東方影響録   作:ナツゴレソ

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二章 吸血鬼との邂逅 ~Scarlet fate~
4.0 人里と紅魔館


 食器洗いを終わらせ居間に戻ると、既に霊夢と魔理沙の姿はなかった。二人を探して神社の表に出てみると……鳥居の下辺りで立ち話をしているのを見つけた。

 

「何してるんだ?」

「おお、北斗。いや、一回家に帰っておこうと思ってな。どうせ夕方まで暇だろう?」

「いや、まぁ……別に今日行かなくてもいいんだけどね。身の回りの物を買い揃えたいし、お土産も用意しないといけないし」

 

 魔理沙は今日行く気でいるつもりでいるようだけど、実のところ俺はさほど急いでいなかった。むしろ、少しこちらでの生活に慣れてからでいいと考えていた。

 博麗神社まで移動していた最中、集落を見かけた。魔理沙は人里って呼んでたっけか? 霖之助さんには悪いが香霖堂では生活用品は揃えられそうにないし、あそこで生活に必要なものを買っておきたい。

 それに仕事も見つけられれば自立もできるかもしれないし……とにかく一度は立ち寄っておきたかった。

 

「それで人里に行きたいんだけど……道分かる?」

「人里への道か……いっつも飛んで移動してるから分かんねえな。霊夢は?」

「私もなんとなくしか……もしかして北斗さん、歩いて人里に行くつもりですか?」

 

 霊夢は困ったような、はたまた面倒くさそうな微妙な表情を浮かべながら問いかけてくる。実際歩いていないから感覚的な推測だが、歩けない距離じゃないと思ったんだが……引っ掛かりを覚えながらも、俺は頷く。

 

「うん、ちょっと遠そうだけど、今後よく行き来しそうだし……もしかして何かマズい?」

「まあ危険ですね。夜ほどではないですけど、日の高い内でも道中妖怪は出ますから」

「そう、か……」

 

 俺は霊夢の言葉に小さく唸り声を上げる。なるほど、霊夢の表情の意味がわかった。それと、この神社に人気が全くない理由も。

 妖怪……今の所出会った妖怪は紫さんと藍さん、あと香霖堂で立ち読みしていたあの子と人間と妖怪のハーフの霖之助さんぐらいか。紫さんの能力や力を鑑みて、まず普通の人間では妖怪に太刀打ちどころか逃げることも無理だろう。

 

「うーん、それじゃあどうするか」

「いや、わざわざ歩かなくても魔理沙に運んでもらえばいいじゃないですか」

「えっ!?」

 

 一人唸りながら悩んでいると、霊夢はにべない口調で魔理沙を指差す。しかし、魔理沙は嫌そうというか……何故か動揺したような声を上げて後退りする。

 

「いやー……運ぶのは構わないんだが、今はちょっと待ってほしいというか、今箒に乗せるほど近付かれるのは……その、なんだ? 服も昨日のままだし……匂い、とか気になるかなって」

 

 魔理沙は尻すぼみな口調で両手でスカートを握りしめてモジモジとしている。俺としては気にしないし気になっても口に出すことはないのだが……魔理沙も色々気になるお年頃だろうし、聞こえなかったことにした。霊夢もその様子を察したようで、やれやれと首を振った。

 

「……わかりました、私も付いて行きます。どうせそろそろ食料を買いに行こうと思っていましたから。すぐ準備してきます」

 

 それだけ言い残すと、そそくさと神社の裏へ戻っていってしまった。我儘を言ってしまったようで心苦しくはあるが、ある程度土地勘はあるだろう霊夢が付いてきてくれるのは心強い。のだが……

 

「えっと……霊夢と一緒だったら妖怪は大丈夫なのか?」

 

 俺は耳打ちするような小声でそっと魔理沙に尋ねる。確かに霊夢は紫さんをボコボコにしていたけど、魔法が使える魔理沙と違って空を飛べる能力で妖怪をどうにかできるのだろうか?

 そんな俺の疑問に対して、魔理沙はニヤリと笑いながらまるで自分のことのように胸を張った。

 

「霊夢は妖怪退治のプロだからな。そこいらの雑魚程度なら姿見ただけで逃げ出すぜ」

「へ、へぇ……見た目によらないな」

 

 果たして妖怪が弱いのか、霊夢が強いのか判断つかないが……俺はまるで自分の事の様に自慢げに言う魔理沙の台詞に不安を感じざるおえなかった。

 

 

 

 

 

 その後そそくさと逃げるように魔理沙は飛んで行ってしまったので、しばらく暇を持て余すこととなった。

 身体を伸ばしたり靴ひもを直したりしていると霊夢が境内に戻ってくる。右手に手提げ鞄、左手にはお祓いに使う先に白い紙の付いた棒を持っていた。マフラーなどの防寒具も付けているが衣装は紅白の巫女服なままだ。拘りがあるのかどうかは知らないが、他に服はないのだろうか……?

