僕の噂話をされたような気がしたから思わず来てしまったぜ。俗に言う噂をすればってやつさ。
やあ、久しぶり。僕だよ。安心院なじみだよ。断じて韻を踏んだ名前じゃないからね。覚えにくいのなら、親しみを込めて安心院さんと呼びなさい。いや、君だったらなじみんでもいいよ?それともなっちゃんがいいかい?
って、どうしたいきなり土下座して。
ああ、初めて会ったとき、君の太くて長くてしかも固いものを僕の大事なところに突き刺したのを気にしているのかい。はっはっは、殊勝な奴だな君は。これが球磨川君だったらそうはいかないぜ。彼はひねくれ者だからね。むしろ喜ぶね。
ま、それに関しては僕は一切気にしていないさ。避けようと思えば避けれたのに、そうしなかったのは僕だからね。それに、あれのおかげで僕は目覚めたんだ。
なんていうんだろう、長いこと生きてきたわけだけど、初めての経験だったよ。今まで話にしか聞いたことがなかった感覚、いわゆる新しい扉が開いた感じかな?快感だったと言い換えてもいい。僕としたことがこんな陳腐で頭の悪い賞賛しかできないのが悔しいはずなのに、どこかへ吹き飛ぶくらいの衝撃だったさ。刺さった場所から突き抜けるように脳天に伝播して、頭の中がもう真っ白になったね。思い出すたびに、できるならもう一度味わってみたくなる。あ、でも本当にされたら僕はもう駄目になるから自重してよね。
って、どうしたんだい、今度は目を逸らしてくれちゃってさ。僕みたいな人外は目に入れたくないってことかい?失礼しちゃうぜ、こんな美少女相手にさ。それとも、照れかな?
……おい、どうしてじりじりと距離をとる。まるで僕を手の施しようのない変態みたいな扱いするなよ。ほら、目を逸らしてないでこっち見ろ。何壊れた人形みたいに謝ってるんだよ?球磨川くんがどうしたって?
まぁその話は良いんだよ。夢とはいえ、折角久しぶりに会えたんだ。もっと積もる話でもしようぜ。君と会うのは実に3年と少しぶりだよ。丁度球磨川君に封印されてからだから、結構経過したね。三兆年生きている僕からすれば瞬きした位の感覚だけど。
三年前のあの時は頑なに僕のことを性欲の権化なんて失礼な呼び名で呼んでくれちゃったわけだけど、どうやらその勘違いは無事解消されたみたいだね。君の言うとおり、僕は
……おい、だから本気にするなって。どうして、そんな末期患者を診るような目で見る。だから何故そこで球磨川くんに謝る。謝るなら普通僕だろ?人間誤ることは仕方がないけど、謝るのはきちんとしないとね。なんつって。でもま、女の冗談を本気にするような男は一生もてないよ?分かればよろしい。
そうそう球磨川君といえば、最近は随分と大人しくしているみたいじゃないか。やっぱ、君っていう親友の存在が大きいみたいだ。彼を君にけしかけた僕が言えたことじゃないけど、君達が初めて出会った時を思い出すと、とても信じられないね。君の学校がまだ廃校になっていないのも驚きだ。君の功績は大きい。誰にも知られていないけど。そんなショック受けることないさ。むしろ知られてしまえば、君としては厄介だっただろうね。
しかし、そうなると僕は君達の友情の仲人を勤めた功労者なわけだ。ああ、勘違いしてはいけないよ。ゲームのつもりでけしかけたのは確かに僕だけど、仲良くなったのは君達自身の力なのだから、そこは胸を張って誇るところさ。球磨川君もそう思っているだろうしね。だから、君に僕を倒すための協力を申し出たんだろうし。ちなみにそれを知っていて平然としているのは、僕が楽しみにしているからさ。……おい、だから何故引く。君もしかしなくてもさっきから変なこと考えていないか?違うから、君が考えているようなことは無いから。全く失礼しちゃうぜ。これでも僕は一途だったりするんだぜ、きゃっ。……ババア無理すんなって言った奴誰だ。
……それにしても、この教室も相変わらずだ。床だろうが天上だろが、机だろうが、嫌な感じの目が開いて気持ち悪いったらない。どんなスキルでも、僕の作ったこの場所にここまで影響を及ぼすのは他にはないんじゃないかな?はっきり言って人間には過ぎた
は?この教室がこうなっているのは僕の力のせいだからじゃないかって?
