突然、VIPルームのドアが開くと、モンタギューが飛び込んできて、忠則、不二子、イーニアスを監視していたシージャックたちに襲い掛かった。
銃器で武装していたものの、いきなりの奇襲に対応が遅れ、あっさり、全滅。
モンタギューは、いつも、無表情だが、今は恍惚とした微笑みが浮き上がっていた。
返り血を浴びた執事服を気にもせず、イーニアスの前に行くと、片膝をついて『始皇帝の宝玉』を差し出す。
「取り返してきたのか、良くやった」
己の執事を褒めるイーニアス。受け取った『始皇帝の宝玉』を忠則に渡す。
意外そうな顔をする不二子。
「あっさり、渡したのを意外に思うかい。ルパンに罪を被せてしまえば、お金と『始皇帝の宝玉』の両方が手に入るのにって?」
慌てて、否定する、でも図星。不二子なら、このような場合、言われた通りにしていた。
「善人か悪人かと問われれば、間違いなく、私は後者だ。だが、それでも、ポリシーは持っているつもりだよ。取引相手は裏切らない、それが私のルール」
裏の世界でも、商売には信頼は必要と考えているイーニアス。
「モンタギュー、ルパン3世の首を持ってきてくれ、邪魔するなら、何人殺しても構わない。私に恥をかかしたんだ、それぐらいの仕返しはしないと、気が済まない」
命令を受けたモンタギューは恍惚の表情のまま、VIPルームを出ていく。
モンタギューの笑みに不二子は、少々、不安を覚えたが、ルパン3世なら、まぁ、大丈夫だろうと、不安を頭の隅に追いやる。
「イーニアス、徐福を知っているかね」
『始皇帝の宝玉』を眺めながら、忠則はいきなり質問。
「始皇帝に命じられて、不老不死の妙薬を探していた男だろ。私は詐欺師と考えている。不老不死の妙薬を探すと言って、始皇帝から金を騙し取ったとね」
質問に対する答えと、自分の見解を述べる。
「その徐福だが、日本に来たと言う伝説がある」
日本の至る所に徐福の来日伝説が残っている。不老不死の妙薬の原材料のある蓬莱山は、富士山との説もあり。
「ハッ、そんなのは、ただの眉唾物の珍説じゃないのか?」
徐福来日伝説を鼻で笑うイーニアス。
「日本へ来た徐福と親交があったのがオレのご先祖でね。その時、いろいろな知識を教わり、家伝書として子孫に伝えられた。そこに、この『始皇帝の宝玉』の記述もあったのだよ」
その時、『始皇帝の宝玉』を眺めながら、浮かべた忠則の笑みに、不二子はゾッとした。さっきのモンタギューの笑み以上の狂気が、そこにあったのだ。
「オレはのガキの頃から、夢中になって家伝書を読みふけった。そこに『始皇帝の宝玉』の使い方も記してあったんだよ」
「使い方? コレクション以外、宝石に使い方があるのかい」
宝石はコレクションして、愛でるか、売るか。忠則の狂気の笑みはそのどちらでもないことを示す。
「イーニアス、君に特別に見せてあげよう。躯よ、起き上がれ!」
『始皇帝の宝玉』が闇色の輝きを放つ。すると、モンタギューに殺されたシージャックの遺体が、のっそりと起き上がったのである。生き返ったのではない、顔色は悪く、目も濁っていて、明らかに遺体のまま。動く死体、ゾンビ。
驚くイーニアス。不二子も驚き、声さえ、出せない。不二子自身、宇宙人やネッシーなど奇怪なものを何度も見たが、ゾンビなんてものは見たこともない。
「な、な、なんなんだこれは!」
顔を真っ青にして、イーニアスは恐怖に慄く。常識をかけ離れた状況。
「これには、もう一つ、使い方があってね。しっかりと見たまえ!」
『始皇帝の宝玉』をイーニアスに向ける。
「喰らえ、宝玉よ」
再び『始皇帝の宝玉』は闇色の光を放つ。
突然、うめき声を漏らし、心臓を抑え、イーニアスは崩れ落ちる。
「このように命を奪うことが出来る。分かったかい、イーニアス?」
