俺が特典として受け取った『ゴミを木に変える力』。その能力はまんまその通りのものであるが、ただの木ではなくても、実はある程度の融通がきく。ゴミが手の平サイズであれば、質量保存の法則を無視してイメージどおりの種類・形状にすることができるのだ。たとえば、この能力を持っていた漫画の主人公も、
そして、能力にはレベル2がある。ゴミを木に変える能力は一方通行ではなく、サイクルしている。つまり、出来たものをゴミとすることで新たに木が出来るというリサイクルの構図ができるのだ。そして、その構図を当てはめることで能力を元の状態に戻すことができるという能力者に対して優位に立てる力だ。とはいっても今のところ活躍の兆しは見えないが、超能力者のいるこの世界だ、きっとどこかで使う機会が出てくるだろう。
で、この能力を貰ったとき、『神器』というものも付随した。本来は天界人のみが生まれながらに持っている武器で、道具で、力だ。実は天界人であった主人公も、これらを駆使して戦っていた。さて、この『神器』というものはおもしろいことに『能力』と一体化してその性質が現すのだ。俺や主人公で言うなら木で出来ているというように。理想を現実に変える能力であれば、理想的な神器になるように。物を透明に変える能力であれば透明な神器になるように。無生物を生物に変える能力であれば生きている神器になるように。
これは能力の正体が天界力が変化したものだからであり、同じ天界力から生み出されている神器と一体化するのは当然の帰結だ。
しかも、天界力にさらに天界力が加わるためにその威力は通常の神器より巨大で強大なものになる。その代わり普通の神器にはならないが。
そして、俺の場合はどうももらった能力だけでなく、『
さて、さっきから神器神器と一言で説明しているが、天界人が所有する神器は実は一ツ出は無い。『鉄』を含めて、その数なんと十もある。
ドカンと一発、一ツ星神器『
ドシリと構える、二ツ星神器『
スパッと爽快、三ツ星神器『
ガブリと一噛み、四ツ星神器『
ボコリと一突き、五ツ星神器『
ヒュンと地を駆る、六ツ星神器『
スッと捕獲、七ツ星神器『
ビシッと痛すぎ、八ツ星神器『
ギュンと空飛ぶ、九ツ星神器『
そして唯一無比の無形生物、十ツ星神器『
どれも使いこなせばとても強力だ。それだけに誰も彼もが全てを使えるわけではない。習得するのには相当な鍛錬を必要とし、おのおのに定められた条件を満たさなければ、己の中で腐らせたままになってしまう。しかし、この星の数が大きいほど習得は難しく、『魔王』にいたっては一握りの天才だけが得られるのだという。全てを習得するのは実質不可能だろう。
裏技がないこともないが、その方法はこの世界では絶対に無理だし、できるとしても命を投げ捨てる覚悟が無ければとてもではないができない。
とまぁグダグダとこんな何の価値もない前置きを語ったわけだが、当然理由はある。価値がないというのも、実際は何の意味も無く振り返っていたわけではなくて、結果として何の価値も見出せなくなってしまったわけだけで。
これらの内容を踏まえて、本題というか少し問題を出したいと思う。
果たして俺は一体どの神器まで覚醒しているでしょう?
答えは……
「またあっけない人生だったな……」
『
というわけで、今俺は重力に従い、ノーパラ空中遊泳で最期を迎えようとしていた。
無駄な抵抗を諦めて、潔く俺は目を閉じてその時を待った。
瞬間全身に衝撃が走り、俺は意識を飛ばした。
『どうしてそんなことばっかりするの?』
俺が一体何をしたというのか。
『一体どうして君はそう問題ばかり起こすんだ!』
そんなのは俺の方が聞きたい。
『またあいつがやったみたいだぜ。マジでいなくなってくれよもう』
むしろ俺にも聞きたいことがあるんだ。
『全部……全部!』
どうしてお前らは。
『お前のせいだ!』
全部俺のせいにしようとするのか?
《我輩は鬼である。よろしく頼むぞ、太郎よ》
……は?
「……生きてる」
視界には木々が繁茂しており、狭い空が広がっていた。どうやら何処かの山に落ちたようだ。
気が付けば地面に大の字で寝転がっていた。普通に死んだと思った。しかし、木々の上に落ちて多少のかすり傷はあっても、背骨が折れたとかはない。いくら神様印の高いスペックを誇る体でもあの高さから落ちたら死ぬか、最低でも全身の骨が折れるくらいのことは有っても不思議ではなかったんだが。
「これは……でかい布?」
大きな布が木のいたるところに絡まっていた。そして、その布は俺に繋がっていた。乗物から飛び出したときにはこんなもの着けていなかったというのに、いったいどこから現れたというのか?
