書いてみたかった作品です。
言わば自己満足です。
よかったらどうぞご覧ください。
眩しい光が、窓辺から差し込んでくる。
開け放たれた窓からは涼しい風とともに、花のいい香りを運んできていた。
ベットに横たわっていた青年は、その光とともに目を冷ます。
頬をなでるように風が通り抜ける。
それがとても心地いいものだ。
虚ろな瞳をしながらも、黒髪に黒い瞳をもつ青年はそっとベットから起き上がっていた。
特に怪我をしているわけでも、病気になっている訳でもなさそうだが、頭が重く、どこか気持ち悪い。
そもそもここはどこだ?
大体…俺は何故ここに?
まてよ…そもそも、俺は一体何者なんだ?
思いだそうとすると、頭が割れそうになるほどいたくなる。理解できないからこそ、気持ち悪くて仕方ない。
そんなときだ、金色の長い髪の少女がこの部屋に入ってきた。水色のその瞳を、青年に笑顔で向けている。
「目を覚ましたのですね。正直驚きました。山奥に一人倒れているのを見つけたときは」
「山奥に一人で?…それであんたが助けてくれたのか?」
「ええ。私の父であるルシスと一緒に。暫く意識も戻らなかったので、本当に心配しました」
青年は、山奥に倒れていてこの少女に救われた、それだけは理解できたが、やはり自分が何者で何故そんなところで倒れていたのか、全く思い出せないでいた。
「助けてくれて、ありがとう。お礼とかしたいけど、自分自身思い出せないし、どう恩を返したらいいか、正直わからなくて」
「やはり、記憶喪失のようですね。父がその可能性もあると言っていましたので、もしやとは思いましたが…記憶が戻るまでいてもらって大丈夫ですよ。あと恩とか気にしなくて大丈夫です。好きでやっていることなので」
「そうは言っても、なんか悪いし…記憶ないけどさ、そういうことはちゃんと礼をしなきゃいけないっていうのは、分かるんだ」
そう言って向けられた、青年の真っ直ぐな瞳に、少女は引き込まれそうになっていた。
少女はそれを打ち消すように、ふっと笑って笑顔でこの青年に言葉を返す。
「なら、そういうことは記憶が戻ってからで大丈夫ですよ。それでは駄目ですか?」
「駄目じゃないけど、いつ記憶が戻るのかわからないし…迷惑をかけたくないんだけど。確かにどう恩を返したらいいかわかっていない今じゃ、何も出来ない。ちゃんと記憶が戻ってから、お礼をするよ」
青年もまた、そう言ってその少女に微笑みかけた。
優しく、そこに邪気がない笑顔に、やはり自分の目は間違えでなかったと、少女は確信していた。
「あっ、ご挨拶まだでしたね。私の名はリール。父の仕事、ホーリースキルドクターの助手をしています。こうやって貴方を助けたのもそのためですよ」
少女はまるで天使のような笑顔を浮かべている。
だからこそ、記憶のない青年も安心することが、出来ているのかもしれない。
「あのさ、ホーリースキルドクターってなに?」
記憶がないからなのか、 全く聞いたことのない言葉に青年は反応していた。
「あっ、記憶ないのですよね。すいません。そうですね、説明難しいのですが、白魔術と呼ばれる術を使って、傷や病気の治療をおこなうもののことですよ。皆がこの能力を持っている訳ではないのですが、この家系に生まれたものは、持っていることが多いようです。私も見習い中のため、父ほどではありませんが、能力を持っていますよ」
「ふーん、すごいんだな。リールは…俺、記憶すらないから、そんな風に人を救うなんて出来ない。だから、そういう能力を人のために使えるのは、スゴいことだと、そう思うよ」
記憶すらない、それに恐怖はあまり感じていないようだが、不便だとは青年も思っていた。
そもそも、どこで何をしていたのか…
心配している人はいないのか?