一旦、倒れたイーニアスは起き上がる。顔には精気はなく、確かめるまでもない、ゾンビ。よろよろと動きながら、ポケットの中にあった黒いカードを忠則に渡す。
「死者をゾンビに変え、生者の命を奪う。これが『始皇帝の宝玉』の力だよ。峰不二子君。そして、こいつには更なる力もある」
語りながら黒いカードを胸ポケットに入れた。
さしもの不二子も恐怖を感じ、たじろぐ。後、数歩、下がれば、ゾンビに当たる。
「気を付けたまえ、ゾンビに噛まれればゾンビになってしまうぞ」
慌てて、不二子はゾンビから距離を取った。
「さぁ、行け、ゾンビ共、命を思う存分、刈り取ってこい!」
天高く『始皇帝の宝玉』を掲げ、けたたましく笑う。
命令を受けたゾンビたちはVIPルームを出て、のそのそ、廊下を進んでいく。
こいつは外道中の外道だ。不二子は確信。口に出したら、自分も命を奪われる恐れがあるので、内心だけで止めておいた。
呼ばれて飛んできた克巳は炎輝(イェンフゥイ)の背中の傷を見て、呆れ返った。
「普通なら、絶対安静の重傷だ、普通ならな。だが、お前の体はそんな傷を軽傷にしてしまっている」
一応、傷を縫い、包帯をしっかりと巻いて置く。
それを聞いた炎輝の部下たちは、ほっと胸を撫で下ろす。
「軟な体ではない。鍛えている、ちゃんと」
「一体、どんな鍛え方をやったら、こんなにも頑丈になるんだ。聞きたいよ」
鋭いナイフで背中から腹を貫かれているのに、軽傷してしまった鉄の塊のような体。本当にどんな鍛え方をやったら、こうなるのか。
部屋の外で悲鳴が起こり、何やら騒がしくなる。
「なんだ?」
乗客たちに何かあったのかと、克巳が入口の方を向いた時、ドアを突き破ってゾンビたちが乱入してきた。
ホールに監禁されている1等船室の船客たち、プラス来人。
先ほど、克巳が呼ばれて、出ていったきり、あまり変化はない。
広く大きいホール。豪華絢爛に作られ、天井にはシャンデリア、艶々の床。舞台もあり、今日の夕方には有名な歌手グループが歌うことになっていた。セットもちゃんと整っていたが、無駄になってしまったようだ。
そんな豪華絢爛なホールの内装も、監禁されている船客たちを癒せることは出来ず、あちらこちらからすすり泣く声が聞こえている。
「ねぇ、来人さん。リーダーが、留守の今がチャンスじゃありませんこと」
小声で秋穂は囁いた。今なら、見張りをやっつけて、皆を開放するチャンスでははないかと。
銭形警部も、そんなことを考えていて、当たりの様子をうかがっている。
でも来人は左右に頭を振る。相手にこちらを傷付ける意思は感じられないなら、下手に暴れる必要はない。
船客たちは、こんな時、元・アメリカ海軍特殊部隊のコックがいないのか、船客の中に世界一ついてない警察官はいないのかと思ったりしていた。
ただ、監禁されている船客の中に修羅場の経験者が2名いることは誰も知らないこと。
その2人が真っ先に異変に気が付く。
手袋に隠された右手の疼き、ホールの外から感じる不気味な気配。
辺りを見回す来人。舞台の上に置かれたマイクスタンドに目を止めた。
銭形警部も気配に気が付き、ゆっくり立ち上がる。
「何をしている」
ライフルを構えた見張りが銭形警部に近づこうとした、その時、大きな音を立てて、ホールのドアが開いた。
船客たちは一斉に、音の聞こえてきたドアの方角に顔を向けた。雪崩込んで来るものたち。青白い肌に瞳孔の開いた生気のない瞳。生きている気配すら感じさせないのに動いている。
たちまち、パニックと恐怖が走り抜け、周囲を支配してゆく。
逃げ惑おうとする船客の中から、真っ先に飛び出した銭形警部。襲いかかってきたゾンビを捕まえると、投げ飛ばして、床に叩き付け、鉄拳と手刀でゾンビ共を倒していく。
