ガンナーは神と踊る   作:ユング

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キャラに違和感を持つ方が出てくると思います。
そういったことが大丈夫な方はどぞー。
大丈夫でない方はまぁ……許してや。


第十六話

登校してすぐ護堂は真っ先に三階へ向った。一年生が三年の教室に行くというのは珍しいので、もっぱら注目の的になったりしているが、それ以上に目を引いたのが学院一不幸な教室として名高い教室に迷わずに足を運んだのが更なる注目を集めた。

知らないと思ったのだろう、お節介焼きの先輩が無知な後輩を止めようと説得するも、護堂は聞く耳を持たず、そのまま教室に入る。

果たして、教室の隅にはジャンプの新刊を読みふける球磨川の姿があった。護堂は彼に用があるのだ。周囲の人間が止めるのもなんのその、勇み足で球磨川に話しかける。頼むから穏便に済ませてという周囲のハラハラした様子が気の毒だ。

 

「球磨川先輩」

『ん~?誰か知らないけど、もうちょっと待って。今ジャンプ読んでるから』

 

手元のジャンプから目を離すこともなく、興味ない返事をする球磨川。護堂が見る限り、今彼が開いているページはまだ半分もいっていない。どう見ても『もうちょっと』待てば予鈴がなってしまうだろう。そんなことはさけたい護堂は、少々乱暴だが、球磨川の手からジャンプを取り上げる。

 

『あっ!ネガ倉君が!?』

「すみません、球磨川先輩。でもどうしても話を聞いてほしいんです」

『君は……くささぎごろーくん、くささぎごろーくんじゃないか!』

「護堂です」

 

微妙に似ているのがむかつくが、今は置いておく。

 

『そうだっけ?で、護堂ちゃんは僕に何か用なのかい?』

「球磨川先輩、あんたタロ兄さんに一体何をした?」

 

単刀直入に尋ねる。前カラオケに行った時は太郎もいて聞けなかったこと。彼のいない今だからこそ聞ける。

 

『ん?それは何の話だい?』

「とぼけんなよ。兄さんがおかしくなったのはあんたのせいだろ!」

 

前にも思った。球磨川から薄気味悪いものを、薄ら寒いもの感じる。見ているだけで、ざわざわと這い寄ってくるような悪寒で背筋が騒ぐ。カンピオーネとしての体質で、真剣勝負において彼の肉体は最善の状態を保とうとする。そして、そうなっている今、これは護堂にとって真剣勝負に他ならなかった。

長年太郎と付き合っている護堂にとって、球磨川の気配などどうってことない。あの全てを押し潰さんとするプレッシャーに比べればどうってことない。そう心中で呟いて、嫌な感覚と真正面から向きあう。カンピオーネとしての本能が油断できないと警告する。

 

『おかしくなった?う~ん、やっぱりなんのことか分からないかな。もうちょっと具体的に教えてくれないと僕も答えようがないよ』

「タロ兄さんが誰かを傷つけて平気なはずがないんだよ!あの人は不器用だけど誰よりも優しくて、誰かが困っているのを見捨てることができない人で、俺のヒーローなんだよ!」

 

それがどうすれば。

どうすればあんな気持ち悪い笑みを浮かべることができるというのか!

本気で知らないと言いたげなとぼけた顔が、態度がどうしようもなく白々しく、それが護堂の神経に障る。

 

「あんただろ!兄さんを変えたのは」

『ん~、そうかもしれないし~、そうじゃないかもしれないなぁ』

「真面目にってうわっ」

 

胸倉を掴みかかる勢いで詰め寄る護堂は、背後から羽交い絞めにされる。

 

「た、頼むからこれ以上変に問題を起こさないでくれ!」

 

それは、そのクラスの総意であり懇願であった。ただでさえ球磨川禊と田中太郎という災厄な爆弾を抱え込んで、受験生でありながら幸先の悪い一年を送らなければならないというのに、問題が起こったのがつい先日。

それから幾ばくも経たない内に目の前で新たに問題を起こされてしまえば、彼らの胃に穴が開くことは必然。巻き込まれたくないのが人情だ。

そんな彼らの思いを護堂は読み取った。そして、自分のしたことが少し悪手であることに今更気付く。話すのならこのように人目が多い場所ではなく、人のいないところで話せばよかったのだ。どうやら感情が先走りすぎてしまったようで、名も知らぬ先輩に止められた護堂は頭を冷やす。

そして、また後でと一端その場を引こうと思った矢先のことであった。

 

ドスッ!

 

護堂の顔の横を何かが掠り抜けた。べちゃりと何かが頬に付き、重力に従い顎へ向って滴りおちていく。

 

「え?あ……?」

 

そう口にしたのは誰だっただろう?拘束が緩むと同時に背後でドサリと、何か重たいものが落ちる音がした。護堂は否、誰もが呆気に取られた。どうして、目の前で球磨川は何かを投擲したような体勢にあるのか。どうして、自分を羽交い絞めしていた生徒は頭から血を流しているのか。

 

どうして、図太い螺子がその生徒の顔から生えているのだろうか?

