まず集めたのはザイゴート達。今更だがメディがいなくても俺に従ってくれるのはなぜだろう? メディにそういいつけられているのか、それともメディの一部を取り込んだからか。まあ、なんにせよ有り難い。俺だけではどうにもならないのだから。
集まった奴らを見て堕天種になっていることに気付いた。それも低温特化とか高温特化とかじゃない。濃紫の毒々しい色をした毒特化と呼べるものだった。以前は舌のようなホースから毒や空気を吐き出していたが、全身に見慣れぬ突起が生え、そこから毒煙を噴出することが出来るようになっている。まるでポケモンのドガースやマタドガスのようだった。そして、その毒もデッドリーヴェノムなる猛毒に進化している。
なぜこんな進化を辿ったのかと疑問に思ったが、その一つは毒の使わせ過ぎだろう。また、一度死ぬことで身体を再構成する機会が得られたというのも大きい気がする。もし、この考えが正しいならアラガミは倒されるたびに急激に進化するということだ。勿論、コアが抜かれなければの話だが。
いや、今はそんなことどうでもいい。少し数は減ったが総合的には戦力は上がってる。能力も攪乱にはもってこいだ。
でもまだ足りない。あの四人の留守を狙うのは前提条件。それでも防衛班のやつらと登場もしてないゴッドイーターの奴らがいるはず。俺達だけじゃまだ不十分だ。
だから他のアラガミを集める。幸いにも餌となる小型のアラガミが俺を含めてたくさんいる上、捕食者に捕まらないぐらいには足も速い。そして、なにより嫌がらせのような地味な攻撃で相手を怒り状態に持っていくことが出来る。
なぜ怒り状態にする必要があるかと言えば対アラガミ装甲壁のせいだ。あれはアラガミが嫌がる波動とでもいうべき何かを発している。簡単にいえば虫よけスプレーのようなもの。堕天種となった俺達ならともかくただのヴァジュラなどでは素面で近づくことはありえないだろう。故に怒り状態にしてここまで引っ張ってくる必要がある。
彼らにはあくまで壁の外で囮になってもらうが、仮に壁が壊されてしまった場合、全く関係のない外部居住区の人間が死ぬことになる。
俺が直接殺しはしないからといって許されることではないと思う。
でも仲間を助けるのに相手側のことを考えなくちゃいけないってのか?
答えは、イエスだ。当然。人と生きようと思うならば。
「かといって止まれないけどな」
おそらく一番隊のゴッドイーター達が乗っていたであろう二つのヘリを見送りながら俺は呟いた。ヘリの方向からして向かう先の一つは北東の街、もう一つは南西にある平原か鉄塔だろう。どちらもフェンリルからは遠く、これ以上ないくらい好都合だ。
俺はすぐさまザイゴート達に指示を出し、作戦を開始した。
あらかじめ目星をつけていた中型以上のアラガミ達にはザイゴートが一匹付いており、俺の傍にいるザイゴートが彼ら特有の合図を送ると、各地のザイゴードがそれぞれのアラガミ相手に不意打ちをかまして喧嘩を売り、そのアラガミを引きつれながらフェンリルまで逃げてくる。
一方、俺は昨晩の内に壁の中へ侵入し、身を隠している。どうやったかといえば三匹のザイゴードの舌を俺の胴体に巻きつけて身体を持ち上げ、悠々と壁を越えた。はたから見れば異様な風船だ。夜間とはいえレーダーみたいなものでアラガミの居場所が分かるならばその時点で作戦失敗。決死の突撃をかけるしかなかっただろう。しかし、相変わらず個人の感覚頼りなようで見つかることはなかった。
初めて見たがフェンリルはその周囲を囲むアラガミ装甲壁の要所、要所から中心に向かって伸びる壁のようなもので区画が区切られているようで、中途半端な蜘蛛の巣を髣髴とさせる。街中に降りるわけにもいかない俺はその壁だか塀の上に着地した。一直線に走ればアナグラに辿りつけるし、丁度いい。
アラガミを引きつれてきたザイゴード達はそのアラガミを壁外に放置したまま、壁を越えさせ、俺とは別の区画に向かわせる。そして、上空から空気の弾を飛ばすことでてきとうに家屋でも壊させて暴れてもらう。人は喰わないよう言いつけてあるので襲いはしないと思うが、獲物を目の前に単細胞のアラガミが堪えられるか分からない。なんとも無責任な話だが、賽は投げられたというやつだ。もうどうにもならない。
腹を括って好機を待つ。その間続々とザイゴート達が戻り、壁外にもボルグカムラン三匹、コンゴウ四匹にヴァジュラ四匹が加わった。これで総勢十一匹の中・大型のアラガミが壁外に、そして壁内には俺の傍にいる三匹を除くとザイゴートが十匹いることになる。
しばらくすると壁外のアラガミと壁内のザイゴートに対してゴッドイーター達が突っ込んでいくのが見えた。比重としては壁内の方が重いようだが、俺には悪手に思える。なんせ壁外のアラガミは全員もれなく怒り状態だ。そして目標だったザイゴートが壁内に逃げ込んだことでやり場のない怒りを周囲にばら撒いている。発見時から怒り状態なんてゴッドイーターからすれば悪夢だろう。もしかしたらアラガミ同士で潰し合うかもしれないが、それは希望的観測というやつだ。
