ガンナーは神と踊る   作:ユング

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いつもより早くに投稿できてよかった。
ただそれだけが言いたい。
というわけでどぞー。
しかしうどんがたべたい。


第二十四話

ここは……どこだ……?

真っ暗だ……右も……左も……

何も見えない……

いや……向こうに人影が……

タロ兄さんだ……よかった……無事だったんだ……

さぁはやく帰ろ……え……?

…………………どうして

どうしてそんな……

どうして……

悲しそうに……寂しそうに笑ってるんだ……

俺が何か……

あれ……動けない……

あ……待って……

待ってくれ……俺も行く……くそ……動けよっ……

どうして……動かない!動けって……動け!じゃないとタロ兄さんが……

タロ兄さん!

 

 

 

 

 

 

 

目覚めるや否や、草薙護堂は勢いよく身体を起こした。まるで自分を取り込もうとする嫌な感覚を全て振り払うように。

 

「今のは……?」

「起きて言うことがそれ?お母さんにおはようも言えないのゴドーは」

 

今自分が見たものがなんなのか、それを考えようとした護堂を女の声が遮った。

護堂が視線を向けた先には、可憐な少女がいた。美しさよりも可愛らしさの際立っている、それでいてどこか蟲惑的な少女。

 

「あんたは確か……」

「あんたじゃなくてママ。ママンでもマンマでもOKよ?」

 

護堂は一度彼女と出会っている。かつて欧州の若きカンピオーネ(バカ)と戦って死に掛けた時に出会った母親を自称する者。エピメテウスの妻にして、カンピオーネの元締めであり支援者たる女神、名は確かそう―――

 

「パンドラさん」

「ぶーぶー、ゴドーのイケズー」

 

母と呼ばれなかったことに頬を膨らましている彼女を無視して、護堂は雄羊の化身が成功したことを知る。彼女がいるということは、ここは不死と死の境界とやらになる。目覚めればここでの記憶は失われる(パンドラが言うには魂には刻まれるらしい)、夜見る夢みたいな場所。

 

正直なところ、護堂としてはあの巨大な影に潰されて死んだと思ったが、間に合ったようだ。雄羊の化身の厄介なところは瀕死でないと発動しないことだ。しかも、意識的に発動しないといけないため、即死してもアウトだ。お月さんこと月読命に岩を飛ばされた段階で意識していたのだが、きちんと発動して何よりだ。

 

だが、護堂としてはそちらよりも気になることがあった。

さっきの夢が気になって仕方がなかった。太朗がどこかへ遠くへ行ってしまいそうな気がして、不安だった。また、もう一つの苦悩が拍車をかける。

 

(俺は、タロ兄さんを殺しかけた……)

 

あの時、もし女神の助けがなければ、間違いなく太朗は死んでいた。その実感があるからこそ、護堂の顔色は優れない。太朗を止めるには、自分の力では明らかにオーバーキルになってしまうことを理解してしまった。加減の効くような力でないことは誰よりも自分が知っている。

 

「そんなに気になるのね、あのヒトデナシのことが」

「人でなし?いや、俺は……」

「田中太朗のことで悩んでいたんでしょ?」

 

パンドラのいう人でなしが誰のことを刺しているか気付き、護堂は憤る。

 

「タロ兄さんは人でなしじゃない!」

「人を人とも思わない奴を人でなしっていうんでしょ?合ってるじゃない。まぁでも、今回は文字通り(・・・・)の意味だけどねー。いや、やっぱ両方当てはまるか。あの人外のネーミングセンスも捨てたもんじゃないわね」

「ちょっと待ってください!それってどういう」

「気になるかもしれないけど、今は少し別の話をさせてちょーだい」

 

護堂の言葉を遮るパンドラ。その表情は真面目一色であった。

 

「なんていうかね、ゴドーは一度頭を冷やしたほうがいいわ!今のゴドーは自分を見失っている。今のままだと、何一つ事態は好転しないわよ。むしろ悪化しかしない。早く手を打たないと取り返しのつかないことになるわ。具体的にはゴドーの国が滅ぶ」

「なっ!」

 

あっさりと衝撃的なことをのたまうパンドラ。

 

