アラガミ生活   作:gurasan

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私に力を

 ゴッドイーターサイド

 

 

 

 

 ソーマたちは最初の襲撃から三回に渡り、件のサリエルとオウガテイルを強襲したがいずれも失敗。

 なによりも厄介なのがザイゴート警戒網とでもいうべきザイゴートの群れだった。

 襲撃を重ねるごとにその警戒網は増えていき、今では誰一人サリエル達の元へたどり着く前に逃げられるようになっている。ザイゴートは倒したとしてもコアを抜き取れなければ再び復活し、移動先で増えたザイゴートが増えることで全体の数としては上昇傾向にあった。そのうえ、なんでも捕喰することができるアラガミにエネルギー切れはなく、長期戦ではゴッドイーター側が不利なのは明白だ。

 そこで考案されたのがヘリでサリエルとオウガテイルの真上まで移動し、そこからダイブして強襲するというものだった。

 

「二匹の性質上、一度失敗すれば同じ手が通用するとは思えない。ゆえにこの作戦は一回限り。絶対に成功させなくてはならないと肝に銘じておけ」

「おーおー、姐さんもすっかり教官だな」

「リンドウ」

「へいへい」

 

 ツバキに睨まれたリンドウは降参を表すかのように煙草を捨てる。

 

「それにしてもどうして向かってこないのかしら?」

「……怖いんだろうよ」

 

 サクヤの言葉を耳にしてソーマが小さく呟いた。

 

「なんか言った、ソーマ?」

「……なんでもねえ」

 

 ソーマが武器を担ぎ、ヘリから身を乗り出す。

 

「よし、そんじゃ作戦開始だ。全員生きて戻ってこいよ」

「それだと、あなたは行かないように聞こえるわね」

「いいから、さっさと行くぞ」

 

 最後にツバキの激が飛び、ソーマ、リンドウ、サクヤ、ツバキの順にヘリから飛び降りた。ソーマ、リンドウ、ツバキからすれば2065年旧ロシア地区での作戦よりさらに高度からの飛び降り。パラシュートなどはなく、神機のみを持ってのダイブはゴッドイーターだからこそ可能な特攻だった。

 

 先陣を切るソーマは武器を構え、力を溜める。すると刀身が黒い光を帯び始め、それに合わせてツバキとサクヤが障壁を張るサリエル目がけて弾丸とレーザーを放つ。その銃撃により見事障壁を消すことに成功し、ソーマは一回転するようにして身の丈以上の剣を振り下ろす。

 振り下ろした斬撃はサリエルを両断こそしなかったものの胴体を袈裟切りにした。続いて一番早く着地したリンドウが塀を蹴り、サリエルの首を刎ねようとする。しかし、それは首を半分ほど削るだけに留まった。

 それでもサリエルは相当なダメージを負ったことには変わりなく、四足のオウガテイルの背中から転げ落ちる。

 ツバキとサクヤも地面に降り立ち、残ったオウガテイルを攻撃しようとするがそこで四人の動きが止まった。

 きっかけはツバキとサクヤが放った弾丸とレーザー。しかし、オウガテイルは弾丸を受け、レーザーに身を削られながらも、彼らのことなど眼中に無いように背を向け、サリエルの方へ向き直る。

 そして、悲痛な鳴き声が廃寺に木霊した。

 オウガテイルは叫ぶように声を上げ続けるが、その鳴き声は徐々に小さくなっていき、終には横たわるサリエルの前で立ち尽くすように黙り込んだ。

 雪が降る中。その光景は出来の悪い悲劇のようで、四人が四人共動けないでいた。ある種その光景に見入っていたのかもしれない。

 オウガテイルは放心しているかのようにゆっくりと振り返るとリンドウの方へ顔を向け、咆哮を上げながら彼へ飛びかかった。

 今まで戦ったどのアラガミの怒り状態とも違う怒り。あるいは人同士でしか感じられない殺意のようなものを四人は感じ取る。

 だからといって大人しく殺されるわけにもいかない。

 リンドウは飛びかかりを避け、他のオウガテイルを相手取るように反撃しようとしたが、そのオウガテイルは飛びかかり後すぐさま距離を詰めてくる。その気迫は凄まじいものがあり、捌き切れないほどではないにしろ防戦一方となってしまう。

