教室を出て数分後の田中太朗の呟き
「あれ~?本当にどこいったのかな・・・」
登校する生徒の姿もまばらになってきた中、校庭の植え込みの影でゴソゴソしている少女がいた。
彼女は陸上部に所属する一般生徒である。
彼女が朝から影でごそごそしているのは、あるものを探しているからだ。
実は彼女、昨日の部活終わりに鞄につけていた人形を、木の枝に引っ掛けて落としてしまったのだ。
わざわざ田舎まで行って手に入れたとあるキャラクターの地域限定品。
今ではもう売られていないレアモノ。
当然拾おうとしたものの、どこか変な隙間に入ってしまったのか、全く見つからなかった。
日は完全に落ちていたし、明かりも携帯のライトしかない状態だったので、朝練の後に改めて探そうと決めてその日は帰ったのである。
明るくなればすぐ見つかるだろうと期待して。
だが、実際は中々みつからず、ただ時間だけが過ぎていった。
お気に入りなのでなんとかして見つけたいものの、このままではHRが始まってしまうと焦っていたその時だった。
視界端に人影が映りこんだ。
探し物に熱中していた少女は、引かれるように頭をあげ、そして息を呑む。
こちらに手をかざし、見下すようにして立っている男の姿を見て、息を呑む。
真っ先に目に入るのは、サングラス。
この学園において、サングラスをかけていいのはただ一人しかいない。
どれだけ熱中していたというのか、ここまで近くに来るまで気付かない己の鈍感さを呪う。
『田中太朗と球磨川禊。この二人に半径五十メートル以内に近づいてはダメよ』
部活に入ってすぐのことであった。
部活の先輩が冗談を一切許さない真剣な顔でこちらに注意を促してきたのを、私は思い出した。
その言があまり穏やかでないことから、一瞬いじめの可能性を考えてしまったが、こちらの表情から察したのか、あるいはよく言われるのか、落ち着いた態度でこちらの考えを否定する。
そうではないと。
あなた達を心配して言っているのだと。
先輩方は口々にそう言っていた。
その時の尋常ではない必死さや冗談を一切許さない表情が彼女には印象的であった。
しかし、同時にあまりに現実離れしすぎた噂話の数々を聞いても信じられるような内容ではなく、話し半分で受け止めていた。
その噂の君が立っていた。
しかも、己の手の届く位置に。
少女は思った。
(あっ、この人絶対に堅気じゃない)
噂の正しさを確信した。
まずまとっている空気からして、ありえない。
漫画や小説じゃないんだから、そんなゴゴゴ…!みたいな効果音がつく迫力出すなと突っ込みたい。
先輩たちの言っていたことは本当だったんだ。
ごめんなさい、もう疑いませんっ!
そんなことを考えている少女だが、余裕があるように見えて、その実かつてないくらい余裕がなかった
(この人すごく怖い!?ありえなくない!?本当に同じ高校生なのっ!?あと、握ったり開いたりを繰り返しているその手は締めたいの!?何をとはいわないけど締めたいのかな!?)
とにかく怖い。
それに尽きる。
まずこちらがしゃがみ込んでいたのもあるが、相手の背が高いのも相まって威圧感が半端ない。
しかも、こちらに手をかざしたまま無言状態を保っているのも怖い。
何か言ってよと口に出していえればと思うも、そんな挑発的なこと口走ればどうなるのか想像に難くない。
(いや、もう本当に何この状況!神様は私が嫌いなの!?私何かしたっ!?ああもう、だれか助けて・・・っ!)
視線をわずかにいる周囲に彷徨わせても、眼を逸らされる。
思わず、このタマなし共っ、と罵りたくなる。
だが、彼等の気持ちも痛いほどわかってしまうので何もいえない。
永遠とも思える沈黙の中、徐々に強くなっていく重圧のせいで息が苦しくなってきたその時、状況が動いた。
太郎が少女に伸ばしていた手を戻し、ポケットに入れたのだ。
他の人なら特になにも思わないその動作も、田中太郎であれば別である。
少なくとも、少女にとっては。
(ハジキ的なものを取りだそうとしてらっしゃるッ・・・!?私殺されるの!?)
混乱の極致の最中、彼女に潜む生存本能やら危機感とかがなんか爆発的なパワーを引き出した!
「ひぃいいいぃいいいいいい!!殺されるぅううううううう!!」
普通、恐怖の対象から逃れたいとき、相手に背を向けて逃げ出す。
だが、恐怖のあまり正気を失った彼女は、大胆な行動に出たのだ!