舞台に飛び乗った来人はマイクスタンドのマイクを取って、床に置き、脚部を外す。
船客たちを襲おうとするゾンビたちを銭形警部は投げ技と鉄拳制裁で倒していく。
「何だと!」
倒されたゾンビたちが、のっそりと起き上がった。全くダメージを受けておらず、のろのろとした動きながら、銭形警部を取り囲む。
マイクスタンドを片手に持った来人が囲いのど真ん中に飛び込み、目にもとまらぬ速さのマイクスタンドさばきで、ゾンビの頭を攻撃。
頭を打たれ、倒れたゾンビは、ピクリとも動かなくなり、二度と起き上がることはなかった。
「こいつらの弱点は頭だ。そこ以外、攻撃しても意味はない」
「それでは、まるで、ゾンビではないか」
身に着けた武術の構えを解くことなく、襲いかかってこようとするゾンビたちを警戒しながら、ぼやく。
「その通りだよ、こいつらはゾンビだ。命を抜き取られている」
始めは何を言っておるのかと思いはした銭形警部。でも、襲ってきた相手の目や肌色は死者と同じもの。格闘時に触れたときも体温も呼吸も感じられなかった。何より、このような状況下で、来人がウソやを吐く奴ではないことを銭形警部は理解している。
「ルパンにシージャック。続いてゾンビとは、一体、どうなっておるのだ」
カイ師匠に師事し、過酷な実戦で鍛えに鍛え上げた棒術で、来人はゾンビを撃破していく。一方、素手の銭形警部は、なんとか、ゾンビの攻撃は凌いでいるものの、決定的なダメージを与えることが出来ず、ジリ貧状態。
隙をついて、ゾンビ一体が銭形警部の脇をすり抜けて、船客に向かう。すぐに取り押さえようとしたものの、他のゾンビの群れに阻まれ、出来ない。来人も同じく、助けに行けない。
今にも船客に襲いかかろうとする。船客たちの上げた悲鳴に銃声が重なり、ゾンビの頭が撃ち抜かれる。
ホールの入り口にベレッタM92Sを構えた克巳が立っていた。その後ろには青龍刀を持つ炎輝。そして、その部下たち。
克己たちは襲い掛かってきたゾンビを帰り討ちにして、ホールへ駆けつけてきた。
無言で克巳は、銭形警部から奪い取ったコルト1911 A1ガバメントを投げて、返す。
受け取った銭形警部は迷うことなく、ゾンビりの脳天を撃つ。
ホールにやってきた克巳たちは部下に命じ、これ以上、ゾンビが入ってこれないよう、全部のドアを閉めさせた。
マイクスタンドで戦う来人。コルト1911 A1ガバメントで戦う銭形警部。ベレッタM92Sで戦う克巳。青龍刀で戦う炎輝。1名、武器ではないもので戦っているが、ホールに入り込んだゾンビは、どんどん、駆逐されていった。
ホールに入り込んだゾンビを全て駆逐したのち、克巳の部下たちが船客たちの目に届かない舞台裏でなどに動かなくなったゾンビを運び込む。
誰にも気付かれないように、そっと、秋穂は元、シージャックのゾンビの懐からコルト M1908を抜いておく。
数分で遺体の片付けが終わった。
ホールの中央に一塊になって、船客たちは震えている。前以上に泣いているものもいる。
楽しい思い出の船旅になるはずだった船旅。シージャックも恐ろしいのに、想像を越えたゾンビの来襲。これが映画、せめて夢であってほしいと、両手を合わせて心の中で願う。でも、それは叶わない。
「ボクは、これから、2等船室、3等船室の客たちを助けに行く。半分は残って、ここにいる船客たちを守れ」
部下たちに命令。それを聞いた遼は、
「なんで、シージャックのあんたらが助けに行くんだ」
尋ねる。七美も同じ疑問を持っている。
「ボクたちの目的は金、命じゃない。それにボクたちは戦う術を知り、武器も持っている。助けられる命があれば助けるのは当然だろ」
それが克巳の答え。炎輝や部下たちも頷き、同意見という意思表示。
