アラガミ生活   作:gurasan

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コンクリートジャングル

 初戦というか武者修行第一回目の相手はコンゴウだ。

 しかし、その前に色々と苦労した。

 俺は基本的に指示を出す役目なのだが、なにぶんメディの語彙が少ないので指示を理解させるための作戦会議を要する。とはいえ頭自体は良いようでどんどん言葉を覚えていった。

 その間延々ザイゴートを食べ続けてきたが、おかげでヴェノム耐性が付いたような気がする。ただオウガテイルにヴェノム耐性がついたからといってなんなのだと言われればそれまでなのだが。

 

 

 まあそんなこんなで色々と一段落した俺たちはコンゴウを求めて雪の降る廃寺を訪れたのだった。

 

「寒いんだけど」

「お前一見すると薄着だもんな」

 

 一応ゲームだとこの寺でもサリエルと戦った気がするが、あの街に比べれば寒い。ちなみにどこでも適応できるオウガテイルの俺は全然平気だ。

 

「まっ、とりあえずはぐれコンゴウを探すか。空からの目を使った警戒は頼むぞ」

「りょーかい」

 

 返事をしたメディは上昇していく。

 サリエルについて一つ分かったこと。こいつらむちゃくちゃ眼が良いくせにむちゃくちゃ耳が悪い。背後から近づかれるとマジで気付かないらしく。スカートの下に入っていても全くばれない。……いや俺はやってないよ。ともかくメディには死角を潰すためクルクル回ってもらうことにしている。

 一方、今回の標的であるコンゴウはサリエルと真逆で耳は良いが目は悪い。よって索敵する場合はメディが遠くから見つけるというのが一番良い。俺みたいに眼が良いわけでも耳が良いわけでもない奴が歩き回って探すと、本来群れで行動するコンゴウにあっという間に囲まれてしまう。そうなると空を飛べるメディはともかく俺はリンチ確定だ。

 

「丁度、群れから一匹で離れてくコンゴウを見つけたけど」

「どんな感じで?」

「うーん、仲間から逃げてるみたい」

 

 ああ、あれだな。都落ちして集団リンチにあう元ボス猿みたいな。

 

「よし、そいつを追跡だ」

 

 

 

 

「で結局街に戻ってくると」

「寒い寺よりいいじゃん」

「それもそうだ。このコンクリートジャングルで俺たちに勝てると思うなよコンゴウ」

「あれ? リューマも戦うの?」

「当たり前だ」

 

 さすがになにもしないわけにはいかない。まあ主なダメージソースはメディだが。

 

「なんにせよ。作戦じゃなくて状況開始だ」

 

 その言葉と同時にメディが上空に光線を放ち、それは見事コンゴウの背中に直撃する。慌てて辺りを見回すコンゴウだが奴の視力ではほとんど動かない俺とメディを見つけるのは不可能。出所をごまかすためにもわざわざ上空からのレーザーばかり撃っているのだ。

 卑怯ではない。弱肉強食の掟だ。

 それを繰り返しているとコンゴウが建物に向かい始める。

 俺は入口の前に光線を落とすように指示して建物から飛び降りた。入口に落ちる光線を避けるため後ろに跳んだコンゴウに向かって挑発するように吠える。それは耳の良いコンゴウだけに聞こえるような音量。下手な大声を出してヴァジュラにでも来られたら困るからだ。

 振り向いたコンゴウはお前の仕業かと言わんばかりに怒りを露わにする。その背中に落ちる光線。悶えるコンゴウ、近づいて針を飛ばす俺。アラガミ達はいつになったらその怒りモーションが隙だと気付くのだろうか?

 ただ実際にそんな知能革新が起きたらゴッドイーター達は一溜まりもないだろうけど。

 起き上がったコンゴウが俺目掛けて転がってくる。それを回避し、近すぎず遠すぎない距離を保つ。腕を振りかぶったら側面に回り、軸となる後ろ脚目掛けて針。ボディプレスをするように倒れ込んで来たら後方に跳んで、倒れたコンゴウの顔目掛けて針。背中のパイプが空気を吸いこんだら側面から後方まで周りこみ、攻撃はしない。

