遠い星、小さな一歩 ~ Story of Hanayo   作:Kohya S.

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2. 遊園地、彼との再会

 翌々日は幸い良い天気に恵まれた。

 花陽と凛は秋葉原駅から電車に乗った。遊園地の最寄り駅までは数駅で、駅を降りるとすでに遊園地のアトラクションが見えた。

 

 数分間歩くと入口だ。

「おーい、こっちこっち」

 入口の前でふたりの友人であるサキが呼んでいた。もうほとんどのメンバーがそろっているようだ。

「遅くなってごめんねー」と凛。

 サキの隣にはタクヤがいる。凛の話では卒業式にタクヤが告白し、ふたりは付き合い始めたそうだ。

 タクヤのその隣には先日A-RISEのイベントで見た彼も来ていた。

 

 花陽はカウンターで乗り物券を買った。凛はフリーパスを買っている。

「今日は乗りつくすよー」と凛。

 

 入口から中に入ると都心の遊園地らしく敷地はさすがに狭かった。しかしアトラクションが随所にあり、まるでおもちゃ箱を逆さにしたようなにぎやかさだ。

「わー、すごいね、凛ちゃん」

「かよちん、早く行こう!」

「うん!」

 

 最初こそ皆でメリーゴーランドやティーカップで遊んでいたが、そのうち花陽は凛や友人たちに連れまわされる形になっていた。

「今度はあっちに行くニャ!」「待ってー、凛ちゃん」

 

 乗るアトラクションもだんだんと過激になってくる。

「これなら左右に動くだけだから、かよちんでも大丈夫だよ!」

 凛に誘われてバイキングに乗った花陽は、船が動き出した瞬間から後悔していた。

 船が端まで揺れて戻るときには、なんともいえない感覚が襲ってくる。船の揺れはどんどん大きくなっていく。

 まるでそのまま空中に投げ出されてしまいそうな浮遊感に花陽はパニックに襲われた。

「いやー! ダレカタスケテー!」

 花陽にとっては永遠にも思えた時間がようやく終わった。アトラクションから降りてきた花陽は涙目になっていた。

 

「次はジェットコースターに乗るニャ!」

「だめー、花陽はダメー!」と必死に断る花陽。

「じゃあここで待っててね! かよちん」

 凛とサキ、タクヤたちはジェットコースターに向かった。

 

 花陽は広場の一角、ベンチのあるあたりに行き、腰を下ろした。花陽の胸はまだバクバクいっている。

 花陽の目の前にオレンジジュースの缶が付きだされた。

「飲む?」

 ぶっきらぼうにそういったのは先日の彼だった。気付くと花陽と彼が残された形になっていた。

「あ、ありがとう。――君」と花陽。「あの、お金……」

「いいよ、別に」

 花陽は戸惑ったが、そういわれてしまうと無理に払うのも気が引けた。

 

 彼はすこし離れた場所に座り、持っていた缶コーヒーを開けた。花陽も缶を開けて飲んだ。ちょっと疲れた体に冷たくて甘いジュースがおいしい。ようやく胸のほうも落ち着いてきたようだ。

 花陽は彼のほうを向き、聞いた。

「――君は行かないの?」

「俺、あまりああいうの得意じゃないから」と彼は小声でいった。

 そうなんだ、とすこし親しみを覚える花陽。

 ジェットコースターのほうを見ると凛たちが行列に並んでいた。まだかかりそうだ。

 

「あの」「そういえば」

 同時に話し出したふたり。なんとなく気まずい雰囲気が流れる。

「あ、どうぞ……」と花陽は彼のほうを見ていう。

 彼はコーヒーを一口飲んでから、いった。

「……小泉、この前、秋葉原に来てただろ」

 

 花陽は子供のころからのアイドル好きだ。小学生のころにクラスでちょっとしたアイドルブームがあったものの、中学では特に花陽からアイドル好きをアピールする機会はなかった。彼が知らなくても当然だろう。

 

「うん、A-RISEのイベントを見に行ったんだ」と花陽は答えた。

「ふーん、通りすがりとかじゃないのか。すっごく熱心に見てたもんな」

 花陽、すこし恥ずかしい……。花陽は彼から目を逸らし、ジュースを一口飲む。

 彼も花陽から目を離し、明後日のほうを向きながらいった。

「……俺も、A-RISEのファンなんだよね」

 花陽は彼のほうに向き直った。

「え、そうなの。意外だな」

「別に隠してたわけじゃねえけど……」とぶっきらぼうに彼。

 たしかに中学時代、彼と会話する機会はほとんどなかった。

 

「……今期のA-RISE、誰が好きなの?」と花陽は思い切って聞いてみた。

 彼も花陽のほうを向いて、いった。

「うーん、俺はあんじゅかな。こう、なんか癒し系でさ……」

「あんじゅさん可愛いよね。花陽は、ツバサさんかな」

「ツバサはいかにもセンター、って感じだな」

「そこがいいんです。正統派アイドルです!」

「英玲奈もカッコいいよな」

「ダンスなら英玲奈さんだよね」

「今期のA-RISEはレベル高いぜ」

「うん! 今度、ライブに行きたいな……」

 

 花陽はライブの様子を想像する。輝くステージ、揺れるサイリウム……。すっごく素敵だろうな……。

 

「小泉、アイドル好きなんだな」彼がいう。

 花陽は我に返った。うわーん、花陽、すっかり想像の世界に行ってたの……。真っ赤になる花陽。

 そんな花陽を見てバツが悪くなったのか彼は続けた。

「……気にすんなよ。……俺もアイドル、好きだし」

 花陽が彼を見ると、彼も照れたように笑った。

 