「詳しいことはただ平等なだけの人外に聞きなさい。少なくとも、視野をもう少し広げなければ何もかも失うことになるわよ?」

「何を……」

「何をもくそもないの!今回の件は流石にまだまだ未熟なゴドーにはきついかもってことで、少しだけ忠告してあげてるのだから、素直に受け取りなさいな。起きたら忘れるとしてもね。あたしは気まぐれだけど、子供に早死にしてほしいわけじゃないの」

 

護堂の鼻先に指をビシッと突きつけ、言葉を封じる。

 

「問題は山積みだけど、まだ詰んではいない。でも、時間の問題よ。あのヒトデナシに釘付け(・・・)になっている暇はもうないの!幸いゴドーの助けになりそうなものもたくさん転がっているのだから、それらを拾い集めて、ヒトデナシごとふるぼっこにしちゃいなさい!」

 

本来、あまりカンピオーネへの支援を行わない気まぐれなる支援者の、出血大サービスとはこうであるといわんばかりの叱咤激励であった。だが、それでも。

状況が悪い方向へ進んでいることを知り、危機感を覚える護堂だが、それでもやはり心に重くのしかかるものがあった。

 

「俺は別にタロ兄さんをどうこうするつもりは……俺はただ」

 

そんな彼の様子にため息をついて、彼女が言った言葉は護堂の心をざわめかせるのに十分な威力であった。

 

「今のゴドーじゃぜーったいに!あのヒトデナシを救えないわ。他の誰よりも彼を恐れている(・・・・・)あなたではね!!」

 

それは確信を伴った断言であった。

 

 

 

 

 

 

「ここは……そうか、俺は……」

 

目を覚ますと、そこは雪国であった……ということもなく、普通に木目の天井が見えた。何かを訴えかけるように、忘れてはいけないことを忘れているかのような気がする。胸がざわつく。

布団に横たわっていた体を起こし、護堂は今がどんな状況なのか把握しようと周囲を窺う。夜が明けたのか、窓の外は既に明るくなっていた。

護堂が横たわっていたのは、畳に襖と旅館の一室みたいな部屋で、まるで見覚えのない場所であった。なんとなく前回より復活に掛かった時間が短くなったことに嫌な予感を覚えながら、どこだここと、思考を巡らせ、ふと、右手に柔らかい感触を覚えた。

 

「う……」

 

微かな吐息。

この瞬間、護堂の思考は停止していた。まず状況として、万理谷祐理が隣で寝ていた。それはいい。いや、男女七歳にして同衾せずという言葉があるように、健全とは言いづらいがまぁ今は置いておく。それよりも大きな問題があった。

護堂は、何故、自分の右手が、万理谷祐理の、胸を、触っているのか―――……

 

『あ、起きたみたいだね、ゴローちゃん』

「ほわぁ!」

 

急に、襖が勢いよく開き、いきなり声を掛けられたことに驚いた、護堂は飛び上がらんばかりに全身に力が入った。その結果、右手はわしづかみである。

 

「んっ……」

 

護堂は思った。あ、柔らかいと。そして、全身に冷や汗がドッと溢れる。状況が状況だからだ。

 

『はぁーん、ひぃーん、ふぅーん、へぇーん、ほぉーん』

「違う、誤解だ!事故だ!!わざとじゃない!!!」

『いやいや、恥ずかしがらなくてもいいんだよ!護堂ちゃんも男なんだ。いくら硬派気取ってようと、けだものなんだ!むしろ健全さ!さぁ、存分に裸エプロンについて存分語ろうじゃないか!たとえ女の子の寝込みを襲うようなゲスだとしても、僕は一向に構わなない!!』

「俺が構う!ていうか全然違うし、そんな下品なことを語ってたまるか!」

 

案の定、誤解(?)されてしまい、護堂はますます焦り始める。が入ってきた相手が分かると一気に冷静になった。

 

「球磨川!どうして、ここに!」

『やっほー。久しぶり、元気してた?』

 

入ってきたのは、護堂の宿敵であった。顔も見たくない相手に出会ったことで、護堂の不快指数がどんどんと上がっていく。太朗に関しての因縁が、敵意を募らせていく。

 