ふむ。これはこれは面白い質問をするんだな、君も。こんな悪趣味な空間を僕のようなか弱くて儚い可憐な乙女が作るとでも思っているのかい?とんだお笑い種だぜ。
それとも何か?君は自分の力がただ圧縮する能力だとでも思っているのかい?はは、冗談はよしてくれよ。そんなこと微塵も思っていないくせに。
君が僕の身体に刺した釘。これのせいで、これのおかげで、この三年間で1京2858兆0519億6736万3865個の
君、本当は自分の能力の正体に、
今の彼女は其処が見えても、底が視えていないのさ。そして万理谷祐理に至っては正体を視ることができたものの、本質の理解にまで至らなかった。いや、至りたくなかったのかな。この辺はどちらでもいいか。
問題は、君は気がついていること。理解していることなんだ。
そして君がそうやって気付いていないふりをしているのは、とぼけた愚か者のふりをしているのは。
――――さっぱりきっぱりどうでもいいと思っているからだろ?
……だんまりかい。まぁそんな君を誘惑するのは骨が折れるなぁっていう話は置いておいてだ、そろそろ本題に入ろうか。いや、それも大事なんだけどね?
本題を言うと、近いうちに僕もそっちに行こうかと思ってさ。月読命ちゃんの権能に引き寄せられてというのもあるんだけど、元々君とは現実で会いたいと思っていてね。夢の中での逢瀬もいいけど、僕としては夢だけじゃ我慢できないんでね。だから、現実で会おうぜ。ついでに大太なんて傍迷惑な奴を起こさないようにしたり、月読命が『反転』させるのを阻止するのにも協力してやるよ。あ、『反転』って言ってもうちの半纏君とは違うからね。反転院だけど。しかも大太解体魔人とか月読命とかだけでも厄介なのに、とある聖遺物が君の弟分を通してこっちに着そうなのは正直冷や冷やもんだ。本当神様やカンピオーネって奴らは面倒ばかり運んでくる。まぁ、そのあたりは僕が何とかしよう。
球磨川くんの封印?ああ、そんなのもあったねぇ。まぁ、何とかなるさ。今彼そこはかとなく幸せそうだし。多分、きっと、メイビー。なぁに、僕が本気を出せば何とかなるさ。うん、明日本気出す。だから、安心してそっちで待っていなよ。安心院だけにね。せいぜい首を洗って熱烈に歓迎してくれたまえよ。
じゃあまたね。僕の愛しいヒトデナシ君。
目が覚めたとき、なんともいえない気分になったその理由を俺だけは知っている。
「何故だろう。あの人の台詞が痛々しく思えてならない。どの台詞一つとっても安心出来ない。安心院さんなのに……」
きっと彼女は思春期から抜け出しきれていないだけ。三兆年だとか一京だとか、とにかく大きな数字をかっこいいと思っているのがいい証拠。下手に超能力なんて持っているのが悪かったんや。ここは生暖かく見守るしかない。いつか彼女の病気が完治するまで。
「でも人でなしとまで言うことはないと思うのだが」
面と向って言われたくない言葉である。
「覚ましましたね目を」
「っ」
急にぬっと視界端に飛び出してきて、びくっとした。よく見ると青銅の飾りのつけた三三七拍子の白いあの少女であった。怪談とかで、水辺に出たらきっと怖いだろうその容姿は水辺でなくてもビックリしたが、額に付いている何かの花が刻まれた飾りはおされであった。とはいえ、相手は初対面。緊張で口があまり動かない。黙ったまま、見つめるだけになった。それが気に障ったのか、白いのの横にいた飛頭蛮の亜種が跳ねる。
「やいっ、貴様!おひいさまに向ってなんて態度でござりまするか!」
サッカーしようぜ、お前ボールな!
一瞬でそんな言葉を思い浮かべた俺はきっとどこに出しても恥かしくないゲス。いや、まだ引き返せると信じたい。でも、ぴょんぴょん跳ねてこちらに唾を飛ばす勢いで捲くし立てる飛頭蛮の亜種にイラついたのは仕方がないんだ。蹴りたくなる
そこで、俺はさりげなく割り込んだ物体に疑問を抱く。
……飛頭蛮の亜種だと?
