ルパン3世&幻想水滸伝『始皇帝の宝玉』   作:マチカネ

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 誰かの無謀な行為によって、ピンチになるはゾンビ映画のお約束。
 クライマックスの章となっております。


第4章 『ソウルイーター』

 2等船室と3等船室の先客の救出は、とんとん拍子に進んでいった。ホール責任者の案内と来人たちの連携が上手くいったから。

 何度もゾンビの襲撃に遭遇したものの、そのつど来人、ルパン3世、次元大介、五右エ門、不二子、銭形警部、克巳、炎輝(イェンフゥイ)と部下たちの活躍で、ことごとく退けてきた。

 まれにモンタギューのように、素早いものや怪力を持つ変異種のようなゾンビもいたが、ものともせずに撃破、誰一人欠けることなく、進む。

「人数も多くなってきたことだし、一旦、ホールに戻ろう」

 克巳の言う通り、助け出した船客たちは、そこそこの人数になっていた。まだ、生存者がいる可能性はあるが、この数ではいざというとき、支障をきたす可能性が無いわけではない。一旦、ホールに戻るのが得策。

 

 

 

 ホールを目指し、廊下を進む。廊下でも豪華客船だけあり、見事な装飾を施していて、幾分か、船客たちの心を和ませた。

 このまま行けば何事も起こらず、ホールに辿り着けるはず。何もおこなければ……。

「ああっ!」

 突然、不二子が声を上げ、前方を指す。そこには大勢のゾンビを引き連れた忠則の姿が。

「チッ」

 来人たちに気が付いた忠則は舌打ちして、『始皇帝の宝玉』を向けようとした。そうはさせるかと、ルパン3世と次元大介が発砲。

 2体のゾンビを盾にして、弾丸をやり過ごす。

「クソッ」

 不利だと判断したようで、半分残し、もう半分のゾンビを引き付けて、忠則逃亡。

 逃げた方向からして、忠則が目指しているのはホール。手には『始皇帝の宝玉』がある。何をやろうとしているのかは考えるまでもない。

 皆、後を追おうとしたが、行く手をゾンビに防がれて、先へ進むことが出来ない。

「ここは僕が食い止める!」

 天牙棍を片手にゾンビの群れに突入、ゾンビを蹴散らせる。

 克巳もベレッタM92Sを撃ち、来人をサポート。

「すまん」

 一言だけ残し、炎輝は襲いかかってくるゾンビを青龍刀でけん制しながら、忠則を追いかける。部下たちも続く。

「私に『始皇帝の宝玉』を向けたわね。許さないから!」

 ゾンビに変えようとしたことに憤りを覚え、不二子も追いかける。

 そんな不二子を助けるためにルパン3世が続いた。そのルパン3世を援護するべく次元大介が追う。

 ただ五右エ門は追わなかった。

「拙者、助太刀するでござる」

 斬鉄剣を抜き、ゾンビに向かった。

 五右エ門は武人である、そして来人を真の武人と認めた。武人が武人を助太刀するのに、理由は必要ない。

 また、天牙棍は業物であることもさることながら、ちゃんと、手入れもされていた。そんなところも五右エ門は共感を覚えた。

「なら、本官も残らせてもらう」

 銭形警部も残り、ゾンビを撃つ。女(実は克巳は男の娘だったが)子供を守るのは警察官の義務。彼も残留を選択。

 

 

 

 1等船室の客たちが集められているホール。いまや、ここはゾンビから身を守るためのシェルター。

 来人たちが出て行って、結構な時間が過ぎた。皆、あまり、表には出していないが、不安な思いを抱いていた。もし表に出してしまったら、決壊した堤防のように、一気に恐怖が押し寄せてくるかもしれない。

