アラガミ生活   作:gurasan

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報いの悲剣


 アタシがアタシであることを意識し出したのはたぶん一人の人間を食べてからだろう。思い返せば綺麗な人間だった。それこそ美しいと言われるような。

 美しくありたいと思う。でもそう思っていたのはきっと、アタシではなくその人だ。もしかしたら取り込まれたのはアタシの方だったのかもしれない。

 リューマがザイゴートと言っていた存在。あれらと同じなのが嫌だった。いや、そうじゃなくて、あれらと自分が同じってことがあの瞳に映るのが嫌だった。だから食べた。周りにいたのは全部。食べ終わった時、アタシはあれらとは違うものになっていた。

 でもそのことを理解できたのはリューマに出会ってから。あの日、あの時、リューマが美しいなと言ってくれたその瞬間に、アタシはアタシを認めることが出来たのだ。

 あの時抱いた感情のことを心躍るというのだろう。

 よく見かける存在と同じ姿でありながら中身は全く違う。まるで前の自分のように。リューマは初めて仲間だと思える存在だった。それこそ仲間になる前からずっと。

 だからいなくなった時は本気で探した。負けたくない気持ちもあったし、なによりもう一度アタシを見て、あの言葉を言って欲しかった。

 それからリューマとはいっぱい喋って、いっぱい食べて、いっぱい色んな所に行って。

 ほんとにずっと一緒にいたかったなあ。

 そう思うとどうしようもなく悲しくて、寂しくて、アタシ達の邪魔をした人間に怒りがこみ上げてくる。

 リューマは違うだろうけど、アタシは人間が大嫌いになった。人間だけじゃない。アタシ達の邪魔をする存在はみんな死ねばいいのにと思う。

 この世界にアタシとリューマしかいなかったらどれだけいいか。

 それにどうせ死ぬならリューマに食べられたい。でもできるならやっぱり一緒にいたかった。

 でもアタシは死ななかった。

 今のアタシは殺すための道具。もしアタシが使われてリューマを殺すことになったらなんて思うと怖くてたまらない。これから先、そうなる可能性があるならいっそ死んでしまいたいぐらいだった。

でも今のアタシにはどうすることも出来ない。動くことも喋ることも出来ない身では精々あいつらの会話を黙って聞くぐらいだ。前は人間の言葉なんて分からなかったけど、なぜか分かるようになった。周りの人間たちが言う神機になったからかもしれない。もし、代わりにリューマと話せなくなっているのだとしたらとても嫌だ。人間の言ってることなんて分かった所でその内容はほとんど意味が分からないし、面白くもない。

 ただ、リューマという言葉が出てきた時は聞き間違いかと思った。でも何回も聞いたから間違いない。そういえばリューマは元々人間だと言っていた。そうなると人間にリューマの知り合いがいるのも当たり前なのだろうか?

 リューマからは人間だった時のことはあまり聞いてない。だからリューマの話だけは少し興味があった。

 

 

 

 

「ふむ。これでとりあえず剣は完成だな。あとはあいつが見つかり次第か。で、こっちも問題無し、だな。まあ、総司なら上手く使えるだろう」

 アタシの今の身体をなにやらいじくってた女が頷きながら言った。

 今、アタシにはよく分からないものが色々とくっついていて、訳分からない場所で意味分からないものに囲まれている。そして、アタシの隣には短い剣があり、それとアタシを見下ろすようにして女が横に立っていた。

 この人間は他の人間からハヅキサンと呼ばれている。一番アタシに話しかけてくるのがこの人間だ。

 そんな彼女はなにか取り出すとそれに向かって喋りはじめた。あれはどうやら別の場所にいる人間と話すためのものらしい。よく分からないが便利そうだ。人間のものはそういうものが多い。

しばらくすると、壁が動いて一人の男が入ってきた。人間の住処の壁は人間が前に立つとなぜか動く。最初から穴を空けておけばいいのに。

「お待たせしました」

 他の人間の男に比べたら柔そうな男、名前は確かソージ。リューマからも聞いたことがある名前だ。今まで話を聞いた限りでは人間のリューマと一番仲が良かったのはこいつだろう。……なんかむかつく。

「おっ、来たか。茶は無いからともかくこれを見ろ」

 人間がよく言うチャって美味しいのだろうか?