俺は現状を思い出した。そういえば有無言わさず拉致されたんだった。それも随分と非常識な方法で。目の前の飛頭蛮がその筆頭である。あの大きな手に乗り物に引きずり込まれた後、気を失った。握り締められていたところを渾身の叫びで酸素を吐き出しきってしまった結果、新しい酸素を肺に供給できないまま酸素不足で倒れたのだろう。
そして、彼女と会ったんだけど、まぁ俺の手には負えないことになっていた。クマさん、俺のせいで君の想い人はあんな事になっていたよ。すまない。本当にすまない。謝っても謝り足りないのわかるけど、謝らずにはいられない。
いや、もうよすんだ俺。彼女は別に悪くない。悪くないんだ。
言い聞かせるように呟く俺に対して、首を傾げる白いの。
「どうか、しましたか?」
「……」
切り替えよう。首だけのやつがギャーギャー騒いでいるが無視する。
今考えるべきはここは一体どこで、何のために連れて来られたか、そしてどうするかだ。こういうときこそ冷静に、順番に考えていこう。
今俺がいる場所は結構広い板張りの部屋であった。どのくらい広いかといえば、手の長い女と足が長い男が寝転がってもまだまだ余裕があるほどだ。てか、あの二人?はなんだろうか。とりあえず手長いさんと足長いさんと呼ぼう。いや待て。足長いさんだと?まさか、彼は足長おじ、いやそこまでだ。色々敵に回してしまう。
思考を戻して、こんな場所に俺が連れてこられた理由を考えるんだ。
俺の家はお金持ちというわけでもないし、こいつらのような異形が関わるような家系でもない。ということはこいつらの目的は身代金とかではないと思う。第一、今俺は束縛されていない。となると大分絞られてくる。
「目的は俺か」
「いえ。身代金です」
「……」
「おひいさまの冗談でございまする!さぁ、笑いなされるがいい!」
「これ守道。やめよ恥かしいから」
良かった。冗談だった。家の玄関前で俺を迎えにきたとか言っていたのに、真顔で言うから本気で信じかけてしまった。白いのは照れたのか、頬を赤く染めて俯いてしまった。あら可愛い。とはいえ相手は誘拐犯。油断なんてしていられない。
「興味がありますあなたに」
閉じていた瞼を見開いて言う。それは普通の目ではなかった。青銅のような青一色。瞳はより深い青をもって区別されていた。その目には白い部分はなく、青一色、ただそれだけであった。その普通なら気味悪いだろうその目は、彼女の不思議な雰囲気と相まって不可思議な魅力となり、人にはない妖しい美しさを放っていた。まるで、全てを見通そうとするような妖しさ。
魅入るのか、魅入られるのか。彼女の目は俺をはっきりと映す。
「通じるところがありますあなたの木を生み出す力は我等大太に。だからこそ、あなたがほしい」
平時であれば嬉しい言葉。しかし、彼女の持っているものがそうではないことを示している。
彼女の手の平の上には、『右手』が浮いていた。彼女の右手とは違う、手首から先がない右手そのもの。その『右手』は右手だけであるというのに、雄々しく、力強い気配があった。明らかに普通の右手ではない。
「田中太朗。大太の依り代となりや」
「
ヤバイと思った。理屈じゃなしに本能でという表現があるが、そんなのは生ぬるい。突き出された手を見た瞬間、自分が自分では無くなるような危機感、あるいは焦燥感に駆られて俺は『神器』を解き放っていた。幸い変える力の発動条件となる『手で覆えるサイズのゴミ』はポケットに入っていた。
俺の腕を包むように木の根っこが絡みつき、人差し指と中指には黒い筒が装備されていた。
一ツ星神器『
の凄まじく小さい版。本来の鉄は巨大な大砲が腕に装備されるはずなのに、俺のものはその影もない。きっとていうか明らかに、俺の圧縮する力が影響している。これではまるで豆鉄砲だ。
しかし、その威力は絶大!
右手を銃のように構え、撃ちだす!撃ち出されたのは、鉄特有の弾丸ではなく、またこの力の持ち主であった彼のような木の弾丸でもない。
それは釘。穿ったものを圧縮する黒い釘だ。
「おひいさま!」
白いのに一直線に向う釘は、飛頭蛮のおかげでささることはなく、そのまま後ろの壁に突き刺さる。壁は釘を中心に直径4メートルほどの綺麗な円形の穴を開けた。すかさず負倶帯纏を駆使して、瞬間移動の如く穴との距離を縮め、俺はそこから飛び出た。
視界端では、手長いさんが手を伸ばしてきたがここまできたらこちらのものぉッ?!
俺は飛び出たことを後悔した。眼前に広がるのは遠くなった大地。
どうやら俺は遥か空高くから、宙に投げ出されてしまったようだ。
出てきたところをもう一度見るとそこには俺が引きずり込まれた輿のような乗物が炎を伴いながら飛んでいた。
……移動中だったんかい。
俺のそんな余裕は落下とともに消えていった。
―――ひふみよ……
頭上からそんな歌が聞こえてきた気がしたがそんなことよりどうしよう。
クマさんにしろ安心院さんにしろ、どうして俺の好きな西尾のキャラはこうも難しいのでしょうか。
そして、ついにガンナー要素が出てきたぜ。ネイルガンだけどな!
ちなみに没案として最初は
というわけで次回お楽しみに。