黒森峰の思い出(合宿編)   作:ウイング・三条

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第1話 合宿に行こう!

「は?合宿ですか?」

黒森峰女学園戦車隊、2年生で副隊長の小谷マキはいきなりの誘いに軽く驚いていた。

「そうです。今度学園艦が熊本の港に寄る時に1週間ほど時間があります。

 その時間を利用して戦車道の強化合宿に参加しませんか?」

誘ったのは黒森峰1年生にして隊長の西住まほだった。

年下ではあるが、敬愛する隊長であるまほに誘われたマキは、YESと即答したい所だったが、はやる心を抑えて、まずは当然の質問をした。

「私個人としては構いませんが、学校とか、費用の方はどうするのですか?隊長」

その質問を予想していたように、大きくうなずいてまほが答える。

「学校の方にはもう許可を取ってあります。今度港に寄る時は整備や荷物の上げ下ろしの関係で1週間は入港しているようなので、その間なら構わないそうです。

費用の方は私の実家で全て出しますのでご安心ください」

「そういう事なら喜んで参加したい所ですが、私と隊長だけで行くのですか?」

「いいえ、私と副隊長、それと隊員の中から20人ほど選抜して一緒に行こうかと考えています」

「に、20人ですか?」

人間20人といえば結構な数だ。その人数1週間分の合宿費用となれば、計算などしなくとも相当な額になる事は高校生のマキでも想像はつく。

瞬間的にそう考えて驚きの声を上げたマキだったが、まほはどうやら逆に考えたらしい。

「はい、本来ならば戦車道履修者を全員連れて行きたい所ですが、何ぶんにも私の実家もそれほど広くはありませんので、申し訳ないですが20人ほどかと」

「いや、20人連れて行くだけでも十分凄いですよ!」

「では、副隊長も参加という事でよろしいですね?」

「ええ、しかし私や隊長を含めて主だった者を連れて行ってしまうと、こちらの訓練の方はどうしますか?指導する者がいなくなってしまいますが?」

合宿する人数が20人とはいえ、黒森峰の全体の戦車道履修者から言えば、5分の1にも満たない。

隊長と副隊長である自分たちが合宿に行ってしまったら、残りの8割以上の履修者を

どうするのかと、マキは不思議に思い質問した。

「あら~私の事を忘れるなんてひどいわね!マキちゃん?」

そう言って、まほの代わりにマキの後ろから返事をしたのは、前黒森峰隊長であり、マキも憧れている3年生の大谷香織だった。

「お、大谷先輩? 

 い、いえ、私はてっきり大谷先輩も一緒に合宿にいらっしゃるのかと・・・」

「今回、私たち3年生はお留守番、こちらの事は私たち3年生に任せて1・2年生の子を何人か連れて行ってらっしゃい」

そう言ってマキを合宿に送り出す気満々の香織。

その言葉にうなずいたまほもマキに説明する。

「大谷先輩には隊長代行として残留組の指導をお任せします」

「はい、お任せください、まほ様」

まほの言葉に香織も深々と礼をして答える。

西住流後継者のまほさえ入学していなければ、本来隊長を務めていた筈の大谷だ。

歴代黒森峰の隊長の中でも屈指の実力と評されていて、これほど頼りになる隊長代行も他にいない。

マキは安心すると同時に、憧れの先輩と別行動になるのも寂しく思った。

「大谷先輩とご一緒できないのは残念です」

「私は以前、個人的に行った事があるからいいのよ。

 その分、今回はあなたたちが頑張ってきてね」

「はい、西住流の本家での合宿ともなれば気合が入ります」

「そうね、あなたにも色々と勉強になると思うわ。

 ああ、そうそう、あちらに行ったらみほさんによろしく伝えておいてね」

「みほさん?」

聞きなれないその名前にマキが香織に聞き返す。

「隊長の妹さんよ、確か今中三のはずよ。

 おそらく来年は黒森峰に入って来ると思うわ」

「隊長の妹さん・・ですか?」

「ええ、隊長とはまた違ったタイプだけど、やはり西住のお嬢様だけあって凄い人よ」

「西住流の・・・」

西住流の凄さはつい先ごろ目の前にいる隊長である西住まほとの事で嫌と言うほど体験したマキだった。

(隊長のような人がまだ他にもいるという事か・・・)

そう一人考えているマキにさらに香織が話し続ける。

「ええ、彼女とちょっと練習すれば、あなたにもいい刺激になると思うわ。

 ああ、それから・・・」

「まだ何か?」

「ええ、きっと可愛い坊やがいる筈だからちゃんと「遊んで」あげて結果を聞かせてね?