クイッ
腕を引っ張られた。振り返っても誰もいない。眼前には森が広がるばかり。野生生物の『や』の字も感じられないこの場所で、一体誰が、いや何が引っ張ったというのか。
……気のせいだ。きっと袖が枝に引っかかっただけだ。
クイクイッ
そんな俺の思考を嘲笑うかのように、また引っ張られる。
だが、そこには誰もいない。冷たい風が頬を優しく撫でる。
俺は無言で釘を構える。もう片方の手にはゴミを持つ。さぁ、どこからでもかかって来い!
上下左右警戒を怠らない。だが、敵の方が何枚も上手であった。
「!」
突如、何かが下から飛び出す!予想外の登場にぎょっと目を見張る。
どうしようもないほどの隙である。だが、意外なことに相手は何もしてこなかった。
飛び出した
己の体を振る、これが正しい。
そう、
しかし、陽気に呑気に振舞うさまに、怖さよりも滑稽さが勝った。
――――やあ
そんなことを言う右手を錯覚した。
「つまり助けてくれたと」
右手(?)から詳しい話を聞いた。とはいっても相手には口なんてないため、筆談になるわけだが、それにしても宙にホワイトボードとマーカーを創り出したのには驚いた。無から有を創り出すなんて、錬金術も真っ青になるほどのハイスペックな右手だ。
ホワイトボードは俺が持ち、そこに右手が書きこんでいって大体の状況を理解した。
どうやら落ちている最中俺に追いついたこの右手さんはパラシュートを創ってくれたのだという。どうもあれは落下による衝撃ではなくて、勢い良く落ちていたところに急にブレーキが働いた慣性の法則による衝撃だったようだ。それで気を失ってしまったのは、本気で死んだと思ったことによるショックだろう。そのままショック死しなくて良かった。
《
「くくりひめ?」
《白姫のことだ》
「白姫……ああ、白いのか」
そういうと、右手はピタッと動きを止めて震えだした。そして、震えながら何かを書きはじめる。
《世界広しといえど、彼女をそんな風に呼ぶのは君くらいのものだろう。あれでも彼女は格の高い神であるのだが、しかしなるほど、『白いの』か》
そこまで書くと、また動きが止まり、何かを堪えていた。これはもしかして、笑っているのだろうか?
「神って、あいつら妖怪だろ?飛頭蛮とか」
《ひ、飛頭蛮?まさか守道のことか?アレもまた高位の道祖神なのだが……ううむ、これが時代の流れか。恐ろしいものだ》
「まぁ日本の神は
《首ではなくて、道の神だ。まぁその辺りはそのうち自分で調べてみるといい。それに妖怪というのもあながち間違いではないからな》
「うん?ややこしくなりそうなら、簡単にまとめてくれ」
《要するに我輩たちは神であり妖怪でもあるのだ。少し違うがその理解でいいだろう》
「へぇ」
《……なんとも興味のなさそうな声だな》
実際興味ないし。流石にそれを面と向っていうことはしないが。
あ、でも気になったのが一つある。
「今更なんだが、あんたは何て名前の神で、どんな妖怪なんだ?」
《我輩は
「じゃあクマさんは駄目だな。他だと……」
《我輩の呼び名か?別にクマさんでもよいが……》
「それだと俺の親友と一緒の呼び方になるんだ」
《ほう?親友がおるのか?それはよい。君のような者にはそういった存在は何よりの救いになるだろう。大切にするがいい》
「……言われるまでもない」
一瞬、お前が一体俺の何を知っているのかと怒鳴りたくなったが、抑える。別に変なことは言っていなかったし、言われてもいない。そんなことより、何て呼ぼうかな。
クマさんはさっき言ったとおり没、カワカミン……は危険な香りがするので没、タケルはつまらないし……鬼ぃさんとか?いやそれもどうだろう……はっ!来た!閃いた!!
「今日からお前は御手洗さんだ。手洗い鬼だし呼びやすいし覚えやすいし」
《……御手洗さんだと?》
「決定。拒否権はないからな」
《いや、拒否するつもりはないが、こそばゆい感じがしてな》
「気に入ってもらえて何よりだ。さて、随分と話し込んでしまったし、そろそろこの山から下りて道に出よう」
そう促して俺は立ち上がり、山を適当に下っていく。ここがどこか分からないが、とにかく下っていけばそのうち道に出るだろう。そうすれば車も通るだろうから後はヒッチハイクでもなんでもして乗せてもらえばいい。
「ああ、言い忘れてた。助けてくれてありがとう」
返事は無かったが、まるで気にすることではないと手を軽く振った。いい奴だ。それを見て、俺は足元に注意する。道なき道を歩こうとしているので、下手に足を滑らせたら大事だ。
だからこそ、俺は気付くことはなかった。
俺の肩には右手が何か言い足そうに浮かんでいたことに、気が付くことは無かったんだ。
いや、もし気付いていても結果は同じだっただろう。
全ては縁を結ばれた時点で終わっていたのだから。
後日、とある山道にて三つの手を持つ男の噂が尾びれをつけて急速に広まったのは別の話。
次回、一気に時間が跳ぶッ!かも……