『おいおい、そんな怖い顔するなよ。今は君の相手をしている暇はないんだ』

「何を企んでいる?」

『ご挨拶だなぁ。何も企んでないさ!本当さ!信じてよ、ゴローちゃん!』

「護堂だ!」

『ああっ、そうだったそうだった!人の名前を間違えるなんて、僕は人として駄目だね。護堂ちゃんに怒られなかったら、一生続けるところだったけど、護堂ちゃんのおかげで改心できたぞ!練習がてらちょっとそこまで、早速覚えた君の正しい名前を意識しながら、護堂ちゃんが女の子の寝込みを襲っていたことを報告してくるよ!』

「待て!誤解だって言っているだろ!?」

 

人の不快指数をとことんあげないと気がすまない男、球磨川の相手は護堂をしていらつきを押さえられない。色々と聞きたいことが山ほどあるはずなのに、球磨川のせいで落ち着いて聞くことも出来ない。まずは彼をどうにかすることに決めた。

触るのもいやだが、全力で球磨川を捕まえる。しかし、この男の手ごたえのなさは空気のようである。

 

『いやー助けてーゴローちゃんに犯される!!やめろ変態!僕にそんな趣味はないぞー!』

「朝っぱらから怖気の走るこというな!それとゴロ、護堂だっていってんだろ!!」

 

本人ですら危うく言い間違えそうになるほど言いやすい名前であるのは否めないが、それでも正しい名前を呼ぶことが大事である。

 

―――ピロリン♪

護堂の耳に、軽快な電子音が届く。音源に目を向けると、小学生くらいの女の子が携帯片手に悪い笑みを浮かべて立っていた。いや、制服を着ているということはまさか中学生とでもいうのだろうか?悩む護堂だったが、次の瞬間、護堂はそれどころではなくなる。

 

「美少女巫女に目もくれない男達の狂宴なう…っと、送信完了!あ、あたしはこれで失礼するんで、後は二人でしっぽり楽しんでください!バイビー」

「『ちょ』」

 

止める間もない。縁側を駆け抜けている彼女を追うため、外に出たところで、既に見失っていた。鳳の化身も真っ青な早業である。

 

『ゴローちゃんのせいだよ!こんな仕打ち酷すぎる……!ゴローちゃんと違って、同じくんずほぐれつするのなら、断然女の子がいいのに!』

「あんたが余計なことしようとしてたからだろうが!あとさらっと変なこと言うな!」

 

男達の醜い責任の擦り付け合いが勃発した。

 

 

 

一段落したところ、護堂は今の状況を説明してくれるという人物のもとへ案内してくれるという球磨川についていく。どことなく、昔の雰囲気が残っている屋敷を珍しく思いながら、護堂は黙々とついていく。

 

『それにしても、あれだけ手ひどく痛めつけられていた割には元気だね。というかよく復活できたよね。普通に駄目かと思っていたけど』

「……あんたに言われるほど酷かったのか?」

『それはもう綺麗な押し花になっていたさ。綺麗過ぎて飾りたいくらいにはね』

 

押し花になっていた自分を思い描いて、護堂の顔は青くなった。

 

『確実に息の根が止まっていたのに、生き返ったからまるで漫画みたいだったね。結構な勢いで体がミチミチ音を立てて治っていくのは、それはもう感動的だったよ!ホラー映画で主演張れるくらいに!』

「死んでたのか俺!」

 

雄羊の権能が、実は一度死んでから生き返る力だという事実にショックを隠せない。さりげなく死んでいたのであれば、そう感じても仕方がない。

 

「おや、目が覚めたみたいだね。体の調子はどうだい?」

「大丈夫ですが、あなたは?」

 

案内された一室。そこで護堂を待ち構えたのは、少女と男であった。

地面に届かんばかりの長い黒髪に、どこかの制服か、セーラー服を着た少女。見た目的には同年代に見えるが、護堂は長い年月を経た老人のような、それでいて歳相応の子供のような、チグハグな印象を受けた。

そして、その後ろには背中合わせで佇む男。数学のノットイコールの記号を背中に刻みつけた背の高い男だ。背中を向けているため、彼の顔は窺えないが、まるで空気のようにそこにいるだけのような、不思議な印象であった。ともすれば、ものすごい存在感を放っており、目立つ存在であった。一言でいうなら異様である。

