遠い星、小さな一歩 ~ Story of Hanayo   作:Kohya S.

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1. アイドルに恋して

 秋葉原駅前、UTX高校前。

 大型ディスプレイの前のペデストリアンデッキには大勢の人だかりができていた。小泉花陽はかたずを飲んでディスプレイを見つめていた。

 

 中学校を卒業した花陽。音ノ木坂学院への入学を控えた春休み、花陽は新生A-RISEの新曲発表イベントを見るためここに来ていた。

 残念ながらチケットは手に入らなかったが、ディスプレイではイベントの模様が中継される。

 

 しばらく前からディスプレイではUTX高校とA-RISEのロゴが交互に表示され、インストゥルメンタル曲が流れている。

 そのディスプレイが暗転した。

「い、いよいよです!」

 花陽のテンションは上がった。周囲の人垣も静まる。

 

 ディスプレイが中継映像に切り替わった。カメラは客席からステージにパンしていく。三人の少女が映し出される。

 真ん中のショートカットの少女がいった。

「皆さん、今日はありがとうございます!」

 沸き起こる拍手。少女は続けた。

「まずは新曲、聞いてください! Private Wars!」

 

 ステージが暗転し、ダンサブルなイントロが流れ始めた。スポットライトが三人を照らしだす。

『♪~♫~』

 リズムに合わせて歌い、踊る三人。その動きは完璧にシンクロしている。

 

「うわー」

 花陽の目はディスプレイに釘付けになった。すごい、すごいです。私と同じ高校生なんて、とても信じられないの。

 夢中になっていると、やがて曲が終わった。花陽にはほんの一瞬に感じられた。

 

「ありがとうございます。改めまして新生A-RISE、綺羅ツバサと」「統堂英玲奈」「優木あんじゅです」「「「どうぞよろしくお願いします!」」」

 

 残念ながらディスプレイへの中継はここまでのようだった。ディスプレイにはCD販売のお知らせが流れている。むむむ、これは絶対に買いです! もともと買うつもりでしたけど!

 

「すごかったねー」「ツバサちゃんカッコよかったー」「だんぜん英玲奈さんですよ」集まっていた人垣が崩れていく。

 花陽も興奮冷めやらぬまま帰路に着こうとした。

 

 そのとき花陽はすぐ近くに、見覚えのある少年がいるのに気付いた。中学時代の同級生で……たしか――君だ。どちらかというと目立たないほうで、花陽は彼とはほとんど会話したことはなかった。

 向こうも花陽に気付いたようだった。彼は花陽のほうを見てバツが悪そうに微笑んだ。そして彼はそのまま駅の方に歩いて行った。

 

 アイドル好きなのかな、それとも通りすがりかな……。

 花陽の心にすこしだけ親近感が沸いた。

 

        ・

 

 翌日の夕方、花陽は自宅に凛を案内する。星空凛は花陽の幼いころからの幼馴染だ。

「お邪魔しまーす」と凛。

「いらっしゃい、凛ちゃん」と花陽の母が答えた。

 

「今日は疲れたー」

 花陽の自室に入るなり、凛は床のクッションを枕に寝ころがる。

 日中はふたりで秋葉原に遊びに行って……。凛ちゃんはゲームセンターでリズムゲームをしたり、公園で逆上がりをしたり、大活躍だったもんね。花陽は、そんな凛ちゃんの脇で、応援していただけ、だけど……。

「お疲れさま、凛ちゃん」花陽は凛の隣に座った。

「かよちんといると癒されるニャー」花陽の膝枕に移ってくる凛。

 

 きちんと片付いた花陽の自室。ベッドに学習机、床にはラグといくつかのクッションがある。壁にはスクールアイドルのポスターが何枚か貼られていた。

 

「そういえばね、凛ちゃん。昨日A-RISEのイベントを見に行ってきたんだ」

「A-RISEって、スクールアイドルの?」膝枕をされたまま凛がいう。

 凛自体はスクールアイドルにあまり興味はないようだが、花陽がことあるごとに話題にするので凛もある程度詳しくなっていた。

「うん、新曲の発表だったんだ。すごくかっこよかったよ」

「かよちんも高校生になったら、スクールアイドル、始めればいいよ」

「……花陽はダメだよ、運動音痴だし……」

 A-RISEのあのパフォーマンスを見てしまうと、そうとしか思えない。

 

 たしかに歌を歌うのは好きだけど……でも、花陽なんか、ファンで十分なの。

 

「それよりも凛は、明後日が楽しみだニャー」

 凛が起き上がり、いった。

 明後日は中学時代の友人たちと遊園地へ行くことになっていた。花陽は特に希望したわけではなかったが凛に当然のようにメンバーに加えられていた。

「卒業したばかりだけど、久しぶり、って感じだね」と花陽。

「えーと、サキちゃんに、ハルカちゃん、タクヤくんでしょう……」と名前を挙げる凛。十人弱の大所帯になりそうだ。

 その中に昨日会った彼の名前もあった。

 アイドルのこと、聞いてみようかな、とちらっと花陽は思った。

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