東方二次創作習作バトル物   作:蒼狐

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宮古芳香VSレミリアスカーレット

 

吸血鬼レミリア・スカーレットは上機嫌だった。

一つ、良い月が出る夜だった事。

一つ、良い雰囲気の墓場を見つけた事。

そして、もう一つは――

 

「……うおーお……おー……。ちーかよーるなー!」

 

――久しぶりに、因縁をふっかけてきてくれる命知らずと出会ったからだ。

 

 

その日、レミリアは従者を付けずに館の外を出歩いていた。

――たまには従者たちを労ってやろう。キッカケはそんないつもの些細な思いつきだったのだが、今思えば本当は自身の羽根を伸ばしたかったからなのかもしれない。

だから、気がつけばそうそう立ち入る事の無い場所へと入ってしまっていたのも、致し方無い事だ。

 

「ここは……寺連中のテリトリーか」

 

寺には墓が付き物だ。

とは言えここの墓は寺が先か、墓が先か分からない物だが。

――骸埋まりし大地を我が物顔で闊歩せし夜の王。

考えただけでも心躍ったが、それが元で命蓮寺との無用な争いの元となるのは格好が付かない。

折角だが、その場を後にしようとした瞬間だった。

 

「――ん?」

 

それは腐臭だった。幻想郷においてその臭いを発するような死骸が残る事はそうそう無くなって来ているのにかかわらず、だ。

死肉を貪る低級妖怪や獣等、掃いて捨てるほど存在するというのに。

ほんの少しだけ様子を見に行くだけ。そう自身への言い訳を頭の中で唱えた後、レミリアは墓場の奥へと足を進める。

――そして、"それ"と出会った。

 

「なんだ。ただのゾンビか」

 

這いずり動く死体。意思の無い肉人形。

吸血鬼としては縁の無い訳ではないが、何よりその臭いと外見が好みでは無かった。

 

「興味が失せたわ。ゴーレムのがロマンティックだもの」

 

友人の魔女が生み出す土人形。あれは色々な形と機能を持っていた。

戦わせたり戦わせたり……戦わせたり、と楽しい一時だった事を覚えてる。すぐに飽きたが。

ともかく、興味もテンションも湧き上がりそうには無い。

クールにその場を去ろうとした、その時だった。

 

「うぉのれぇー……。まぁーてぇー!」

「……何?」

 

引き止められるままに、つい反応を返してしまう。

以前ならばそのまま相手もしなかった所だが、我ながら優しくなった物だと一人ほくそ笑んだ。

 

「――こーこーかーら、たーちーさーれぇー!」

「……は?」

 

本当にそのまま立ち去ってしまえば良かったと後悔した。

 

「……頭の中まで腐ってるみたいね」

「でなければー……力づくだぁー!」

 

だが、展開としては悪くは無かった。

相手の命令に従い、大人しく去る事など我慢ならないし、いかにも低級モンスターなゾンビに命じられている事も我慢ならない。

それに、だ。

 

「――そちらから仕掛けてきたんだ。これは自己防衛として戦っても仕方が無い!」

 

――折角暴れて良い理由が向こうから飛び込んできたのだから。

 

レミリアの紅い魔力が、辺りへと満ちていく。

吸血鬼の眼光は、紅く輝く空の月と同様の色に輝き始めていた。

 

 

"毒爪「ポイズンレイズ」"

 

鋭く長く、禍々しい色を伴った毒爪が、レミリアの白い肌を引き裂こうと振るわれる。

 

「ほらほら、どうした?」

 

だが、それは圧倒的速度差を持つレミリアにはかすり傷の元すらならない。

二度三度滅茶苦茶に振るわれる腕を躱すと、レミリアは背後から手加減をした一撃を加える。

 

「うわ、臭い付いたかな? ……ってちょっとやり過ぎた?」

 

対して重たい体躯では無いゾンビは、吸血鬼のパワーを受けて軽々と弾き飛ぶと、墓石の一部と共に倒れこんでしまった。

 

「最近の人間も強くなったから……つい手加減を誤っちゃったわね」

 

