 

どんな術であろうと、それが人間の力である限り神には決して届かない。それはこの世界における常識だ。いわゆる魔術や呪術が飛び交う神秘の世界では絶対なのだ。頑張れば、傷を負わすことは出来るだろう。気合を入れれば彼らの攻撃を防げるだろう。それ以上のことは出来ない。ましてや神を倒すなんてのは無理難題どころの話ではない。

だからこそ、それを覆した魔王たちの存在は異常なのであるが、今は置いておく。重要なのは人間の力では、神を脅かすということは通常は無理なはずである。だから、この現象を別の神格の影響であると月読尊は考えた。

 

「……全く、貴様のせいで妾に施された術が解けてしまったのじゃ。この落とし前どう付けてくれる?」

「みゃあ?」

 

凄むも何も分からないとでもいうように首を傾げる子猫。無垢な瞳には、ただただ純粋な光。もし、今襲われるような事態になれば月読尊はその身一つで対応しなければならない。それは彼女としては避けたいところである。

 

「はぁ……まっ、この程度で貴様を絞り上げる妾ではないのじゃ。どうやらここの神は今はお出かけのようじゃし、すぐに離れれば問題なかろう。それにほいほい付いてきたのは妾自身じゃし、さっさとこの森を出ればどうとでもなるじゃろう。さ、目的の場所まで連れて行かぬか」

「みゃあ!」

 

毒気が抜かれたのか、それとも、もともとそんなに追求するつもりもなかったのか、そのまま子猫に先を促す。この森が目的地ではないということらしい。

森の奥にどんどん進んでいく。森というには小さいが林というには大きい。そんな絶妙な規模の森はあまり手入れされていないのか、枝と枝が所々からまっているのもあり、少し薄暗いように思えた。とはいえ、肉眼で遠くまで十分見通せるくらいはあるのであまり大した障害にはなりえない。だが、月読尊は少しこの森に違和感を感じ取っていた。

 

(そう、ここにある木の一本一本がまるで作り物めいているような……気味が悪いのじゃ。これもこの地の神格の仕業か?)

「みゃあ!」

「ぬおっ!?いきなり鳴くでない。びっくりしたじゃろうが!」

「みぃ……」

「そ、そんな全力でしゅんとするな!これでは妾が悪いみたいではないか!」

 

子猫の鳴き声で思考を中断させられた月読尊は目的地についたことを知る。

 

「にぃ……」

 

子猫がもう一匹いた。共にいた黒い子猫と違いこちらは白い子猫だ。木の上に上っていて、月読尊を見下ろす形になっていた。白い子猫は枝にしがみついていた。まるで、登ったはいいが降りられなくなってしまったかのように。可愛そうに、その小さな体を不安で震えていた。

 

「みゃぁ!」

「にぃ?にぃ!にぃ!」

 

黒い子猫が一声鳴くと、安心したかのように白い猫が鳴きだす。

 

「……まさか貴様妾にこやつを助けろと?そのために妾をここまで連れてきたのか?」

「みゃあ!」

 

肯定するように一鳴き。

 

「……」

「みゃあ?」

 

黙り込んだ月読尊に首をかしげ見上げる黒い子猫。わなわなと体を震わせて、何かを耐えるかのように声を絞り出す。

 

「調子に乗るでないぞ畜生風情が」

「みっ!?」

 

溢れるその怒気を抑えることなく黒い子猫に叩きつける。この畜生はあろうことか三貴子の一人、夜と海とを支配する月神に畏れ多くも命じたのだ。みゃあとしか言っていないが、少なくとも月読尊はそう思った。畜生風情が神に向ってこともあろうに助けろと命じたのだ。なんという傲慢。

普通に考えて、格下相手に命令されたら誰であってもイラッとするだろう。それを許すのは慈悲深い神だけ。そして、彼女はそれほど慈悲深い神ではなかった!それがどれだけ神にとって耐え難いことか、神ならぬ子猫に知る由もないが、本能で逆鱗にふれてしまったことを知る。

哀れ子猫はただ目の前にいる神の審判を待つだけの存在になってしまった。子猫はその短い命を終えるはめになってしまったのだ……。

 

「なんての!妾はそこまで寛大じゃ!その程度のことで怒る妾ではないのじゃ!」

「みゃぁ!?」

 

なんてことになるはずもなく、手の平返しで月読尊はからからと笑った。どうやら怒っていたのは演技だったようだ。態度が一転したことに目を白黒させる子猫を他所に彼女は忠告する。

 

「じゃが、妾でなければ酷いことになっておったじゃろうな!まぁ心まで美しい妾は優しいからの、そっちの白いのを助けるやるのにゃ。決して下心ではないぞ?」

 

顔を再びでれでれにして宣言する月読尊。ここで補足すると、彼女が矛先を納めたのは寛大だからではない。まつろわぬ神であることも関係しているが、それ以上に彼女自身の性格として気に入らないことがあればすぐに感情を爆発させてしまう節が彼女にはある。それでも今回その荒ぶる御霊を鎮め、お灸を据えるだけに止まったのは。

