アラガミ生活   作:gurasan

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オッド・カップル(裏)

 俺と総司は先輩に連れられ異様な施設に来ていた。

 そして、先輩は声高く宣言する。

 

「これがタイムマシンだ」

 

 総司が目を見開いて拍手を送り、先輩は満足気だった。

 見慣れた光景だ。

 俺はそこまではしゃげない。むしろ呆れたような顔をしていただろう。

 先輩が手で示す先には一つの施設。俺たちはまだその入り口で中に入ってもいない。

 

「いやどこっすか?」

「だから目の前にあるだろう。この施設自体が全てタイムマシンのようなものだ」

「……でかすぎないですか?」

 

 田舎の大学並みに異様な大きさの施設だっていうのにそれがタイムマシンと言われても実感が湧かない。俺が知っているタイムマシンは机の引き出しの中だ。

 

「お前の意見はもっともだ。もっと小さくする努力もするつもりだが、とりあえず機能だけは完成させた」

「じゃあ先週終わった定期試験前に戻れるんですか?」

 

 総司がそんなことを言った。なんでようやく終わったテストをまた受けに行くんだよ。

 

「いやこのタイムマシンが行けるのは未来だけだ」

「つまり一方通行と」

「そうだ」と総司の言葉に先輩は頷く。

「使えねえ。てか意味ねえ」

「いやこれはこれで使い道はあるのだぞ」

「例えば?」

「そうだな。一つは……」

 

 そこで先輩の声はどんどん遠くなっていき、ついには目の前が黒で塗りつぶされた。

 

 

 

 

 瞼を開ければ今では見慣れた教会の内装が目の前に広がっている。

 

「……夢か」

 

 以前は全く思い出せなかったが今なら簡単に思い出せる記憶だった。そう、あの後タイムマシンとやらに乗っけられた俺は三日を二時間で体感するという。プチ浦島太郎な体験をしたのだ。正直三日分損した気にしかならなかった。なぜあんなインパクトのあることを忘れていたのだろう?

 もしかしたらこの世界に来た時にいくつか記憶が飛んでしまっていたのかもしれない。試しになにか思い出せないか考えてみたが、当たり前だが思い出せることしか思い出せなかった。

 頭を切り替えて身体を起こそうとすると、いつもより身体が重い。その理由は夢なんかのせいじゃなく、現実でメディが俺の背中を枕にしてもたれかかっていたからだった。

 

「お前寝る必要ないだろ」

「……リューマだってそうじゃん」

「俺のはただの習慣だ」

「人間だった頃の?」

「……そうだ」

 

 メディが身体をどけると俺は身体を起こした。

 アラガミは捕喰さえすれば睡眠は必要ない。中には光合成をするやつだっている。ただ俺は一日三時間程寝ている。その間はメディに周辺を警戒してもらっていたが、最近は俺の真似をしてメディも俺にもたれ掛るように体を横たえ、目を閉じていた。本人曰く、寝ているわけではないらしい。

 俺がこの世界に来てから早いもので半年程経っていた。二日前にはついに目標でもあったヴァジュラの捕喰にも成功している。

 それからの俺たちはほとんど街から出ることがなくなった。今では教会に住みつき、寝るときは教会の鐘があったであろう塔のような場所で寝ている。ゲームでは通路の先が壁になっていて行けなかった一角に扉があり、それをぶち破って見つけた場所だ。上へと螺旋状に続く階段があるが、俺の身体では上まで行くことができない。

 

「ねえねえ、起きたんなら外行かない?」

「いいぞ。ぶらぶらしながら朝食を探すとするか」

 

 やった、と喜びながらメディは俺の背に跨った。羽のようにではないが最初に比べたら随分と軽い。これは俺が四足歩行になったと同時に身体が大きくなり、逆にメディの身体が小さく、軽くなったからだろう。

 

「今、乗ったら入口に頭ぶつけるぞ」

「壊せばいいじゃない」

「そうしたら他の奴らも入りやすくなるだろうが」

「え~」

 