「ならば、本官も同行させてもらうぞ」
胡坐をかいて座っていた銭形警部が立ち上がる。彼も戦う術も武器も持っている。
「本来、お前たちを逮捕するのが本官の仕事だが、今は人命救助の方が優先だ」
それを聞いた克巳、炎輝、部下たちは面白そうに笑顔を作る。
「だが、事態が収束すれば、逮捕する」
本来の職務も忘れてはいない。克巳たちも、そう簡単に捕まらないぞと、表情で告げる。
「僕も行くよ」
マイクスタンド片手に来人は立ち上がる。
「子供は駄目だ」
即答で克巳は断るが、その肩を炎輝が叩く。
「あいつは強い、本物。連れていくべき」
そう言われた克巳は、僅かな時間、考える。克巳も来人が生半可な人生を歩んでいないことは感じ取っていた。さっきのゾンビの戦いも、銃器ではない、武器でもないはずのマイクスタンドを使って戦い。数多くのゾンビを撃破していた。
間違いなく、その実力は本物。
「分かった」
来人、銭形警部、克巳、炎輝たちのやり取りを見ていた船員の一人が生唾を飲む込む。彼はこのホールの責任者の立場にある。ギュッと拳を握りしめ、勢いよく、立ち上がる。それは、今した決心を自分自身から逃がさないため。
「わ、私も行きます。戦力にはならないですが、船内の案内は出来ます。船内に詳しいものも必要でしょう」
少し震えている。ホール責任者は怖がっている。でも、それを上回る決意を持っていた、乗客を守るのは自分の責任。これ以上の犠牲者を出してはいけない。
「来い」
それだけを責任者に告げた。
来人、銭形警部、克巳、炎輝、部下の半分。最後に責任者。皆、ドアに向かう。
「ボクたちが出て行ったら、しっかりと鍵をかけておけ。ボクたちが戻ってくるときは、最初に3回のノック。次に2回のノック。最後に3回のノック。その時は鍵を開けてくれ、それ以外は、何があっても開けるな」
そう命じて、ホールを出発。
出ていった後、残留して、船客たちを守る任を与えられた部下たちは、命令通りにホールのドアを閉め、しっかりと鍵をかける。
先頭を進む克巳に、銭形警部は話しかけた。
「本官から見ても、貴殿らは根っからの悪党ではない。なのに、どうして、シージャックなどをやったのだ?」
それが引っかかっている。銭形警部はいろんな悪党を見てきた。心の奥の奥まで腐れ切った外道も何人も見てきた。でも克巳や炎輝たちは、外道でもなく、小悪党でもない。なにか目的を持っているのではないかと、感じていた。
「S国を知っているかい」
頷く銭形警部。そこで克巳は忠則が義援金を横領した話を聞かせた。
「なんと、赤間忠則がそんなことをやっておったのか!」
「逮捕しようとしても無駄だよ、あいつは狡猾だ。何の証拠も残していない。最も、証拠があれば、こんな真似はしないけどね」
全く、その通りである。
「ボクは赤間学園の生徒たちの親から取った身代金をS国の貧困層に流すつもりさ。それと、同時に忠則に報いを受けさせる」
銭形警部は唸る。克巳も気持ちは分かる、S国の貧困層を救いたいと言う気持ち、義援金を横領し、内乱を起こした忠則に対する憤りも理解できる。話を聞いただけの銭形警部も忠則に手錠をかけてやりたいと、思ったほどだ。手段は承認は出来ないが。
「私の目的は別。イギリスに奪われた『始皇帝の宝玉』を取り返し、兵馬俑へ届ける。祖父の代からの悲願」
炎輝も自らの目的を話す。
「なるほど、それで意気投合したのだな」
頷く、克巳と炎輝と部下たち。部下たちは克巳が紛争地域で知り合ったものや、軍隊にいた炎輝の同僚たち。武器もそこから調達。
『始皇帝の宝玉』のことはともかく、S国のことはインターポールの力を使えば何とかできないかと、考える銭形警部。
赤い絨毯の敷かれた豪華な客船の廊下を進み行く、忠則と不二子。
