記憶のない青年と謎の世界   作:夢幻鎧武

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第12話

 取り合えず、次狙われるのはイスカスということで、聖騎士団は守ろうとしていたが、当の本人は別のことを考え始めた。

 

「ゼクス、あんたには言っとくけど、わざと奴等のもとへ行こうと思っている」

 

 騎士団の宿舎の一部屋をあてがらわれ、そこでイスカスを守るために、同室しているゼクスに話かけた。

 ゼクスは、ほうと言ったのち、少し冷たい目をイスカスに向けた。

 

「ワザワザ捕まって、どうするつもりですかい?」

 

「そうすれば、奴等がどこにいるか判明する。それに、リールを救うことも出来るかもしれない」

 

 その言葉に、なぜかゼクスが声を出して笑いはじめた。

 まるで、馬鹿にした笑いを浮かべてる。

 

「本気ですかい?…イスカス殿一人で、魔族全てを相手し、さらにリール殿を救う?面白い冗談ですな」

 

「冗談なんて、今話すわけないだろう」

 

 その一言に、さっきまでの笑いと打って変わって、鋭く冷たい視線をイスカスに向けた。

 

「そういうのは、可能な事をいってくれやせんか。奴らの強さを知っていて、一人行くなんて無謀ではなく、ただの馬鹿でしかない。行ったところで奴らの思う通りになるだけで、救うどころか、ただ捕まるだけ。そんなこともわからないとは…情けなくて仕方ありやせん」

 

「なんだと…」

 

「怒るのは勝手ですが、あんたは自分の立場をわかっちゃいねえ。はっきり言っとくが、いまのおめえには何の力もねえよ。確かに英雄と呼ばれ、女神様とやらに選ばれたのかもしれねえが、あんたはただの人間。少しばかり強いだけで、ただ、いきがってるだけだ」

 

 その言葉に、イスカスは何とも言えない顔になっていた。

 言い返すことが出来なかったというのが、本音かもしれない。

 実際、ゼクスのいう通り、悪い意味でも人間。

 確かに体がおぼえている、戦闘能力を使って何とかしてきたが、魔族の使う怪しい力に対処できる方法がない。

 

「そもそも、魔族相手に人間なんぞが勝てるはずねえんです。勝てるのは魔族同等いやそれ以上の力を扱えるもののみ。なのに、まるで自分は力があるなんて勘違いして、何の策もなく敵の懐に潜り込もうなんて考えるのは百年早いんですぜ」

 

 すべて当っていた。

 だからなのか、自然と笑ってしまっている。

 自分に力がないことを、情けなく思って。

 結局、英雄なんて名ばかりで、誰も助けることが出来ない。

 そんな思いで打ちのめされていた。

 

「俺は…一体…」

 

「決めるのは、あんた自身だ。まあ、この世界を救う手はあるちゃあ、あるんですがね」

 

 その救いの言葉に、イスカスは目を輝かせ、ゼクスを見つめた。

 そもそも、そんな方法があるのならなんで早く言わないという目だ。

 ゼクスはふっと笑うと、また妙な事を言い始めた。

 

「あんたじゃ無理だけど、頭にならこの世界を救うことができる」

 

「頭?」

 

 ゼクスはまた笑い始めている。

 よほどおかしいのか、さっきから笑いが堪えられないといった感じだ。

 だからこそ、イスカスは何をやってんだという冷たい目を向けていた。

 

「いや、すまねえな。…頭はワシが唯一認めるもの。さあて、今はどこにいるんだか、わかりゃしねえが」

 

 そう言って、イスカスに意味深な目を向けた。

 イスカスはその視線に、怪訝そうな顔をしたままでいる。

 

「わからなかったら、頼みようもないじゃないか。なんか、他にわかってることないのか?」

 

「そうですね、まず頭は人じゃございやせん。魔族に近いかもしれませんが、まあ魔族と関わりない方ですな」

 

 聞けば聞くほど、訳が分からなくなる。

 人ではないが、魔族とはまた違う?

 

「なんだそれ…他には?」

 

「そうですね…頭は異世界の住民といったほうが早いやもしれませんね」

 

「異世界?」

 

 異世界など言われても、もはや想像がつかなかった。

 そもそも、ここ以外に世界が他にあるなんて、理解ができない。

 

「そうですな、そろそろワシも、聖騎士団にいる必要がないので話しやすが、ワシもまた異世界の者って奴です」

 

「確かにあんたは、どこか普通の人とは違っているようだが…まだ信じられない」

 

「まあ、信じる信じないはあんた次第って奴ですわ。ワシは頭見つけるためにこの世界に来ただけなので」

 

「その頭の目的は?そもそも、異世界から何しにきたんだ?」

 

 その問いかけに、ゼクスはまた笑ってしまっている。

 

「最初はわかりやせんでしたが、呼び出されたんでしょうな。わざわざ、好き好んで異世界にいく人じゃ、ございやせんでしたからね。何より人質に、頭の大切な方とられたんで、従ったっていうのが本当のとこでしょうな。…まあ、黙ってこっちに来たようなので、実際のところは当人にしかわかりやせんが」

