アラガミ生活   作:gurasan

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 一人称にちょっと飽きてきたんで三人称です。


オッド・カップル(表)

 ある日のアナグラ。

 

「よう、シュン。割の良いミッション見つけたんだがこれから行かねえか?」

 

 シュンと呼ばれた帽子被っている少年は、見た目に気を使っているようにもだらしないようにも見える恰好をした癖毛の青年の方を振り返った。

 

「またかよ、カレル。とりあえず内容見てからな」

「サリエル一体とおまけでオウガテイルが一体。それで2000fcだぞ? 難易度四の中でも破格だ」

「マジか!? それなら誰かに盗られる前にさっさと行こうぜ」

「だからそう言ってるだろ」

 

 二人は意気揚々と受付に向かい、懲りもせず受付嬢を口説いている男を見て同時に溜息を吐いた。この光景はアナグラの誰もが見飽きている。

 

「またやってんのかよ。おっさん」

 

 シュンが呆れ顔で言うと、おっさんと呼ばれた赤いジャケットの男もといタツミは迷惑そうにシュンとカレルの方を向いた。

 

「誰がおっさんだ。ヒバリちゃんが誤解するだろうが」

 

 大森タツミ、彼のために言及しておくと彼はまだ21歳である。

 

「現役男性ゴッドイーターじゃリンドウさん抜いたらアンタが最年長じゃん」

「うるせえ。俺達は忙しいんだ、どっかいけ!」

 

 そう言い、タツミはシッシと手を振ってシュン達を追い払おうとする。

 

「こっちは仕事なんだ。そっちがどくべきだろ」

「それならこっちだって……」

「ミッションの受注ですか、カレルさん?」

 

 ヒバリはタツミの言葉を遮ってカレルの方に向き直っており、「ああ」と頷いたカレルはヒバリとミッションの受注に取り掛かってしまった。

 

「ちょっ、ヒバリちゃん」

「あんたほんと学ばないな」

 

 項垂れるタツミへ追い打ちをかけるようにシュンが辛辣な言葉をかけた。

 一方、カレルとヒバリの話はどんどん進んでいく。

 

「えっとミッション名オッド・カップル。サリエル一体とオウガテイル一体の討伐でよろしいですか?」

「ああ、それで頼む」

「メンバーはどうされますか?」

「俺とシュンの二人だ」

 

 そこでヒバリは渋い顔をした。

 

「……ええと、もう二人くらい人員を増やした方が良いと思うんですが」

「なぜだ? サリエル一体にたかがオウガテイルだぞ。二人で充分だ」

「それが、調査隊が四名での討伐を推奨していまして」

「あいつらは戦闘員じゃないんだ。あてにならん」

 

 ヒバリは困ったようにタツミとシュンの方へ視線を向けた。その視線に答えなければタツミではない。

 

「任せろ、ヒバリちゃん! 俺は無理だがブレンダンとカノンが空いてるはずだ。今すぐ呼んでくる」

「はあ! ブレンダンはともかくカノンを入れたら難易度が上がるだろうが!」

 

 シュンは悲鳴を上げるように言った。

 というのも彼からすれば人数分報酬が減る上に、その仲間が全支部でNo.1の誤射率を誇る女性だったからである。ネタにされがちだが、命がけの状況下で誤射はまさしく命に係わる。

 

「だからこそブレンダンだ。あいつはカノン用の戦術理論を構築した男だからな」

「……あいつの誤射は戦術も変えるのかよ」

 

 もはや呆れたようにシュンは呟き、そういえば唯一ブレンダンはカノンのとある一面に気付いてないんだったと思い出した。

 

 

 

 

 無味乾燥な廃墟が立ち並ぶ街、贖罪の街にカレル、シュン、ブレンダン、カノンの四人が足を踏み入れていた。

 短剣と大剣の中間ロングブレードのシュン、大剣バスターブレードのブレンダンの二人が前衛。後衛には銃使いである二人、連射性に優れたアサルト使いのカレル、爆発・放射を得意とするブラスト使いのカノン。