 その立ち回りは明らかにツバキ達の援護をさせないための動きであり、報告にあった射線を意識した動きをするということをリンドウたちは実感させられた。

 それでも巨大なアラガミ、ウロヴォロスを一人で討伐するリンドウの技量はそのオウガテイルの攻勢を遥かに上回る。オウガテイルは果敢に向かってはいるがその身体の傷は徐々に増えていく。

 他三人が援護に回ろうと動きながらもリンドウ一人で問題ないだろうと考えていた時、戦場が毒ガスで満たされた。

 見ればザイゴートの群れが一堂に会している。

 三人はデトックス錠を呑み、未だ毒状態のリンドウを援護しようとするが、ザイゴートがそれを許さなかった。

 ザイゴートはオウガテイルの咆哮を聞くや否やまるで部隊のように分かれ、リンドウ以外の三人を襲う。それも銃を扱うツバキとサクヤには接近戦、剣を扱うソーマには遠距離攻撃というアラガミとは思えない連携と布陣だった。

 サクヤとツバキはザイゴートの突進を避けながら毒ガスから抜け出すが、それをザイゴート達が追ってくることはなく、依然毒ガスに包まれたソーマとリンドウを攻撃し出す。 

 二人が遠距離から援護しようにも毒ガスに包まれた戦場は視界が悪く、ザイゴートは全て毒ガスの中に籠っていてとても援護など出来なかった。それどころか煙の中から突然毒の弾が飛んでくるので休んでもいられない。

 そんな均衡を崩したのはソーマだった。

 彼特有の高い身体能力でザイゴートの攻撃を躱し、一撃のもとに葬り去る。そうしている内に毒の煙幕も薄くなり、ツバキとサクヤも援護が行えるようになった。

 

 

 ザイゴートは全て倒し、残ったのはオウガテイル一匹。

 そのオウガテイルもリンドウの一撃で前足を一本失い、距離を開けられた瞬間にツバキとサクヤ二人の遠距離射撃を受けて比喩でもなんでもなく身体中ボロボロだったが、それでも止まることはなかった。

 その動きがようやく止まったのはソーマがチャージクラッシュでオウガテイルを真っ二つにした時。

 倒れる瞬間、悔しそうに唸り声を上げたのを聞き、ソーマは舌打ちした。

 四人は感傷に浸るように無言でオウガテイルを見やり、ソーマが神機を捕喰形態に切り替える。

 それとほぼ同時に四本の光線がそれぞれ一人に一本ずつ襲いかかった。不意を突かれた四人だったが紙一重で回避し、その勢いで後ろに後退する。

 そんな彼らと入れ替わるように倒したはずのサリエルがオウガテイルに近づき、庇うように立ち塞がったかと思えば障壁を発生させた。

 

 

 その後、サリエルは銃弾を受けようともオウガテイルが霧散するまでの五分間障壁を張り続け、力尽きるように地面へ落ちた。

 サクヤとツバキがサリエルを撃てたのは一回だけ。それ以降はただ見ていることしか出来なかった。それはソーマとリンドウの二人が銃を持っていたとしても同じだっただろう。

 いずれ障壁は消えるから待てばいい。そんな合理的な考えでは決してない。

 冠もスカートも壊れ、深い傷を負いながらも懸命にオウガテイルを守ろうとするサリエルの姿はどうしようもないほど健気で美しかった。

 

「……レア物だな」

 

 サリエルを捕喰したリンドウが運良く無傷でコアの摘出に成功するも、返ってくる言葉はない。四人共顔を歪めていたが、サクヤはそれが特に顕著だった。

 彼らがヘリを飛び降りてからたった15分。全員が費やした時間以上に疲れているように見える。

 

「くそったれな職場だ」

 

 ソーマの言葉が全員の気持ちを代弁していた。

 


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