黒森峰の思い出(合宿編)   作:ウイング・三条

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第2話 西住家の練習場にて1 

荷物を部屋に置いて着いてきたマキたちが屋敷の裏手から外へ出る。

そこには黒森峰でも使用されている物と同タイプのトラックが数台止まっていて、マキたちの乗車を待っていた。

「練習場の方は少々遠いので、こちらの車でご案内させていただきます。

皆さんそれぞれに分乗してください」

そう菊代に言われた隊員たちがそれぞれのトラックに乗りこむとそれは静かに動き出した。

 

トラックに揺られてしばらく移動すると、広い空き地に出ていた。

そこは1km四方はあろうかという空き地で戦車が何台か置かれていた。

ゾロゾロと降りてきた隊員たちに菊代が説明を始める。

「ここが第一練習場ですね、主に平地での訓練を行います。

あら?ちょうどみほお嬢様がいらっしゃいますね」

「みほお嬢様・・・?」

そのマキの問いに菊代が笑顔で答える。

「はい、まほお嬢様の妹さんで、今は中学3年生です。

来年は黒森峰の高等部に進学する筈ですよ。ご紹介しますね。こちらへどうぞ」

そう言うとマキたちを連れてみほたちのいる方に菊代が向かう。

「黒森峰高等部の皆さん、こちらが西住家次女のみほお嬢様と、ご友人の逸見エリカさんです。

みほお嬢様、エリカさん、こちらが今年の黒森峰高等部の副隊長さんと合宿参加の皆さんですよ」

みほと紹介された栗毛でショートカットの可愛らしい少女がマキたち黒森峰の隊員たちに挨拶をする。

「こんにちは!西住みほです。あの、姉がいつもお世話になっています」

その言葉にその場にいた全隊員が一斉にブルブルブルと激しく首を横に振る。

「とんでもない!お世話になっているのは我々です。それも一方的に・・・」

マキの即答に残り全員が今度はウン!ウン!と首を縦に振る。

「あはは・・・姉はあんな感じですが、皆さんを頼りにしていると思います。

 よろしくお願いしますね」

そう言って深々と頭を下げるみほ。

「いえ、こちらこそ・・・」

マキの返事と共に隊員たちも深々と頭を下げる。

マキたちが頭を上げると、今度は隣にいた亜麻色でセミロングの髪の少女がズイ…と前へ出ると自己紹介をする。

「逸見エリカです。よろしくお願いします。

黒森峰高等部の皆さんには合宿中に是非お手合わせをお願いします」

(ずいぶんと自信家みたいだな・・・でも確かに、この娘は強そうだ)

そのエリカと言われるハキハキとした少女にマキは油断ならない印象を受ける。

それに比べて横にいるみほは何となく頼りなさそうではある。

(何というか、ずいぶん頼りなさそうな子だな、しかし香織先輩がウソを言う訳もないし・・・)

マキがそう考えているとクスクスと笑いながら菊代が提案をする。

「あらあら…エリカさんはもう明日まで待ちきれない様子ですね。

それでしたらまだ時間も十分ある事ですから、試合というほどの物ではありませんが、明日からの訓練になれるために試合形式で多少戦車に乗ってみてはいかがですか?」

「いいんですか?菊代さん?」

早くも願いが叶ったと思ったのか、エリカが喜び勇む。

「ええ、軽く練習をするみたいな物ですから特に問題もないと思いますよ?」

「よし!」

菊代の言葉にやる気満々となったエリカをみほが止める。

「でも、エリカさん、皆さんは今到着したばかりで疲れているでしょうし・・・」

「何言っているのよ?今菊代さんもいったでしょ?合宿前の軽い肩慣らしよ。

・ ・・もっとも、高等部の皆さんが今日はもう疲れて戦車も動かせない、というなら

あきらめるけど、ね?」

そのエリカの挑発的な態度にマキもカチンと来る。

「いえ、肩慣らし程度でしたら我々も別に構いませんよ」

そのマキの言葉に隊員たちもエリカの態度に思うところがあったのか、大きくうなずく。

「では、パンターがちょうど10両ありますから、それで5対5の試合形式でやってみましょうか?ルールは殲滅戦でよろしいですか?」

菊代の提案に双方がうなずく。

試合形式が決まるとともにエリカがみほに食いつくようにチームの編成と指揮に関して話し始める。

「メンバーいつもの連中でいいわね?で、指揮はどうするの?」

「え、あ、どうしたらいいかな?」

「あんたが執るんじゃないの?」

「え、別に私はエリカさんでも・・・」

「じゃあ、私が指揮をするわよ?それでいいのね?」

「はい、私はそれで全然構わないです」

自分たちのチーム編成が決まるとエリカが菊代に鼻息も荒く答える。

「こちらはいつでも準備OKです」

「それでは双方、準備を整えてください。

一応試合形式ですので、私が審判を勤めさせていただきます」

「了解しました」

マキが答えると隊員たちはそれぞれの戦車に歩き始めた。

 