 七美もそんな一人、小刻みに震えている。本来は誰にも気づかれないほどのものだつた。でも遼は気が付いた。

「大丈夫だよ、来人は強いじゃないか、皆、無事で帰ってくるよ。ゾンビを根絶やしにしてさ」

 ぎこちない笑顔。遼も怖いのだが、それでも、精いっぱい、笑顔を作った。そんな笑顔でも、七美に勇気を与えるのには十分。

「そうだね」

 両者とも意識はしていなかった。でも遼と七美は肩を寄せる。

 仲良く寄り添う遼と七美。そんな2人を無言で秋穂は見つめていた。

 

 ドンドンドンドン! 激しいノックの音が鳴り響き、船客たちは、皆、心臓に良くないことになった。幸いなのはそれだけですんだこと。

「誰だ」

 克巳の部下の一人が声をかけた。ライフルを構える、警戒心を露わにしながら。

 ホールから出ていくとき、克巳は『3回のノック。次に2回のノック。最後に3回のノック』で開けろと言い、それ以外は開けるなと言っていた。今のノックは明らかに違うもの。

「助けてくれ、開けてくれ、ゾ、ゾンビに追われているんだ!」

 外から聞こえてきた切羽詰まった声に、船客たちは騒めきだす。ただ、1人、秋穂を覗いて。

 それでも開けようとはしない。このような状況下、簡単に他人を信じてはいけないのは部下は経験を持って知っている。また、その経験が育てた勘が危険信号を放っていた。

 繰り返されるノック。助けてくれとの懇願に動こうとしない部下に対し、船客の1人が立ち上がった。

「何しているんだ、早く開けてやれ!」

 それに呼応するかのように、船客たちから、次から次へと開けてやれの声が上がっていく。ただ、反対する声も少なくない。

 それでも動こうとしない部下に、痺れを切らした観客が強引にドアを開けようとした。

「おちつけ、合図が違う」

 部下はそれを阻止。

 その行為が引き金になったのか、開けろと言った船客たちが一丸となって、ドアに向かう。

 部下たちの手にはライフル。これはあくまで脅し用で、船客に向けて撃つつもりはない。威嚇射撃もここまで押し切られてしまったら不可能。

 船客の一人が部下の制止を振り切り、ドアまで走って、カギを開けてしまう。

「もう大丈夫だ、ここにいれば安全――」

 闇色の輝きが、ドアを開けた船客を包み込む。

 倒れた船客は、のっそりと起き上がる。確かめるまでもない、この船客は、もう生きてはいない。

「ふん、愚民はすぐに騙される。本当に愚かなブタだ」

 部下たちの制止を振り切ってまで助けようとしてくれた船客を嘲笑い、侮蔑を与えながら『始皇帝の宝玉』片手に忠則はゾンビを引き連れ、ホールに入ってくる。

「だが、そんなブタの命でも、このオレのための役に立つんだ。感謝したまえ、愚民ども、ブタは死ねぇぇぇぇぇ!!!」

 ホールに残った部下たちは紛争地域にいたり、兵士として戦場で戦ったもの。修羅場では、一瞬の油断が命取りになる。そんな中で生き延びてきた部下たちは、危険が迫ると自然に体が動く。だから、全員、避けることができた。

 忠則の手にある『始皇帝の宝玉』が闇色の輝きを放つ。ドアの前に集まっていた船客たち。皆、今日まで平和な社会で過ごしてきた。そのため、今、目の前で起こっていることを理解するのに、時間がかかってしまい、行動が遅れ、闇色の輝きに包まれてしまう。

 

 倒れ、起き上がる。起き上がったときには、すでにゾンビになっていた。

 この時、ホールにいる船客たちは知った。戸羽丸にゾンビが現れた原因を、その元凶を。

 蜘蛛の子を散らすように逃げていく、船客たち。遼も七美も逃げる。

 皆、何とか安全な物陰に逃げ込むことに成功した。

 ふと、遼と七美は、その中に秋穂が居ないことに気が付き、辺りを探してみるが見当たらない。

「まさか、逃げ遅れたのか」

 不安が遼と七美を包み込む。同時に置き去りにしてしまったのではないかという後悔も。

 