 リューマもたまに飲みてーとかぼやいてたし。血と違うの? と聞いたら動物ではなく植物関係の液体と言っていた。でも植物を見たことがないから結局分からない。

「この二つが完成した神機ですか?」

「そうだ。お前はどっちがいい?」

「ショートで。ロングは竜馬だし」

「あいつは銃使わないでインパルスエッジばかり使ってたからな」

「それにしても、ナイフはともかくこっちのロングは見た覚えがないんですけど。いやサリエルのスカートっていうのは分かるんですけど」

「私のオリジナルだからな。当然だ」

「オリジナルって。よく創れましたね」

 男は呆れた様子で言った。一方、女は胸を張って得意気になる。

「丁度コアが手に入ったからな」

 たぶんアタシのことだろうリューマが言うには確実にコアを盗られることはないらしい。ほんとに運がない。でもリューマを助けるためだったから後悔はない。また同じことが起きたら同じことをするだろう。

「ああ。リンドウさん達がグロッキーになって帰ってきたあれですね。なんかあったんですかね?」

「さあな。毒でも吸い込み過ぎたんじゃないか? 絶対に違うだろうが」

 毒ってザイゴート達のかな? それなら毒で死ねばよかったのに。

「何も教えてくれない所を見るに特務なんでしょうけど……って今話しても仕方ないですね。そのロングの詳細は?」

 男がアタシに目を向けて言った。

「ほとんどリゴレットのロングバージョンだな。ただし、神属性攻撃がインパルスエッジになって、代わりにヴェノムが付加された形だ」

「それ。ゲームにしたらかなり数値低いですよね?」

「素材が足らなかったんだからしょうがないだろう」

 言葉の意味は分からないが馬鹿にされているような気がする。

「だから楯と銃がついてないんですね。まあ竜馬ならこのままでいいかもしれませんけど、全然未完成じゃないですか」

「隣のナイフの方は完成してるから安心しろ。ちゃんと新型で銃も楯も付いてる。ただこっちに関して私はほとんどノータッチだ。お前に適合するよう調整したに過ぎん」

 そういえば一際変な格好をした糸目の人間が「葉月君がこっちを手伝ってくれればもっと早く出来たんだけどね」と呟いていたのを聞いたような気がする。

「どうりでらしくない原作準拠な初期装備だと思いましたよ。それにしても適合するよう調整って出来るんですか?」

「私たちはこの世界風に言うならばソーマみたいに自前の偏食因子を持っているからな。私がサンプルも持ってることだし、それに合わせて実験を重ねただけだ。正直、腕輪もいらん」

「それはありがたいですね。あのギロチンみたいのはやりたくないんで」

 そう言って男は苦笑いを浮かべる。

「それじゃあそっちの、えーとロングリゴレット(仮)は竜馬に適合するんですか?」

 リューマに適合ということはリューマがアタシを使うのだろうか?

 人間とは形が違うから無理な気がする。まあ、人間に使われるよりはずっといいけど。

「おそらくな」

「おそらくって」

「ここにいないんだから完璧に調整できるわけないだろう。第一これはコアのアーティフィシャルCNSにほとんど加工を加えなかったからな」

 あーてぃふぃしゃるしーえぬえす? なんだろう?

「え? アーティフィシャルCNSってサリエルのコアを使ったって言ってませんでしたっけ?」

「アーティフィシャルCNSは加工を施したアラガミコアだ。そして、サリエルのコアが奇跡的に無傷だったから、ほとんど加工を施さなかったんだ。その分他の神機よりは一般のアラガミに近い」

 さっきからサリエルとかロングとかリゴレットとかうるさいなあ。アタシにはメディシアナっていうリューマからもらった名前があるのに。

「それ危なくないですか?」

「まあ、世界に一人ぐらいは適合者がいる計算だな」

「その一人が竜馬だと?」

「そうだ。後、適合したとしても神機の気分次第で喰われるかもしれんが、あいつなら問題ないだろう」

 身体の一部を交換するのはもうしたからなぁ。食べてもいいなら食べるけど。

「それはさすがに出来過ぎてません? 偶然にしたって無理があるような」

「おいおい私たちは今、物語の渦中にいるんだぞ」

 そう言って女は不敵な笑みを浮かべる。リューマがいればなにかっこつけてんだぐらい言いそうだ。

「たしかにそうですね」

「それにこいつも竜馬に大分興味があるみたいでな。竜馬の話をするときは反応が良いんだよ」

 

 え?