 それとたぶんサインをねだってくるだろうから、ちゃんとサインも書いてあげるのよ?」

「遊ぶ・・・のは構いませんが、サインって??」

香織の言っている意味が今ひとつ汲み取れず、疑問を口にするマキ。

「まあまあ、それは行ってみればわかるわ、じゃあ頑張ってね!」

「はあ・・・」

今ひとつ事態を把握しかねるマキに構わず、合宿計画は進められていった。

 

 

マキたち黒森峰の選抜隊員はまほに連れられて学園艦を降りると、西住流の道場兼まほの実家である西住本家の屋敷に向かっていた。

「ここが私の実家です」

そう案内された西住本家のたたずまいを見た戦車道履修者たちは驚いていた。

自分たちのいる玄関から遥か先まで土塀が続き、奥はどれほどあるのか計り知れなかった。

大きいとは聞いていたが、これほど大きな屋敷とはほとんどの隊員の想像を超えていた。

「こ、この家の中に戦車の練習場まであるんですか?」

その場にいた全員の気持ちを代表したマキの質問に、まほが軽く首を横に振る。

「いえ、さすがに練習場はこの家の中には納まりませんので、この家の裏手の方になります。だいたいあの辺までが・・」

そう言いながら遥か彼方の山をまほが指差す。

「・・・うちの練習場ですね」

その遥か霞んで見えるような山の彼方を見て、またもや全員が頭をクラクラさせる。

「それではこちらについて来てください」

そう言いながらまほが玄関・・・というよりも昔の大名屋敷のような門に案内する。

一体この屋敷でこれから何が起きるのか?合宿に参加した黒森峰の隊員たちがおっかなビックリに周囲をキョロキョロと見回す。

着いてきた隊員の一人がマキに小声で話しかける。

「副隊長~・・・これって・・・」

気持ちはわかるが副隊長として示しをつけなければならないマキが毅然と答える。

「言うな!何といっても「あの」常識外れた隊長の御実家だぞ?

 何があっても不思議はない!それはこの合宿中覚悟しておけ!」

「はい~」

質問した隊員以下、他の隊員たちもウンウンとうなずく。

 

まほが門の呼び鈴を押すとしばらくして和服で身を整えた20代後半の女性が迎えに出てくる。

「お帰りなさいませ。まほお嬢様」

「ただいま、菊代さん。例の合宿に黒森峰の皆さんをお連れしたのだが」

「ええ、もちろんお話は伺っておりますよ。皆さんは私がご案内させていただきます」

「お願いします。ところでみほはいるかな?」

「ええ、もちろんいらっしゃいますよ。それと、りほ坊ちゃんもいらしています」

「りほも?それは後で会うのが楽しみだな」

嬉しそうに話すまほを見てマキが色々と不思議に思う。

(こんな嬉しそうな隊長は始めて見るな・・・「みほ」って、確か香織先輩が言っていた隊長の妹さんのはずだけど「りほ」って誰だろう?)

そんな事を考えているとまほはくるりとマキたち隊員の方を向くと話し始める。

「みなさん、私は少々母に今回の合宿の事で話す事があるので、みなさんは家の中と練習場を見て回っていてください。この菊代が案内します」

「はい、隊長、了解しました」

マキが代表して返事をするとまほもうなずき家の中へ入っていく。

残った隊員たちに菊代が説明を始める。

「それでは皆さん、お夕飯の時間まで、まだ間がございますので、お屋敷と練習場をご案内させていただきますね。本格的な訓練は明日からになりますから、今日は見学と軽く戦車を動かす程度にしておきましょう」

「はい、よろしくお願いします」

元気の良いマキの返事と共に全員が頭を下げ屋敷の中へ入っていく。

 

「こちらがお食事をする場所、こちらが大浴場になりますね」

中へ入ると手際よく菊代がテキパキと屋敷の中を案内していく。

屋敷の中は外から想像したとおりに広く、まるで巨大な旅館のようで、案内がなければ夜中にトイレにさえ行けないのではないか?という錯覚さえ覚える。

不安に駆られた隊員がマキに声をかける。

「副隊長~」

「言うな!外から見た感じでコレくらいの事はわかっていただろうが!」

「でも~~」

「建物の内容を恐れて戦車道の合宿が出来るか!」

そうは言ったものの食堂、図書室、武道場、大広間、視聴覚室、茶道の間等々の各部屋を案内されるとマキも頭がクラクラとしてきていた。

ようやくの事で自分たちが泊まる部屋にたどり着くとホッとするマキだった。

(しかし、一人で玄関からここまで来れるだろうか?)

マキがそう考えていると菊代が次の案内をする。

「それではこちらに荷物を置いてください。

 これから外の練習場の方をご案内させていただきますね」

その菊代の言葉に、いよいよ、合宿の要の場所を見学かと思うとマキたちも少なからず、興奮していた。

 

 

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