 部下たちの反応は早い。警告もなしに、ライフルを発砲。忠則はゾンビを盾にして、弾丸を防ぐ。

 『始皇帝の宝玉』が、今まで以上に強く激しく輝く。その闇色の輝きを見た全員に、ある感情を引き起こさせた、それは恐怖。

 命あるもの全てが逃れることのできないもの、死。純粋たる死に対する根源の恐怖。『始皇帝の宝玉』の放つ闇色の輝きは、命あるもの全てにそれを思い起こさせた。

「ついに始まったぞ。ついに始まった!」

 けたたましい忠則の笑い声がホールに響き渡る。

「ギルガメシュが望み、始皇帝が望み、多くの権力者が望み、その誰もが叶えられなかった夢をオレが叶えるんだ。愚民どもブタどもの命を喰らい、『始皇帝の宝玉』が真の力を発現する。オレは永遠の――」

 一発の銃声が轟く。僅かな間、忠則も船客たちも部下たちも、思考が停止した状態になり、何が起こったのか理解できなかった。

「あれ?」

 自分の胸に生じた焼けつくような痛みに、一番、最初に忠則の思考が回復。

 目の前にはコルト M1908を構える秋穂。もう一発、撃つ。

「あ、秋穂」

 なぜ? 忠則はそんな顔をしていた。

 さらに一発。また一発と無言でコルトを撃ち続ける。忠則の手から『始皇帝の宝玉』が落ちた。

 

 父親の暴挙に娘が怒って、天誅を与えた。船客たちは、そんな思いを持った。ただ、秋穂と仲の良かった遼と七美だけは違った。

 秋穂の見せた表情。こんな顔、今まで2人とも見たことがない。直撃で悪意を叩きこむ忠則の下卑た笑顔とは違い。静かで、じわりじわりと染み込んでくるような邪悪な微笑み。

 

「さようなら、お父様」

 止めの弾丸を撃ち込む。その時、秋穂が見せた目は怒りでもない、悲しみでもない、侮蔑の眼差し。

「私も家伝書を呼んだのですよ、お父様」

 床に落ちた『始皇帝の宝玉』を満面の笑みを浮かべて、秋穂は拾い上げる。

「終わることのない命と不老は私が貰い受けますわ」

 

 

 

 足止めに放たれたゾンビを倒しながら、ルパン3世、不二子、次元大介、炎輝はホールへと急ぐ。

 早く行かなければ、最悪、ホールにいる全員がゾンビに変えられる。その思いで、走った。皆、鍛えているので、息切れはしない。

 ホールに辿り着いたルパン3世は、死への恐怖を呼び起こす闇色の輝きを放つ『始皇帝の宝玉』を片手に笑っている秋穂の姿と、倒れ、事切れている忠則の姿を見たとき、何が起こったのか理解。

 

「あなたがルパン3世さんですね。お初にお目にかかります。私が赤間秋穂でございます」

 見た目こそ、令嬢らしい丁寧なお辞儀をした。

「俺がルパン3世。初めましてお嬢ちゃん」

 こちらも笑顔で挨拶を返す。顔は笑顔でも、油断を微塵も見せてはいない。ルパン3世だけではない。不二子、次元大介、炎輝、全員が警戒心を全身に張り巡らせ、秋穂と対峙。

「ファンの好として、あなたにこの『始皇帝の宝玉』の真の力を教てあげますわ」

 ゆっくり、ゆっくりとルパン3世は笑顔を解く。秋穂は笑顔のまま。

「命を喰らい続け、その果てに持ち主に終わることのない生と不老の体を与える。これが『始皇帝の宝玉』の真の力よ。始皇帝が求め、手に入れなかったものを私は手に入れましたわ」