自分たちの戦車に向かいつつ、黒森峰の隊員たちがぼやく。

「やれやれ、着いてすぐ試合とはね・・・」

「ぼやくな、ぼやくな・・・私たちは遊びに来たんじゃなくて合宿に来たんだから」

「それにしても、あのエリカって子、ずいぶん挑発的ですね?」

「まあ、みほさんと同じ年齢らしいし、西住流のお嬢様と色々と比べられたりして

 気も休まらないんじゃないかな?」

「そう言われてみればそうですかねぇ・・・」

マキの返事に隊員たちも何となく納得する。

 

菊代が審判台に上ると、双方の状態を確認し、試合開始の合図を送る。

「それでは逸見エリカチーム対小谷マキチームの試合を始めます。

 一同、礼!」

試合開始と同時に一斉に動き出す10両のパンター。

(さすがに西住流の本拠地だけあって動きは見事だな)

全員が年下とも思えぬその5両の戦車の動きに感心するマキ。

(しかし、やはりまだ中学生か・・・)

動きの甘い戦車が次々とマキたちのパンターに1両また1両と餌食になって行く。

(あの娘の腕も指揮能力も悪くはないんだけどね)

マキを初めとした、黒森峰の選抜隊員たちの実力にエリカたちは残り2両となっていた。

それに対してまだマキたちは一両もやられてはいなかった。

やけになったエリカがみほに叫ぶ。

「あ~もういいわ!みほ!後は好きにやりなさい。私はあの副隊長の戦車をやるから」

「え、でも・・・」

「あんたと私だけになって今更指揮も何もないでしょ!

どうせ試合形式な練習なんだから、もう好きにしていいわよ!」

「う、うん」

そうしてみほのパンターがエリカから分かれて行く。

「さあ、行くわよ!」

そう言うと指揮をする足かせを放たれたエリカが勢いよく飛び出す。

アッという間にマキに肉薄するエリカ。

(何?この子?せめて敵の大将首だけでも取ろうって事?)

しかしマキも黒森峰副隊長という面子がある。

そう簡単にやられる訳にはいかない。

そんなマキを巧みに戦車を操って追い詰めようとするエリカ。

その執拗なエリカの追撃にマキが他の戦車たちに指示を出す。

「どうやらこのパンターは私と一騎打ちをしたいようだ。

たかだか肩慣らしの練習で黒森峰副隊長の私がここで退いたら

後であのエリカという子に何を言われるかわからない。

この子は私が引き受けるから他の車両は残り一両の相手をしなさい」

「了解!」

マキの命令通り、残りの4両は最後に残ったみほのパンターを追って行く。

(1対4はかわいそうだったかな?)

そう思ったマキだったが、それもわずかの事だった。

一瞬でも気を抜けば、即座にエリカにしてやられるのは必至だった。

自分以外が相手をしていたら、おそらくやられていただろうとマキは思った。

条件が対等で並みの相手なら、この娘は1対2、いや、おそらく1対3でも倒すほどの腕だろう。

(やはりこの子は違う!強い・・・)

しかし野試合的な1対1の戦いはマキの最も得意とする所だった。

伊達に黒森峰の突撃隊長とは言われていない。

ついにマキがエリカのパンターを追い詰めて止めをさす。

バシャッ!とエリカのパンターから白旗が揚がる。

「あ~!もうちょっとだったのに!」

パンターのキューポラで頭を抱えて悔しがるエリカ。

「ふぅ~」

一番手ごわいと思われたエリカを倒してホッとするマキ。

(ホント、あとちょっとで危なかったよ・・・)

一安心したマキに無線で通信が入る。

「副隊長~早くこっちに来てください~」

「もう持ちません~」

(え?)

マキが驚いて残りの4両の様子を見ると、そこではすでに1両の戦車が白旗をあげていた。

(何?あれ?最後の1両って、みほさん?)

その一両が驚くべき動きで残りのパンターを翻弄し駆逐していた。

黒森峰の隊員たちはその動きについて行けず、混乱し、慌てふためいていた。

慌てて自分のパンターを指揮するマキ。

「全速前進!」

戦場に近づいて生き残っている他の3両に指示を出す。

「慌てるな!こちらはまだ4両いる。敵を四方から囲んで追い詰めろ!」

しかし、みほのパンターは巧みにその包囲網をくぐり抜けて反撃をしてくる。

(何?この動き?一体何なの?)