 メディは不満そうに声を上げながらも潔く降りたというか浮いた。

 今までの俺たちなら小型だった俺はともかくメディも体格上入れないのだが、この半年での変化がそれを可能にしていた。今のメディは俺よりも小さいのだ。俺との大きさの比はサラブレッドの馬と人間といったところだろう。お互いアラガミとしては中型と小型の境にいる。これからは俺が大きくなればそれに合わせて彼女も大きくなるだろう。

 メディの場合、この大きさの変化は俺の背に乗りたいがための変化だが、もちろん俺は違う。純粋に強くなりたかったが故の変化だ。

 

 

 塔から教会の礼拝堂へ行けるよう追加で空けた穴を通り抜けるとすぐにメディが背中に乗っかってくる。こうして外を散歩するのが彼女のお気に入りだ。まあ、悪い気はしない。この状態は戦闘でも中々便利だし。

 俺はいつも通り礼拝堂の大穴に飛び乗った。

 

「今日はどこ行くかね」

「崖を下りてあの一番高いビルのてっぺんを目指すとか?」

「せめてでかい穴の所までだろ。高すぎるわ。てかまず飯な」

 

 そんなことを話しながら飛び降りようとした地面の先にゲームで見慣れた光があった。ゴッドイーターの放つ弾丸がそのまま地面に残っているような輝き。間違いなくホールドトラップだろう。

 

「ゴッドイーターだ。逃げるぞ」

「えっ? 嘘!?」

「マジだ」

 

 どう逃げるか。生憎追い風のせいで全く匂いが分からない。

 このまま罠を飛び越えて崖を下りる?

 それはないな。ホールドトラップがあるくらいだ。どこかに最悪四人潜んでいることだろう。わざわざ待ち伏せされている場所から出る必要は無い。出口は三つもある。

 俺は踵を返して礼拝堂に戻った。

 ここに住んで初めて気づいたが、ゲームをやってた時の開始位置が教会の正面であり、瓦礫に埋もれた入口もある。そして、ゲームのマップでいう中央は全て教会であり、正面を北とするなら西の通路からは勿論、今では東からも出られるようになっている。が今回は狙撃されることも考慮して障害物のある東から出ることにした。

 

「にしてもやっぱ色んな所に顔出しすぎたな」

「でも人間は一人も食べてないじゃん」

「他のやつらが喰ってんだからしょうがないだろ」

「……納得いかない」

 

 上機嫌から一転、不機嫌になるメディ。その気持ちは分からなくもない。ただ人間側の事情も分かるので大人しく逃げるとしよう。

 しかし教会を出る直前、俺の鼻が人間の匂いを察知した。

 

「毒粉頼む!」

「了解」

 

 メディがばら撒く毒の鱗粉に紛れて教会から飛び出す。やや向かい風のため、もろに毒粉を浴びるが今の俺とメディには毒耐性があるので問題ない。

 教会を出ると左にブレンダンとカノンの姿が見えた。

 

「ラッキー。カノンさんじゃねえか」

「知り合い?」

「いや一方的に知ってるだけ」

 

 相手にカノンさんがいるなら立ち回りは一つしかない。

 それは前衛ゴッドイーターをカノンの射線に巻き込むことだ。

 実際にそうやって立ち回るだけで誤射を回避しようとしているのであろうブレンダンの攻撃をかなり封じることができた。

 ただそこはゴッドイーター。上手く逃げる隙がない。

 今の俺ならばステップが使えるゴッドイーターの瞬発力と急加速には遠く及ばないものの、走るだけならほぼ互角にまで成長した。しかし、それは容易に振り切れないということも意味する。足に傷でも負えば尚更だ。

 

「リューマもう二人来たよ。剣と銃が一人ずつ」

「分かった」

 

 俺は一瞬だけ二人の方を見てシュンとカレルであることを確認し、主要メンバーでないことに胸を撫で下ろした。無論、ゴッドイーター四人を相手に余裕なんてないが、主要メンバーは次元が違うのだ。

 俺は一先ずカレルの狙撃から逃れるため障害物に身を隠した。俺が縦横無尽に跳ねるのでメディの頭ぐらいは見えるだろうが、それを狙って狙撃できるのは異常なタイミングで回復弾を撃ってくるサクヤさんぐらいだろう。

 

