オーバーロード~割と日常で桃色な日常の結末~   作:へっぽこ鉛筆

1 / 14
オーバーロード~割と日常で桃色な日常の結末~

面倒なことになった。

 

豪華な玉座に座り、実に豪華だが、どこか味気のない十階層の玉座でアインズ・ウール・ゴウンはひとりごちた。

 

先ほどのバハルス帝国の使者の言葉、美辞麗句で飾られてはいたが、どこか空虚で感情のない言葉と、皇帝ジルクニフの信書を見ながら、玉座を指でたたく

 

「どうなされました。アインズさま」

 

それを濡れ羽のようなしっとりとした声が、心配そうにかけられた。普段は、玉座の間に控えている守護者統括、アルベドだった。それを一瞥し、信書と見比べる。言おうか言わないかを迷いながら、思い切って口を開く

 

「いや、今回の戦勝記念に、帝国でまつりが行われるらしいのだが」

 

人間のイベント、特に興味もなく相槌を打つアルベドだが、次の瞬間、表情が変わった。

 

「私に、正妃を紹介してくれと書かれている」

 

「あら、私も行かなくてはなりませんね。衣服等はどういたしましょう。ドレスコードなどあるのかしら?」

 

おろおろと、頬に手を当て、当然のように言っているアルベドをみて、軽くため息をついた。

 

やはり、自分が私のとなりに当然並んで、紹介されている絵を想像しているのだろうか、何故か、子供の名前をいくつか口にするところで、アインズは口を挟む

 

「ちなみに、王城での舞踏会に出席しなければならないのだが」

 

「――そうですわね、モモベドなど…女の子ならモモベラなども良いですわ。はい?舞踏会?」

 

やっと帰ってきたアルベド、もう一度、頭を抱える。当然だが、アインズも、ダンスなどというもののスキルを持っていなかった。

 

 

 

 

 

「やはり、セバスも知らないか……」

 

恭しく頭を下げるセバスを下がらせれば、アインズは玉座の御前を見る。

 

あまり、見たくなかったが、一言で言えばそこは修羅場になっていた。

 

目に見えないオーラーが、いや、目に見えているオーラがぶつかり合い、十階層の温度を上昇させ、どこか、危険な鉄火場のような空気を充満させていた。

 

「それでだ。アル――」

 

「はッ、喜んで、守護者統括、第一正妃として、アインズさまのお役に立ってみせます。」

 

「あッー、ずるいでありんす。アルベド・・・アインズさま、やはり私の方が、パートナーとしてふさわしいかとありんすで」

 

「黙りなさい。アインズさまの王妃といえば、美と気品、そして、その愛を一身に受けた者に与えられるモノ、それはまさしく、私以外にありえない・・・ですよね。アインズ様」

 

「ふふっ、ほんと、おばさんはみっともないでありんすえ、第一、人間の舞踏会に、その角と羽根はじゃまじゃないでありんすか?ああ、確か、ペロロンチーノさまのおっしゃっていた“こみけのこすぷれかいじょー”と、いう場所がお似合いでありんすね。ぷっ」

 

「――なんだとコラッ、いっぺん水槽に沈めてやろうか?ヤツメウナギ」

 

「――そっちこそ、賞味期限切れのカラスババアは、焼き鳥にするぞッ」

 

「ちょ、ちょっと二人共――」

 

そして、またなんか、どす黒い方に近い赤と青のオーラがぶつかり合う。それを止めるのはアウラだった。

 

ちなみに、何故かマーレは柱の陰に隠れ、自分に被害が及ばないようにオロオロしていた。

 

「やめないか、二人共――」

 

手をかざし、静止するアインズ・・・しかし、二人の言葉自体はアインズ本人を悩ませる要因でもあったからだ

 

まず、正直な話、パートナーとして連れて行くとしたら、最初の候補としてはアルベドを考えていたが、流石にあの翼と角は、社交界という場所では違和感が強すぎる。下手をすれば、ナザリック自体が、完全に人間と敵対する組織という疑念を与えかねない。

 

別に、アインズ自体、人間社会と敵対したいわけではない。確かに、ナザリックを人間社会が敵とみなした場合は、権威と恐怖を見せ付ける必要があるが、必要以上に波風を立てずに、共存できればそれに越したことはなく、一応の努力はするべきだと、考えてもいる。