 恍惚とした表情で『始皇帝の宝玉』を見つめる。闇色の輝きに照らされ、秋穂の顔が歪んで見える。

「私、老いるなんて、まっぴらごめんですわ。永遠に、この若さを保ち続けますの」

 不老不死を求めたギルガメシュや始皇帝。血には若返りの効果があると信じて、血の風呂に浸かった血まみれの伯爵夫人エリザベータ・バートリ。不老不死の薬の開発を命じたエレナ・チャウシェスク。多くの権力者が求めたもの、不老不死。

「ルパン3世さん。私のところに来ない? こっちに来たなら、あなたにも永遠を上げるわ」

 大きな、大きなため息、それもわざとらしく吐く。そんな仕草でも、どことなく、カッコつけているのか、周囲のものに渋く感じさせる。

「限りのある命だから、スリルがあって楽しんじゃないか。スリルの無い人生なんて、死んでるのと同じだぜ、お嬢ちゃん」

 肩をすくめて見せる。これもオーバーアクション。

「それに1人に永遠の命を与えるのに、一体、何人の命を犠牲にするってんだ。その『始皇帝の宝玉』はよ。そんなおっかないもん、捨てちまった方がお利口さんだぜ」

 手当たり次第に忠則は『始皇帝の宝玉』に命を喰わせて、ようやく、真の力を発揮させた。数えきれない人の命を犠牲にして、終わることのない生と不老の体を与える。

 『始皇帝の宝玉』が途轍もなく、恐ろしい物であることは明白。ここにいる、誰もが理解していること、秋穂を除いて。

「世界には価値のある命と、価値のない命があるの。価値のある命が価値の無い命を刈り取って、価値のある命のために役立てる。これで世界は正常に動くのよ。そう思わないかしら、ルパン3世さん?」

 首を左右に振り、秋穂の言葉を否定するルパン3世。

「俺はそう思わないな。何より、価値がある命かどうかは、他人が決めることじゃねぇ、自分自身で決めるもんだろ」

 秋穂の沈黙。ほんの僅かな間、秋穂は沈黙して、冷たく、見下すような目でルパン3世を見つめる。

「そう、とても残念だわ。あなたも価値のない命だったみたいね。ルパン3世!」

 『始皇帝の宝玉』をルパン3世に向ける。

 いくら、終わることのない生と不老の体を与える『始皇帝の宝玉』を持っていても、秋穂は素人である。そして、ルパン3世はプロ。ありとあらゆる危険に直面して、何度も、命の危機に合いながらも、それらを蹴散らし、今日まで生き延びてきた。

 秋穂が『始皇帝の宝玉』を使うことは先刻承知。すぐさま、ワルサーを撃つ。

 ルパン3世はフェミニストで女性に甘い。そのためわざと弾丸を逸らせた。

 それでも、闇色の輝きの軌道を変えることには成功。

 それぞれの得物を手にルパン3世、次元大介、不二子、炎輝は散らばり、けん制。

 部下たちもライフルを手に船客たちを取り囲み盾になる。

 『始皇帝の宝玉』を使い、指示を出す。いきなり、ゾンビたちは共食いを始める。ゾンビを喰らったゾンビは、一回り、大きくなる。大きくなったゾンビたちが喰い合い、さらに大きくなる。弱いものは喰われ、強いものだけ生き残る。これを繰り返す。ゾンビの数は減っていくが、勝ち残ったゾンビは巨大化。

 最後の最後まで、勝ち残ったゾンビは2メートル近い巨体に膨れ上がった。まるで、某ゲームの某ゾンビ。

 忠則は大量のゾンビを使い、人海戦術を仕掛けてきた。秋穂は数を犠牲にして、1体の強力なゾンビを生み出した。量より質に拘ったのだ。

 ルパン3世、不二子、ともに銃を撃つが、巨体ゾンビの筋肉が弾いてしまう。

 そこで次元大介がマグナムをぶっ放す。38口径から放たれた、357マグナム弾は熊も仕留める威力。

 ところがそのマグナム弾も巨体ゾンビには通じず、巨体を揺らしただけ。

「マグナムが効かねえぞ!」

 驚く次元大介の隣で、青龍刀も通じないと判断した炎輝が、鞘ごと背中から外すと、迷彩色の軍服を脱ぎ捨て、上半身、裸になる。徹底的に鍛え上げた、岩石のような筋肉に包まれた体。巨体ゾンビと見比べても、全く、見劣りしない。