 今はシュンの作戦で部隊別にカレンとシュン、ブレンダンとカノンの二組に分かれている。そして、教会の裏手に空いている大穴の下に仕掛けたホールドトラップに目標サリエルがかかるのを今か今かと待っていた。シュンの作戦は単純で罠にかかった相手を二組で挟み撃ちにするというもの。調査班から二体は教会に住みつき、ある程度規則的な行動をするという報告があったのでこのような作戦となった。

 

「にしても相変わらず臆病というか慎重というか」

「お前は自信過剰過ぎなんだよ」

 

 カレルの言葉にブーメランとしか言いようのない反論をするシュン。

 そんな彼らの耳にサリエルのものと思われる鳴き声とオウガテイルと思われる鳴き声が聞こえてきた。二人は途端に息を潜め、神機を握る手に力を込める。

 しかし、その二匹の姿を見てカレルとシュンの二人は勿論、別の場所から機会を伺っていたブレンダンとカノンも目を疑った。

 なぜか分からないがオウガテイルの背にサリエルが乗っている。それもサリエルの方はかなり上機嫌に見えた。その光景だけでも貴重だったが、ゴッドイーターとして見るべきなのはそこではない。

 まずそのオウガテイルの大きさである。

 本来なら小型と言われるオウガテイルだが、そのオウガテイルは他の個体に比べて二回りは大きかった。さらにそのオウガテイルは前足が発達しており、二足歩行ではなく四足歩行で歩いている。本当にオウガテイルなのかと思うが、その頭と尻尾と胴体は完全にオウガテイルの特徴と一致していた。

 サリエルはサリエルで一見すると他のサリエルと変化は見られないが、他の固体より一回りか二回りは小さい。まるでオウガテイルの大きさに合わせたかのようだった。

 

「……堕天種二体とか報酬に見合わないだろ」

 

 カレルは思わず愚痴る。

 堕天種。同じアラガミでも環境や捕喰したものの違いで変異したアラガミ。そんな考えが全員の頭をよぎると同時に調査隊への不満が急激に増した。

 堕天種は普通の固体に比べ強いというのが常識である。当然難易度も上がるうえ危険も増す。調査隊への不満が出るのも無理からぬことだった。

 とはいえ仕事は仕事、仮に強大な敵だったとしても今後のためになにかしらの情報は手に入れなければならない。それもゴッドイーターの定めである。

 

 

 二体は意気揚々と大穴から飛び降りようとし、その寸前でオウガテイルがピタリと動きを止める。そして、素早く教会の中へ戻っていった。

 

「ホールドトラップに気付いたってのか?」

「相手はアラガミだぞ。そんなことがあってたまるかよ」

 

 カレルとシュンは困惑しながらもレーダーを確認し、二体の行く先を探る。

 

「……こいつはブレンダン達と鉢合わせするな」

 

 二人は加勢するべく駆けだした。

 

 

 

 

「目標の退路を塞ぐ。もう一つの入り口に向かうぞ」

「は、はい」

 

 速やかに指示を出して行動に移すブレンダンと緊張した面持ちで後を追うカノン。

 二人が入口に到着するとほぼ同時にオウガテイルとサリエルが毒鱗粉を撒き散らしながら教会から飛び出してきた。

 待ち伏せでバスターソードの溜め切りチャージクラッシュを喰らわせようと考えていたブレンダンは心中で舌打ちをする。しかし、すぐさま切り替え未だオウガテイルの背に乗ったサリエルに斬りかかった。

 先ほどは緊張していたカノンもスイッチを切り替えるどころじゃない豹変をみせ、途端に好戦的になる。

 

 

 ブレンダンがカノンとミッションを行う際の戦略の基本は彼女の射線に入らないことだ。今回も彼女の射線を塞がないように立ち回ろうとしていたが、オウガテイルはまるで彼が彼女の射線に入るように動くのだ。