これでは折角の機会もすぐに終わってしまう――。今更ながらに失敗を悔いたレミリアだったが、直ぐ様その考えを改めさせられた。

 

「やーらーれー……てなぁーいぞー!」

「……わーお」

 

手加減していたとは言え、間接的に墓石を砕く威力だった筈だ。

それにもかかわらず、まるで無傷であるかのように立ち上がるゾンビの姿を見て、レミリアは少し興味が湧いてきていた。

 

「――貴女、名はあるのかしら? それと術者は何処に?」

「うおー……お? ……よしか。名前は宮古芳香ー……。……じゅ、じゅちゅしゃって……なんだぁー?」

「ふむ……」

 

宮古芳香。聞き覚えが在るような無いような名だった。

もしかしたら過去に一度目にしていたのかもしれないが、その時は興味が湧かなかったのだろう。

それよりも、頭は腐ってるがその耐久力の高さはとても面白そうだった。

 

「よし、決めた」

 

この時の考えを、もし紅魔の従者達が聞いていたのならばやんわりと止めていただろう。しかし、幸か不幸かこの場に入るのは紅魔の王ただ一人。

 

「――貴女をぶっ飛ばして、持ち帰る事にしよう」

 

大きく広げた悪魔の羽根。そこから生み出されていく大量の紅いコウモリ達。

 

"紅蝙蝠「ヴァンピリッシュナイト」"

 

眷属であり、レミリアの一部でもあるコウモリは、レミリアの意のまま芳香の体へとまとわりつき、次々と噛傷を作っていく。

それは、ただの噛傷ではない。魔力の篭った攻撃だ。

徐々に体力を消耗させていく、悪魔の印付。

 

「なるべく壊さないようにしないとね」

 

すでにレミリアの頭の中では、新しく付ける名前の候補を上げ始めていた。

無論、時代を2~300年程先取りしたような異次元的ハイセンスな名を。

しかし、それが定まりきるには時間が足りないようだ。

 

「うっとおしいぞー……こいつらぁ……!」

 

力任せに腕を振り回し続けていた芳香だが、それでは追い払えない事に苛ついたのか、次のスペルを発動させる。

 

"欲符「稼欲霊招来」"

 

芳香の全周囲に放出されたレーザーとクナイ弾の嵐。

魔力で出来たコウモリ達と言えど、それらをかわしきる事は出来ず、あっという間に落とされていく。

 

「……へぇ? そこそこやるじゃない。そこそこね」

 

余波として飛んできた弾幕を羽根でなぎ払うと、レミリアは悔し紛れにそう言い放った。

手加減してやったスペルだとはいえ、格下に破られるのはやはり気持ちが良い物ではないのだ。

 

「でも、もう遅いわ。貴方はもう、体中傷だらけで満足に動いてられない」

 

事実、元々鈍かった芳香の動きは更に鈍重となっていた。

皮膚に刻まれた傷は大した事無いが、体内に浸透した魔力ダメージが筋組織の動きを阻害していたのだ。

ゾンビを気絶させることは出来ない。だが、その動きを物理的に封じることは出来る。

そうして当然の如く付いた決着。

 

――相手が邪仙の作ったキョンシーでなければ、そうなるはずだった。

 

「うお……お……おおおー!」

 

大きく開けられた芳香の口。

それは、攻撃ではなかったが、阻止するべき行動だった。

 

"回復「ヒールバイデザイア」"

 

「――何?」

 

レミリアの見てる前で周囲から何かが芳香の口の中へと入って行った。

それは薄い色の儚い魂の欠片のような何かである事は直ぐ様分かったが、あまりに世界に影響がない故に意識にすら無かった存在。

それが、次々と芳香の中へと集っていくのだ。

 

「……まさか、"喰っている"のか?」

 

丸呑みされていく魂の成り損ない達。そこら中に溢れる空気のような物だからこそ、尽きること無く吸い込まれていく。

更に、それだけで終わりではなかった。

気がつけば、みるみるうちに芳香の傷も修復されていっていたのだ。

 

「ごちそうさまー……」

 

やがて、芳香が口を閉じた時には先のスペルの損傷はまるで最初から無かったかのように癒えていた。

 