「銃の人は一人で回り込んでくるみたい」

「よし、チャンス! 一人のそいつに誘導レーザー頼む」

 

 メディがカレルに向かって四本の誘導光線を放つが、それは他のサリエルの光線と似て非なるものである。

 「もっと曲がんねえのか?」という俺の言葉を受けたメディは光線を使うたびにその操作を意識し、練度を上げ、今では意味が分からないほど蛇行して進む光線を放てるまでになった。しかし、命中精度が上がったわけではない。

 

「ぐにゃぐにゃ曲げ過ぎなんだよ! 一本掠っただけじゃねえか!」

「だって面白いんだもん」

 

 まあ、人間相手には読み辛くて丁度いいのかもしれない、ってことにするか。

 

 光線を放った直後からカレルの元へ全力で走っていた俺はカレルに跳びかかり、神機を咥えてこちらへ向かってくる三人目掛けて放り投げた。すると神機に繋がれたカレルも彼らの元へ飛んでいく。

 カレルがブレンダンとシュンに激突したのを確認しながら四人目掛けて突進をしかける。

 すると期待通り、射線に入ろうとする俺目掛けてカノンさんが火炎放射を放ってきた。ほぼ目の前に仲間がいるのにも関わらずだ。その光景を見て俺は一種の尊敬の念すら抱いた。

 

「撃ってくれると信じてたぜカノンさん!」

 

 俺は後ろへ跳んで火炎放射を回避し、再び地面を蹴った。

 

「メディ、バリア!」

「りょーかーい」

 

 メディがサリエル特有の障壁を発生させる。本来ならその間移動は出来ないが、今メディは俺の背中に乗っている。つまり、俺が動けば障壁を発生したまま動くことが出来るのだ。

 

「喰らえ! シールドライガー直伝、シールドアタック!」

 

 雄叫びと同時に俺は四人にシールドアタックを喰らわせた。成すすべなく弾き飛ばされる四人。

 ちなみに、ゲームのように一回ガードすれば通り抜けられるなんてことはない。

 それにしてもこれは便利だな。この技さえあればブレード使いから攻撃を喰らうことはないし。

 

「シールド? バリアじゃないの?」

「細けえことはいいんだよ!」

 

 こういうのはノリが大事なんだ。

そう言いながら態勢を崩したカレル達の前から走り去る。

とはいえ冷静になってみるとシールドアタックという手札を晒さずにカレルを投げた時点で逃げれば良かったと後悔した。

 

「あーあ、せっかく散歩に行こうと思ってたのに」

「安心しろ。空母まで散歩するから」

「まあ、あそこなら」

 

 一番街と気候が近く、距離的にも二番目に近い。

 ちなみに今まで行ったことがあるのは今いる街を除いて、寺と地下街と工場と空母の四つだ。一番遠いのが工場。二番目が寺である。あそこエイジスが見えるんだぜ。でも空母とは方向が違う。

 まだ行ってない平原はウロボロスに会うかもしれないし、酸の雨が降ってそうなので行く気が起きなかった。というか周辺が水没してて近づけない。グボロに襲われたらと思うと入水なんてとても出来なかった。

 

 

 空母までは大体二日間走り続ければたどり着ける。なんだかんだ長い道のりではあるが、アラガミとなった身ではそこまで苦にならない。なにより今俺の背中に乗って鼻歌を歌っている存在は頼りになる上、この世界では唯一無二の仲間だ。

 あれはいつだったか、お互いの為になるかと思ってお互いの一部を捕喰した。そのおかげか離れていてもお互いの気配で大体の場所が分かる。戦闘中なんかはとてもありがたい。とはいえ、これからは背中に乗っての戦闘が増えそうだから役に立つか分からない。

 

 

 なんにせよ、こいつと一緒にいれば長い道もそこまで長いと感じないだろう。

 

「よし! 飛ばすから振り落とされんなよ!」

「やったー! いっけー、リューマ!」 

 

 俺達は大声を上げながら荒野を駆けた。

 

 

 

 

 




 一時間後、

「……無理、もう走れねえ」
「もう。はしゃぎ過ぎるから」
「……お前にだけは言われたく……オェ」

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