人の夢と書いて儚いと読むんだぜ。
遅くなりました。ごめんなさい。
ではどぞ
自分では真人間のつもりではあるのだが、ふと辺りを見回すとそういえないのが不思議。だが、俺は悪くない。襲ってきたら抵抗するのはどんな人間であっても当然のことだ。いわば正当防衛だ。殺されかけたのだから、どんな目に遭おうと向こうの自業自得。
しかし、第三者の視点から見れば、とりわけたった今来たばかりの護堂君からしてみればどうか。答えは今目の前にある。
(太朗君、太朗君ッ!?たすっ、助けてっ!巫女が神がかって我輩大ピンチ!)
(大丈夫、御手洗さんは神っているから)
(神っているって我輩にとってただのノーマルだからッ!こんなスーパー巫女巫女タイムみたいにならないからッ!今の我輩は割と容易く封印されるくらい非力だからッ!)
頭に直接届く声。ぎゃーぎゃー喚いているが、楽しそうなので意識から外す。汝、非情といふ勿れ。そもそも、御手洗さんの言動と行動が一致していない。確かにアマノさんの動きは素人目の俺が見ても神がかっている。しかし、そのアマノさんの太刀をひょいひょいかわしているのだ。なら、大丈夫だろう。攻撃しないのは、御手洗さんがフェミニストだからだと思われる。え?避けるので精一杯なだけ?聞こえんなぁ。
というわけで、今は目の前の護堂君に集中する。一般人の護堂君に集中する。
この構図、まるで人質をとって閉じこもる犯罪者とその説得のために連れてこられた犯罪者の家族みたいだ。適当言ってるけど、人質事件ってなんかそんなイメージあったりする。実際はどうか知らんが。それはさておき。
俺は困っていた。
簡単な話、護堂君と戦うなんてこと俺には出来ない。大切な弟分だ。それも、俺を何故か慕っている貴重な人物。だが、彼の後ろにいるレイさん(麗人さんの呼称)はこれまで迷惑を被ってきた組織の一員だし、アマノさんも彼女と一緒に来たことから同じ組織だと思われるため、ただでは済ましたくない。そして何故いるかは知らない万理谷さんについては、まぁ護堂君の彼女的な、雰囲気的に正妻な感じだし置いておこう。
……ツッキーがいる身なのにね。しかも二人に加えてイタリアで金髪少女を引っ掛けたって前言ってたし。さらに、中学校時代の彼の非公式の戦歴を加えると……考えるだに恐ろしい。俺の知らない情報も絶対あるだろうし、彼はこのまま一朗さんの後継者といえるほどの、いやそれ以上のプレイボーイになりそうな気がするが本当に大丈夫だろうか。兄貴分としては少し心配だよ、刺されないかどうか。俺はどうでもいいが、このままだと本格的に世界の半分が、月夜ばかりと思うなよと血の涙を流しそうだ。
思考が逸れた。とりあえず、アマノさんについては御手洗さんに任せるとして護堂君だ。
今の状況は結構厄介だ。
「もう一度言う。そこをどいてくれ」
「どかないっ!」
こちらを睨みつけるようにして、一刀両断。
あ~これは駄目だ。こうなった護堂君はてこでも動かないだろう。なら、こうするしかない。
足元の石ころをいくつか拾って、木に変える。成長する木々は爆発的な勢いで成長し地面を伝っていく。ほぼ一瞬で彼らの足元まで届いたそれらは、地面から飛び出し、護堂君たちを閉じ込めた。即席ではあるが、木の檻の完成だ。今回生み出した木は堅く、よほどの衝撃でもない限り、壊れることはない。
敵であるレイさんも一緒に閉じ込めてしまったが、奴は後でいい。これなら護堂君と万理谷さんを傷つけないで済むし、そろそろ真面目に声に泣きが入っている御手洗さんの救出に向かわないといけない。最初見たときは雄々しいと思った右手が、今やへたれて女々しく見える。
ため息つきながら檻を横切ったその時であった。
「おぉぉおおおおおおぉおおお!!」
「は?」
雄叫びに振り向いた俺の目に映ったのは驚きの光景であった。まるで雑草を引き抜くように、檻の一部を引っこ抜いたのだ、護堂君が!
