記憶のない青年と謎の世界   作:夢幻鎧武

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第13話

 そこは、魔の森に似ているが、魔の森にはいなかった動物や鳥類など、本当の森に近かった。

 あと、先にも言ったとおり、日が差し込み、魔の森とちがって明るい印象を受ける。

 とは言っても、辺りは森ばかり。

 何か目印というのがあるわけではない。

 そのため、ゼクスと離れたら確実に迷子になりそうだった。

 

「ここが、本来俺がいた世界なのか?」

 

「そうですぜ。ここが、あんたの世界。こんな感じで驚いたのか?」

 

 そう言って、ゼクスはどこか意地の悪い顔をしていた。

 イスカスは、正直驚いたが…確かにどこか見覚えがある気がしていた。

 

「この世界であんた達は、何をしてんだ?」

 

「何って、そうですな…まあ普通に暮らしてやす。なんかここに侵略者現れたり、頭のワガママに付き合ったり…そんなとこですかな」

 

 暮らしていると言っても、見る限り住居の類いが見えない。

 そもそも、今のところ動物以外は見かけていない。

 

 そうやってゼクスの案内されるがまま、後をついていたイスカスだが、途中で子供の姿を見かけ足を止めていた。

 子供は、なぜか手招きをしている。

 イスカスは、首を捻りながら、さっとゼクスがいた場所を見てみたが、止まっているうちに先に進んだらしく、その姿が見当たらなかった。

 子供達の姿もなぜか消えている。

 まるで、狐につままれたような感じであった。

 完全にはぐれている状況に、頭をかきながらも、少しこの森を見回してみた。

 それだけで、なぜか勝手に動物達が集まってきている。

 嫌な気はしないが、何か不思議な感じをイスカスは受けていた。

 

 この感じ…前にどこかで…

 

 イスカスは、ふと目を閉じてみる。

 森に咲く花の匂いや、森の木々の安らかな香りが鼻を通り抜ける。

 心地のよい雰囲気に、なぜかイスカスの心は和んでいた。

 本当にここが、自分の元いた場所かもしれないと、そう思えるようになる。

 

 だが、それは同時に、自分は異世界から来た者だということを、認めることになる。

 

「俺は一体…何者なんだ?」

 

 自分の中に答えがある筈…なのに、その答がなかなか出てこない。

 靄がかった感じで、全く晴れない。

 

「ほほう、この世界に侵入者と思ったが、まさかお前だったとはな…」

 

 紫色の瞳に、同じく紫色の髪をもつ青年が、イスカスに話しかけてきた。

 黒いまるで執事のようなスーツに、右手に何やら手帳のようなものを持っている。

 優しそうな笑みだが、どこかイスカスを馬鹿にしているようにも見える。

 

「あんたは?」

 

「なるほど…記憶を取り戻してないということか。あの筋肉バカは、言いつけも守れないようだな」

 

「質問に答えろよ」

 

 イスカスのそんな突っ込みを無視したのち、何やらブツクサ言いながら、なぞの手帳を開いていた。

 一方のイスカスは、これ以上関わりたくないと、その場を逃げ出そうとした。

 だが、信じられないことがおこる。

 森にあった、魔の植物に似た、謎の植物の蔦がイスカスに絡みつこうとする。

 それを感知して、さっと避けたが今度は近くの植物が、絡み付いてきて、もはや動けなくなってしまっていた。

 

「離せ。俺はこんなとこで、こんなことをしてる場合じゃないんだ」

 

 その発言に、紫の男はイライラとした感じを見せた。

 

「それは我々には、関係のないことではないか。急ぐのはお前の問題だろう。…さらに言うなら、この程度もどうにかできぬようでは、魔族とかなのる連中を相手すら出来ないだろう」

 

 まさか、ここで魔族という名が出てくるとは、思っていなかったイスカスは、不審そうな目を紫の男に向けた。

 

「なんでそんなことを知っている。お前は魔族なのか?」

 

「魔族という名は、奴等が勝手に呼称しているだけのこと。我らが言っている訳ではない。それに、魔族はどちらかといえば、お前のことであろう。我らは魔族というより、魔物が進化したといった方が良いだろうが、ワザワザそんな言い方、ここではしていない。そもそも、ここにいるのはそういう者のみだからな」