今まであった船客たちを忠則は『始皇帝の宝玉』で、ことごとく、ゾンビに変えていった。
「まだ、足りないのか『始皇帝の宝玉』よ。ならば、もっと、人の命を喰らうがいい」
人間をゾンビに変え、ゾンビになったものは他者を襲い、噛まれたものもゾンビになり、ねずみ算式にゾンビは増えていく。今や、戸羽丸は地獄と化していた。
この状況を生み落した本人は、己の行為に対する罪悪感や後悔の感情は微塵も存在とておらず、喜んでさえいる。
わざと不二子は歩くスピードを悟られないように、徐々に落として、忠則との距離を広げた。
これ以上、不二子は忠則についてはいけない。そろそろ、潮時。こんな奴と一緒にいるぐらいなら、マモーと社交ダンスをする方が何十倍もましである。(オリジナルの方)
吹き抜けのテラスに来た時、チャンスと不二子は行動を起こす。
いきなり、手すりを乗り越え、3階の高さがあるにもかかわらず、飛び下りる。
驚いた忠則が振り返るが手遅れ。
落下しながら、スーツを脱ぎ捨てる。背中には予め、折り畳み式の翼を仕込んでおいた。それを開き、ハングライターの要領で船内を飛ぶ。
ここまで、距離を取れば『始皇帝の宝玉』に命を奪われる心配はない。ふと、不二子が上を見れは、悔しそうな忠則の顔が見えた。
物陰に隠れ、廊下の様子を伺うルパン一味。廊下には、ゆらり~ゆらり~と動くゾンビの群れ。
「シージャックの次はゾンビかよ、トラブルって言っても限度があるだろ」
壁を背にマグナムを構える次元大介。
奪われた『始皇帝の宝玉』を取り戻そうと、船内を散策中にゾンビに遭遇。撃退しつつ、進み、今に至る。
廊下にいるゾンビの数は多い、そう簡単に突破できそうにない。
「アレに噛まれたら、ゾンビになってしまうだろうな。お約束だもんな、映画じゃさ」
のんきに言ってのけるルパン3世。手にしている愛銃はワルサーP38。
「俺はゾンビ(旧作、夜明けのゾンビ)や28日後…と28週後…。ゾンビランドは面白いと思ったが、映画は見るもんで、渦中に飛び込むもんじゃないだろ」
ポケットから、湿気た煙草を一本取り出し、咥える次元大介。
ライターを取り出し、煙草に火をつけようとした次元大介の肩を叩き、五右エ門は壁を指さす。そこには船内全域、禁煙の標識。溜息を1回付き、煙草とライターをポケットにしまう。
このままではいつか、見つかって、ゾンビの群れが雪崩れ込んでくる。すると、どうなるのだろう。考えるだけでおぞましい結果になるのは確実。ルパン3世と次元大介は身を震わせた。
「拙者が行くでござる」
言い終えるが早いか、廊下に飛び出す五右エ門。ゾンビの群れは、一気に襲い掛かってくる。
基本的にゾンビの動きは鈍い、五右エ門程の男なら、避けるのは容易い。雪崩れ込まれる前に片付ける。これが五右エ門の出した答え。
避けながら、走り抜けながら、斬鉄剣を引き抜き、気合一閃。
「また、つまらぬものを斬ってしまった」
ちぃんと、斬鉄剣を鞘に納める。ゾンビの群れの頭がコロンと落ちてて、倒れる。
「流石~、五右エ門。いかす~」
拍手して褒めちぎるルパン3世。
「助かったらぜ、本当に」
静かに褒める次元大介。
これで廊下を占拠していたゾンビは撃退出來た。やっと、先へと進むことができる。
しばらく、ルパンたちが廊下を進んでいると銃声が聞こえてきた。銃規制のある日本で、警官などの特定の仕事を除き、銃を持っている人は少ない。
敵か味方が分からないが、とりあえず相手を確認するため、ルパン3世たちは音をたてないように、そっと銃声の聞こえてきた廊下の角を覗く。
そこにはブローニングM1910を撃って、ゾンビと戦う不二子の姿が。
「もう、こいつらきりがないじゃない!」
愚痴をこぼす。