 

「可愛いは正義なのじゃ!」

 

と天下無敵の理由があったからである。

 

「さて、助けてやるにしてもこの場では力を使えぬわけなのじゃが……仕方がない。登って直接助けようかのう」

 

木に登る。するすると意外にもうまい具合に登っていく。だが、月読尊は気付いていなかった。というか後のことを考えていなかった。致命的なミスに気が付いていなかった。それは後の祭り。無事に木を上り、つつがなく白い子猫の元についた彼女は子猫を抱き上げる。

 

「全く、妾に助けてもらえるなどその身に有り余り過ぎた光栄じゃということをその身にしかと刻むが良いのじゃ」

「にぃ……」

「さて、では降りようとするか……しまったのじゃ!」

「にぃ?」

 

声を上げ、致命的なミスを叫ぶ月読尊。

 

「登ったはいいが降りられないのじゃ!」

「にぃ!?」「みぃ!?」

 

驚愕の声を上げる猫二匹。意外かもしれないが、月読尊は降りられない。先ほどまでは上を見ていた。だが、今、下みてその高さを認識してしまった。実は結構高いところにいたりするが、別に飛び降りてもちょっと足が痺れるくらいのところだ。ただし、飛び降りるには結構覚悟が必要となる。

では、登ってきたときと同様に手足を枝に引っ掛けながら降りていくべきだろうが、さてここで子猫を落とさないように抱えながらそんな器用なことが彼女に出来るかといわれれば、彼女にはそんなヴィジョンは全くない。むしろ失敗のイメージの方が先に来る。

では飛び降りようとするが、足がすくんで踏ん切りがつかない。

 

「ふっ、まさか目覚めて早々にこのような窮地に立つことになろうとはな。じゃが、この程度で妾をどうにかできると思うなよ!」

 

 言っていることはかっこいいが、高いところから降りれなくなっただけに大げさである。だが、彼女は神である。己の力が使えなくなった今、体一つでどうにかしないといけない状況下はこれが初めてではないだろうか。一人額に汗を浮かべて熱血展開に持っていこうとも、シュールなだけである。

 

「こんな時、力さえ使えれば!力さえ使えればこんな危機なんてすぐに打開してやるものを……!」

「みぃ……」

「な、なんじゃその目は?ほ、本当のことだぞ?」

 

下にいる黒い子猫が白い目で見ているのはきっと気のせいではない。膝の半分の高さにも満たない小さな生き物にそんな目をされてしまっては、居たたまれなくなる。

 

(こ、このままでは妾の威厳が地に落ちてしまう……!)

 

軽く危機感を覚え、何とか現状打破を試みようとする。だが、事態は待ってくれなかった。

 

「にっ!」

「こ、これ暴れる出ない!」

 

どうしたことだろうか?おとなしく抱きかかえられていた白い子猫が急に暴れ始めた。黒いのもそわそわして落ち着きがなく、明らかに焦っていた。まるで、何かを恐れるように。

 

「ど、どうしたというのじゃ。全く心配せずとも妾が何とかしてやるというに……のわ!しまった、危ないのじゃ!!」

 

何とか宥めようと言葉を搾り出したが、依然暴れることをやめず、むしろ徐々に酷くなっていく。そして、ついにその白魚のように美しい指先に噛み付く。まだ生まれてそれほど経っていないとはいえ、歯は生えている。痛みに驚いて思わず拘束を緩めてしまう。その隙をついて月読尊の手から抜け出して木から飛び降りる。その機敏な動きはさっきとは別人、いや別猫である。咄嗟に手を伸ばして抱きかかえようとするも、それは構わず猫は落下を続ける。あわやと目を瞑るも、猫は華麗な着地を決めた。火事場の馬鹿力というが子猫にもそれが発揮される稀有な事例だろう。そして、無事脱出できた子猫はもう一匹と合流して、茂みに隠れて走り去ってしまった。

取り残された月読尊はといえば。

 

「置いてかれたのじゃ……」

 

微妙にショックを受けていた。ほんの少しだけの付き合いだったとはいえ、一応可愛がっていた相手においてけぼりにされたのはさすがの神といえど堪えるものがある。だが、そればかりにとらわれるわけにもいかず、現状をどうしようかと思考をめぐらせる。

 

「うぅ……もう少し愛でていたかったのじゃ」

 

若干未練は残ってはいるが。言葉を並べてまで不可抗力を訴えていたはずなのに、既に飾ることをしない直球勝負で出た言葉にその未練がいかに大きいのかを示していた。そんな悲しい出来事が起こった現場に、子猫たちと入れ違いになるように男が現れる。サングラスをかけ、学生服に身を包んではいるが、少なくとも堅気には見えない風貌の男だ。出くわしたら、まず声をかけることはしないだろう。普通の人であれば。

 

「おぉっ!丁度良いところに!貴様に妾を助ける権利をやるのじゃ!」

 

