ガンナーは神と踊る   作:ユング

12 / 31
作者は頑張った!


第十話

私はとある目的のために公園でいました。今夜はまだ三日月。出来ることに限界はありますが、やることはやるのが私です。公園という場所を選んだのは、あらゆる力を強制的に還元する森の影響なのか、力が異常なまでに滞留しているのです。もし、彼がこの状況を意図的に作り出したというのであれば、一体何が目的でそのようなことをしたのでしょう。それに、あの森は……いえ、これ以上は考えても詮無きこと。利用できるのであれば利用してしまいましょう。

 

――――ちょおおおおおぉん

 

私が舞い始めると同時に、土地神達や地精達が騒ぎ始めます。実体化するほどの力を持たない彼らはそれでも私の目的のためにその力を振るってくれるのです。私はこの辺りに流れる龍脈に、滞留した力を乗せていきました。彼らの役割はその際に生じる龍脈の乱れを最小限に抑えること、そして力を最大限にまで高め調整すること。龍脈に乗った力は、巨大なうねりとなって各地を巡り、彼らを目覚めさせてくれるでしょう。もっとも、完全に目覚めさせるにはそれだけでは足りないですが、このまま月が満ちていけばその心配もなくなるでしょう。

私が舞い、地精が叩く。ウズメほど舞いは得意ではありませんが、それでも力は順調に流れていきました。ですが、突如響いた声によってそれは遮られてしまいした。いきなりのことで、思わず制御をミスってしまったような気がしますが、大したことはないようなので、意識を声に向けます。

 

闇に溶け込むように、いえ闇から浮かぶように人間の男が現れました。グラさん……私が興味を持った人間。全身から放たれているその威圧からは悪意が満ちており、悪霊や怨霊共が大量に纏わり付いていました。力が滞留してしまっているこの場ではそういった良くないものまで引き寄せてしまうのです。しかし当の本人はあくまで自然体。人間である彼が何故平然としているのか分かりませんが、彼の異能が関係しているのでしょう。……異能、呪力を用いずに特異な現象を引き起こす能力。稀にそういう力を生まれ持つ人間がいると聞きますが彼もその一人です。しかし、あの時私を木から下ろすのに使った力がそれに当たるのでしょうが、関連性が見当らないですね。それにもう一つの力も気になりますし。

 

しかし、この状況覚悟はしていましたが少々厄介かもしれませんね。間違いなく、勝手に滞留した力を使ったことには気が付かれています。彼の出方次第ですが、相手は未知の力を使ってきます。今の私の状態であれば討伐はされずとも、封印はされてしまうかもしれない。それは私にとっては好ましくない展開です。せめて、舞いが終われば、後は彼らが勝手に動き出してくれるのですが……。今はここをどう乗り切るかですね。私は何が起こってもいいように力を溜め、いつでも発動できるようにする。たいしたことは出来ないが、人間一人相手にするくらいであれば余りあるくらいだろう。彼の力は不確定要素が大きいので油断は出来ないが。

 

「あんた誰だ?」

 

彼は私を警戒しているのか、距離をとっていました。出会い頭にそういわれると思いませんでしたが、よくよく考えて見ればそれも理解できます。昼の私と今の私の違いに驚いたといったところでしょうか。彼から放たれる圧力がその勢いを増していました。

 

「そういう反応をされてしまうと昼の私がどんなものか、明言されずとも分かってしまうものですね。ですが、あれも私であることには変わりません。ですので、その問に対する答えは私も月読尊です」

 

内心穏やかではないまま、私は応対します。

そう、いかに昼の私がアレであっても、それは太陽の威光により天が照らされているためだ。夜の領域を支配する私ではあるが、かつては天という括りで共に支配していた名残か、今も太陽の影響を受けてしまうのです。いえ、そもそも月は太陽がなければ輝けない。どうあってもその威光は私に届いてしまうのでしょう。だから、日が昇っている間は常に力を制限されてしまうのです。

 

「まさか二重人格なのか?」

 

にじゅうじんかく……二重人格でしょうか?ふむ、言葉から察するに私に二つの人格が重なっている状態にあることを指しているのでしょうか。しかし、それは正確ではありませんね。あくまで人格は私がベースになっていますし、日が昇っている間はその威光に影響されて頭がアレになるのであって、もう一つ人格があるわけではないのですから。