 

そのために、エ・ランテル近郊の統治は人間に・・・表向きは任せているし、圧政や弾圧はしないつもりでいる。それを知らしめるためにも、社交界など人間文化に理解を示す姿を積極的に示すつもりだったが・・・

 

「しかし、まさか、アウラとマーレが(吟遊詩人/バード)のスキルを持っているとは、嬉しい誤算だったな」

 

「はい、アインズさま、ぶくぶく茶釜さまが、闇森妖精なら、やはり、音楽と踊りはできないとと、持たせてくれたものです」

 

目を輝かせるアウラとマーレの双子、なんとなく、意図はわかるような気がし、双子がフォークダンスを踊る姿が目の前に浮かぶ、実に似合っているとしか言いようがない。

 

しかし、ここでそのようなことを考えても仕方がない。

 

ここは、少なくとも外見は人間に見えるシャルティアを同伴し、正妃ではなく婚約者だの言い訳をして乗り越えるしかない。それよりも、これからダンスのレッンスンに頭を痛めていると、その頭に(伝言)の魔法が飛んでくる。

 

『ルプスレギナですが、アインズ様、よろしいでしょうか?』

 

『ああ、どうした、カルネ村に異変か?』

 

あらかじめ、カルネ村に待機させているメイド・・・プレアデスの一人からの連絡に、なにか嫌な予感を覚えながら返信をする。

 

『はい、ンフィーレアが、水薬の実験過程で、妙なものを作ったらしく――』

 

そこで、同じ通信を受けていたのか、アルベドの顔に、爬虫類のような勝ち誇った笑みを浮かべ

 

『どうやら、種族や性別を変化させる効果のポーションらしいのですが・・・へ、アルベドさま、どうしたっすか?』

 

「どうやら、種族の問題は解決したようですね。」

 

アルベドが立ち上がれば、アインズを見て、魅力的に微笑むが見えた。

 

 

 

 

 

それからは、アインズにとって忙しいというか楽しいというか、とにかくクルクルと円を描いて踊っていたという記憶しかなかった。

 

一応、ジルクニフ理由付けをして数名の貴族の令嬢を招待し、宮廷の作法や選曲、さらには基本的なダンスの動作などを習い、サロンのような場所で、アルベド(変身済)、シャルティア、アウラやマーレまでも、話題や流行を学ばせることに努力した。

 

その結果なのか、機嫌よくゲートを潜り帰る令嬢を見送り、さらには、少なくない手土産までも渡しながら、なんとか、アインズ以下、正妃候補の面々は、即席ではあるが帝国式の宮廷マナーというものを覚えたと思うが・・・

 

「どう思う、セバス」

 

「私としては、お三方を連れて行かれるのが懸命かと・・・」

 

奥歯にものが挟まるような言い回しだが、アインズとしては、同意せざる得ない言葉だった。

 

まずは、本命と思われたアルベドだが、流石に、努力とアインズへの愛、なにより体格が似ているという利点もあるが、ダンスについてはかなりの上達、なにより、アインズをフォローしようとする気遣いがあり、パートナーとしては申し分ない。

 

が、サロンや他のゲストとの会話や態度を見ていると、どうしても首をかしげたくなるのを否定できない。

 

アウラやマーレなどと練習をするときはないが、他の人間と踊ったり、会話をするときに、明らかな悪態や侮蔑の態度、さらには殺気すら発するのは、どうにかならないかと思うのだが、こればかりはどうにもならないらしい。

 

では、シャルティアやアウラはというと・・・

 

シャルティアは、普段のネコ被りからか、以外に社交的な面があった。

 

ほかの人間たちとも、義務という面か、以外に会話が弾み、礼儀作法にも・・・少なくとも表面的に問題はなかったが、問題はダンスの方だ。

 

どうも、彼女は異性(?)と肌を触れ合うと、性的に興奮する性癖があるらしく、ダンスの最中に腰を摺り寄せたり、感極まった表情で愛を囁いたり(そして、アウラとアルベドに怒られたり)など、このままでは、社交界ではなく別の貴族的な性的な意味での社交界になりかねない。まぁ、アインズ自体には、それができないのだが・・・

 

では、アウラはどうかというと・・・

 