一方、戦闘開始を告げられたザイゴート達は破壊活動を止め、次の合図があるまで毒の煙幕をまき散らしながらひたすら逃げ回るだけだ。比較的高高度を維持するため、刀剣使いはほとんど役に立たない。銃使いも相当なベテランでなければ煙幕の中で逃げに徹するザイゴートを撃ち落とすのは難しいはずだ。
つまり、ザイゴートを追い回すくらいなら壁外のアラガミをどうにかしないと複数個所に穴を空けられて取り返しがつかなくなるということだ。とはいえそんな事情を人間側が察するはずもないのでザイゴート達には壁外へ逃げるよう指示する。
そして、ゴッドイーターと入れ替わるようにアナグラを目指して駆け出した。ゴッドイーター達は煙幕に囲まれているためこちらには気付かない。おかげで難なくアナグラへと通じる扉まで辿り着けた。
ここからが本番だ。
その扉を力づくでぶち破る。ゲームでも一匹のオウガテイルに破壊された扉だ。俺でも容易く突破することが出来た。
外部居住区の人間には配慮する気にもなるが、ゴッドイーター関係者に手加減する気はなかった。そんなことすればこちらが危ない。だからこそ新堕天ザイゴートの力を存分に発揮してもらう。
三匹のザイゴートの内二匹が毒煙をまき散らしながら通路を突進していく。室内は毒の独壇場だ。こんだけわかりやすく毒を蔓延させてるんだから非戦闘員はまとめて避難でもしてほしい。邪魔だ。
そうやって建物内をザイゴートで攪乱しつつ、メディがいるであろう場所へ走る。
しばらく走っていると身体に異変が生じ始めた。
なぜか動悸がする。今の俺には無縁のはずなのに。
足が重い。走るのが辛い。怪我は完治したはずなのになぜだろう。
メディに会いたいのに会うのがとてつもなく怖い。
なぜ? いや、なんでかは分かっている。前もこんなことがあった。嫌な予感が現実になっていく、そんな感覚。夢が悪夢に変わっていくと言い換えてもいい。
いつのまにか俺は歩いていて、気付けば一つの扉の前にいた。それは自動ドアのようでなんの前触れも容赦もなく淡々と開いた。機械は無情だ。当たり前だが。
開いた扉の前で少しの間立ち止り、恐る恐るという表現が適用されるほど震えながら部屋の中へ足を踏み入れる。
その部屋は研究室という言葉がぴったりと当てはまった。別に気分を催すような凄惨な光景が広がっているわけではない。死体もなければサスペンス御用達の奇妙な血痕もない。清潔で整頓されたこの部屋を使用する人間にとっては快適な部屋なのだろう。
壁にくっついた大きな画面にはよく分からない波形や文字と数字の羅列が表示されており、周りには使用用途の分からない様々な機械が置かれていた。中心には病院の診察台のようなものがあり、その上に何かが置かれている。
往生際の悪いことに俺は周りを見渡した。
俺の知っているものはなにもない。でも探し物は目の前にある。
見たくない。分かりたくない。認めたくない。
でも分かっている。予想もしていた。十中八九はそうなるだろうと。
それでも、受け入れられるかは別だったようだ。分かっていればいざという時慌てなくて済む。心構えが出来る。そんな風に考えて生きてきたものの現実は違ったらしい。
診察台に上に置かれた一つの神機。それはサリエルのスカートのようなロングブレードだった。どこまでも見覚えがある蝶のような模様の刀身は一般的なサリエルのスカートに比べ小さく見える。その根元には発光する玉が埋め込まれていて、いつの日か見た怒り状態の彼女の眼のようだった。
「 」
なんの言葉にもならない。ただ空気を吐き出すだけ。それでも空気は震えて音になる。そのはずなのに何も聞こえない。
そして、気づけば目の前の景色が一変していた。綺麗に整頓されていた部屋は今や見る影もなく、破損した機械の部品が床一面に散らばり、大画面の液晶も割れ、砂嵐を映している。壁には獣が暴れ回ったような爪痕が残り、何かを叩きつけられたかのように陥没している箇所もあった。それでも中央にある診察台とその上に置かれていた神機だけは無傷のまま残っている。
人から見れば無残にも見えるだろう。でも俺からすれば前よりは見れるようになった。なぜかそんな感想を目の前に広がる惨状に抱く。
それが瞬きする間に切り替わったように感じる。まるで夢でも見ているような気分だった。頭で考えることと身体の動きが一致しない、そんな感じ。
それでもそんな一種の浮遊感というか布団を踏んでるような感覚は薄れていって、地にというか床に足がつくように現実が伸し掛かり、床の冷たさや身体の重さが戻ってきた。
そう、現実の問題はここからだ。これからどうするか?