そう、彼女は背を向けず、むしろその逆!
相手の真正面へと突撃した!
お互いが手の届きそうな距離で相手に向って突撃したら当然――――
「ぐぅおっほ!?」
――――正面衝突は必死であった。
太朗にとって不幸なことは、少女がしゃがみこんでいた状態からクラウチングスタートの要領で走り出したことにあった。
要するに少女の頭が太朗の鳩尾にジャストミート。
突然のことに驚いて固まっていた太朗は、無防備な状態で相手を迎え入れてしまった。
むせる太朗を見向きもせずに、少女はその勢いのまますり抜けていった。
陸上で鍛えた健脚をフルに活用し、また火事場の底力というべきか、平時の何倍もの速さで駆け抜けていく。
陸上部に所属しているためか、走り出した彼女の思考に冷静さが戻ってきた。
木を隠すなら森の中、人を隠すなら人ごみの中。
そう考えた少女は真っ先に昇降口へと入り、人がたくさんいる場所へと逃げ込む。
思ったとおり、既にほとんどの生徒が登校しており、廊下に溢れるほどいた。
障害物の多い中を走るのは大変だったが、生き死がかかっていることが、彼女の集中力を極限にまで高めた。
生徒たちの動きを先読み、最善の抜け道を構築し、スピードを落とさずに駆け抜けることに成功したのだ!
あいつにこの人ごみの中を私と同じように駆け抜ける術は無いはずだ。
しかし、ここで安心していてはいずれ奴に追いつかれてしまう。
さっさとこの身をどこかに隠してしまおう。
後ろで人がざわざわしている。
だが、あの人ごみの中をぬけたところで私の姿はない。
いや、まて!
なんだこのズルズルと何かが伸びる音は
そんな、ああ、窓に!窓に!
護堂君と別れた後のことだった。
クマさんが来るまでずっと教室で過ごすのは暇すぎてだるいので、学校の敷地内を散策していたその途中、植え込みの影に人形が落ちているのに気が付いた。
なにやらライオンを機械化してデフォルメ化したらこうなるなっていう感じのデザインで、落し物かと思って拾っておいたのだ。
後で職員室に持っていこうとポケットに入れておいたのだが、散策している最中に忘れてしまったのだ。
後回しにしていたら用事を忘れるなんてことは誰にでも経験があると思う。
今回もそれと一緒だ。
で、そのことを思い出したのはクマさんと会話していた最中であった。
外から女子の気になる会話が聞こえてきたのだ。
この辺りでお気に入りの人形を落としたとかなんとか。
で、目を向けると友人であろう人たちと別れて、一人植え込みの辺りを探す少女の姿が見えたわけだ。
その時になって、朝あの辺りで人形を拾ったことを思い出したわけだ。
普段であれば、絶対に自分から直接渡さないのだけど、その時の俺はまぁなんというか朝から護堂君と久しぶりに楽しい時間を過ごせたこととクマさんとの会話でテンションのあがっていたわけで。
気分も良かったし、自分で渡そうと軽く考えて現場に向かったわけですわ。
「・・・・・・・・・・・」
その結果がこれですよ。
意識を現実に戻したら、目の前には涙目でこちらを見上げる少女がいた。
その目には明らかに怯えが見え隠れしている。
見慣れたもんだけど、そうやって明確に態度で示されたら普通にショックなんだ。
もう少し考えてから近づくべきだったかと自分の選択ミスを悔やむ。
いや、どのみち同じ結果を辿ることは目に見えてわかる。
これ以上の策なんてなかったと自分を慰める。
いまや伸ばした俺の腕は意味をなくし、俺と少女の奇妙な膠着状態だけが続いていた。
・・・・・・何故こうなったのか。
ほんの少しだけ時間を戻す。
現場に近づくにつれて、俺はある致命的な問題に気が付いたわけだ。
(どうやって声かけよう)
自分から話しかけるということがもはや天文学的なレベルで少ないという事実に思い至った時、己のあまりの軽率さに後悔した。
それに、普段クマさんや護堂君のようなある程度慣れた人ならそれなりにしゃべれたりするが、慣れない相手、しかも初対面が相手となるとまず声を出す勇気があるか自信がない。
かといって、己の存在に気が付いてもらわないことには人形は渡せない。
そうして、必死に考えて末に、立てた作戦が次のとおりだ。
肩をたたいて、人形を渡して、即離脱。
シンプルイズザベスト。
そして、いざ作戦実行をしようと少女の肩に手を伸ばしたのだ。
誤算は、こちらが触れるより先に、向こうが弾けるようにこちらに顔を向けたことだった。
その勢いのよさに驚き、また作戦の瓦解を理解した俺は思考停止に陥った。
予想外の事態に弱いのは、勘弁して。
で、正気に戻った今どうしようかというところだ。
向こうは向こうで涙がもう決壊しそうだし早く手を打たなければいけない。
というわけで、そのまま強引に作戦続行することにした。
人形を取り出すべく、制服のポケットに手を入れて取り出そうとした瞬間だった。
相手は何故か息を呑んで、より一層怯えの色を濃くした。
俺の直感が、囁いた。
これはやばいと。
「ひぃいいいぃいいいいいい!!殺されるぅううううううう!!」
学校中に響かせる勢いで少女が叫びだしたと思ったら、俺に体当たりしたのだ。
しかもいい具合に鳩尾に頭をめり込ませて!!