 攻撃をするのはあくまで相手が態勢を崩した時のみ。

 慎重すぎると思うかもしれない。たしかにコンゴウの攻撃は直線的で予備動作も分かりやすいテレフォンパンチばかり。その上攻撃後の隙も大きい。しかし、その分威力は高い。万が一避けきれなかった場合、オウガテイルの俺は簡単に吹っ飛ぶ。

というか自然界の掟として一撃でも喰らって走れなくなった段階で死あるのみだ。いくら仲間がいるとはいえ動けぬ足手纏いがいれば共倒れ。ノーダメクリア以外に選択肢はない。ホント、ヴァジュラが相手の時は運が良かった。

 そして俺はゴッドイーターではないので、ガードもステップも出来ない。よって全ての攻撃を避けきるためにはコンゴウの周りをグルグルと走り続けなければならないのだ。

 今の距離で見てから躱すとなると、転がり攻撃のような出の早い攻撃をされたら避けきれないだろう。最初の一撃は距離が離れていたから躱せたのだ。

 動き続ける、近づきすぎない、攻撃よりも回避を優先する。これは他のアラガミと戦う際にも基本戦術となるだろう。

 俺一人ならこの戦法で倒せるアラガミはいない。しかし、メディがいるならば別だ。彼女が遠隔地から攻撃し続けるだけで相手に十分すぎるほどダメージを与えられる。

 無論、俺の針に限界があるように光線を撃つのにも限界はあった。しかし、メディの場合はザイゴートを呼び寄せて捕喰すればいい。俺は俺でコンクリなんて喰わなくとも今踏みしめている地面を食えば針ぐらいなら補充できる。パサパサして不味いけど。

 そうしてコンゴウが敵わないと見て逃げ出そうとする動きを見せたので、一気に近づきその尻尾に噛みついて引っ張る。これは合図だ。メディがこちらへ向かい、尚も逃げようとするコンゴウに向かって俺もろとも上空から毒鱗粉を浴びせた。

 ザイゴートを主食としたことでヴェノム耐性のついた俺はある程度までなら平気だがコンゴウは違う。苦しそうな息遣いとなり、続けて俺とメディから前足、後ろ脚に集中攻撃を受けたことで苦悶の声を上げ、とうとう地面に倒れ伏し、直に動かなくなった。

 

「……勝ったか。あー疲れた」

「アタシも光線撃ち過ぎてつかれたー」

「それじゃあ先にお前が喰え。一番の功労者なんだから」

「一緒に食べないの?」

「獲物を喰ってる時が一番危ないんだよ。横取りとか」

 

 ハンターハンターでお馴染みだ。というかチーターなんかは狩りの成功率は高いもののそれと同じぐらいかそれ以上の確率でライオンやハイエナに横取りされる。サバンナですらそうなのにこのアラガミが闊歩する世界では捕食者が一瞬で獲物に成り代わる。

 

「なるほど。じゃあお先」

 

 そう言ってメディがコンゴウを捕喰し始めた。美女が血肉を漁るように見えるその光景は正直言うとかなり怖い。

 その後、交互に捕喰を繰り返し、コンゴウの肉体が消えるのにかかった時間は十分程度だった。どうやら消える時間は大きさに比例するらしい。この分だとウロボロスなんかは消えるのに一時間以上かかりそうだ。まあコアを探すのにはそれ以上かかりそうだが。

 

「なにはともあれ勝てて良かった。身体的にはあんま変化を感じないけど」

 

 やっぱこう理想の姿とか向上心みたいなものがないとダメなのだろうか?

 

「どうせならリューマには大きくなってもらって、背中に乗りたいな」

 

 今の体格差ではメディに乗られた場合、一歩動くのも大変になる。

 それにしてもメディを背中に乗せるというのは案外良いアイデアかもしれない。光線を撃っても足が止まる心配もなくなるし、バリアを張ったまま移動もできる。

 

「うん。それいいな」

「でしょ?」

 

 そうなると俺の場合は身体を大きくして、自重を支えるためにも四足歩行になるのが無難か。今のティラノサウルス型じゃ限界がある。

 

「そうだな。それじゃあ俺はでかくなることを目指すからお前はもうちょっと小さくなれ。どうせ光線主体で体当たりなんか使わないし、小さい方が飛ぶのも楽だろ」

「リューマがそう言うならそうしよっかな」

 