 

「そうなんですか?」

「ああ。今だってそっちの波形が良く動いてるだろ?」

「正直あの波形が凄いのか凄くないのか分かりません」

 アタシも分からない。そもそもハケイとはなんだろう?

「ようは竜馬と相性が良さそうってだけだ」

 当たり前だ。良いに決まってる。

「それは分かりましたけど、加工無しで使わなくてもよかったんじゃないですか?」

「加工しないほうがアラガミとしての力を引き出しやすいんだ。それに……」

「それに?」

「私はモンスターボールみたいのは嫌いだ」

「なるほど。つまり葉月さんはボングリ派……」

「違う」

 男が言い終わる前に女の拳が顔へとめり込んだ。

「ようはお互いの合意ぐらいとっておけってことだ」

「ソウルイーターの魔武器みたいな?」

「エレメンタルジェレイドでもいいぞ。いや、あれでまともなのは主人公勢ぐらいか」

「……確かに野生の動物を弄ってなつかせるとかは洗脳感満載で気が引けますけど、それとこれは別なんじゃないですか? そもそもこっち命がけだし」

 なぜかセンノウという言葉に寒気がした。とても嫌な感じがする。

 それと命がけなのはこっちも同じだと思う。

「そうだな。これは私のわがままだよ。とはいえこうした方がいいと思ったからな。私の勘は当たるんだ」

「まあ、葉月さんの勘は馬鹿にできないですね」

 もしかしてアタシは助けられていたのだろうか?

 ただ礼を言う気にも敬う気にもなれない。むしろ自由に動けたら絶対に襲いかかっている。他の人間とは違うけどやっぱりなんか嫌いだ。

「それに精神体なんてものがある以上、道具として使うより仲間として扱うべきだろ。打算的なことをいえばアラガミ化しても戻れるかもしれないしな」

「いきつくとこまで行けば任意でアラガミ化出来そうですもんね」

「それにお互いが協力したほうが捕食によるOPの吸収効率が上がったり、OPの消費が抑えられたり、変形の時間が短くなったりと色々恩恵がありそうなんだ。そして逆もまた然り」

「ソウルイーターの共鳴とかブリーチの斬魄刀みたいですね」

「結局は生体兵器だからな。まっ、なんにせよこの神機に関しては竜馬がいなければ話にならん」

「今頃、なにやってるんでしょうね?」

 たしかにリューマは今どうしているのだろう。死んでないのは分かるけど、どこにいるかは……ってあれ?

「面倒なことになってなければいいが」

「それは無理だと思いますよ。竜馬だし」

「主人公体質ってやつか?」

「むしろ主人公や敵ボスに巻き込まれる苦労人ですね。色々とフラグを立てて退場するタイプの」

「そういう主人公もいると思うがな」

「まあラスボス系主人公なんてのもいますしね」

 二人がなにやら話している間にもリューマがこの近づいてくるのが分かった。それにリューマだけじゃないザイゴート達の気配もする。もしかして助けにきてくれたのだろうか?

 嬉しく思うと同時にとても恐ろしく思ってしまう。今のアタシじゃもうリューマを助けることが出来ない。もし、これでリューマがいなくなったら……。

 

 そして、耳障りな警報が鳴り響いた。

 




名:メディシアナ
種別:ロング
切断:83
属性:0
スキル:ヴェノム(小)、空中ジャンプ
インパルスエッジ:神・爆
ランク:4
備考:ロングになった劣化トラヴィアータ。ちなみに総司君達はトラヴィアータの存在を忘れている。作者も一月前まで忘れていた。

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