途方も無い衝撃に思わずむせてしまった。
その間に少女はものすごい勢いで走り去ってしまったわけだが・・・。
(いやいやいや、どういう思考すればそんな発想になるわけ!?)
呆然とそれを見送っていた俺は、しばらくしてから正気に戻り、彼女にツッコミを入れる。
心が折れそうになったが、しかし手元に彼女のものであろう人形があることを考えると追わないわけにもいかない。
それ以前に、必死の形相で逃げている彼女のせいで、またあらぬ誤解を生み出しそうな時点で追わなければならない。
森の熊さんかよ、畜生!
次から絶対直接渡すなんてことはしないと決意を新たにして、遅れて俺も走り出す。
少女が校舎の中に入ったのを確認した俺は、その後を追って中に入り、見失わないように彼女を追いかけ、絶句する。
HRが始まる前のこの時間帯、多くの生徒が廊下に出ていたのだ。
授業の準備をしている人もいれば、HRが始まるまで廊下でふざけている人もいる。
そんな中を、人なんていないかのようにすいすいと駆け抜けていく少女の姿が見えた。
(すごい。だけど、このままでは見失ってしまう)
焦っても、人が邪魔で彼女との差は広がるばかりであった。
こんな状況下では、凄まじいスペックを誇る身体は何の役にも立たないのである。
だからこそ、彼女が階段を上りだしたのを確認したとき、俺はもう一つの神様特典を使うことにした。
走るのをやめた俺は、周りの視線が集中するのを無視して、その辺に落ちていた飴の袋を拾う。
それを握り締めて俺は窓から外に踊り出た。
背後でどよどよしていたので、一睨みして黙らせる。こういうときは便利。
そして、彼らの視線が逸れている間に、外から階段の辺りにまで近づき、一気に能力を解放した。
ゴミを木に変える能力
それが、俺が神様に貰った能力。効果はまんまである。
ゴミがないと使えないので、暇があればゴミ拾いをしている。
実はあの人形を拾ったのもその途中であったりする。
俺の好きな漫画の能力だったので、貰った当初は恥ずかしながら、大興奮した。
その能力を駆使して俺は階段の窓まで木を成長させる。
運のいいことに、丁度窓もあいていたのでそこから滑り込むように入る。
「ひぃ!」
「もう逃げられないぞ。観念するんだな」
窓から入ってきた俺に驚いたのか、腰を抜かして眼を極限にまで丸くしている。
よく見ると動向も開いていて、なにやら呼吸もかわいそうなくらい荒い。
「誰か・・・・・・誰か助けて・・・・・・」
弱々しく何か呟いたと思ったら気絶してしまった。
いきなりのことで慌ててしまったが、その体を抱きかかえることに成功する。
「その方から手を放しなさいッ!」
と同時に、鋭い声が響く。
見ると、亜麻色の長髪の少女が静かな敵意を瞳に浮かべ、こちらへと駆け寄ってきた。
何故あの時冷静になって少女を追うなんてことをせず、人形を職員室に持っていかなかったのか。
そのことを今更になって後悔する俺だった。
・・・・・・もうどうにでもな~れ♪
やっぱり勘違いって難しいと思うの・・・・。
そして影響されすぎな作者である。
クトゥルフ神話の存在を最近知ったにわかな作者だけれど、書かずにはいられなかった。
這い寄る混沌より這い寄る過負荷という言葉をめだかボックスで見たとき、ふとミソギンチャクというワードがよぎった。でも仕方がないと思う
イソギンチャクがクトゥルフばりに異形すぎるのが悪い。
ミソギとイソギが似ているのが悪い。
だから作者は悪くない(>皿<)
ちょっと中途半端だけど、ここまで。