そういうところは、考えてしまう。
だが、元々そうなのか、前を向いて歩いていけばそのうちなんとかなると、青年は考えていた。
「記憶って、無理に思い出そうとすれば、精神が傷ついてしまうと、父が言ってました。なので、ゆっくりでいいんですよ。…ということは、名前も思い出せないのですよね」
「名前も思い出せない。ごめん」
「謝んなくていいんです。…あの、宜しければ当面の名前をつけてもよろしいですか?」
つまり記憶のない、今だけの名前ということか…
確かに青年は不便に思っていた頃だったので、笑顔で頷いていた。
「イスカス、この地域の特有の言葉で大地に選ばれし英雄という意味です。ずっと考えていたんですが、まるで貴方はこの地に選ばれたように、あの場所に倒れていたので」
「英雄?俺はそんなにスゴい男じゃないと思う。そんな大それた名前、大丈夫なのか?」
青年は黒い瞳を、パチクリさせながらリールに問いかけていた。リールはそんな青年に、微笑んだのちに頷いた。
「はい。いいと思いますよ。…だって、その容姿も伝承に近いので」
「伝承?」
「この地方に昔から伝わる話です。この世界に闇が迫るとき、黒い髪に黒い瞳をもつ英雄が、この世界を守る。その名をイスカス、大地に選ばれし英雄だ。そのもの、どこから来たのかわからないが、未知の力を使い、この地にまた平和をもたらすだろう。…まあ、伝承なのでどこまで本当なのか、わからないですけどね」
「へえー。よくわかんないけど、スゴそうだな。でも俺なんの力もなさそうだけど」
「そんなこと、わかりませんよ。もしかしたら、かなりの力を持っているかもしれませんし」
言われた、イスカスと名付けられた青年は、自分の体を見渡し始める。とはいっても、なんの力もやはり感じられない。
「うーん、わかんないけど、まあ手伝えることは手伝うよ。このまま世話になりっぱなしも悪いしな」
「そうですね。一応男の方ですし、強そうですから今後の薬草つみの護衛頼みますね」
「護衛?危険なのか」
さっきまで笑顔で話していたリールの顔が曇っている。それをイスカスは心配そうに見つめていた。
「町は防衛の呪文や結界によって守られてますが、一度外に出ると、そうはいなかいのです」
「ふーん。なんかいるってことだな。…でも、俺に護衛出来るのかどうか、正直わかんないけどな」
そもそも、自分が何者なのかわかんない今、戦うすべすら知らない。
この世界に何故いるのか。
自分が何者なのか…
答えなど、自分の記憶にしかないため、解決の糸口すら見えない。
「なら、試してみては?これは魔物を斬るための剣です。これでどれ程動けるのか、そこの木人をつかって練習してみては。本来、我々の魔術の練習に使っているものですが、剣術に使っても問題ないですし」
「これで、その木の人形を…わかった。やってみるよ」
どのみち、何も出来ないままお世話になるのは申し訳ない、そう思っていたイスカスと名付けられた青年は、リールより渡された剣をとり木人に向き合う。
そこから放たれる殺気は、今までの雰囲気と一変していた。リールはだからこそ、この青年が元々、戦いに身をおいていたものだと確信する。
「うぉりゃー」
イスカスは奇声とともに、木人を真っ二つにしている。躊躇もないその様子は、戦いに慣れていることの証である。
リールは思わず拍手をしてしまった。
町にいる、騎士達よりも強いかもしれない。太刀筋がすばらしいのは、いつも傭兵に護衛を頼んでいるリールがよく知っていることだった。
「ごめん。木の人形を壊してしまった」
まさかそんなことを謝られるとは思ってもみなかったリールは思わず笑ってしまう。
この様子だと、性格も申し分なさそうだ。
「気にしなくてかまいません。もともとそのようなものですし、直りますよ、このくらい」
そう言って、木人を切り口通りくっつけ、リールが何やら呪文を唱えると、綺麗に元の形に戻っていた。
「スゴいな…それ」
「いえ、貴方の腕がスゴいのです。木に働きかけて組織をくっつけるだけですので、このように綺麗な切り口ならば再生することも可能です」
そう、見事としかいいようがなかった。
「そうなのか…でも、なんとか護衛できそうでよかった」
「私としても、強い方が護衛につくことは心強いですので。ですので、宜しければ記憶が戻るまで護衛をしてもらってもよろしいですか?」
「こっちこそ頼む。なんか、でも申し訳ないよな。こんなことで世話になるなんて」
「気にしないでください。私はとても楽しいので。そうそう、まだ薬草ストックあるので、暫くは体を休めて下さいね。急に動いて倒れられては困りますので」
「ああ、了解。…ごめん。見ず知らずの俺なんかのために」
「言いましたよね、我が家はそういう性分なので、気にしないでくださいと。…さてさて、もうすぐ父も戻ってくる頃合いなので、食事の準備をします」
「何か手伝えることないか?」
「じゃあ、切るの手伝ってください」