確かに、スキルがあるので申し分ないうえに、社交的で明るい性格は、貴族の令嬢にも評価は高かった。

 

が、正妃という面から言うと、どうしても素直にうなずけない。性格や言葉遣いが少年のようなソレを、ジルクニフに紹介した場合、こちらがあらぬ誤解を受けてしまうかもしれない。最悪の場合、ショタ趣味の同性愛者・・・いや、そんなはずはないのだが、そんな誤解を招きかねない。

 

やはり、三人を連れて行くしかないか・・・最終的に、正装着飾った3人の女性を見ながら、アインズはため息をつく

 

「いかがいたしました?アインズさま?」

 

心配そうに覗き込むアルベドが、アインズの骨だけの手を取る。完璧な仕草で、相手をエスコートすれば第十階層の広間、楽隊の音楽が流れ出す。優雅な作法が流れるように導きながら、足取りも軽く、アインズを導き、耳元に熱い吐息が掛かる。

 

「そう、お悩みにならないでください。アインズさま」

 

甘い囁き、ワルツを踊りながら、お互いの体温が感じられ・・・

 

「こうして、踊っている間は、音楽に身を任せ・・・なにも、お考えにならず、私と、ブフッ――」

 

と、清廉な音楽が急に止まった。床から頭を突っ込むアルベド・・・ちなみに、アルベドは無傷だが、床は凹んでいる。

 

「あーら、すまんでありんす・・・アルベド」

 

わざとらしく、ドレスの裾を踏むシャルテシア、ドレスも派手な音を立てて破れたが、魔法の衣服なので、元に戻っている。

 

「それよりもアインズさま・・・わたしと、このまま踊りあかし、月の下で愛を育みませんでありんすか・・・」

 

ぬらりとした淫靡に伸びた舌が、どういった意味の“愛”かを物語っている。胸が体にぶつかれば、踊っているというより、身体を摺り寄せナメクジが交尾をするような感覚に、背筋に悪寒が走り

 

「ああ、アインズ様とこのように身体を一つにさせ、こうして、心すら、愛欲に溶けあ、グウッ――」

 

「あらあら、シャルティア・・・そんなに溶けてしまうのが好きなら、ソリュシャンに頼んで、その偽乳ごと溶かしてもらったらどうかしら?」

 

今度は、すごい勢いで床に激突したシャルティア・・・その足首を持ったまま、いつものように、静かに笑顔を向けるアルベド

 

そのアインズの袖を引く少女、黒い肌とオッドアイの瞳が見上げてくる。

 

「あの、アインズさま・・・」

 

遠慮がちに言葉をかけるアウラを見れば、普段、男装の少女からは打って変わって、ワンピースの淡い青色に花のシュシュが似合う、その少女独特の身体のラインと、潤んだ瞳がアインズの視線を釘付けにした。

 

わずかに化粧をしたのか、頬に赤みが指し、さらには下品にならない程度に薄く濡れた唇が、何かを訴えようとしているのに、思わず、アインズはないはずの喉を鳴らしつばを飲む

 

「アインズさま、以前に、わたしのことを好きだとおっしゃってましたよね。その・・・」

 

「いや、あれは、父親的な意味で、そういう意味では・・・」

 

そこで、一歩、こちらに詰め寄るアウラ・・・見上げる瞳は完全に乙女のソレであり、恋する少女のアレである。

 

「わたし、アインズ様になら・・・ウゲッ――」

 

「あーら、アウラ・・・そういうのは少し早いのじゃなくて?アインズさまもお困りよ。」

 

「そうでありんす。せめて、もう少し胸が大きくなってからでないと、アインズさまも、困ると思うでありんすえ。」

 

「ちょ、二人共――わたしだって、舞踏会で――アインズさまと――」

 

と、二人に鷲掴みにされ引き離されるアウラ、猛烈な三つ巴のにらみ合いに、ナザリックの地下に異様な殺気が漂い。アインズはまた、頭を抱えた。

 

「どうして、あいつらは仲良くできんのだ・・・ッ」

 

「アインズさま、あ、あの、大変ですね・・・」

 

心配そうにこちらを見上げるマーレ・・・姉とついなのか、どうしてか、薄緑の妖精のようなワンピースを着ている双子の少年・・・それを見て

 

アインズは、そのたおやかな手を取って、諦めたように首を振った。

 

