東方二次創作習作バトル物   作:蒼狐

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犬走椛VS永江衣玖

 

「――こんにちは。今日も良い天気ですね」

 

聞こえてきた声に、白狼天狗が一人、犬走椛は露骨に不快な表情を浮かべた。

 

「……私には天気よりも見ていなければならない物がありますので」

「おや、それは残念です」

 

少し冷たくあしらってやるも、飄々とした態度は揺るがない。

 

「それでは、少しお話しませんか? それならば視界は自由です」

 

それどころか、油断しようものなら隙間風のようにこちらにまとわりついてくる。

なんて嫌な風なのだろう。

 

「……勝手にしてください」

「では、お近づきのキッカケとしまして、どうぞ私めの事は愛称でお呼びください。――そうですねぇ」

 

いつでも余裕を崩さず、実力があるのに発揮しようとしない。

世界の何処へでも行ってしまえそうな、そんな自由な魂。

 

「――永江衣玖、ですので……。衣玖さん、とお呼びください。皆がそう呼んでくださいますから」

「……そうですか」

 

まさか、そんな風がもう一迅。この幻想郷に存在するとは思いも寄らなかった。

 

 

 

この妖怪と言葉を交わすのは最早何度目の事だったか分からない。

哨戒の際、たまたま妖怪の山の警戒区域に侵入した永江衣玖を発見し、警告と種族確認をしたのがキッカケだったと記憶している。

結局、その妖怪の所属は一般妖怪のそれとは比べ物にならない程しっかりした物だったので、簡単な忠告だけ与えて見逃したのだったのだが、それが良くなかった。

何故か、気に入られてしまったらしい。

 

「犬走さん。あちらの雲は大きくて良い色合いをしていますね。こちらに向かってくるようですので一雨来るのかもしれません」

「……そうですか」

 

それから時々、こうして勝手にやって来てはどうでもよい話をしていく。

相手は身分のある妖怪。妖怪の山の脅威や任務の邪魔にならぬのならば手荒に追い払う事も出来ない。

今日も今日とてどうでもよい話を適当に聞き流す。

 

(――何が目的だと言うのだろう)

 

彼女に課せられた役目は、とても重要度の高い役目だと言うことは知っていた。

哨戒任務とは全く違って、代理等そうそう出来無い彼女の役目。

それなのに日々を気楽に自由に過ごす彼女の態度に、とうとう苛立ちが限界へと近づく。

 

「ああ、あちらの雲は包まれると心地よさそうですね。一緒に幻想郷中を漂うのも一興で――」

「――何故、そんなに怠惰に過ごせるのですか」

 

少し、驚いたような顔。初めて見る永江衣玖のそんな表情さえ、苛立ちを更に募らせる。

 

「妖怪にとって存在意義は、己である為に必要不可欠。生まれ持って背負った責務はそれこそ存在意義その物。――それだけじゃない、貴方の役目一つが怠っただけで無数の組織が、人妖が不幸になる」

 

何故こんなにも苛立っているのか、自分でも分からない。言葉は次々と勝手に口から紡がれていく。

 

「……だと言うのに、雲がどうの天気がどうのと、貴方は不真面目です。そんな暇があれば、修練の一つでも積み重ねるべきだと言うのに。それがひいては組織の為、幻想郷の為となり――」

「――貴方は、真面目で……不器用な方ですね。ですが、そんな所が私は気に入っています」

『――椛は真面目だけれど不器用ね』

 

何かが、繋がってしまった。

触れられたくない、心の中に。

気がつけば、牙をむき出しにしてしまう程の怒りが頭を埋め尽くしていた。

 

「――永江衣玖。もう容赦も慈悲も与えはしない。天狗を愚弄し、妖怪の山へ正当な理由無く不当に侵入した罪……白狼の爪と牙にかけて、その身で償ってもらおう!!」

 

盾を構え、抜いた段平を向けて尚、永江衣玖は余裕をもって微笑んでいた。

 

 

 

 

「――ウオオオオ……!」

 

威嚇と牽制の意味を兼ねた咆哮。

それと同時に振るう段平の刃が、永江衣玖へと力任せに向かう。

しかし、服にすらかすらない。

だがそのまま、突進の勢いを利用しすれ違い様の一撃へと繋げる。

 