 呼吸を整えた後、巨体ゾンビに突進。

 マグナムも聞かなかった巨体ゾンビが炎輝に顔面を殴られると、巨体をぐらつかせて、倒れかかる。何とか持ちこたえたようで、体勢を立て直すと同時に炎輝に殴りかかる。

 殴られた炎輝も耐えきり、倒れずに反撃。

 両者とも両手を掴み合っての力比べ。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 力任せに炎輝が巨体ゾンビを持ち上げ、床に叩き付ける。すぐに立ち上がった巨体ゾンビが肩を活からせ体当たり、それを炎輝がブロック。

 凄まじいとしか表現できない。殴り合い、剛力と剛力のぶつかり合い。

 この対決をホールにいた全員が、唖然となってみていた。秋穂ですら、何も言うことが出来ない。

「なぁ、次元よ、俺、昔、こんな怪獣映画見た気がするんだが……」

「そりゃ『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』だな」

 その発言通り、炎輝と巨体ゾンビの戦いは怪獣映画、そのもの。

 殴り倒されても、すぐに起き上がり、殴り合う。

 隙を見て、巨体ゾンビが炎輝の肩に噛みつく。ルパン3世たちは肝を冷やす。ゾンビに噛まれたら、ゾンビになる。あんなターミネーターみたいなのが、ゾンビになったら、しかも、巨体ゾンビと一緒に襲いかかってきたら、想像しただけで、どうにかなりそうだ。

 ゾンビに噛まれたらゾンビになる。それは傷付くことが条件。かすり傷でもゾンビになってしまう。逆に言えば、噛まれても傷付かなかったら、ゾンビにはならない。

 こともあろうか、鍛え上げた炎輝の筋肉は巨体ゾンビの歯を通さなかった。かすり傷どころか、歯型さえ付かなかった。

「ウソだろ、オイ」

 マグナムが効かなかった時よりも、次元大介は度肝を抜かれてしまう。

「効かん、効かん、こんなもの」

 笑いながら、一気に肩の筋肉を大きく揺すって、その衝撃で巨体ゾンビの顎の骨を外す。

 そうやって、巨体ゾンビを引き離し、怯んだ合間に背後に回って、両手で腰をしっかりと掴む。

「どおっりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 気合と共に巨体ゾンビを持ち上げ、岩石落とし、バックドロップを食らわせる。

 全体重の乗ったダメージに、流石の巨体ゾンビもすぐには動けない。

「どけ、炎輝」

 ホールの外から克巳の声が聞こえる。来人、五右エ門、銭形警部もゾンビを片付けてホールに救助した船客たちを引き連れて駆けつけてきた。皆、疲れた様子は見られない。ただ、救助した船客たちには疲れが見える。

