ここからは第一部終了まで毎日更新できたらと思います。書き途中だけど。
「仲間というか部下も大分増えたな」
周囲を飛び回るザイゴート達を見ながら俺は言った。
俺達が空母への道中、また空母に到着してから行ったのが、配下兼非常食としてのザイゴートの招集だ。
あの襲撃の対象はおそらく俺とメディ。ゴッドイーターに目を付けられたからには今まで以上に警戒しなければならない。とはいえ自分達だけでは限界もある上、肉体的にも精神的にも消耗していく。だからこそ全アラガミ中トップクラスの広い視力とクアドリガ並みの聴力を有するザイゴートを偵察させ、何者か近づけば知らせるようにしている。いわばザイゴート包囲網。
なぜ今までやらなかったかといえばメディが望まなかったからだ。
「……そうだね」
「不満か?」
「必要なのは分かるけど、他のアラガミがいるのはなんかやだ」
「そういや一人より二人、三人より二人きりと言う言葉があったな」
「へー。いい言葉」
俺が「そうか?」と問えばメディは頷いた。そういや先輩は否定していたな。
そんな風に話していると、一匹のザイゴートが声を上げた。彼らには敵を発見時ともかく声を上げろと教えている。出来れば人とアラガミを区別して欲しいがそこまでの知能がないのが問題だった。 第一「敵が来たー」というニュアンスは鳴き声で分かるが、どれくらい来たかと尋ねれば少ないか多いしか分からないし、細かい意思疎通が出来ない。メディが馬鹿という気持ちも分かる。
「ともかく逃げるぞ、乗れ」
俺はすぐさま立ち上がって言うが、メディの動作は遅い。
「えー、また」
「いいから早く乗れ! たぶんゴッドイーターだ!」
不満を漏らすメディを背中に乗せ、真ん中の大穴目がけて走り出す。
吠えたザイゴードは一匹。それも一番外側のザイゴートではなく三つのラインの内、真ん中のラインをグルグルと周回するザイゴート。つまり、アラガミらしからぬ隠密行動を取っているということになる。そんなことをするのはゴッドイーターぐらいだ。
「ゴッドイーターってこの前のでしょ? なんでわざわざ逃げるわけ? 私達のが強かったじゃん」
「同じ強さの奴が来ると思うなよ! で念のためシールド展開!」
数秒後、メディが障壁を発生させ、それに数瞬遅れて穴から一つの人影が飛び出し、障壁に弾かれた。
身の丈より大きな剣に見覚えのある青いパーカー。被ったフードから覗く白髪。完全にソーマさんだった。
なぜソーマさん? 完全にメインキャラクターじゃねえか! つーか今の障壁があと少し遅れてたら確実に切られていた。バスターブレード怖ぇ!
ザイゴードの声とほぼ逆にいたということは囲まれ、待ち伏せされていたということ。その憶測を肯定するかのように別の二か所からもザイゴードの声が上がる。四方を囲んでいたというわけか。これだから人間は嫌なんだ。
障壁を張っている今、ソーマさんは無視。援護が来る前に全力で地面を蹴り、穴へダイブする。この際グボロが怖いとか言ってられないのでそのまま川に入水。メディに後ろは任せ、犬かきと尻尾をヒレのように動かして泳ぐ。案外、泳ぎやすいことに驚いた。さすが環境への適応だけは随一のどこにでもいる種族。
幸いグボロに襲われることもなく、向こう岸に着いたので再び全力で走った。
いや、やばかった。障壁のタイミングもそうだが、ザイゴートの声がしてなかったら先制されていただろう。おそらく配置に付く段階で誰かがへまして見つかったっぽい。まあザイゴートは索敵能力に関しては最高峰だし、無理もないと思うがそれで見つかったのが一人だけっておかしいだろ。てかソーマさんはあそこまでどうやって近づいたんだよ。穴の下はほぼ崖だってのに。いやはやさすが因子持ちは違う。
にしてもソーマさんが駆り出されるとは。フェンリルもマジになって俺らを追っかけてきたということか。
よくよく考えたら前回ゴッドイーター四人相手に無傷だったからな。シールドアタックもあっちからしたら厄介極まりない代物だろうし、今回も含めて逃走第一のアラガミとか面倒にもほどがある。
うーん、前回は一切戦闘せずに逃げるのが正解だったか。四足になって舞い上がってたのがいけなかったな。
これからどうしよう。てかどこ行こう。
ゴッドイーターサイド
「……逃げやがったか」
ソーマはサリエルの光線をガードし終えた後、忌まわしそうに呟いた。
自分を見たときのあのオウガテイルの反応。あれは確実に自分を恐れていた。まるでオオカミから逃げる羊のように。
アラガミにも恐れられるとは随分と化け物らしくなったもんだ、とソーマは自嘲する。
「なんだもう逃げちまったのか?」
ソーマがオウガテイルとサリエルの背中を見送っているとリンドウが駆け寄り、それに続いてツバキ、サクヤの順に集まってきた。
「……あんたらが遅いんだ」
「ごめんなさい。私が見つかったせいで」
「謝ることはない。とはいえザイゴートの群れも含めて、あそこまで逃げることを優先するアラガミも珍しい。いや危険なアラガミだ」
ツバキは言った。
まるで警備兵のようにザイゴートを配置し、人の姿を確認すれば威嚇行動を取るでもなくすぐさま行動に移る。とても普通のアラガミには思えない。その危機管理能力と統率能力を他のアラガミが持つようになった場合、人類は更なる窮地に立たされるだろう。
「……知能を持ったアラガミねえ」
そう言ってリンドウは煙草に火をつけた。その脳裏には支部長との会話が頭を過る。
「本当にそんなアラガミが……」
サクヤは考え込むような仕草を見せる。自分を発見した時のザイゴートも普通とは挙動が異なっていた。あれは知能があるがゆえの行動だったのか、それともあの二匹の入れ知恵だったのかと。
「なんにせよ。こいつは一筋縄ではいかない仕事になりそうだ」
「私としてはこの任務で引退といきたいところなんだが、最後に随分と厄介な任務が舞い込んだものだな」
「俺達に出来るのは奴らを狩ることだけだ。相手がなんだろうとそれは変わらない」
そう言ってソーマは歩き出した。
どんなに強力な相手だとしても、仕事であり命令である以上は狩らなければならないように例え逃げる相手だとしても狩らなければならない。その上、今回はコアの摘出が目的だ。そうなるとコアの摘出が成功するまで何度も倒さねばならなくなる可能性もある。
「……くそったれな職場だ」
ソーマはそう言い捨てた。