 

「お待たせしました。行きましょう」

「あぁ……その左手の、棒みたいのは?」

「これですか? まあ、護身用の仕事道具です。因みに大幣って言うんですよ。みんなお祓い棒って呼びますけどね」

「へえ……」

 

 俺はちょっと豆知識に感心しながら霊夢と並んで鳥居を潜って階段を下っていく。こじんまりとした神社には不釣り合いなほど階段は長かった。霊夢は歩かず空中移動をしているためまったく苦にはしないだろうが。

 

「いいなぁ、楽そうで……そうだ。能力のことだけどどうやったら発現する、とかあるの?」

「さあ?」

「さあって……」

 

 俺は適当な返しに石畳の階段を踏み外しかける。けれど霊夢は気にした様子もなく話を続ける。

 

「人里にも稀に能力持ちは出てきますけど、何故かは誰も分からないし、知ろうとしませんから。私も気付いたら飛べるようになっていましたし」

「テキトーだなー、そんなもんか」

「そんなもんです」

 

 竹を割ったかのような返答に、俺は何とも言えない感情を抱いてしまう。どうも幻想郷の人間は大雑把な気がある。霊夢や魔理沙だけがそうなのか、はたまた俺が神経質なのだろうか? これでも出来るだけ幻想郷を受け入れているつもりなのだが……なじめるか不安だ。

 

「まあ、俺も自分の能力があるって今でも信じられないからなぁ……」

 

 俺は半分独り言のようなものを呟いて自分を納得させる。今だって全部嘘ですと言われても、憤慨しながらも信じるだろうし。と、霊夢が俺の顔を覗き込んで悪戯っぽく指を突きつけてくる。

 

「あら、私の勘が信じられませんか?」

「人の勘を信じたことはないな。山勘に頼ったテストは大抵悪い点だったし」

「外の世界の勘はそんなもんですよ」

「で、当たらないはずの勘も幻想郷なら当たると。俺、馴染める自身がなくなってきたよ……」

 

 今から不安になってげんなりとなりながら呟くと、それを見た霊夢にクスクスと笑われてしまった。

 

 

 

 それからも人里までの道中ずっと霊夢とたわいもない会話をしていた。幻想郷の話、魔理沙の話、里の店の話……そのお陰か一時間半ほどの道のりがあっという間に感じられた。さすがに足は疲れたが。

 

「結構遠かったな……これだけ遠いと博麗神社の賽銭箱がカラなのも納得がいくな」

「余計なお世話よ。ただ村人の気合と根性と信仰心が足りていないせいでしょ」

「そういうこと言っているから参拝客が……まあ、いいやちょっと休憩しよう」

 

 お互いに軽口を叩きながら、俺達は里の入り口近くにあった茶屋でお団子とお茶を頂いていた。歩きっぱなしで芯まで冷え切った体を熱いほうじお茶がゆっくりと溶かしていく。

 そういえば霊夢の口調だが、ずっと話しているうちに面倒になったのか気づけばタメ口になっていた。個人的にはこの方が付き合いやすいから一向に構わないが。

 俺が密かに霊夢と仲良くなれて安心していると……里の中心部の方から一人の女性が近付いてくる。それを見て真っ先に声を上げたのは霊夢だ。

 

「あら、慧音先生じゃない。どうしたの?」

「博麗のじゃないか! 久しいな、どうしてここに?」

 

 霊夢がお茶を片手に聞くと、慧音と呼ばれた女性が大げさに声を上げた。

 やや小柄の長い銀髪の女性だ。どちらかというと洋風チックな服装を身に着けている。里の街並みからしてもう少し和服などの古風な衣装が普及しているのかと思ったのだが……霊夢や魔理沙の服装が浮かない程度には派手な人もいるようだ。

 

「ちょっとこの人の付き添いでね」

 

 霊夢は親指で俺を指して言う。ぞんざいな扱いに何とも言えない表情をしていると……慧音先生と呼ばれた女性は俺を見て、目を丸くしていた。

 

「その服装……まさかあの博麗のが外来人と逢引とは、今夜は雹でも降るかな?」

「あ、逢引じゃないわよ! この人が非力で頼りないから護衛してるだけ! 仕方がなくよ!」

 

 冗談だと俺にでもわかるのに、霊夢はムキになって言い返していた。それにしても非力で頼りないって……事実といえ凹むな。

 若干傷付けられた自尊心をお茶を飲んで癒していると、慧音さんが俺を見据えて微笑んだ。

 

「そうか、里の子供から怪しい男がいると言われた時はまた厄介事かと思ったが……博麗にもう会っているならば、すぐ外の世界に帰れるな」

 

 まるで自分の事のようにうんうんと腕を組んで頷いてくれている。どうやら慧音さんは俺がすぐ外の世界へ戻ると思っているみたいだ。

 ……さて、どう説明したものか。俺のせいで幻想郷が危険な状態に陥っているなんて話したら、里に入れてもらえなくなるかもしれない。素直に話していいものだろうか迷っていると、霊夢が先んじて口を開いた。

 