「かーよちーん!」

 凛の声が上の方から聞こえてきた。見ると、ジェットコースターに乗った凛が花陽に向かって手を振っていた。

「凛ちゃーん!」

 花陽は立ち上がって手を振り返した。あんな遠くから聞こえるなんて、凛ちゃん、すっごい大声なんじゃないかな……。

 

 ジュースを飲み終える。同じく飲み終えた彼から缶を受け取り、ごみ箱に捨てる花陽。ふたりは友達を迎えるためにジェットコースターの方に歩きだした。

 

 思わぬところでアイドルの話ができて、よかったな……。えへへ。

 

        ・

 

 その後いくつかアトラクションに乗ったところでお開きになった。日がやや傾いてきている。

 凛と花陽は同じ方面に帰る友人たちと電車に乗った。秋葉原駅で降りたのはメンバーの半分ほど、花陽と凛、サキとタクヤ、それに彼の五人だった。

 

「今日は楽しかったね」と花陽。

「凛は、ちょっと物足りないの」あれだけ遊んで、すごいね、凛ちゃん……。

「じゃあ、カラオケでも行く?」とサキが誘った。

「おなかも空いたし、ちょうどいいニャ。かよちんは?」

 カラオケなら、花陽は座ってるだけでいいもんね……。

「うん、いいよ。凛ちゃん」

 

「……じゃ、俺はこれで」彼が帰ろうとした。

「お前も来いよ」とタクヤが引き留める。「男一人じゃ気まずいし」

 彼は無言だったが残ることにしたようだ。

 

 サキが会員だという、秋葉原駅からすこし離れたカラオケボックスへ入った。

 まずは思い思いにドリンクや料理を注文した。

「一番、星空凛! 星空のインターバル、歌います!」

 そして凛が元気いっぱいに歌いだした。凛ちゃん、結構うまいんだよね……♪

 

 その横ではサキがタクヤに話しかけ、なにやら楽しそうだ。手を握ったりしている。男の子とお付き合いするって、どういう感じなのかな……花陽にはわかりません。

 

 凛が歌い終えた。

「イエーイ!」

「凛ちゃんやるね! 次は私だね」サキも披露する。

 サキちゃんも上手だなあ……。

 

 注文した料理が届く。凛はラーメン、花陽はおにぎりだ。

 

 次にタクヤが洋楽のロックを歌った。うーん、迫力だけはあったかな……。

 花陽がおにぎりを食べ終えてほっとしていると、例の彼がアイドルソングをキーを変えて歌いだした。「なんだよこの曲」「いいじゃねえか」「私、知ってるよ」と三人が話している。

 ……あれ、結構、難しい曲なのに、雰囲気は出てるみたい。

 

「次は、かよちんだよ」と凛。

「ええっ、私も歌うの……?」

「当然だニャー」

「ええーっ」

 無理矢理マイクと端末を持たされる。どうしようどうしよう。

 仕方ないので端末を適当に触ってみる花陽。あ、A-RISEだ……。そこを開くと昨年のヒット曲「Love Intersection」があるのが見えた。

 もうどうにでもなれ、です……! 花陽はその曲を選んだ。

 

 彼が歌い終わり次の曲へ。

 イントロが流れ始めた。花陽は恥ずかしくて目を閉じる。去年のA-RISEの二人の姿が頭に浮かんだ。私もあんな風に、なれたらいいな……。

『♪~♫~』

 エコーが適度に掛かっていて歌いやすい。……お風呂場みたいだな。小声で歌い始めた花陽だが、気付くと緊張していたことも忘れていた。

 交錯する想いをつづった甘い歌詞。

 最後まで歌い終えて目を開けた。

 

「かよちんすごいよ!」凛が抱きついてくる。

「花陽ちゃんて、上手だね」とサキ。

「えっと、その、ありがとう」真っ赤になる花陽。

 彼も驚いたように花陽のほうを見ていた。

 

 その後、凛とサキが一曲ずつ歌ったところで部屋の内線電話が鳴った。そろそろ時間らしい。もう一曲、歌うことにならなくて、ホッとしました……。

 

 会計を凛とサキに任せて出口で待っていると、彼が花陽のところに来た。

「小泉、携帯の番号、教えてくれる」と彼。

「えっ、あの」突然のことに戸惑う花陽。「でも、花陽の番号なんか聞いて、どうするの……」

「あとで連絡するんだよ」とちょっと照れたように彼。

「えっと、うん」

 花陽はよく意味がわからなかったが、慌てて自分のスマートフォンを取り出し彼に番号を伝えた。

 

「おまたせー」凛が戻ってきた。

「じゃあ、また今度ね」とサキ。

 五人は手を振りあうと、凛と花陽は神田方面に、サキとタクヤは一緒に電気街のほうに、そして彼は秋葉原駅のほうに、それぞれ歩き始めた。

 

 帰り道、凛がいう。

「今日は楽しかったねー」

「うん」と花陽。「でも、これからしばらく会えないかもね……」サキは音ノ木坂学院ではなく千歳橋高校へ進学することになっていた。

「いつでも会えるよ、かよちん。それに、新しい出会いが待ってるよ!」

「うん、そうだね、凛ちゃん」

「そっちも楽しみだニャー」

 

 音ノ木坂学院なら凛もいるし中学時代の友人も何人かいるし、安心だ。

 それに、なにか新しいことも、あるかもしれないの……。

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