いやいやいやいやいやいやいやいやいや。
思考が嫌になるくらい「いや」で埋め尽くされるくらいには衝撃的であった。まさに『よほどの衝撃』だった。俺に対してだが。そんな俺に構わず、護堂君は引っこ抜いた木を大きく振りかぶり、そしてためらわず振り切った。
思わぬ反撃に動揺するが、木をそんな軽々と振り回されては俺もたまらない。枝や棒なんかではない、木そのものをだ。俺もやろうと思えば出来るが、他人がするのを見るのはやっぱり仰天ものだ。ましてや、それが護堂君であるのなら尚更だ。
あまりにも現実的ではない光景、そしてだからこそ俺は思いっきり吹き飛ばされた。ぐえっ。
(おぉ!太朗君、ようやく来て……Oh……)
(日本の妖怪が外国っぽい反応するな。それと来てるぞ!)
吹き飛ばされた先は丁度御手洗さんが戦っていた所だった。合流した俺達は背中合わせに臨戦態勢。アマノさんは俺が合流したからか動きを止め、こちらの出方を窺っているようであった。その隙に、この状況をどうするかを相談する。
(とりあえずこれを返すぞ!)
(サングラス……この暗闇をサングラスつけて戦えとか鬼畜すぎ)
(我輩は手洗い鬼であるからして。それとその目は我輩も苦手だ)
(はいはい、慣れているからいいけど。暗闇も見通せる高性能な俺の目に感謝してくれ。で、どうする)
「王様!」
「清秋院はそのままその右手を頼んだ!俺は兄さんの相手をする!」
追いついてくるや否やアマノさんに指示を出し、そのまま俺に向ってくる護堂君。相談する暇なかったか。大体サングラスのせい。
木を抱えていては動きづらいと思ったが、よくよく見ると指を幹に突き刺して片手で持っていた。どんな怪力だ。明らかに異常だ。それに気になることもあった。
「護堂君、肩の怪我は……」
「タロ兄さんの知ってのとおりだよ!」
だったら尚更安静にするべきだ、これ以上悪化する前に!そう叫ぼうとしたが、その前に木を叩きつけられた。全身に走る衝撃に意識が思い切り揺さぶられるも、それ以上に俺はあまりのことに呆然としていた。
護堂君の肩の怪我。それは彼が九年も続けていた野球から離れてしまうきっかけであった。その怪我が完治したなどという話は聞いたことがない。
今も猛威を振るう彼の怪力と合わせて、異常なことだ。一般人の彼が、何かの力に目覚めたというようなご都合展開でもない限り、そんな力を発することはない!
恐らくドーピングの類。それも、超常的な分野での。
問題は、そういう類の力は明らかに体に負担を強いることだ!
今は大丈夫でも、後々それがどう響くのか分かったものではない。
(お前か!)
少し離れた場所に、まるで祈るように護堂君を見ているレイさんがいた。その傍には万理谷さん、そして倒れ伏した釘を刺された男。檻から出た後駆け寄ったのだろうが、そんなことはどうでもいい。今も彼に力を送っているのだろうか。送ってるんだろうな。
ああ、一般人を、それも護堂君を巻き込みやがって……!
怒りが沸々と込み上がる。
(待て、羅刹王を前にうかつな真似を……)
即座に両手に釘を持ち、俺は彼女に襲い掛かる!!御手洗さんが何か叫んだが聞く耳を持たなかった。彼女をどうにかすれば、護堂君も元に戻ると思ったからだ。
護堂君は確かに怪力を得たが、しかしその動きは依然そのまま。要するに俺のスピードには追いつかない。一息で彼女の元まで辿り着いた俺は、しかし後ろから思いっきり蹴飛ばされてしまった。慌てて起き上がり、振り返る。混乱で頭が冷えた。
そこにいたのは護堂君であった。俺のスピードに追いついた!?だけど、さっきまでは確かに……ッ!
だがよく見ると、今護堂君の手の中に木は無かった。そして、新しい木に手を伸ばす気配もなかった。
「タロ兄さん。悪いけど、すぐ終わらせるからな!!」
混乱している俺に、護堂君は獰猛な笑みで宣言すると共に一瞬で間合いを詰めてきた。その速さたるや、俺の目でも捉え切れないほどであった。今までの中で最も速いと断言できる。だが、本人もあまりそのスピードに慣れていないようにも見える。だが、俺に拳を当てるくらいはできるようで、拳で弾幕を張ってきた。先ほど見せた怪力とは違って、一発一発はたいした攻撃力はなくとも、速さにものを言わせた数の暴力は如何ともしがたい。どうやら攻撃力特化から速度特化に変更したらしいが、むしろこっちの方が厄介といえる。
おかげでレイさんに近づけない。そうまでして助かりたいのか!