だが、月読尊は神である。常人とは違うのだ。たとえ、どれだけ纏う覇気が底知れなくても、呪力を潤沢に感じようとも、彼女は臆すことはない。神だから。たとえ、その男からこの辺り一体に漂う呪力と同じ気配を感じ取っても、恐れない。神であるがゆえに。

これが二人の出会い。この出会いがどうなるのか、それを知るものは誰もいない。神さえも。

 

 

 

 

 

 

「ということが、グラさんが来る前にあったのじゃ。分かったであろう?如何に妾という神が慈悲深く心美しき神であるのか。貴様が来たせいで二匹とも逃げられたがの」

「いや、美しいというかなんだろう、こう、欲にまみれていないか」

「にゃんだと!妾の話を聞いてどうしたらそんな見方ができるのじゃ!貴様相当ひねくれているぞ!」

「にゃん……だと……」

「にゃんはもういいわ!」

 

我らがツッキーはどうやらへそを曲げてしまわれた。口もヘの字に曲げてしまっている。そんな様子をサングラス越しに眺める太郎はいったい何を思っているのか、やはりサングラスに遮られて読み取れない。

 

「しかし、貴様は人間のくせしてやるのう?神でもないくせして、妾の力を完封するとは並大抵のことではないぞ?妾を助けるのに使った力もそうじゃが、一体何をしたのじゃ?」

「超能力だ」

「それでなんでもかんでも妾が納得すると思うなよ?」

「特典だ」

「意味分からんわ。……まぁよいのじゃ。よく分からぬが、異能の類なのは間違いないじゃろうな。あの不気味すぎる木を生み出すのもそうだが、貴様には謎がおおいのう」

「よく言われるが、実はそうでもなかったりするかもしれないぞ?案外俺はただツッキーのいう異能とやらを持っているただの人間の可能性も……」

「はっ、それは無いのじゃ!」

「……そうか」

 

鼻で笑って即答する彼女を見て、少し寂しげに答える太朗。月読尊の中では太朗は、ただの人間ではないとしている。あの神の力すら元に戻す森を作ったのが、人間であったのだ。どこか異国の神格とすらまで考えていたのに、その正体である太朗がただの人間であるはずが無い。月読尊はそう考えている。

変な風に解釈されるのは、いつものことだ。

さりげなく誤解を解く努力を放棄した太朗は、ふとあることに気づく。

 

「……ところでツッキー。後ろの奴らはどうするんだ?」

「うん?何の話じゃ?」

「話に出ていた例の猫たち」

「にゃんだと?!」

 

ばっと振り向くツッキー。数メートル離れた先に、歩く白と黒の小さな体。それを認識した途端、彼女は目を輝かせて、手をわきわきさせる。傍から見たら、危ない奴に見える。

 

「みぃ……」「にぃ……」

「ふぉおおおっ!」

「なんていうか、あれだ。こう……やっぱなんでもない」

 

太朗は形容し難いそれを見て、諦めたように口を閉ざした。色々手遅れだ。美人さんでも度が過ぎると惹かれるより先に身を引く人が多いと太朗は思った。

 

「はっ……ふ、ふん!貴様らは妾を見捨てていったではないか!何を今更こうしておめおめと顔を出したのじゃ!」

「ツッキー、顔、顔」

 

言っていることと表情が一致していない。顔を赤らめて緩ませているのではつんけんした態度にはならないのだ。

 

「みぃ」「にぃ」

「そ、そんな顔したって妾は許さんのじゃ!あの時裏切られた妾の気持ちが分かるか!それはもう月が地球に落ちてくるくらいに沈んだんじゃぞ!」

「どうあがいても絶望じゃないか」

「只の比喩じゃ!それくらい察せ!」

「みぃ…」「にぃ…」

 

子猫たちは申し訳ないよぅという感じの声で、しかしある一定の距離を保ったまま近づかない。近づきたくても近づけない様子である。

 

(これはあれか。俺が怖いからツッキーに近づけないというやつか)

 

そう察してさりげなく彼女から離れる。さりげない気遣いである。

 

「くぅっ…うぅっ……この畜生どもが……」

 

月読尊もまた、一向に近づいてこない子猫たちの距離を縮めていく。

 

「やっぱ可愛いは正義なのじゃぁあああああああああああああ」

 

そして思いっきり二匹に抱きつく。子猫もみぃにぃ鳴きはじめる。

なんていうか、なんだろう。なんて太朗は首を傾げる。今度は太朗が置いてけぼりにされていた。そんな彼をよそに月読尊は声高に宣言した!

 

「妾についてくるが良い!」

「みぃ!」「にぃ!」

 

彼女の両肩にそれぞれ張り付く二匹の子猫。それを意気揚々と幸せそうな顔で撫でる月読尊。大団円だ。

 

(イイハナシカナー?)

 

とりあえず、太朗は蚊帳の外であった。

 




お久しぶりです皆様。そして遅れてすみませんでした
今回は何の進展もなしです。いうなればツッキー回です。
様々な試行錯誤を重ねた結果、廻りまわってこんなへんてこな話が出来上がってしまいました。でも次回は確実に話が進んでいきます。
では次回もお楽しみに(>ω0)b


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