「おや、危ない所でした」

 

やはり、当たらない。

手からこぼれ落ちる水のように、霧を掴み取ろうとした時のように、攻撃が全て不自然に流されるのだ。

 

"羽衣「羽衣は空の如く」"

 

先ほど、永江衣玖が発動させたスペルカード。

それからずっと身体の周囲に貼られた妙な風の流れが、攻撃を逸らしているのだろう。

 

「忌々しい風め……ならこれでどうだ!」

 

距離を取り、段平を通して妖力を弾幕へと変化させる。

のの字を描くような剣閃を象った弾幕をそうしていくつか永江衣玖へと放つ。

目眩ましにわざと外した初弾が、土埃を舞い上げ次弾以降の認識を困難にさせる。

積み重ねてきた戦闘経験によるものだった。

 

「――ええ、良い弾ですね」

 

しかし土埃を全ての弾幕が貫いて尚、永江衣玖は健在だった。残った土埃を纏う風の流れでかき散らしながら、平然とした顔で宙を漂う。

 

「……巫山戯るな! 先ほどから防戦一方で、私に手心でも加えているつもりか!」

「成る程、私としたことが確かに失礼でしたね」

 

ふわり、とまるで綿のように地上に柔らかく足を乗せる永江衣玖。

そんな、流れ行く風のような永江衣玖の雰囲気が変化したのは瞬き程の時間だった。

 

「――では少々本気を出させていただきます」

「ッ!?」

 

"魚符「龍魚ドリル」"

 

永江衣玖の右手を中心に羽衣が集まり出した。――それを認識したのも束の間、西洋の突撃槍のような形状を象ったそれが、雷鳴を伴って高速で回転を始めたのだ。

野生の勘に従うまま咄嗟に構えた盾に、衝撃を感じたのは次の瞬間だった。

続く、摩擦音と雷の閃光。そのまま腕ごと盾を持って行かれそうな勢いだった。

 

「……これしきッ!」

 

パワーと突撃力のある攻撃。だが、そんな相手への対処法は日々の修練で身体が覚えている。

回転衝角(ドリル)のように回転を続けるそれを、流すように、逸らすように下側に跳ね落とす。

対象を逃した今だ止まらぬ破壊の回転が地面を抉ったが、既にこちらの身体は宙へと蹴り上がっている。

――狙うは、無防備な背後。

 

「ここだ!」

 

振るい続けてきた結果、重心を完全に我が物とした段平の一撃が、永江衣玖を捉えようとした瞬間だった。

――足元を何かに掴まれた。

 

「――貴方の流れは、既に見えています」

 

足元に巻き付いた物、それは永江衣玖の羽衣だった。

結果、体ごと振るった一撃は空を斬る。それだけでは終わらず、足元を絡めとった羽衣は絡みとった対象を投げ飛ばす為に、大きく大きく回転による遠心力をかけ始める。

 

「ぐぅッ!」

 

そのまま地面と平行に飛ぶように、無造作に放り投げられたが、段平を地面に突き立て勢いを殺していく。

震わされた平衡感覚を整える間もなく次の攻撃はやってきた。

 

 

"雷魚「雷雲魚遊泳弾」"

 

永江衣玖がおもむろに付きだした両の手。そこから生み出された雷球が、長い尾を残しながらこちらへと迫ってきたのだ。

追撃に次ぐ追撃、確実に仕留めに来ているのだろう。

しかし鴉天狗には及ばずとも、白狼天狗の俊敏さには誇りがある。

 

「その程度の攻撃、当てられると思うな!」

 

決して早い弾ではない雷球。タイミングを合わせ、ギリギリの所を最小限の動きで交わす。

そうして永江衣玖へと斬りかかる構えを取ったのと、不自然に雷球がその矛先を曲げたのはほぼ同時の事だった。

 

「追尾弾か!」

 

功を焦り過ぎた結果だった。

永江衣玖へと反撃をかけたつもりが、かえって挟撃の体形を取らせてしまっている。

さながらそれは詰み数手前の盤面だった。

しかし、まだ対処は出来る。早急に対処をすればまだ勝算はあるのと己を奮い立たせた直後――

 

「――サービスです。これで、貴方の流れは途絶える事でしょう」

 