「次は……お前を喰う!」

「――エサ要らず、か。ペットとしては手がかからなさそうだ」

 

ガチガチと歯を打ち鳴らす芳香に対し、余裕を示すように威厳と優雅さを以ってレミリアは言葉を返してやる。

だがその一方で今までにないやりにくさを感じていた。

多少のダメージは修復されてしまい、気絶はせず睡眠は命令でもなければ取らない。それでいてうっかり壊してしまったら意味が無い。

力でねじ伏せられない相手というのは、面倒だった。

 

(こんなとき館の皆はどうするかな)

 

そんな面倒事を今まで解決するのは紅魔に集う者達の役目だった。

美鈴は気とかなんとかでどうにかするだろう。

フランは壊してしまいそうだ。

咲夜なら器用に時間停止でどうにか解決出来るだろうか。

パチェはきっと魔法で上手く――

 

「――ああ、そうか。その手があったか」

 

思いついた名案に、改めてレミリアは自身の才覚を褒め称えたくなった。

ひらめきから実行までの速度は当然ノータイム。早速両の手に魔力を集わせ始める。

 

「おー……? 何をする気……だ? 抗えぬ運命に抵抗するのは惨めだと、青娥が言っていたぞー……?」

「――クックックック」

 

芳香の言葉に思わず笑い声が漏れた。

――本当に、本当に今日は愉快な日だ。

 

「一つ、貴様に教えてやろう。木偶の坊――」

 

両手の魔力が、紅い輝きを一層強くする。

 

「――運命とは従う物ではない。私が定める物だ!!」

 

それは、運命を視る吸血鬼。レミリアスカーレット故の言葉。

しかし、芳香がその言葉を理解する前に、レミリアのスペルが発動する。

 

"運命「ミゼラブルフェイト」"

 

レミリアの両の手にある魔法陣より伸びたのは、高密度の紅い魔力によって紡がれた強靭な鎖。

そして、対峙する者の運命を意のままに縛る宿命の枷。

幾重もの鎖の束が、魂を冒涜されている屍の自由を奪い始める。

 

「う、うおー……むぐぅ……!」

 

腕を、足を、胴を、頭を。

その全てを絡めとられた芳香はそれでも尚逃れようともがく。

回復か、もしくはパワーアップを図っているのか、その状態でも芳香は出来損ないの魂達を喰らおうとしているようだった。

しかし、ディナータイムが終わるまで待ってやれるほど今のレミリアスカーレットは暢気では無かった。

 

「逃れられると思うか! この私の運命に!」

 

鎖をまとめて掴み、小さな肩に背負うと、気合一番。背負投の要領で遠くへとまとめて放り投げた。

その際、芳香のパーツが壊れる音が聞こえたが、耳には入らない。テンションはピークを迎えていた。

 

「サービスだ! こいつも食らっていけ……!」

 

余分なまでに高まった魔力を、今度は脚力へと持っていく。

それだけで元々強靭な脚力が恐ろしいまでの力を秘める事となる。

 

"夜符「デーモンキングクレイドル」"

 

そして、レミリアは大きく踏み込み、跳んだ。

その際墓場が余波で少々荒れたが、気にする必要はない。

純粋な脚力に回転を加え闇夜を切り裂いていくレミリアの身体。しかしその決して大きくはない身体が描く紅い魔力の軌跡は、さながら悪魔の王の塔を象るかのように、浮かび上がっていく。

無駄に派手で豪快なスペルが向かう先は言うまでもない。

放物線に添って宙を流れていく鎖で縛られたままの宮古芳香だ。

 

「……うお……お……やーらーれー……たー……」

「――腐った頭で精々覚えておけ! これが紅魔の在り方だ!」

 

芳香への追撃を果たした吸血鬼は、遥か足元へと落ちていく敗者を見下ろしながら、黒と紅の空の中で一人嘲笑う。自身の勝利と気高さが不滅であると確信して。

 

 

 

 

 

「――あっ」

 

勢い任せの吸血鬼レミリアスカーレットが、当初の目的が捕縛だった事を思い出したのは、それから宮古芳香を完全に見失った後の事だった。

 

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