東方影響録   作:ナツゴレソ

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六章 罪の始まり、罰の終わり ~Only you can kill me~
34.5 幻想郷捜査網


「センパイが帰って来ていないって……どういうことですか霊夢さん!?」

 

 曇天の下、私は思わず霊夢さんに詰め寄る。しかし、霊夢さんは鬱陶しそうに顔をしかめるだけだった。

 今朝もセンパイさんの訓練に付き合うつもりで博麗神社に来たのに、そこにはセンパイさんの姿はなかった。ただ霊夢さんが境内の掃き掃除……もとい埃を巻き上げているだけだった。

 

「知らないわよ……アンタのところへ寄った後白玉楼へ行くと言ってたけど、そこにいるんじゃないかしら?」

 

 霊夢さんは眠そうに目元を擦りながら暢気に欠伸をしている。呑気な……私はつい苛立ちのあまり境内を右往左往してしまう。

 白玉楼、かぁ……あの生真面目な妖夢さんがセンパイに何かするとは思えないけれど、幽々子さんは怪しい! センパイはああいうホンワカだけど意外と押しが強い女性に弱い……気がするもの! 何をされているか分からないわ! 

 

「霊夢さん! 今すぐ白玉楼へ向かいましょう! ほら、起きてください!」

 

 私は気持ち良さそうに船を漕いでいる霊夢さんの手を掴んで揺する。センパイをめぐる私のライバルは霊夢さんだけで充分なんです! 他の人に取られるわけにはいきません!

 まあ、実際は白玉楼へは数回行っただけなんで辿り着けるか不安なだけなんですけど……

 

「この通り! お願いします!」

「あのねぇ……北斗だって子供じゃないんだから勝手に帰ってくるわよ。私はここで帰りを待ってるから一人で行って来なさい」

「何を悠長な! おーきーてーくーだーさーいー!」

「おー、朝から北斗の取り合いか! モテ男は……って、北斗がいないじゃないか」

 

 私と霊夢さんで腕の引っ張り合いをしていると、魔理沙さんが呆れ顔で空から降りてくる。まさに奇跡! ベストタイミングで話が分かる人が来てくれました!

 

「ええ、そうなんですよ! 北斗さん白玉楼へ行ってから帰ってこないんですよ! なのでこれから霊夢さんと一緒に白玉楼へ乗り込むつもりなんです! 魔理沙さんも手伝ってください!」

「お、何だか面白そうだな! ほら霊夢! 眠いなら箒に乗せてやるから行こうぜ!」

「そういうことじゃないんだけど……ちょっと袖を引っ張らないでよ!」

 

 さすが魔理沙さんだ! 話が通じるし、行動も早い! ついでに霊夢さんの扱いも上手い!

 そんな訳で私と魔理沙さん、二人の左右からの説得に屈した霊夢さんの三人で白玉楼に向かったわけですが……そこで事態は一変する。

 

「北斗さんですか? それなら昨日来ましたけど……お昼を食べてからすぐに帰っていきましたよ?」

「えっ……」

 

 来客の対応をしに来た妖夢さんの言葉に、私は門前で茫然としてしまう。

 それじゃあまさかお昼から行方がわからないってこと!?センパイ、また何かに巻き込まれたの!? 心拍数が上がるのを感じる。出来るだけそれを抑え込もうと胸を押さえながら、深呼吸一つ。再び妖夢さんに問いかける。

 

「あの、センパ……北斗さん、何処かへ行くって言っていませんでしたか?」

「いえ、特に……あ、幽々子様!何か知っていますか?」

 

 と、騒ぎを聞きつけたのか、どこからともかく幽々子さんが現れる。幽々子さんは妖夢さんの隣に並んで扇を顎に当て考えるけれど……すぐに首を横に振る。

 

「分からないわ~、特に様子はおかしくなかったけれど……」

「そう、ですか。となると……」

 

 妖夢さんが暗い表情になる。私も嫌な想像が頭を過ぎって、血の気が引いてしまう。センパイは努力をしているけれど、まだまだ力不足だ。もしかしたら通りすがりの妖怪に……

 しかし、すぐその想像を振り払う。私が弱気になってもどうしようもない。以前センパイは私を信じてくれた。なら誰よりも私がセンパイを信じないと……!

 

「センパ……北斗さんだって強くなってるんですから、並の妖怪に負けるわけがありません! みんなで探しましょう!」

「……そうだな! アイツの事だ、どうせまたなんか厄介事に巻き込まれてるんだろうよ。見つけてからかってやろうぜ!」

 

 私が声を上げると、魔理沙さんも努めて明るい声で同意してくれる。けれど、それを少し離れた所で眺めていた霊夢さんは……

 

「……やっぱり私は神社に戻るわ。あれの事だからひょっこり帰っているかもしれないし。ついでに紅魔館の連中にも聞いてみる」

 

 それだけ言い残して自分だけさっさと飛んで行ってしまう。一見ドライに見えるけど、飛ぶスピードがいつもより早い気がする。やっぱり霊夢さんも心配なんでしょうね……

 私は霊夢さんを見送ってから、魔理沙さんに向き直る。

 

「私は人里で聞き込みをしようと思っていますが……魔理沙さんはどうするつもりですか?」

「そうだな……とりあえず適当に飛びまわってみることにするぜ! じゃな!」

 