「不二子ちゃ~ん」
おなじみのセリフとともに飛び出したルパン3世。懐からワルサーを抜き、撃つ。
やれやれと言った感じで、次元大介と五右エ門も助太刀に飛び出す。
「助かったわ、ルパン~」
ゾンビを片付けた後、抱きつく不二子。鼻の下を長くしてデレデレのルパン3世。そんな2人を呆れたように見る次元大介と五右エ門。
「おい、不二子。この事態、お前が原因じゃ無いだろな。どっかの傘みたいな名前の会社から盗んだウイルスをうっかり落としとか」
厳しい言い方で次元大介は質問。いつも不二子のもたらすトラブルで、自分たちは散々振り回されてきた。
「そんなもの盗んだことないわよ。いくら金になるからって、なんでも盗むわけないわ」
頬を膨らませ、否定。
「傘みたいな名前の会社。パラソルでござるか?」
一気に場の空気が変わる。五右エ門はボケたのではない、天然で言ったのだ。五右エ門はTVゲームをやったことはない。
しばらくはしらけていたが、このままではいけないと、真っ先に気を取り戻した不二子。
「私じゃないわ。やったのは忠則よ」
VIPルームで何が起こったのか話し始める。
「人の命を奪い取り、ゾンビに変える宝石。とんでもねもんだな。怖いったらありゃしねぇ」
不二子の話を聞き終えたルパン3世と次元大介と五右エ門。口では怖いと言いながらも、ルパン3世に恐れている様子は微塵もない。むしろ、やる気、満々。
「おい、不二子。最初っから『始皇帝の宝玉』がそんなもんと知っていて、俺たちに狙わせたのか?」
本来、人の命を奪い、ゾンビに変える宝石なんてものはにわかに信じられるものではない。しかし、ルパン一味は、今し方、そのゾンビと戦っていた。
それを実行した忠則は外道以外の何者でもない。『始皇帝の宝玉』の正体を知っていて盗ませようとしたなら、不二子も同罪である。
「冗談じゃないわ、私だって、あんなものだと、知っていたら狙ったりしないわよ」
心外だわと、ワザとらしくむくれる不二子。それを慰めるルパン3世。
「して、この先、どうする」
尋ねる五右エ門。ちゃんと救命艇はある。それを使えば戸羽丸から脱出できる。ルパン3世たちなら簡単な仕事。
「ここで逃げたら、ルパン3世の名が廃るってもんだろ。ちゃっかりと借りは返さないとな」
不敵に微笑む。
「だな」
次元大介も微笑む。泥棒でもカタギを殺しまくる外道は許せない。
五右エ門も同意を示そうとした瞬間、気が付く。
「伏せろ、ルパン!」
いきなり、斬鉄剣を抜いた。とっさにルパン3世は身をかがめた。
金属と金属がぶつかり合う音。斬鉄剣がルパン3世、目がけて振り下ろされた鋭いナイフを受け止めていた。
びっくりして飛びのく、同時に振り返り、襲撃者の姿を確かめる。
そこにいたのはイーニアスの執事、モンタギュー。ルパン3世でさえ、ここまで接近されても気配を感じさせなかった。実はモンタギューは執事に転職する以前の職業はプロの暗殺者。血を流しすぎたために血を見ることに快感を覚えるようになってしまった。
「キヒャシャシャシャ」
奇声を上げながら、後ろへ飛んで距離を取る。
迷うことなく、ルパン3世はワルサーをぶっ放す。
きん、ナイフで弾丸を弾く。続いて不二子もブローニングを撃つが、モンタギューの左手の袖から飛び出してきたナイフに弾かれる。
「どいてろ、ルパン」
マグナムを撃つ次元大介。ダーティハリーの時代は世界最強と言われただけあり、マグナムから放たれた弾丸は弾けず、ナイフを二枚重ねにして、何とか受け止める。それでも衝撃は殺せず、真後ろへ吹っ飛ぶ。
倒れたところへ主人であるイーニアスが現れた。一瞬の気の緩みみ命取り、モンタギューは主人に噛みつかれてしまう。