 

「さっきの話じゃ、この世界にいるけど見つかってないっていうことだよな。探し出す方法はないのか?」

 

「さあて、なんともお答えできやせんね。頭に何かあったというのはわかってやすが、それ以上は…まあ、時期がくればわかるんじゃないんですか?」

 

 悠長にそう言われたので、イスカスは立ち上がってゼクスにつめ寄った。

 その勢いに苦笑しながらも、ゼクスは軽く抑えるだけでイスカスの動きを止める。

 

「急いでるんだ。リールをどうしても救わないと…俺は…」

 

「急がなきゃ、魔族になるやもしれないって奴ですかい。まあ、ワシからすればありえないことですがね。…頭じゃあるまいし、そんなことできる筈ないんですが…それに、そもそもなぜ執拗にリール殿を狙ったのかが不明なんですよ。イスカス殿が狙われる理由は簡単ですが」

 

「リールが狙われるのは、あんたでもわからないんだな。で、俺は英雄かもしれないから狙われるって奴か」

 

 その言葉に、なぜかゼクスはため息をついていた。

 

「あんた、ほんと思い出す気あるんですかい?」

 

「なんで、俺の記憶と狙われることが関係あるんだ?なんか、リリアとかいうあの神官にも、陛下とか呼ばれたし」

 

 その言葉には、ゼクスはすぐに反応する。

 

「奴はそんなこと言ったんですかい?全く、なにやってんだ。話が違うじゃねえか」

 

「だから、なんだ」

 

「…はあ。そろそろ頃合いかもしれませんな。自分が何者か思い出すのも。このまま呑気に待ってるのも疲れやした」

 

「思い出す?…お前もあのリリアと一緒で俺が何者か知っているという事か?」

 

 なんで異世界の住民が、自分のことを知っているのかわからないが、そこに何か秘密があるのならとそういう目で、ゼクスを見つめる。

 

「ついてきやすかい?もしかしたら、そこでなら思い出すやもしれませんからね。そうすれば、頭がどこにいるかもよくわかりやすよ。頭の事をよく知ってるのは、あんたなんですから」

 

「俺が…じゃあ、おれも…異世界から?」

 

「まあ、答えはそこにある。どうです。行ってみやすか?」

 

 正直、イスカスは迷っていた。

 このまま行ってしまったら、もしかしたら魔族がその間に…

 そんなイスカスの気持ちを見透かしてか、ゼクスがまた冷たい目を向けた。

 

「言っとくが、今のあんたにはなんもできねえ。まあ、あっち行っても記憶取り戻せるかわかんねえが、まあ、行くか行かないか決めるのは、あんた自身だ。あんたが考えたらいいだけの話だ。それにワシは、あんたほど急いでるわけじゃねえからな」

 

「わかったよ。行こう。…確かに、俺がこんなことを悩んだって、何の解決もしない。俺が何者せよ、俺に謎を解くカギがあるんだったら、それを見定める必要がある」

 

「いい心がけじゃねえか。大体、端からこうすりゃいいもんを、ビルスの奴が…」

 

 そのビルスという名に、聞き覚えがあった。

 イスカスはじっと考えて、はっと思い出していた。

 

「リリアが、あのマーガレットとかいう魔族と話していた時に出た名前だ」

 

「あいつ、そんなことまで話したんですかい?あと、マーガレットは裏切り者ですぜ。リリアでしたっけ、奴はそんなこと言ってませんでしたかい?」

 

「ああ、言っていた。陛下の意志こそ尊重されるべき。決める権利は陛下にしかないとか…陛下は俺ってことだから、俺にしか決める権利ないって、変だと思ったが・・・」

 

「文字通りですぜ。とくにあいつは、陛下のことしか頭にねえですからね。さて、あんま悠長にしてると外に気付かれるやもしれませんぜ」

 

 最初に言った通り、ここは聖騎士団の宿舎の一部屋。

 今はゼクスと二人きりだが、いつ人が入ってきてもおかしくない。

 行くとしたら、今しかないといったところだろう。

 

「わかった。行こう」

 

 そう言った瞬間、ゼクスがさっと右手を翳した。

 その場所に、何か不思議な空間の入り口のようなものが開く。

 見えているのは、魔の森のような植物が生えているが、こちらの魔の森より明るいそんな雰囲気の場所だ。

 

「ついてきてください。下手に離れたら、あんたのこと知らねえ奴が襲ってくるやもしれませんので」

 

「俺が元いた世界なんだろ?なんで俺の事を知らないんだ?」

 

「まあ、よく見たらあんたとわかるかもしれやせんが、あんたが元々そういうもんだと知らねえ連中もいるって話です。まあ、ワシの傍なら安全なんで、わかりやしたか?」

 

 よくわかっていなかったが、ここは頷いとくところだろうと、そう考えたイスカスは、静かに首を縦に振った。

 それに満足したのか、すこし笑みを浮かべたゼクスがその空間に入っていく。

 イスカスは、生唾を飲み込みながら、その謎の世界へと足を踏み出した。

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