 一撃が大きく、隙も大きいバスターブレードを使うブレンダンにとって、誤射をされれば攻撃の機会を潰す所か装甲によるガードもままならない。

 そうこうしている内にシュンとカレルが合流し、シュンがロングブレードを構え突進する。一方、カレルは射撃に適したポイントへ移動していた。というのもオウガテイルがカレルを見るなり、障害物の影に入って射撃ができなくなったのだ。障害物の後ろが見えるよう大きく迂回して移動したカレルだったが、そんな彼にサリエルの光線が放たれた。

 その光線は数こそ一般的なサリエルと同じ四本だったが、その軌道は複雑怪奇としか言いようのないもの。まるでのた打ち回る蛇のようにグニャグニャと曲がりくねりながら近づいてくる光線はとてもその全てを避けきることは出来なかった。

 思わず呻き声を上げるカレルを追撃するようにオウガテイルは駆け出し、三人は慌ててその後を追う。

 オウガテイルの脚力は本来ならゴッドイーターに遠く及ばない。しかし、目の前のオウガテイルはサリエルを乗せているのにも関わらずゴッドイーターとほぼ同じ速度を保っている。故に一人だけ相手を挟んで向こう側にいるカレルとの距離の差は致命的だった。

 間に合わない。

 三人が最悪の展開を予想するも、それに反してオウガテイルはカレルを彼ら三人の方へ弾き飛ばしてきた。シュンとブレンダンが前へ出てなんとかカレルを受け止めるも、オウガテイルが追撃せんとこちらへ向かってくる。

 

 

 そして、ブレンダンは気付く。

 自分達の後ろにはカノン。目の前には彼女の射程に入ろうとする敵。

 そこから導き出される答えは?

 

 

 刹那、カノンの神機が文字通り火を噴いた。

 

「「「あっづ!」」」

 

「射線上に入るなって、わたし言わなかったっけ?」

 

 悲鳴を上げる三人だったが、カノンの表情はどこまでも冷たい。

 その台詞、この状況じゃシャレにならん。三人は同時に同じことを思ったという。

 対してオウガテイルはまるでカノンの射撃がくることが分かっていたかのように後方へ跳んで回避し、オウガテイルの咆哮を合図にサリエルが障壁を発生させたかと思えばそれを纏ったまま直線上にいる四人へ体当たりを敢行してくる。

 誤射の隙もあり、成すすべなく弾き飛ばされた四人が態勢を立て直した時にはオウガテイルとサリエルは走り去っていた。

 

 

 

 

 

「……以上が第二、第三混合部隊からの報告だ。なにか質問はあるかね?」

 

 フェンリル極東支部支部長のヨハネス・フォン・シックザールが威圧感を感じさせる声で言った。

 支部長室と言われるその部屋には彼の他に二人の人物が彼に対峙するように立っている。

 一人は第一部隊のリーダー雨宮リンドウ。そしてもう一人は同じく第一部隊所属であり、ヨハネスの息子でもあるソーマ・シックザールだった。

 

「いえ、ありません」

 

 そう返したのはリンドウであり、ソーマは沈黙で答える。

 リンドウとしては突っ込み所満載の内容に色々と言いたいこともあったのだが、それをきける雰囲気ではなかった。なので、ブレンダンのやつ真面目に報告し過ぎだな、と心中で呟くだけに留める。

 

「君たち二人にはこのサリエル及びオウガテイルの堕天種、いや特異種と思われるアラガミのコアを確実に回収してもらいたい。場合によっては生け捕ってもらう」

 

 アラガミは五つのカテゴリーに分けられている。

 一つ目は基本種。

 これは他四つのカテゴリーと比較する際のベースとなる普通のアラガミである。

 その普通種が超高温や極寒など局地に適応し新たな能力を得た固体が二つ目の堕天種であり、普通種よりも高い能力を持つが、局地に適応したがために弱点を強めることも多い。

 三つ目が第二種接触禁忌種。

 かつて人が崇めていた神に似た容姿をしたアラガミであり、一般のゴッドイーターには接触を禁忌とされているほど強力な固体である。

 四つ目が第一種接触禁忌種。

 これは第二種接触禁忌種とは違い、神そのものに等しい存在とされている強力なアラガミ。

 そして最後が特異種であり、一言で説明するならばその他である。

 