"棘符「雷雲棘魚」"

 

――前門の雷を身に纏いし龍宮の使い。後門の追尾能力をもった雷撃弾。

視界を雷光で焼いてしまいそうな未来に、精々用意準備出来たのは、せめて悲鳴をあげぬようにと口を固くつぐむことくらいの事だった。

 

「――――ッ!!」

 

永遠のように思えた一瞬の後。周囲を蒼く染め震わせた雷光と雷鳴が止む。

それでも、二本の足で立ち続けていられた理由は自分でも分からない。

白狼天狗としてのプライドだったのか、積み重ねてきた修練の賜物だったのか。

 

「もう、良いでしょう?」

 

しかし、どちらにせよ、地面に突き立てた段平にすがりつき、やっとの思いでそこに居るだけの状態。

 

「決着は付きました。私が貴方を不快にさせてしまったのでしたら、謝ります。ここに居る事がご迷惑ならば、立ち去ります」

「……」

 

拒否する必要は無かった。

あくまでも侵入者を追い返す事が白狼天狗の役目。

出て行くと言うのならばそれで終わりにすれば良い。

幻想郷に置いて強者は山ほど居る。故に、敗北を経験した回数も無数にある。

ここでゴネて事態を大事にしてしまう事の方が、余程問題になるだろう。

直撃を受けた盾は半分程割れ、鋭く輝いていた段平には幾重ものヒビと刃こぼれ。

身体も強力な電撃で、あちこち焼け焦げている。

――戦闘続行は、不可能だ。

 

「さぁ、刀をお収め下さい。まずは傷の手当を――」

「――だ」

 

――しかし、それでも白狼の刃は、犬走椛の牙は、抗う為に永江衣玖へと向けられる。

 

「――……まだ、だ! 決着は……付いていないッ!」

「なっ……!」

 

初めて、永江衣玖の顔から余裕が完全に消え失せる。

驚愕と戦慄の入り混じった表情。

その顔を見た時、犬走椛は初めて理解した。

 

――ああ、私はこの風をちゃんと浴びたかったのだ、と。

 

自由への憧れ。――自由である者への憧れ。

自分にも羨望や嫉妬の感情があったのかと、永江衣玖を前にしている事も忘れ、一人ほくそ笑む。

我ながら不器用だと思った。本気でぶつかって見ないと、自分の心にすら気が付けないとは。

 

「――流れが、変わりましたね」

「……なんだか吹っ切れたもので」

 

岩のように凝り固まっていた胸の中に、涼やかな風が吹き込んでいくようだった。

今まで、その風を羨望したあまり、逆に拒絶して来ていた。

そうでないと、己の背負った荷が崩れてしまいそうだったからだ。

――しかし、もう違う。

 

「確かに私は真面目で不器用です。ですが、それが私の誇りです」

「やはり貴方は良い流れを持っています。前よりもっと気に入りました」

 

交わされる言葉と笑顔。

そして、両者は改めてスペルカードを示す。

 

"雷符「神鳴り様の住処」"

 

一方は自由の為に天を指差し雷を喚ぶ。

 

"狗符「レイビーズバイト」"

 

一方は誇りの為に眼光鋭く白狼の牙を構える

 

「――不肖永江衣玖。今日は限界までフィーバーして差し上げます!」

「――妖怪の山所属、白狼天狗哨戒任務隊が一人。犬走椛! 推して参るッ!」

 

そうして、両者のスペルは、それぞれの想いを乗せて交差していった――。

 

 

 

 

 

 

「――こんにちは。今日も良い天気ですね」

 

聞こえてきた声に、白狼天狗が一人、犬走椛は露骨に不快な表情を浮かべた。

 

「……私には天気よりも見ていなければならない物がありますので」

「おや、それは残念です」

 

少し冷たくあしらってやるも、飄々とした態度は揺るがない。

 

「それでは、少しお話しませんか? それならば視界は自由です」

 

犬走椛は深い深い溜息を付くと、背後を振り返りながら言った。

 

「――少し、じゃ物足りませんね。哨戒任務が終わるまでの残り数刻。じっくり話ましょう?」

 

妖怪の山の上を、白く浮かぶ雲が、気ままに流れて行った。

 

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