「……駄目だ」
今それを考えたら取り返しのつかないことになる気がする。今はなにも考えず、メディを連れてここから出よう。そうしないと……。
神機を咥え、壁を壊し続けていくと外に出ることが出来た。それなりに高所だったがこの程度なら問題ない。ザイゴート達に撤退指示をだし、アナグラに入ったザイゴートを呼ぼうとして三匹がやられていることに気付く。そして、後ろから足音が聞こえたので振り返ってみれば一人の人間が先ほどの部屋に入ってくるのが見えた。神機を持っているからゴッドイーターだろう。そんな判断を降す前に身体が勝手に動きだし、足を踏み込んだ所で動きが止まる。ほとんど反射的に攻撃しようとした自分にも驚いたがそれ以上にその人間を見て驚くことになった。
忘れもしない。だって人生の半分以上を共に過ごしてきた家族で親友だ。この世界に来たばかりの頃はどれだけ会いたかったことか。
「……総司」
俺は未だに人と話すことが出来ない。人間にとっては鳴き声だろう。その上、神機を咥えた状態ではまともに声も上げられない。あくまで俺がそう呟いたように思っただけだ。それでも総司はなぜか目を見開いて驚きを露わにした。もしかしたらアラガミが神機を持っていることに驚いているのかもしれない。そう考えたがそれは総司の言葉で間違いだと分かった。
「えっ、竜馬?」
たしかにそう言った。口に出して俺の名前を呼んだ。それだけなら俺としても待ち望んだことだっただろう。でも今は違う。今は会いたくなかった。また一つ最悪な予測が頭に浮かんでしまったから。総司のやつがゴッドイーターをやってるとか、そんな見れば分かるようなことじゃない。戦うことになるのもまだいい。最悪なのは……
そこまで考えた所で俺は外へ飛び降りた。逃げたんだ。聞こえてきた総司とは別の足音から。
後ろから聞き慣れたそれでいて懐かしい声が聞こえたような気がしたがそれもどんどん遠くなっていく。
追ってこないでくれ、邪魔しないでくれ。総司だけじゃない他の人間もだ。今の俺はほんとに駄目だ。自分でも何がしたいか分からないし、何をするか分からない。余裕なんて欠片もない。やっぱり人は殺したくない。でもメディのことを、この世界での日々を思えば思うほど身体が言うことをきかなくなっていく。それでもなんとか身体を動かせるのは過去の記憶のおかげだ。人としての記憶。総司や先輩たちとの思い出だ。どちらも大事でどちらも失いたくない。
だから俺は考えるのを止めてひたすら走った。塀に飛び乗り、壁を越え、戦いを繰り広げるゴッドイーターもアラガミも無視してフェンリルから走り去る。とにかく遠くへ行きたかった。
走り続けるのも感情を抑えるのも考えないよう現実逃避するのもここまでが限界だった。
俺は追撃を受けることもなく、無事教会にたどり着き、床にメディを置いた。
置いた? そう置いた。今のメディはそう表現されるべき『物』だろう。
問題なのはそこだけじゃない。その前だ。
無事? 誰が? 答えは俺だ。そう俺だけだ。目の前にある彼女の姿を見て、無事取り戻したなんて言えるか? 言えるはずが無い。言える訳がない。言っていいはずが無い。
ほっといても延々騒ぎ続けてやかましかったメディが何一つ声を発しない。時には鬱陶しいくらい俺の周りを回り、俺が四足になってからはしきりに背中に乗っかってきたというのに一切微動だにしない。それも当然の事、今の彼女は精神体になれるわけでもないただ使われるだけの道具だからだ。
とはいえ死んだわけではないし、意思があるのも辛うじて分かる。アラガミを捕喰させ続ければ精神体を創れるようになるし、また話せるようになる。
だから何だ? 喜べと? とりあえずは一安心ってか?