 

「お、俺が魔族なのか?…それに魔物が進化した?なんだそれ。…俺はじゃあ…魔王なのか?」

 

「本当にお前はバカか。ワザワザこの世界でそんな言い方はしないと、さっき言ったばかりだろう。お前はこの世界の者であの世界の者でない。即ち、あの世界での王など、ありえない話だ」

 

 頭がこんがらがって、いきそうだ。

 そもそも、イスカスのことをリリアは陛下と呼んでいた。

 つまり、王という意味だろう。

 ただ、ゼクスもこの紫の男も言っているように、自分がこの世界から来たのは本当のことらしい。

 

「俺はこの世界の王なのか?」

 

「今のお前ではない。イスカスとかいう名の男は知らぬ。我らが認めるのは一人だけだ。…まあ、お前がちゃんと思い出せば、全ての疑問も解けるだろう。ただ、それまでの間は、そこでもがいてろ。少し反省もこめてな」

 

 はあ?

 そんなこと、言われても…

 

 そんなイスカスの気持ちとは裏腹に、その謎の男は姿を消してしまった。

 

「おい、俺はこんな暇ないんだ」

 

 そう叫んだが、その叫びはただ虚空に響き渡っただけだった。

 もはや、その男の姿はなく、謎の植物で身動きの取れない、イスカスのみが残されていた。

 

 一体何なんだ?

 俺はそんなに、嫌われているのか。

   

「何なんだ?」

 

 身動きの取れない上に、訳のわからない状況におかれ、イスカスは何をしていいのかも、わからなくなっていた。

 そもそも、まだ記憶も戻っていない。

 それどころか、一刻も早く、リールを助けないといけない。

 それなのに、身動きすら取れない。

 

「あんた。何やってんの?」

 

 一人の少年が、イスカスをそう見上げている。

 最初に手招きをした、あの少年に似ている。

 

「訳わかんないやつに、こんなことされて。反省してろとか…君はここの世界の子かい?」

 

「そうだけど。ビルス様がお仕置きって、あんた何者?普通なら容赦しないんだけどな、あの方。拘束だけですむなんて」

 

 よく分かっていない、イスカスは眉をひそめる。

 少年は、ただ不思議そうにイスカスを見つめていた。

 

「あいつが、ビルスとかいう奴なのか?」

 

 何度か名前は聞いていたが、実際会わないとわからない。それに、ビルスとかいうあの男は、自ら名乗りもしなかった。

 

「知っているの?ビルス様を」

 

「ゼクスから名前は聞いて知っている。どうしたんだ?」

 

 少年が口をアワアワさせているので、イスカスは思わず首を捻っていた。

 

「だってゼクス様も知ってるなんて…ほんと、何者?ただの人じゃないよね?」

 

「正直、わからない。俺は記憶がないから。…ただ、ゼクスに言われたんだが俺は元々ここの世界にいたらしいんだけど…全く思い出せなくて」

 

 その言葉に、驚いたとともに信じられない目でイスカスを見る。

 イスカスはその視線を感じて、どうしたんだという顔を見せていた。

 

「もしかして…陛下?」

 

 この少年にもそう言われるとは思ってもみなかった。

 

「そう呼ばれていたみたいだけど、そうなのかどうかも」

 

「ちょっと、待ってください。僕がこれ解きますね。ビルス様も人が悪い。陛下だってわかって、こんなことしてるなんて…って、記憶ないってどうしたんですか?皆急に消えてびっくりしたんですからね」

 

「だから、本当に俺がその陛下かわかんないし…何より、そんな風に急に敬語使われるの苦手だし…」

 

 そう言った途端、少年は近づいてきて顔をじっとのぞきこんでくる。

 それにイスカスは照れるが、そもそも身動きが取れない状態なので逃げようがない。

 まるでキスをするような近さで、じっとイスカスの瞳を少年が見ていた。

 

「やっぱり、陛下だよ。この瞳は忘れられないです。確かに、なぜか知らないけど人になってるようですが、僕、陛下好きだったから、間違いないです」

 