 

「き、きゃああ……え?」

「う、うわぁああ……は?」

 

思考が事態に追いつき、悲鳴が上がり、そしてまた別の事態にあっけに取られる。

それは一瞬。まるで幻であるかのように、顔から螺子は消え、身代わりのように床に突き刺さっていた。意味が分からない。まるで、男子生徒の顔に螺子が刺さったなんて事実が無かったかのようだ。幻覚にしては飛び散った血の跡や匂いがあまりにも現実味を帯びていた。

しかし、その痕跡すらも何処かへと消え去ってしまった今、残ったのは本当に死を体験したかのように顔を真っ青に染める男子生徒だけ。

 

『駄目だよ君。後輩をいじめるなんて先輩としての態度がなっていないし、他人の会話に割り込むのも人としての礼儀がなってないよ。そんなんじゃあ、後輩に愛想つかれるぜ?』

「ひっ!」

 

優しく丁寧に教えるように、気取ったように語る球磨川。言っていることは間違いなく正しいのに、どうしてこいつの言葉には害虫が体中を這うような怖気が走るのだろうか?それに当てられた男子生徒はカチカチと歯を鳴らし、ガタガタと体を震わせるだけ。

 

「あんた今一体何を!?」

『おいおい、襲われていた君を助けたのにそれはないだろ?親に助けられたらお礼をいいなさいって習わなかったのかい?』

 

悪びれることなく、むしろ護堂の発言を咎める始末。

 

『さ、邪魔者もいなくなったことだしさ、話の続きをしようか?確か下着Yシャツについての僕なりの考察だったっけ?』

 

んーでも僕の最近のトレンドは裸エプロンなんだけどなーなどという戯言を本気で困った表情で吐く。全く理解が出来なかった。

 

「あ、あんた。今人一人を殺したんだぞ!?どうしてそんな平然としていられるんだ!」

『殺したって、人聞きの悪いこと言うなよ。そこの彼はちゃんと生きているじゃないか』

「それはあんたが生き返らしたからだろうが!」

『あっはっは。面白い事を言うね護堂ちゃん。小説や漫画じゃないんだから、人が生き返るわけないじゃないか?それ以前にだ』

 

うっすらと浮かべる真っ黒な笑み。凍えそうな気配を撒き散らし、何もかもを全身全霊をもって他者を馬鹿にするその笑みは凄惨の一言!誰もが目の前の球磨川に飲み込まれていた。

 

『僕のような過負荷(マイナス)からそんな異常(プラス)な力が生まれるわけないだろ?僕を見縊るなよ』

 

誇れるところなど無いことを誇る彼のあり方は、普通ではない。はっきり言って理解が及ばない、既知の外側の存在だ。あまねく変人と接する機会の多かった護堂をして、目の前の存在は意味不明の極みにあった。だからこそ護堂は決意する。彼を突き動かすのは目の前の男を許せないという義憤、そしてそれ以上に彼が尊敬している人のためだ。

これ以上こいつの傍にいたら、あの人は駄目になる!

 

「球磨川先輩!いや、球磨川ぁ!あんたが兄さんと同じような超能力者だろうが決めたぞ!あんたはタロ兄さんの隣にふさわしくない!」

『随分と酷いことを真正面から言うんだね君は。そんなこと言われたら僕の心ははりさけちゃいそうだよ』

 

へらへらした顔で全く説得力ない球磨川の言葉。だが。

 

『でもね、君が太郎ちゃんをどう見ているか分からないけど、コレだけは言えるよ』

 

直後に彼が言った言葉は護堂の神経を逆なでするには十分な威力であった!

 

『男の嫉妬は見苦しいぜ?』

「球磨川ァァアアアアアアア―――――ッ!」

『僕は悪くない』

 

人類が唾棄する敗者と人類を代表する勝者。

この二人の戦いは必然であり、行方もまた明白であった。

結末を述べるのであれば、平和だったはずの学園の朝は、この瞬間を以って崩壊し、少しして何事も無かったように元に戻ることになる。

とある人物達の痕跡がなかったことになって。

 

 

 

 

 

もし、目の前に怪しげな集団が現れたらどうするか。

簡単な話、ただそれだけの話であるわけだが、今の俺は少々戸惑いが生じていた。

というのも、そいつらが言うことには俺を迎えに来たのだという。なんら心辺りもない今日この頃、果たして俺が取るべき行動というのは一体どういうもんなのか。自分で考えるには難しい過ぎるこの難題、こういった経験のない俺が参考できるものは当然なく、現実逃避で中華鍋をただひたすら動かす。チャーハン作るよ!