 指示に従い、炎輝は巨体ゾンビから飛びのく。

 ホールに飛び込んだ克巳は胸パットを引っこ抜く。そこには手榴弾が仕込んであり、それを顎が外れて、開いたままの巨体ゾンビの口にねじ込む。

 誰も警告を受けるまでもなく、巨体ゾンビから離れる。救助された船客たちも、その場に伏せた。

 手榴弾が爆発。いくら357マグナム弾でも弾く筋肉でも、内側までは頑丈ではない。木端微塵に巨体ゾンビの頭は吹っ飛ぶ。

 弱点である頭を失い、巨体ゾンビは、一巻の終わり。

 救助された船客たちは爆発音に驚き、顔を上げようとせず、いまだ、震えて伏せたまま。

 来人、五右エ門、銭形警部、克巳は不二子から、ホールで起こったことを聞かせてもらった。

 ホールにいたゾンビは全ていなくなった。船内に蠢いていたゾンビも、あらかた片付けた。まだ、残っている可能性もあるが、当分、ホールまで襲いにくる心配は無いだろう。

 秋穂が新たなゾンビを作らないように、部下たちは盾になったまま、ライフルを構える。

 ルパン3世、次元大介、五右エ門、不二子、銭形警部、来人、克巳、炎輝は秋穂を見る。誰一人として、笑っていない。

「お嬢さん、もう、観念しな。もう一回、言うけど、そんなもん捨てちまった方がお利口さんだぜ」

 諭すように語る、ルパン3世。やはり、女性には甘く優しい。

「今なら、自首扱いにするぞ」

 警官である銭形警部は高校生とはいえ、犯罪者を見逃すことはできない。そこで自首を進める。

「不死、重いもの、ウトナピシュティム、アハスヴェール。皆、苦しんだ」

 炎輝の言ったウトナピシュティムはギルガメシュ叙事詩に出てくる人物。旧約聖書に出てくるノアの箱舟の元になったと言われるシュメールの洪水伝説でノアに該当する。

 話の筋は殆どノアの箱舟と同じだが、大洪水を生き残ったウトナピシュティムに、神々は不老不死を与えたとなっている。

 アハスヴェールは、十字架を背負って刑場へ赴く、イエス・キリストが彼の家の前で休もうとしたら、汚れるのを嫌がって追い出した。この時、アハスヴェールはイエス・キリストと目が合い、今、自分がとんでもない、罪を犯してしまったことを悟ってしまう。すると、イエス・キリストは、

「次に私に会うまで、生きていなさい」

 と、告げた。

 結果、アハスヴェールは、次にイエス・キリストが現れる。最後の審判の日まで死ねなくなり、今でも、世界のどこかで、彷徨っていると言われている。

 ウトナピシュティム、アハスヴェールの伝説は共に不老不死は、人の身には重いと言うことを伝えている伝説。

「もう止めなよ!」

 耐え切れなくなって、物陰から飛び出してくる遼。

「そうだよ、こんなことしても意味なんかないじゃない!」

 七美も飛び出してくる2人で親友を説得。そこには目を覚ましてほしいという、強い思いが込められていた。

 

 秋穂は唐突に笑い声を上げるという、幾多の悪役の共通の行動をとる。

「ごたくはそれまでにしていただけるかしら」

 ルパン3世や銭形警部、炎輝、親友の説得も空しく、通じず。残念なことに、誰の気持ちは秋穂には届かなかった。

「私は価値のある命と価値のない命を餞別する。私にはその資格があるの」

 場の空気が一気に引き締まる。一触即発の状況に突入。

「あなたたちには、私の駒なってもらうわね。きっと、役に立つでしょうね。ゾンビだけど」

 