 そう言いきられたうえに、好きだったなど、間近で言われたため、照れてイスカスの顔が赤くなってしまう。

 

「仮にそうだったとしても、今の俺には記憶ないし、何の力もないから」

 

「じゃあ、何があったのかもわからないんですね。あ、とにかくヘルヘイムの植物外しますね」

 

 そう言って、少年の右目が赤く光るとヘルヘイムの植物が、イスカスの体から退いていく。

 ようやく、自由になったイスカスは背伸びをすると、少年に笑いかけた。

 

「ありがとうな…えっと…」

 

「あ、僕はルキアです…でも、気を付けてくださいね。この世界、人間をあまりよく思わない人多いですから。陛下とわかんなかったら、襲う者もいるでしょうから」

 

「人を憎んでいるのか?」

 

「憎んではいないです。ただ、人は弱い存在ですからね。でも僕は陛下と同じで、あんまり蔑んだりするの好きじゃないから、距離をとるという今の状態が一番だと思ってます。陛下は、いつも人の味方していましたし」

 

 その言葉に、イスカスはほっとしていた。

 もしかしたら、自分かもしれないものも、人を信じているというのは救いだった。

 だが、ここも人を蔑むものがいるというのは、正直つらかった。

 

「魔族と同じなのか?」

 

「魔族ってなんですか?」

 

 そういえば、魔族はあの連中が勝手に言っている名だと言っていた。

 どうやら本当らしく、少年は本当にしらないようだ。

 

「いや、なんでも…あのさ、俺ってそんなにすごい力持っていたのか?」

 

「その答え、僕にはわからないです。あんまり力を使わないようにしてたみたいですし、何より、戦う事なんてなかったからですから。大概、ビルス様が止めてましたし」

 

 戦っていなかったから、力を知らない…

 でも、何人かは自分の力の事を知っていると様だ。

 つまり、限られたものにしかしゃべってなかったということなのか?

 全てを知っているのは、ゼクス、ビルス、あとはリリアのみのようだ。

 

「そうなのか」

 

 問題は、このままではあの世界に戻ることもできないし、何よりリースを助けるためにも、自分のことを思い出す必要がある。

 

「あと、さっき使った力って、自然に使えるのか?」

 

「はい。僕たちなら簡単な事しかできませんが、使えますよ。…あ、でも。普通の人には無理ですよ。オーバーロードじゃない限り」

 

「オーバーロード?」

 

「はい。陛下や舞様がそうです。僕たちはインベスの進化したものですから、違いますけど」

 

 自分がオーバーロードという者だと言われても、それがいまいちわからない。

 インベスという名前を聞いても、どんなものなのかも想像つかなかった。

 

「意味が…」

 

 そう言おうとしたとき、なにか違和感を感じる。

 突然空気が重く感じ、なにか嫌な予感がした。

 それが何なのかわからない。

 

「どうしたんですか?」

 

 少年が心配そうにしていたが、その説明をする前にあいつは現れた。

 マーガレットという名の、あの魔族だ。

 

 少年はそれを見つけて、驚いていた。

 

「マーガレット様。どうしたんですか?」

 

 確かゼクスの話だと、マーガレットは裏切り者だという話だ。

 少年は、なぜかそれを知らないらしい。

 マーガレットは少年に笑いかけたのち、イスカスの顔を愛おしそうに見つめていた。

 

「恐らくここだと思いました。それに、そのお守りのおかげで、貴方様の居場所はいつでも分ります。…そろそろ参りましょう」

 

 まるで、ダンスに誘うかのように、マーガレットがイスカスに手を差し出した。

 イスカスは、後ろに下がって逃げようとするが、マーガレットが魔の植物に似ているあの植物を操ってイスカスの身動きを止めている。

 

「何やってるんですか。陛下にこんなことするなんて」

 

「ルキア、貴方はそこにいなさい。これはこのお方にとって必要なことなんです。御記憶を戻していただけためにも。それにこの方はここの世界の陛下とは別の方です」

 

「え…」

 

 そうは言われても、確かに容姿は違っているが、顔や目はそのまま、この世界の王であるものである。

 だからこそ、ルキアは訳がわからなくなっていた。

 

「いい加減にしろ。俺は魔王になんてならない。そもそも、リールとキャジャを返せ」

 