「それは特務としてですか?」

「無論だ」

 

 特務とは支部長直々の依頼であり、その任務で回収したいかなるものも支部長に渡さなければならず、その内容は一段と危険なものが多い。しかし、その代わりに与えられる報酬は格段に高くなっている。

 

「そうなると俺たち二人だと少しきつい気がするんですが」

 

 相手が障壁を纏ったまま移動するとなると近接攻撃しか出来ないリンドウとソーマは太刀打ちすることが出来ない。相手が逃亡に主を置いているのなら尚更だ。

 

「分かっている。表向き通常のミッションとしてツバキ君とサクヤ君に同伴してもらおうかと考えている」

「第一部隊総出じゃないですか」

 

 それは現在のアナグラの最高戦力と言っていい。

 事実、この四人が揃って同じミッションを行うことは今まで一度もなかった。

 

「……そこまでしてそのアラガミのコアが欲しいってのか?」

「その通りだ。あのアラガミは我々の目的に必要不可欠なコアを有している可能性がある。最優先事項だ」

「……我々、か」

 

 ソーマは舌打ちをすると、話は終わったとばかりに支部長室から出ていった。

 

「そんじゃ俺も準備がありますんで失礼させてもらいます」

 

 リンドウも礼をすると部屋を出ていき、入れ替わるように眼鏡をかけた白髪の男が部屋に入ってきた。

 

「やあ、ヨハン。君の計画は順調かい?」

 

 彼の名はペイラー・榊。この支部の技術開発統括責任者でフェンリル創設メンバーの一人でもある。

 

「特異点さえ手に入れば言うことはないな」

「報告にあった知性を感じさせるアラガミかい?」

「その可能性はある」

 

 他の同一個体と異なる外見もさることながら、罠に気付く警戒心、ゴッドイーターの射線や陣形を意識するかのような立ち回り、なにより四人を一か所に集めた上での突破は見事としか言いようがない。

 ほぼ確実に人に近い知性を持っていると考えられる。

 

「知性があるならば共存は考えられないのかい?」

「君は相変わらずロマンチストだな」

 

 その言葉は榊の案に全く賛同できないと言っているようなものだった。しかし、それも当然の事。アラガミにより余りに多くのものが失われた世界でアラガミと共存しようなど、ほぼ全ての人間が夢物語と笑うだろう。

 

「なに、せっかく現れた興味深い観察対象だからね。とはいえ私はどこまでいってもスターゲイザー、今回のこともただ観察させてもらうだけさ」

「それでいい。ただ特異点を捕らえた暁には君にも協力してもらう」

「ああ、そうさせてもらうよ。ところで今回は新型について話にきたんだよ」

「分かった。聞かせてもらおう」

「昨日、リンドウ君達が拾ってきた二人の内、彼は新型に適合しそうだ」

「そうか。戦力は多いにこしたことはないからな。それで新型神機はあとどれくらいで完成する?」

 

 新型神機。今までは近距離か遠距離そのどちらかしかできなかった今の神機に対して、変形によりその両方を行うことが出来るようになった次世代の神機だ。

 

「一月、いや彼女がいれば二、三週間で完成するかもしれない。彼女は天才だよ。リンドウ君も面白い観察対象を拾ってきたね」

「君もその天才の一人だという自覚を持ちたまえ」

 

 ヨハネスは溜息をついて言った。

 天才とは対アラガミ装甲の雛形となるものを創り出した目の前の男のことをいうのだと彼は嫌になるほど理解している。

 

「話というのはこれで終わりだ。新型については後々詳しい報告をさせてもらうよ」

「分かった」

 

 そうしてアナグラで陰謀が渦巻く中、後に伝説とまで語られた四人による狩りが始まろうとしていた。

 




 次回は今回のミッションのアラガミサイドをお送りします。竜馬君たちの変化の詳細なども含めて。
 引っ張るようで申し訳ありませんが、リンドウ、ソーマ、サクヤ、ツバキの伝説四人パーティの活躍は次々回になります。
 

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