悲鳴を上げるモンタギューをしり目にルパン3世はワルサーを撃ち、イーニアスゾンビのこめかみに穴を穿つ。
「ルパンよ、俺、嫌な予感がするんだが」
倒れたイーニアスではなく、モンタギューに視線を合わせて、次元大介はマグナムを構える。
「私もよ」
不二子もブローニングを構えた。
ゆっくりと起き上がるモンタギュー。元々、青白かった肌はさらに青白くなり、瞳孔が開く、意志の欠片も感じさせない。
確かめるまでもなく、ゾンビ。
両手のナイフを落とすと、物凄いスピードで噛みつこうと突進。
ルパン3世と不二子、次元大介と五右エ門。それぞれ、左右に分かれて、突進を躱す。
「ち、ちょっと、待て。ゾンビは鈍いんじゃないのか!」
ルパン3世が叫ぶ。
「リメイク版のドーン・オブ・ザ・デットや28日後…や28週後…のゾンビは、やたらと、早いんだ」
親切に次元大介が教えてあげる。
突進を躱されたモンタギューは床を蹴って、襲い掛かる。その攻撃もルパン3世たちは避ける。
今度は壁を蹴って、突進。
広い豪華客船の廊下の壁や床を蹴って、そのたびに加速しながら、襲い掛かってくるモンタギュー。避けるのが精いっぱいで、ルパン3世たちは攻撃する暇がない。
右へ左へ、何とか攻撃を避けていく。次元大介は帽子が落ちないように片手で抑えながら、攻撃をやり過ごす。
どんどんと追い詰められていく、ルパン3世たち。不二子が躓き、こける。
こけた不二子をにモンタギューが噛みつこうと、限界まで口を広げ、襲い掛かる。
「不二子!」
ルパン3世は不二子に追い被さった。
「「ルパン!」」
次元大介と五右エ門が助けうとするが、間に合いそうにない。
不二子を守ろうするルパン3世に噛みつこうとした時、モンタギューにの背中に投げつけられたマイクスタンドが命中。
強烈なマイクスタンドの一撃でモンタギューの体がルパン3世と不二子からから引き離された。
このチャンスを炎輝は見逃さない。一気に間合いを詰め、青龍刀を引き抜き、上半身と下半身を両断。
下半身は数歩歩くと、壁に当たって、倒れ、上半身はジタバタと蠢いていたが、次元大介が頭に弾丸を叩きこむと、動きは止まった。
「ありがとう、助けてくれたのねルパン♡」
自分を庇ってくれたルパン3世に素直に気持ちでお礼。いくら不二子でもゾンビにはなりたくない。
「不二子ちゃんを助けるのは当然だろ。それより、お礼のキス~」
キスをしようとしたルパン3世。
「調子に乗らない!」
その頬に平手打ち。
「助かったでござる」
廊下の向こうからやってきた来人、克巳、炎輝、その部下に五右エ門はお辞儀。
部下たちの後ろに銭形警部もいる。
「銭形よ、どうしたんだ。シージャックに転職でもしたのか?」
ワザとらしく嫌味ぽいことを次元大介は言って見せた。
「場合が場合だからな。この事態が収まるまで、協力することにしたのだ。無論、ルパン、お前たちともだ。だが、事態が解決した後は……」
ここで、一旦、咳払い。
「逮捕だぁぁぁぁぁぁぁ、ルパァァァァァァァァン!」
来人たちは2等船室、3等船室の船客たちを助けるために船内を進んでいた。見れば後ろには助けた船客たちが何人も付いてきている。皆、憔悴しているが、希望を失ってはいない。
この者たち全員がカギをかけて船室に立て籠っていた。その1人1人を救出。中には恐怖のあまり、外に出るのを拒んだものもいたが、根気よく説得し、出てきてもらったのである。
犯罪者を逮捕するのが警官の仕事。ルパン一味を捕まえるのが銭形警部の悲願。しかし、人命救助のためなら、ルパン一味やシージャックたちと協力するのを迷わない。銭形警部がそんな男であることをルパン3世たちは知っている。
「克巳とか申したな。お主」
ふと、先頭を歩く克巳に五右エ門は声を掛けた。
「なんだい?」