 

ピンポーン。

なんて呼び鈴が再度なるが、今出て行ってもどうせ同じ連中が外にいるわけだし。あ、でもそんな連中が外にいる状況はまたよからぬ噂の原因になってしまわないだろうか。ま、今更か。無視してその内帰ってもらうの待とう。

 

(白姫様、出てきませんぜ?)

(どうしましょう?なるべく済ませたいのですが穏便に)

(いっそのことこのドア突き破って強引にでも……)

(手段ですそれは最後の。やりましょうやれることはとりあえず)

 

何か不穏な会話が聞こえてきた。本当にこのまま無視していいのかと不安になる会話だ。俺は何が起こっても大丈夫なように、全身に力を入れる。こういうときこそ特典と超能力をフル活用すべきだ。最悪『神器』を使ってでも奴らを追い払えばいい。

警戒レベルをマックスに引き上げ、相手の出方を窺う。

 

ピンピンピン ピンピンピン ピンピンピンピンピンピンピンポーン

(あら、しまいました失敗して)

(白姫様!ガンバです!)

 

ピンピンピン ピンピンピン ピンピンピンピンピンピンピンポーン

(あら、難しい意外と)

(ファイト!三度目の正直ですって!)

 

ピンピンピン ピンピンピン ピンピンピンピンピンピンピンポーン

(できませんねなかなか)

(大丈夫です、失敗は成功の元ですよ!)

 

「いい加減にしろ!何度鳴らせば気が済むんだ!」

「きましたね出て。さぁ参りましょう」

 

あ、しまった。お前らグルグル巻きすんな!簀巻きにすんな!やめろ!どこへ連れて行く気だ!離せぇ!って、首に手足がついたような気持ち悪い生物が出てきやがったぁ!?妖怪飛頭蛮の亜種か何かか!?

 

「あはりや遊ばすと舞うさぬ飛び乗り物参りたまえ!」

きょん!

 

その首だけの奴がそう叫んで、拍子木を一叩きすると虚空に昔の貴族が乗ってそうな乗り物が現れる。そして、戸が開き中から巨大な長い手が伸び、俺と白いのを掴んで引きずり込む!必死に離そうと暴れても、どんな握力をしているのか、びくともしない。なにもできないまま、俺は身を委ねるしかなかった。白昼堂々この誘拐、どうしようもない。てかこの世界にホラー要素があったんだなおい。SANチェックしなければ。

戸が閉まる直前、シロとクロが飛び出してくるのが見えた。なので俺は力を振り絞り叫ぶ。

 

「留守番よろしくぅううううううううぅ――――っ!」

「「みゃ?!」」

 

オロオロする二匹を最後に映して、戸は閉まる。あ、鍵閉めてないや。




次回作の予告

「俺の負倶帯纏(コンプレックスコンプレッサー)が発動しない?……まぁいいか」

気が付けば太郎は何も無い場所に流されていた。『無』しかないその場所では一体誰の視線を束ねるというのか。本当に何も無い場所を漂っていた。いや、何も無いが有るのか。それとも何か有るが無いのか。思考の堂々巡り。ふわふわ漂うだけの俺に今出来ること。

「……?」
「……?」

やがて馬鹿でかい赤い龍と遭遇する。
首を傾げ、見詰め合う一人と一匹。何かシンパシーを感じたような感じなかったような、そんな感じで一人と一匹は行動を共にする。そんなほのぼのした物語。

「あそこに誰かいるぞ?」
「うぅ……イッセー……さん……」

金髪の美少女を拾ったり。

「面白い力を持っているな。よし、お前俺と戦え!」
「赤さんやったれ」
「ちょっ」

白いのに赤い龍をけしかけたり。

「アーシアを離せぇ!このグラサン野郎!」
「よせ一誠!そいつは神殺しだ!」

もう一人の赤いのが襲いかかってきたり、黒い羽を生やしたチョイワルイケメンが焦ったり。

「クロとシロなのか……?」
「にゃ?」
「誰ですか?」

クロっぽいネコミミさんやシロっぽいネコミミちゃんがいたり。

「我、静寂を得たい。協力して」
「だって、赤さん」
「ずむずむいやーん」
「だって、黒さん」
「……?」

黒い美幼女と無の中で和んだり俺はラジバンダリ。

「貴様、一体何者だ!」
「俺か?通りすがりのガンナーさ。ガン付け的な意味で」

いつか、本当の意味でガンナーを名乗れる日が来ると信じて!

「この世界は平和だなー」
「ずむぽちいやーん」

これはそんな物語。

2013年夏本格始動。

嘘だけどね。
四月一日だから許してや。まぁ、知ってただろうケドね。
折角だからやってみたかったんだ!自己満足で何が悪い!
俺は悪くねぇ!

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