それに、護堂君の顔色が明らかに悪くなっている。先ほどの怪力以上に速度特化は体に負担があるようだ。だからこそ、護堂君もすぐに終わらせようとしているのだろう。あの笑みは負けず嫌いな彼の強がりでもあるのか。
その姿を見て、俺は一つ決断する。彼を力ずくで止める決断を。
―――俺ごときのために、彼が辛い思いをする必要はない。
俺は彼の腕を掴み、投げ飛ばす。勿論、ふわっとなるように加減はしている。本気で投げると赤い花になってしまうのが容易に想像できてしまうからだ。ハナガサイタヨなんてことになればトラウマになってしまう。
それはともかく、この隙に俺はその辺のものを握り締めて特典を発動させた。
生み出された木は護堂君の胴体に巻きつき、抑え込む。少しきつめに巻きつけたので、身動きは取れないだろう。勿論、レベル2も発動させている。
これで、レイさんからの支援は途切れたはずである。護堂君も傷つけることなく無力化もできた。最初からこうすればよかったが、頭に血が上ってしまったから仕方がない。
「さて、後は御手洗さんの方を片付けて色々したら一件落着だな」
と言っているうちに御手洗さんは息も絶え絶えな感じになっていた。本格的に助けに行かないとヤバそうだ。レイさんは後で落とし前をつける。今は御手洗さんが先だ。
以前、御手洗さんが言っていたが、俺と御手洗さんは繋がっているからどちらかが死ねばもう片方も死ぬという運命共同体である。つまり今彼がヤバイなら俺もヤバイ。
「もう終わった気でいるのか、タロ兄さん」
急いで助太刀に向おうとする俺を引き止めたのは護堂君であった。その顔は力の供給が途絶えたためか、顔色はかなりよくなっていた。さすが少し前まで野球選手とあってか、回復が早い。
「終わった気も何も、護堂君はそれ以上何も出来ないはずだ」
「それはどうかな?」
それはどうかなって、彼はこの状況で冗談を言うような性格だっただろうか?
「ここに来る前に沙耶宮からタロ兄さんの大体の力について聞いた。勿論、力を戻す力についても」
「そういえば、それについては教えてなかったっけ」
まぁ、一般人の護堂君にその力を教えようとしても、難しいからあえて避けてたんだけどね。それ以外はある程度は見せたこともあるけどね。それで、彼は何が言いたいんだろうか。
「その話を聞いた時、俺は思った。術の類はカンピオーネには効かない。けど、タロ兄さんの力はなんとなく効く気がするって。実際は少し違ったけど、おかげで心臓も痛くない」
カンピオーネ?知らない単語が出てきたが、話の流れからして多分護堂君をを指しているようだがよくわからない。そして、御手洗さんのSOSがうるさすぎて困る。
しかし、先ほどから冷静に語る護堂君の様子を見ていると嫌な予感がした。護堂君のあの目は何か途方もないことをしようとしている時の目だっ!!
「背を砕き、骨、髪、脳髄を抉り出せ!血と泥と共に踏みつぶせ!鋭く近寄り難きものよ、契約を破りし罪科に鉄槌を下せ!」
なにその言葉、厨ニチックでかっこいい。けどそれ以上に重く、恐ろしさを感じた。
変化はすぐに現れた。一瞬で地面が黒に染まる。
地響きを伴い、地面から、いや足元から黒くて巨大な何かが浮上していく。あまりの事態に目を白黒させていたが、護堂君がつっこんできた。腕を咄嗟に組んで防ごうとしたが、この俺の意識が一瞬飛ぶほどの突進力だった。
黒い何かから落とされた俺は、受け身もままならないまま、地面に叩きつけられる。
起き上がろうにも、痛みのせいでうまく起き上がれない。
そうこうしていても、黒い何かはドンドン浮上していく。
そして、それはついに全貌を現した。
それはあまりにも巨大な猪であった。
だが、ただの猪であるはずがない。
その巨体もそうだが、それ以上に猪とはこんなに禍々しい存在ではない!こんなに猛々しい存在ではない!畏怖を感じさせるその存在の登場に、ただ立ち尽くす。
「ルォォオオオオオオオオオオオオオンッ―――――!!」
耳がイカレそうなほどの咆哮。
暴力のような鳴き声に耳を塞いで耐えている中、護堂君の顔は雄弁に語っていた。
さぁ、第二ラウンドの始まりだと。
ズクンッ……
レベルⅡの扱いは次回触れます。
拘束されていても、護堂君のドヤ顔は絵になるのか……それが問題だ。
そして割とピンチな御手洗さんの運命はいかに!?