ですが、他から見ればそこに違いはないのでしょう。説明するのも面倒ですし、この感覚を正しく伝えられそうにも無いので、その理解でいいと思います。

そのような主旨の内容を私は彼に伝えましたところ、彼は何故か目頭を押さえてしまいました。しかし、この反応、演技なのか本気なのか、眼を隠されていると判断しにくいですね。

 

「どうしたんですか?」

「いや、なんでもない。それは置いておいて、家で美味しいご飯が待っているから帰ろう」

 

意外なことに、彼は圧力を緩め、警戒態勢を解いた。……なにやら、ものすごく優しい声で気持ち悪かったです。こちらを見る眼もなにやら嫌な感じです。何かを企んでいる……?いえ、それにしては隙が多すぎる気もします。

「ああ、わざわざ迎えに来てくれたんですか。それはありがとうございます。ですが、もう少しだけ待って下さい。後少しで終わりますので」

「ああ分かった。ツッキーの好きにしてくれ」

 

だめもとで言ってみたのですが、すんなり通ってしまいました。あっさり過ぎて、少々裏があることを疑ってしまうレベルですが、どうやら、力を勝手に使われていることを気にも留めてないみたいです。それとも泳がされているのでしょうか?……なんであれ、油断は出来ませんね。でもそこまで言われるのであれば、こちらの好きにさせてもらいましょう。いえ、本来私は好き勝手してもよい立場なんですけどね。

 

それにしても。

 

「ツッキーですか」

 

頭が若干弱いときの私は勢いでそう呼ぶように言ってしまいましたが、今の私からしてみれば恥かしいのです。微妙な雰囲気が伝わったのでしょう、グラさんはこんな提案をしてきた。

 

「月読尊にちなんでお月さんとかどうだ?」

「むむむ」

 

お月さんときましたか。ツッキーも大概ですが、そのように気安く呼ばれたことは無いですね。ですが、悪い気はしませんね。月読尊たる私は月の化身でもあるわけですから、違和感もそうそうないですし。あれ、意外にいいのではないでしょうか?

 

そう思って、それを受け入れたのですが、その際提案した本人の顔が微妙な感じに歪んでいたのは一体どういうことなのか。まぁ、純粋に私は気に入ってしまったので、グラさんにたいして一言二言お礼を言いました。勿論他意はありませんよ?本人がどうとろうと勝手ですけどね。

 

胸を押さえて固まっている彼をよそに私は舞い始める。中途半端になっていた力の流れを澄みわたった河川の水のように流していきました。膨大なまでに滞留した力は至純なものであり、この世のあらゆる生命の源となり、健やかな命を紡いでいくことでしょう。同時に、私の目的も果たしてくれることでしょう。そして、グラさんに纏わり付いていた悪霊や怨霊たちは私の神気に当てられたのか、その流れに浄化されて黄泉路へと旅立っていきました。

 

「終わりましたよ。さあ、帰りましょうか。

 

すべてが終わって、私はグラさんに声をかける。すると、肩にふわりとかけられました。

 

「春といえ、まだ冷えるからな。男臭いかも知れないがそれで我慢してくれ」

「……くるしゅうないですよ?」

「さよけ」

 

照れたように顔を背けるグラさん。意外な一面を知って思わず頬がつりあがるのを止められないまま、帰路に着きました。

 

 

 

 

 

 

「あんた誰だ?」

 

俺は問わずにはいられなかった。姿形はまったく同じなのは明らかだ。でも目の前の人物が果たして本当に俺の知っている奴と同一人物であるのかを判断できない。昼寝をする前まではあんなに外見年齢に不相応な落ち着きの無さを見せていたというのに、今は相応な佇まいだ。

 

「そういう反応をされてしまうと昼の私がどんなものか、言われずとも分かってしまうものですね。ですが、あれもまた私であることには変わりません。ですので、その問に対する答えは、私も月読尊です」

「まさか二重人格なのか?」

「二重人格……?それが人格がもう一つあることをさしているのなら、厳密には違います。簡単に言えば、日が昇っている間は太陽の威光に月は隠れてしまうのですよ。ですが、その理解で問題ありません」

 

そんなこといっているが、やっぱりそうなんだろう。そっか……ツッキーも辛い人生を送ってきているんだな。二重人格……正式名称を解離性同一性障害だったか。様々な漫画や小説で取り扱われていて、人格の交代でまるで便利なもの扱いされている描写もあるが、実態はそんな生易しいものではないという。『障害』といわれているものが、そんな便利なものであるはずがない。