返事しながらも歩くのはやめない。
「何故、女の格好をしている。男であろう、お主」
ここでルパン3世と次元大介の足が止まった。2人とも克巳を女と思っていた。不二子は克巳を見た時に感じた違和感の正体をようやく知った。
以前、五右エ門は白浪五人衆と戦った時に、そんな奴に騙されたことがある。そのため、そんな相手を何となく、分かるようになった。
「守れなかった恋人に対する、戒めでこんな恰好をしているのさ」
S国で奪われてしまった命。遺品の女物のペンダントを常に身に着けている克己。
「男の娘かよ、最近、流行りだからってな」
何とも言えない顔で次元大介は自然に言葉を漏らす。ルパン3世は見破れなかったことを悔しく思い、ふてくされていた。ただ、克巳とは初対面だし、あの状況下では仕方がないこと。
福引で当てた自分の部屋の前に来た来人。
「ちよっと、待ってて」
断ってから、カードキーを使い、部屋に入ると、壁に立てかけていたロッドケースから、釣竿に紛れて隠していた、一本の黒い棍を取り出す。
「ほぅ」
それを見た五右エ門は思わず、声を漏らしてしまう。
「かなりの業物だな。刀でたとえるなら、名刀でござる」
斬鉄剣を持っているだけあり、武器に関してはかなりの目利き。
「これはね、天牙棍っていって、名工が鍛えたものなんだ」
大師匠メース。4人の弟子を持つ名工中の名工。彼の手によって鍛えられたのが、この天牙棍。
ようやく来人は自身の使い慣れた武器を手にすることが出来た。
元々、来人は強い、自らの愛用の武器を手にしたから、さらに強い。船客の探索、救出の最中、何度もゾンビに襲われたが、ことごとく、片付けた。
ルパン3世、次元大介、五右エ門、不二子、銭形警部、炎輝、克巳、部下たちの活躍も素晴らしく。助けた船客を含めて、怪我人1人もいない。
「あなたたちのおかげで、多くのお客様を助けることが出来ました。ありがとうございます」
正直にホールの責任者は感謝。
「あんたの案内がなかったら、こんなにもスムーズに救出はできなかった」
ホール責任者にも克巳は感謝の言葉を贈る。
ここに来るまで、来人たちとルパン3世たちお互いの知っている情報を交換した。
人間をゾンビに変える『始皇帝の宝玉』それが、ゾンビを生み出した原因であることをみんな知った。
「うむ、忠則と言うやつは何がしたいのだ? こんな外道な真似をして、何を企んでいる」
銭形警部の言葉の中には憤りが隠すことなく入っていた。それはここにいるもの全員の共通の思い。
「なんだか、他の使い方もあるみたいのこと言っていたわ」
不二子は忠則の物言いから、それを察していた。
「やれやれ、人をゾンビに変えるだけでも、恐ろしいのに、まだ、他に使い方があるのか。この船のオーナーは『始皇帝の宝玉』を使って、何をやらかすつもりだ。世界征服かよ」
本当にやれやれと言う風に次元大介は話す。内心、忠則に一発、ぶち込まないと、気が収まらないと思っている。
「なぁ、来人君よ」
歩きながら、ずっと、何かを考えていたルパン3世は声を掛けた。
無言で来人はルパン3世に振り向く。
「なんか、心当たりあるんじゃないか? 『始皇帝の宝玉』の正体や、忠則の目的によ?」
見た目は子供に過ぎないのに、やたらと、腕が立つ。それに率先して、前線で戦おうとする。そこに何か使命感のようなものを感じたルパン3世は、そう考えた。
頷く来人。
「でも、話せない。今は……」
この状況、今、この時、戸羽丸に漂っているオーラ。これは、身近な感じに似ている。無意識に自分の右手を視線を移した。
来人自身の目で『始皇帝の宝玉』を見れば、今、心の中で渦巻いている疑いが、確信に変わるだろう。
ゾンビ映画は好きなジャンルなので、ゾンビを出してみました。