「それが困ったことに、この人を外の世界に返すことができないのよ」

「返すことができない? どうしてだ?」

「それが私も紫もさっぱりわからないの。だから紅魔館の魔女に原因を探す手掛かりを調べてもらおうと思っているわ」

 

 霊夢の掻い摘んだような説明に俺は感心した。手短に状況と目的だけしっかり伝えて、能力のことはしっかり伏せている。だが、それを聞いた慧音さんは心配そうに眉をひそめる。

 

「人間をあの館に連れて行くつもりか? 博麗の巫女とあろうものが?」

「私だって癪だけれど、紫や魔理沙がそれが一番いいって言うから仕方なくよ」

「あの白黒やスキマ妖怪も関わっているのか。一人の外来人にやけに大事だな」

 

 そう言うと慧音さんが俺の事を横目でチラリと見遣る。やっぱり俺の事を怪しんでいるようだ。慧音さんの視線にどう反応したものか戸惑っていると、霊夢が肩を竦めてみせる。

 

「今までになかった事例だから嫌な予感がしてね。ちょっと慎重になってるのよ」

「嫌な予感か……まあいい、それで君はどうして人里に?」

 

 外の世界の人間に興味があるのか、慧音さんは俺の方を向いて尋ねてくる。そういえばここに来た理由を言ってなかったか? 俺は咳払いをしてから説明を始める。

 

「力を借してもらうよう頼むんですから、何か土産を用意しようと思いまして。あと、長期滞在に備えて身の回りのものを揃えようかと」

「ふむ……そうか、君はなかなか常識がありそうだ。自己紹介が遅れたな、私は上白沢慧音、里の寺子屋で教師をやっている」

 

 慧音さんは好意的な笑みを浮かべてくれているが……俺の常識的な考えのせいで幻想郷を滅びようとしている事を知ったらどう思うだろうか? それと土産は紅魔館の主の怒りを買わないための保身のようなもので、俺自身が律儀な性格ではないんだが……何はともあれ、とりあえず自己紹介を返さないとな。

 

「輝星北斗です。それでよかったら美味しいお菓子とか売っている場所があれば教えてほしいんですが」

「菓子か……それなら街のこの大通りを進むと洋菓子屋があるぞ。なんといったか……焼きぷでぃんぐというものが美味しかったな」

 

 プディングって……この江戸時代を思わせる街並みから洋菓子屋があるとは思ってもみなかった。だがお土産には良さそうだし、そこに寄ってみることにしよう。

 

「わかりました、行ってみます」

「それとその洋菓子屋の近くに木綿屋がある。外の服装は目立つから、着替えた方がいいぞ」

 

 慧音さんは親切にも忠告してくれる。木綿屋なんて聞いたことはなかったが、どうやら服屋のようだ。慧音さんが俺の事外来人だと知っていたのは、服装から判断したのか。里に出入りするためにも服を買った方が良さそうだ。

 

「そうします。いろいろとありがとうございました」

「気にすることはない。何か困ったことがあれば頼ってくれ。それではな」

 

 慧音さんははにかみながらそう言うと、さっさと立ち去ってしまった。その背を立ち上がって見送っていると、隣に座っていた霊夢が思い出した様にボソっと呟いた。

 

「あの人、あれでも妖怪よ」

「えっ!?」

 

 俺は目を見開きながら霊夢へ振り返る。まったくわからなかった。どう見ても普通の人にしか見えない。それに寺子屋の先生もしていると言っていたが……それで大丈夫なのだろうか?

 

「彼女は後天的な妖怪だそうよ。人里の守護者を自称して里で人と変わらない生活しているし、妖怪の中でもレアケース。数少ない、人間の味方である妖怪よ」

「まるで他の妖怪は人の敵みたいな言い方だな」

「ええ、そうよ。妖怪は人間の敵。それは幻想郷の人間にとって絶対の原則よ」

 

 霊夢はお茶をすすりながらも鋭い目つきで言い放つ。さっきまでの暢気な気配とはまるで違う、彼女の周りには張りつめた緊張感が漂っていた。

 

「今回は事情が事情だけれど、紅魔館に行ってもそれを常に心得ておきなさい。じゃないと、命がいくつあっても足りないわよ」

「……わかった」

 

 俺は霊夢の真剣な様子を見て神妙に頷き返す。彼女は妖怪退治のプロらしいし、素直に忠告を受け取った方がいいだろう。素直に受け止めた俺に、霊夢はニコッと笑いかける。いつの間にか元の雰囲気に戻っていた。

 

「それで、私も力を貸してるんだからもちろん私の分のお土産もあるわよね?」

「いや、それってお土産とは言わないんだが……わかった。ちゃんと霊夢と魔理沙の分も買うよ」

「当然ね! それじゃあ行きましょ! あ、ここのお勘定もよろしくね!」

 

 年相応の笑みを浮かべながら、霊夢は勢いよく立ち上がった。なかなかいい性格してるなぁ……

 俺は財布を取り出しながら、現金な巫女に苦笑いを浮かべた。

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