 なんとなく進化の道筋が見えてきた。とりあえずは四足で中型のオウガテイルを目指すとしよう。人型を目指すという案も浮かんだが、人の利点は知能と道具であって、ある程度の知能はすでにあるし、ミサイルなんかを撃ってくるアラガミがいる中であえて人型をとる理由は皆無だったので止めた。

 こうなったらとことん人間止めてやる。いや頭脳的には人間のままでいいか。

 

 

 

 

 次の標的はグボログボロ。やつを釣るため海の近くにある工場のような場所へやってきた。

 

「なんか空気が悪い」

「毒粉ばら撒くお前が言うな」

 

 そういえばサリエル種ってなぜかヴェノム耐性が低いんだよな。自分も毒使うくせに。変な化学反応でも起きるのだろうか?

 

 

 それはさておき、基本戦術はコンゴウとあまり変わらない。

 正面に立たない。近づきすぎない。グボロが上を向いたら今いる場所から移動する。これだけだ。

 ただ今回はメディも前衛で戦ってもらう。理由は海に逃げ込まれないようバリアで弾いてもらうため。さすがに水の中は相手の独壇場。しかし、逆を言えば陸で負ける方がおかしい。まあ、俺一匹だと負けるけど。

 

 

「よし、状況開始」

 

 俺とグボログボロの尾びれ目がけて、メディは背びれ目がけて一斉に攻撃した。

 グボログボロは探知能力が皆無なので先制攻撃は楽々成功。こちらにようやく気付いたグボロが威嚇している間もその隙をついて攻撃を続ける。

 グボロは俺よりも弱点である背びれを責めるメディを標的に定め、突進をしてきた。

 

「バリア!」

「はいはい」

 

 そう言うとメディは一回転しながら虹色に輝く光の柱を発生させる。それは徐々に範囲を広げ、突進してくるグボロを容易く弾き飛ばした。どんな仕組みか分からないが突進の類は相手がウロボロスでもない限り無効化できるだろう。ちなみにメディは光柱に関して、俺の指摘で本来なら怒り状態じゃないと使わないはずの隙が少なく、範囲が広い方しか基本的に使わない。

 近づけないと見るやグボロは砲塔を構え、発射しますと告げるように背びれが立った。ゲームの時はなにも感じなかったが、分かりやす過ぎて同じアラガミとしては不安になる。放たれる水球をメディは上空へ退避することで躱し、無視され続けている俺は側面からヒレ目がけて延々チクチクと針を飛ばしていた。

 

 

 結果としてコンゴウより楽に倒せた。バリアのおかげで水中に逃げ込まれることもなかった上、俺の存在はほとんど無視だったし。そして、味としては泥臭い上に生臭いので不味かった。まあ、入水を躊躇うような水の中に住んでいることを考えれば当然かもしれない。

 

 

 

 

 次なる目標シユウだったが、主な生息域はマグマの広がる地下街。

 

「……暑い。帰る」

「今回は俺も賛成だ。こんなとこに住んでるやつの気が知れん」

 

 シユウの捕喰は俺もメディも暑すぎるので止めることにした。あいつらが街に出てき次第検討しようと思う。

 それからの俺たちは主に街を拠点として時には寺に行ってコンゴウを狩ったり、工場に行ってグボロを狩ったりした。そして遂には苦労しながらもヴァジュラを捕喰することに成功したのである。

 思えばこれだけ活動しておいて目立たない方がおかしい。なにせサリエルとザイゴートではなくオウガテイルのコンビである。それがヴァジュラまで倒したのだ。当然、目をつけられた。

そう、かのゴッドイーター達に。

 

 

 

 

 当時、フェンリル極東支部のアナグラではこんなミッションが追加されたとか。

 

 

難易度4

種別:FREE

ミッション名:オッド・カップル

CLIENT:フェンリル

FIELD:贖罪の街

報酬:女神羽、鬼面尾、2000fc

 

 魔眼を持つ女王サリエルがザイゴートではなくオウガテイルを従えて旧市街地に出没しているという報告が入った。

 調査隊から連携して「狩り」をするという報告もある。

 どちらも火、雷、氷、どの属性も有効だが、サリエルは神族性に対して高い耐性を持っている。注意せよ。

 





The Odd Couple(おかしな二人)

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