それはマキの戦車道の知識と常識を無視した動きだった。

(この感じは隊長と似ているけど・・・違う!)

黒森峰隊長たるまほの動きは華麗だった。それはあくまで戦車道の常道に沿った動きであり、理に叶った動きだった。その華麗な動きは、わかってはいるが、無駄の無い正確さ、速さに敵はみなやられてしまうのだった。

しかしみほの動きは違っていた。どんな戦車操典にも載っていない動き・・・

そんな動きで次が全く予想する事が出来ない・・・その動きに翻弄され、次々とマキ側のパンターは撃破されていった。

(何これ?どうしてこの娘はこんな動きが出来るの?)

マキは一瞬、合宿前に香織が言った言葉を思い出していた。

『隊長とはまた違ったタイプだけど、やはり西住のお嬢様だけあって凄い人よ』

そう考えている間にも最後の一両がやられてマキの乗るパンターだけとなる。

(いや、これは違うタイプとかそういうレベルじゃないでしょ?)

マキがそう思った時にはすでに自分の戦車から白旗が上がっていた。

先ほどまでは5対1だったのが、あっという間に形勢は逆転し、みほの操るパンター、たった一両にマキたちは負けたのだった。

殲滅戦はマキたちの敗北だった。

 

練習試合が終わり、挨拶を交わすマキたちとみほたち。

「ありがとうございました・・・」

「ありがとうございました・・・」

みほ以外は双方納得の行かない終わり方の試合だった。

挨拶が終わるとエリカが大声でぼやく。

「あ~やっぱり無理だったか・・・」

「え?」

「いえ、実は私は高等部の皆さんを倒す気、満々だったんですよ」

「ええ、見事な指揮だったと思いますよ」

「中学生にしては・・・でしょ?」

「ええ、まあ・・・そうですね」

あまりウソをつけないマキが素直な感想を漏らす。

「フフッ・・・正直ですね?」

「でも結局あなた方の勝ちじゃないですか?」

マキは褒めたつもりだったが、エリカはフッと笑うと寂しそうに言った。

「・・・わかっているでしょうに・・・それは私たちの力じゃなくて、あの娘個人の力ですよ」

そのエリカの目線はみほを追っていた。

「・・・」

無言のマキにエリカが説明を続ける。

「ホントはね、私たちなんていらない位なんです。あの娘が一人いれば、たぶん敵が

10両いても倒すでしょうね・・・でもね、それじゃ悔しいじゃないですか?

いつもあんなにのほほんとして、戦車になんか乗せたらあたふたして何も出来そうに

ないくせに、一旦戦車に乗ったら鬼みたいに強いんですよ?反則ですよね?」

「・・・」

マキは何も言えなかった。自分もつい最近似たような経験をしたからだった。

「でもいつかあの娘を追い抜いてやりますよ。

いえ、たぶん無理なのはわかっていますけど、そうでも考えないと、この先戦車道なんてやっていられないでしょう?」

「・・・頑張ってください」

そのマキの言葉にフッと笑うと「次は合宿中に、またお願いします」と言ってエリカは去っていった。

(みんな色々悩んでいるんだなあ・・・)

マキも他人事ではないと考えていた。

何故ならおそらく来年はあの二人が黒森峰に入学してくるのだから・・・

(そうか・・・来年は私も副隊長はみほさんに譲る事になるのか?)

隊長はもちろん現状のままだろう。副隊長は自分より技量が上で、しかも西住流の次女となれば、例え1年生と言えどもみほに譲るのが順当だろう・・・

そこまで考えたマキがハッと思い当たる。

(そうか!昨年、香織先輩もこうして考えて隊長を・・・)

そんな事をマキが考えていると菊代がやってきて先を促す。

「中々興味深い内容でしたね。さあ、それでは次に参りましょうか」

菊代が歩き出すとマキたちも後に着いて歩き出す。

隊員の一人が情けない声でマキに話しかける。

「副隊長~」

「言うな!」

そのマキの言葉に対して耐え切れない隊員が、もう一度声をかける。

「あの子達、まだ中三なんですよね~?」

「だから言うなと言ってるだろう!」

「でも~」

「さっき言っただろう?ここは西住流の本拠地なんだ!何があっても不思議はない!と」

「はい~」

そう言うとマキはトラックに乗り込んで無言で腕組みをして将来の事を考えていた。

(来年か・・・)

事実、この時の考えの通り、マキは次の年に入ってきた西住みほに対して、副隊長の地位を譲っていた。

しかし、次にマキたちが会う相手はそれどころではすまなかった。

 

 

 

 

 

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