 そう言うと、魔理沙さんも勝手に飛び出して行ってしまった。け、計画性がまるでない……まあ、そういう探し方の人もいるのかもしれませんね。

 仕方なく一人で人里に行こうとしたところ、幽々子さんに呼び止められる。

 

「ちょっと待ちなさいな。妖夢、貴女も手伝ってあげなさい」

「え、幽々子様!? しかしまだ庭の手入れが……」

「貴方だって気になっているでしょう~? なら手っ取り早く見つけて帰ってきた方が効率的よ。さっさと解決してきなさい」

「……わかりました。それでは暫しご不自由をお掛けします」

 

 妖夢さんは唐突な話に少し困ったような顔をしていたが……案外すぐ頷き、刀を掲げて畏まる。そして真剣な表情で私の方に向き直った。

 

「私も一緒に人里へ行きます。それでいいですか?」

「ええ、よろしくお願いします!」

 

 私達は頷き合い、人里目指してすぐに飛んだ。妙に心が騒ぐ。心配な気持ちは膨らむばかりだけれど、焦らないようにしないと。

 お願い、センパイ……無事でいてくださいね!?

 

 

 

 

 

 が、お昼になるまで人里で聞き込みをしたのだけれどまったく情報は得られなかった。まさか本当にセンパイは……

 不安な気持ちを積もらせながら事前に妖夢さんと合流場所に決めていたお蕎麦屋さんの前で待っていると……ほどなく妖夢さんがやってくる。と、さらにその後ろにもう一人女性が付いて来てきていた。

 

「貴方は確か、寺子屋で教師をしている……」

「上白沢慧音だ。話は聞いている。彼の姿を見た訳ではないのだが、少し思い当たる節があってな……」

「思い当たる節、ですか?」

 

 私が問いかけると慧音先生は神妙な表情で頷き返してくれる。

 きっと重要な話だ。今すぐ聞きたかったが……慧音先生が、話が長くなりそうだと言うのでお蕎麦を頂きながら聞くことになった。

 

「それで、先生。どういったことなのでしょうか?」

 

 座敷の小部屋に注文した品が届いたところで、私はざるそばのつゆに薬味を入れながら尋ねる。すると慧音さんは温かいソバに手を付けることなく、俯きがちに話し始める。

 

「まず聞きたいのだが……君達は北斗君と仲が良いのだったな」

「もちろん一番仲がいいです!」

 

 私が反射的に即答した隣で妖夢さんがやや引き気味に頷く。

 

「え、ええ……私は剣術指南を任されているので師弟関係に近いですが……」

「そうか、なら彼の能力も知っているな。正直私も直に見たことがないので信じられてないのだが……」

 

 慧音先生が遠慮がちにことを濁す。センパイの能力……『影響を与える程度の能力』ですか。私の『奇跡を起こす程度の能力』ほどではないですが、かなり規格外の能力だとは思います。

 正直言えばセンパイには荷が勝ち過ぎる能力だと思わずにはいられなかった。どう見ても能力に振り回されていますし、そのせいで殺されそうになったそうじゃないですか! 私とセンパイを引き合わせてくれたことには感謝していますけど、センパイにとって危険な能力であることは変わりはない。

 それに慧音さんがその話題を出したってことは……やはり影響の力が関わっているのは間違いないってことでしょうし。

 

「それで、センパ……北斗さんの能力がどうかしたんですか?」

 

 私が急かすように尋ねるが、慧音先生は眉間にシワを寄せて押し黙ってしまうこと。なんだか言い渋っているみたいだけれど……

 しばらく経ってから慧音さんは意を決したように私達を見据えた。

 

「ここ最近私の友人が、彼の能力をやたらに気にしていてな。私も話せることは話したのだが……」

「それって……」

「もしかしたら北斗さんの能力狙いで攫われてしまったんじゃないか、って思って」

 

 妖夢さんの言葉を慧音さんが継いで頷く。ちなみにその妖夢さんは既に蕎麦を完食していた。無駄に早いですね……ってそんなことを言ってる場合じゃない。

 攫われたって……一体誰に!?と聞こうとするが、慧音先生の切羽詰まった面持を見てしまったらそれができなくなる。顔色も悪い。何か知っているのは間違いなさそうですが……

 先生は片手で頭を抱えながらうわ言のように呟く。

 

「アイツに限ってそんなことはしないと思いたいんだが……アイツは自分のことは話したがらない性格だから、何か思い詰めていたのかもしれない……」

「先生……」

 

 私はつい同情してしまう。自分の友人が犯罪を働いたと思ったら、私も気が滅入ってしまうかもしれない。その気持ちはわかるけれど、今の私にとってはセンパイの安否の方が重要だ。

 

「先生、辛いのは分かりますが教えてください。それは誰なのかを」

「………………」

「センパイを……北斗さんを助けたいんです! お願いします!」

 

 心を鬼にして尋ねると、慧音さんは歯を食いしばりながら机に顔を伏せてしまう。問い質して急かすのは気が引けたので根気よく答えを待っていると、慧音さんが絞り出すような声で呟いた。

 

「竹林に棲んでいる藤原妹紅、だ……」

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