 

 

 

 

「いや、アインズ殿、今日は帝国の戦勝記念に来ていただき、友として感謝する。」

 

ジルクニフがいつもの貼り付けた仮面のような笑顔を見せ、アインズを歓迎した。最上位の敬意なのだろうが、どこか違和感を感じてしまう。ちなみに、周囲の何名かは、明らかな安堵の表情を見て取れる。

 

そう、ンフィーレアの開発したポーションはアンデットにも効果があるらしく、名前は“シェイプチェンジ・ポーション/変身薬”効果は、種族か性別を変化させる効果があるらしい。効能は望んだ効果を得るという、偶然にしては、なかなかに便利な効果があるポーションだった。

 

そして、いま、アインズは人間であった姿、なんと、鈴木悟として、舞踏会に参加しているのである。

 

どうしても、浮いたような容姿だったが、仮面を普段つけているという設定でもあり、さらに、素顔を見せた時の明らかな安堵の表情は、彼自体に嬉しいものだった。

 

実際は、正体は人間のほうが、友好的な関係を築けるという配慮でもあったし、さらには、マーレの供回りには、メイド服を着せたエルフ達、以前の侵入者の捕虜を・・・本人たちの熱望もあって、第六階層から連れてきていた。

 

こうして、ハードルをある程度下げることは、こういう場面では大切だ。幸い、体格や基礎ステータス、さらには魔法詠唱には支障がなく、アンデットとしての種族レベルがなくなったがそれ以外には、何の支障がなかった。

 

「しかし、あの時の使者の方が、魔導王妃だったとは・・・あの時の失礼、許してくれますか?マーレ・ベロ・フィローネ・・・いや、マーレ・ウール・ゴウン王妃と呼ぶべきですかな?」

 

「いや、まだ婚約という段階で、正式に結婚が決まっていないのですがね。ほら、マーレ・・・皇帝にご挨拶を・・・」

 

「あ、あの、皇帝陛下・・・きょ、今日はお招き、ありがとう、ござい、ます・・・」

 

アインズに促されるように、オドオドと手を出したその甲に、軽く口づけをするジルクニフ、その瞳の奥には、素早い計算が成されていた。

 

以前に考えていた。エルフや、その他の亜人を解放し、この王妃の機嫌を取れば、しばらくは対等な国家間の関係を続けられるのではないか、さらに、その考えが間違っていないのは、彼が連れてきたマーレ王妃の供回りをみて、確信に近くなった。

 

以前、ナザリック大墳墓へ探索に向かわせたワーカー、ほとんどが無事に帰らなかったが、その中のエルフの奴隷として携帯されていた3人の姿がそこにあったからだ。

 

いくつかの情報と、エルフへの質問から、三人は奴隷から開放され、さらには屈辱的に切り取られた長耳を回復してくれたことで、彼女達はエルフの双子を信望し進んで奉仕するメイドになったとのことだ。

 

欠損した人体を回復する。しかも、奴隷に対してそのような施しをするということは、アインズ・・・少なくとも双子のエルフはエルフに対して思い入れがあり、それは付け入る隙が十分にある。そうでなくても交渉材料にはなるはずだ。

 

「どうしたのかな、ジルクニフ殿?」

 

「いや、今日という日の喜びに、少し考え込んでしまい。それではアインズ殿、そろそろ、貴賓として、皆に挨拶を・・・今日は存分に楽しみましょう。」

 

完全な愛想笑いを交わしながら、アインズのローブを引く少年・・・いや、少女がうるんだ瞳でアインズを見上げる。その左手の薬指には、しっかりとリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの指輪がはめられていた。

 

「あ、あの、アインズさま・・・」

 

「おお、これは済まない、姫・・・それでは、行こうか?」

 

冗談のように言うアインズに顔を赤らめて、手を組んだ胸元は、わずかに膨らみが有り、慣れないのか、内股に歩くマーレ、それをエスコートすれば、場内に音楽が溢れる。

 

優しく・・・即席で教えられたダンスの作法に身を任せるマーレが、アインズの胸元で囁いた。

 

「――アインズ様、ぼく・・・とても、幸せです・・・」

 

 

 

 

 

 




マーレって、原作でもアインズのことが好きなんだろうか?
茶釜さんの設定次第ですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。