そもそも、どうして別人格が生じるのかを考えてみればいい。普通に過ごしていてそんなことが起こり得る可能性は果たしてどれだけのものだろうか?生半可な経験ではならない。そして、ツッキーはそれだけ辛い経験をしたのだろう。

そう考えれば、ツッキーのこのイタイ発言もそれも関係しているのだろう。辛い人生を少しでも楽しく生きようとして……。そう考えると少し目頭が熱くなってきた。

 

「どうしたんですか?」

「いや、なんでもない」

 

俺はこういう話にはめっぽう弱かったりする。同情してしまうのは相手に失礼かもしれないが、それでも俺は同情せずにはいられないのだ。俺の事情と重ねてしまうからかもしれない。俺もまた、なんだかんだでいつも諸悪の根源にされているからな。

 

「それは置いといて、家でおいしいご飯が待っているから帰ろう」

「ああ、わざわざ迎えに来てくれたんですか。それはありがとうございます。ですが、もう少しだけ待って下さい。後少しで終わりますので」

「ああ、分かった。ツッキーの好きにしてくれ」

 

まだ踊り足りないのか?流すように手をひらひらとさせどうぞどうぞすると、彼女は何か微妙な顔をしていた。流石に適当すぎたか。と思ったら違うことのようだった。

 

「ツッキー……」

「ああ、そっか。他の呼び方の方がいいのか」

 

不満そうな声を受けて、俺は考える。月読尊だから、月読、ツッキー、つきりん、つきつき……ろくなのが浮かばないな。ここは原点回帰でいこうか。だったら、あれなんてどうだろうか。どことなく古風だし、彼女に似合うだろう。

 

「月読尊にちなんでお月さんとかどうだ?」

「むむむ」

 

何がむむむだ!俺の言葉に頭を抱えて悩む。まぁ自分で言っていてなんだが、無いな。そこまで悩むほどでもないだろうに。嫌なら嫌って言っていいのよ?

 

「まぁ、ツッキーよりはましですか」

 

いいのか!?お月さんだぞ?空に浮かんでいるでっかい球体の名前を付けられたことに疑問を抱いてくれよ。冗談で提案したのに、受け入れられたら罪悪感が生じてしまうだろうが!

 

「お月さんですか。ふふっ、未だかつてそのように呼ばれたことはありませんね」

 

それはないだろうよ!何気に気に入ったのかよ。やめろよ、そんな嬉しそうな顔されたらやっぱなしでとかいえないだろうが。

 

「グラさんの名前のセンスに脱帽です」

「……なんかすまん、いやごめんなさい」

「どうして謝るんですか?私に純粋にあなたを褒めているのですが」

 

やめろ、やめてくれ。言葉の一言一言が心にグサグサ刺さってくるんだ。言葉は凶器だっていうけど、別の意味でそのとおりだよ。澄んだ瞳を見ると嫌味に思えない。くそ、褒められているはずなのに、何でこんなに苦しいんだ?俺の罪の意識がそう感じさせているのか?褒められなれていないからなのか?

俺の苦悩をよそに、ツッキー……いやお月さんは再び舞い始める。拍子木の音がどこからともなく響き始める。その舞いはゆっくりで優雅さを感じさせるが、俺にはそれに見惚れる余裕は欠片も存在していなかった。

 

「終わりましたよ。さぁ帰りましょうか」

 

お月さんの額には汗を浮かび、息も上がっていた。ほほも赤く染め、どことなく色っぽい。しかし、まだ春も始まったばかりで夜は冷え込む今の時期だ。今は運動したばかりで体は温まっているだろうが、少ししたら冷やしてしまうだろう。俺は上着を彼女の肩に乗せた。

 

「……くるしゅうないですよ?」

「さよけ」

 

上目遣いでそう言われても照れてやらないからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

月読尊によって流されていった力は、龍脈に乗って各地へと流れていく。

北へ、西へ、東へ、南へ、北東へ、南東へ、南西へ、北西へ。

ゆっくりと、そして着実に。

それは巨大なうねりを伴って日本中を流れていく。

月読尊の思惑を乗せた力は巡り、そして、引き寄せられる。

 

 

 

 

 

 

――――物語は動き始める。

 




色々矛盾や疑問点はあると思います。

でも軽い気持ちで呼んでいただけると嬉しいです。

では次回もよろしく(0ω<)b


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。