 

「はじめまして、護堂君。僕は安心院なじみ、親しみを込めて安心院さんとよんでくれたまえ。後ろの彼は不知火半纏だ。そして、君達を連れてあの場から離れた君達の恩人さ」

「あなたが……ありがとうございました」

 

護堂は恩人に頭をさげる。それを存分に感謝するがいいわははと鷹揚な態度で彼女は受け取る。目の前の少女の言葉を特に疑うことなく護堂は受け入れた。世の中には可憐な見た目に反して、とんでもない怪力を発揮する美少女がいることをしっているからだ。恐らく、彼女にも何かあるのだろうと察していた。

 

彼女から色々と説明を受ける。あの戦いから数時間しか経過していないこと。ここが、半纏の故郷であること。あそこに倒れていた人達は、ここに回収され治療を受けて今は安静にしていること。だが。

 

「タロ兄さんと清秋院が!?」

「うん、その二人は連れ去られた」

「何のために……」

「依り代にするためさ。大太の化身が力を十全に使うためのね。君も一応大太解体魔人達について聞いただろう?」

 

護堂は、車の中で沙耶宮に聞いた話を思い出した。

大太解体魔人。

古くから日本に眠る国津神達が大太法師と呼ばれる巨神の一部分となることを選び、為った存在。その影響で人間に封印できるほど零落したという。それこそ、神祖と呼ばれる存在と同程度にまで落ちているとのことだ。

その神祖というのが良く分からない護堂であったが、まつろわぬ神ほど出鱈目な存在ではなくなったということは理解していた。

だが、同時に全員が目覚め、再び一柱の神と為った時、その力はとてつもないものになることも聞いた。

 

「国津神でなくなり、存在が曖昧なものとなったが故に、零落した彼らだけど、かつての力を取り戻す方法が一つある。それが人間の依り代を得ることだ。そして、依り代と為った人間は死ぬ」

「!!じゃあ、早く二人を助けないと!」

「太郎君についてはもうなってしまったけどね」

「そんな!じゃあタロ兄さんは……」

 

告げられた言葉に動揺を隠せない。だが、安心院なじみは安心させるように笑む。

 

「彼は死んでいないさ。それに、清秋院恵那についてもすぐどうこうなることはないはずさ」

「どうして、そんなことが分かるんですか!」

「それは……」

 

何かを確信している様子で何かを告げようとした彼女は、不機嫌そうな顔になる。

次の瞬間、凄まじい轟音ともに屋根が崩壊する。

臨戦態勢に入った護堂の目に、巨大な影が立ちはだかる。

 

「ふはははははははは!神殺し、今風にいえばカンピオーネがこの日の本にも生まれたと聞いたが本当だったようだな!新しい、新しいぃいいいいいい!」

「な、なんだぁっ!?」

 

現れたのは、まさに『鬼』と呼ぶべき存在であった。

天を突くように伸びる二本角に、極限にまで鍛えられた肉体。ギラギラと魔獣の如き眼光で護堂を見据えながら、狂ったように笑う『鬼』。

 

「ワシは獅子目言彦!久しいな、いやはじめましてだ神殺しよ!我が戦友よ!」

 

『鬼』は嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

時間は少し遡る。

肉の化身は周辺の木々を、草本を、容赦なく飲み込んでいた。じわじわと貪りくい、徐々にその体積を増やしていく。肉塊が通り過ぎたあとには、何も残らない。

そこに、一人の少女が現れた。

宙に浮かんでいることから、明らかに只者ではない。

誰が見ても、彫刻のように美しい少女であった。

 

「……ふむ、妾のゴルゴネイオンはこの醜悪な肉塊の中にあるようだ。ならば、妾のすべきことは」

 

その手に闇で作られた大鎌が握られる。

そして

 

「こやつの腹を掻っ捌くことよな!」

 

肉の化身に向けて大きく斬りかかった!

 




*男達の狂宴はとある普通の消し男の元へ届けられました。
消し男に2D6のSANチェックが入りました。

そんなこんなで第二十四話はこんな感じになりました。
すこしずつ事態は動いているのです。
本当に少しずつですが。
しかしうどんがたべたい。

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