 『始皇帝の宝玉』を構える。ルパン3世たちも身構えた。闇色の輝きを浴びたら、お終い、助からない、ゾンビになるだけ。

 相手は高校生の少女、しかし、情けをかけられる相手ではない。最悪、ここにいる全員がゾンビにされる。秋穂もそのつもり。

 ルパン3世、五右エ門、不二子、克己、炎輝、銭形警部は理解していた。秋穂は女子供の領域を越えてしまっている。許すことは出来ない相手であるこちを。

 お互いが間合いとタイミングを計り合う。

「秋穂さん、それは紛い物だよ」

 静かに来人が言って、前に進み出る。しゃべり方こそ、普段の優しいものだったが、雰囲気が違う。

 ルパン3世を始め、何度も死線を潜り抜けたものだけが、そのことに気が付いた。

「何を仰っているのかしら、来人さん?」

 そのことに秋穂は気付いていない。彼女は、ずっと、温室暮らし。苦労などしたこともない。だから、気が付かず、見下すような笑顔で答えた。

「言葉通りだよ、それは紛い物。それも劣化コピーに過ぎない」

 先程、以上に秋穂は笑った。さも楽しそうに笑った。こんな時にも、お嬢様らしく、上品に笑っている。

「ハッタリはお止めなさい。さもないと、来人さん。あなたから、命を奪って差し上げることになりますわ」

 『始皇帝の宝玉』を来人に向けた。脅しではない、秋穂は本気で命を奪う。今や秋穂には罪を後悔する気持ちは微塵も存在してはいない。

「止めろ!」

 何としても秋穂を止めようとする遼、七美も続く。ところが部下に阻止されてしまう。今、秋穂の前に出るのは自殺行為以外の何物でもない。

 

「紛い物に僕の命は奪えない」

 この台詞を挑発と受け取った秋穂は迷うことなく、笑顔を浮かべたまま、来人に向けて闇色の輝きを放つ。

 その輝きに来人は手袋に包まれた右手を向ける。来人にも躊躇いはない、自分の正しいと思った道を進む。そのためには、父親でも、恩人であっても、立ち塞がったときには容赦はしなかった。今の来人の眼差しはあの時と同じ。

 手袋に包まれた右手から、闇色の輝きが放たれた。その輝きはルパン3世、不二子、次元大介、五右エ門、銭形警部、克巳、炎輝には見えた。部下たちが盾になっている遼や七美、船客たち。伏せたまま恐怖のあまり頭を上げることの出来ない、救助された船員には見えなかった。

 根源たる死の恐怖を呼び起こす『始皇帝の宝玉』の闇色の輝きに似ている輝き。だが、来人の右手から放たれた輝きは『始皇帝の宝玉』よりも、遥かに死への恐怖を呼び起させた。同時に、優しく暖かな感覚や、安らぎも感じさせた。何より、神々しささえ、ルパン3世たちに感じさせている。

「その光は一体……」

 何が起こったのか、全く分からない秋穂。何故、来人の命を奪い、ゾンビに変えることが出来ないのか。何故、来人の右手から闇色の輝きが放たれたいるのか。

 それでも秋穂は『始皇帝の宝玉』から、がむしゃらに闇色の輝きを放ちづつける。

 ピシッ、微かな音共に『始皇帝の宝玉』にヒビが入る。

「!」

 驚く秋穂の目の前で、ヒビは広がっていき、そして『始皇帝の宝玉』は砕け散り、放っていた闇色の輝きは霧散する。

「わ、私の『始皇帝の宝玉』が! 終わることのない生と不老の体が! こんな事、こんな事、認められませんわ」

 必死になって、散らばった『始皇帝の宝玉』の破片をかき集める。もう、死を思い起こさせる恐怖は感じない。先程の傲慢な態度の反射効果なのか、必死になって欠片を集める秋穂の姿は、どこか、滑稽で哀れに見えた。

 いつの間にか、来人の右手の輝きも消えている。

 破片を集めている秋穂の手に、異変が起こる。手に皺が生まれたのだ。

「なに、これ……」

 驚いた秋穂は己の手を凝視。皺は深くなり、どんどんと刻まれ、増えていく。

 異変は手だけではない。顔にも皺が刻まれ、髪の毛の色は、黒から、灰色、白へと変わっていった。

 急激に老化していく秋穂。まるで、ビデオの早送りのように。

 思わず顔を伏せた七美を遼は抱きしめる、彼の顔も辛そう。

「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 しわがれた声で、絶叫する秋穂をルパン3世は、悲しそうな顔で見つめた。

「これが命を弄んだものへの罰か……」

 

 

 

 

 




最初、忠則のセリフは別のものでしたが、ルカのあのセリフにしてしまいました。絶命時のセリフまでは使う機会がありませんでした。
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