「その二人と引き換えといえば、来ていただけますか」

 

 様子がおかしいので、状況がわかってないルキアは目が点になっていたが、マーガレットが普通じゃない事はなんとなくわかったのか、イスカスの傍にキョトンとしながら立っていた。

 

「今すぐ解放しろ。じゃなきゃ俺は行かない」

 

「なるほど、確かに見せなきゃ信用していただけませんよね。ですが、今はその時期ではありません。あの二人を見せるわけにはいけないので」

 

「どういうことだ。あの二人に何をしてる」

 

「さあ、一緒に来ていただければわかりますよ。さてとどうしますか?」

 

 そう言って笑いかけている、マーガレットにますますルキアが頭を痛めている。

 

「マーガレット様、あなたは何をしようとしてるんですか。陛下ならこの世界にいてこそ、意味があります。どこに連れて行こうとしているんです?」

 

「だから、先ほどから言っているでしょう。この方は魔王であり、貴方の陛下ではない」

 

「でも、どうみても陛下です。僕は陛下を見間違えたりしません。それに、この方がこの世界の陛下じゃないというのなら、マーガレット様はこの世界を捨てられたということですか?」

 

 ルキアの質問攻めに、もうといいつつ、ルキアにもイスカスに使ったあの術を使うが、ルキアはそれに抵抗して抑えている。

 

「僕だって、ある程度は扱えます。陛下を無理やり連れていくというのなら、マーガレット様は敵でしかない。僕はあくまで、陛下の味方ですから」

 

「関係ないと言っているでしょ。この方は貴方の陛下とは違う」

 

 そもそもの実力は、マーガレットの方が上である。

 気付いたら、ルキアが押され始めた。

 

「やめろ。俺が行きゃいいんだろ。ルキアに手を出すな」

 

 イスカスはたまらなくなり、そう叫ぶ。

 その言葉に、マーガレットはニヤリとほほ笑むと、イスカスの植物をほどいていた。

 

「だめですよ、陛下」

 

 イスカスがマーガレットの元へ自ら行こうとしたとき、さっとあの植物とともにあの、紫の男、ビルスがイスカスの前に現れ、マーガレットを睨みつけていた。

 

「生憎、この男を貴様なぞにやるつもりはない」

 

「ビルス…やはり出てきたか。では、一言だけ。間違えなく、陛下は自ら私の元にやってくる。その意味は陛下にならわかるでしょ?今回はこれで」

 

 そのまま逃げ去るマーガレットをビルスは、ただ何もせず見ていた。

 そののち、縛り付けられたルキアの植物を解くと、さっとイスカスを睨みつける。

 

「お前は自覚をしろ。確かに今のお前は私の知っているお前ではない。だがな、お前はこの世界の王である、あの男の記憶を持つもの。お前に何かがあれば、あいつに何かある事になる。我らにとって、お前の世界など興味のないことだ。我らが恐れるのは、あいつを失う事だ。お前はその自覚をしろ」

 

「訳の分からない事を言うな。俺のためにこれ以上傷つくひとを、見たくない。それに、あいつが言っているのは恐らく、リールとキャジャと引き換えに俺を…そうなったら、もう行くしか」

 

「相も変わらず、甘い考えだ。お前とあいつは違っていても、そんなところだけ一緒なのは勘弁しろ。お前は結局、何の力もない。それが分かっているのだろう」

 

「それは…」

 

「どのみち、お前は自力でこの世界を出ることすらできない。ならば、しばらく大人しくしていろ。それが嫌ならば、早く思い出して、あいつに戻ればいい。そうすれば答えは見えるだろうからな。というわけで、お前の見上げた陛下好きはしっているが、手を出すなよルキア」

 

「ビルス様、それでは陛下が」

 

「ルキア、それはあいつのためにならない。それどころか、危険になるだけだ」

 

 ルキアは何も言わず、そのまま消えて行った。

 残されたイスカスにも、確かにどうすることもできない。

 

「仕方ない。お前のよく知るあの場所に送ってやろう。そこでしばらく思い出すがいい」

 

 そう言って、イスカスに変な術を使い、強制的に転移させられた。

 

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