「ふざけんな!」
死んでないだけまし。死に際に誰かと話せること自体が稀だ。現実なんてそんなもの。ドラマでもあるまいし、いつも通りの日常の中でいきなり死んだことを聞かされるのが常だ。まして死にそうな時に話せる状態であることも珍しい。この世界というのは思いの他急に会えなくなったりするものだ。
全部俺の言葉。なんにも分かってない、人の死を直接見たわけでも友人が死んだわけでもない奴の戯言だ。達観したふりして格好つけてた癖にみっともなく未だに延々泣き喚き続けている馬鹿が考えた全く重みの無い言葉。
やれることはやった。全力を尽くした。あとは嫌いになった神に祈るだけ。
なんて図々しい言葉だろう。
俺は間違っていた。もっと貪欲に強さを求めるべきだった。逃げるならもっと全力で、それこそ外国にでも逃げてここから離れれば良かった。
甘かった。どうしようもないぐらい甘い。どこかゲームだと甘く考えていた。半年であれだけ命のやり取りをしたにも関わらずだ。精神面じゃなんも成長しちゃいない。
いつかアラガミ化したリンドウにでも会ったら助けてやろう。むしろアリサが暴走した時に横やりを入れればいいとか。シオを助けようとか。人口ノヴァなんて完成前に壊しちまおうか、なんて甘いことを考えていた。甘すぎて吐き気がする。
恰好よく物語に介入しようなんて、馬鹿か。どこのヒーローだ。せめて人の姿になってから考えろ。鏡でも水面でもいいからそこに映る自分の姿を見ればいい。さあ、そこになにが写ってる?
自分がアラガミだという認識が本当に欠けていた。どうしようもないくらい。
姿形はどうあれ人でありたかった。いや違う。例えば人語を解す竜のように高尚な存在。そんな風になったつもりだった。ほんと小学生や中学生の考えだ。
目が覚めるのに必要となった代償はこの世界の最初で唯一の心許せる存在。取り戻すのに何年かかる? とてもとても釣り合わない。
もっと早く人とは決別するべきだった。
とはいえ彼らを恨むのは筋違い。ゴッドイーター達も彼らの守るものがあって命をかけて戦いにきてる。それを撃退で済まそうとか、来たら一目散に逃げようなんて考えた俺がおかしい。上から目線にもほどがある。彼らとはあくまで対等。お互いの大事なものを守るため互いの命を狙い合う。
だから本当に二匹で平和に暮らしたいなら俺とメディでノヴァを喰って取り込んで他全てを取り込むぐらいやるべきなのだ。
結局、ゴッドイーターは敵でしかない。俺とメディがシオみたいに完全な人型だったらまだ和解の可能性はあっただろう。ただそれでも可能性があるだけだ。原作でシオが結局どうなったか思い出せばいい。
これからは一切容赦なく、先手先手で危険となるものは排除する。それがアラガミでも人間でもだ。
そう、するべきだってのに……。
「……どうしてお前らがそっちにいんだよ」
総司がいた。先輩がいた。
先輩には数えきれないほど恩がある。先輩は俺がこの世界へきたことで罪悪感を苛まれているかもしれないが、それでも返しきれないほど今まで助けてもらった。
総司に至っては家族だ。もう十年以上の付き合いになる大親友。俺が世界で一番信頼していた存在だ。
なんで追っかけてきてんだよ。二人で末永く幸せに暮らしてれば良かったってのに。それでも、こんなとこまで追っかけてくれるからこそ、数少ない信頼できる仲間ともいえる。
「でもお前らがいると敵対できねえんだよ」
ほんとに戦いたくない。あいつらと見知らぬ六十億人でも俺はあいつらをとる。それぐらい特別だ。でも今じゃメディもその特別になった。
なら、俺はどうすればいい?
ああ、神様。俺はどうすりゃいいですか?
分かってる。いくら教会で祈ったって神様は答えてなんかくれない。それでこそ神様だ。
なんにせよ、まずはメディをせめて精神体にするためアラガミを狩らないと。
情けないことにそうしていないと俺が駄目になりそうだから。
遅くなってごめんなさい。
次から間章と呼べそうな部分に入ります。そしてそのあとようやく原作開始に。
まあ、小説内では二年ほどかかりますが。