記憶のない青年と謎の世界   作:夢幻鎧武

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第14話

「しかし、ビルス。貴様やりすぎじゃねえか」

 

 イスカスがいなくなった後、ゼクスがさっとその場に現れていた。

 そんなゼクスにビルスは冷たい目を向ける。

 

「あの男のままでは、いつかは死んでしまうだろうな。あれは人でしかない」

 

「それはわかっているし、あれは頭じゃねえのも理解してる。だが、あのままじゃあ」

 

「だからお前は筋肉バカだと言っているんだ」

 

 その一言に、ゼクスはビルスに殴りかかりそうになったが、ビルスはふっと笑うとそれをさけ、さっと持っていた手帳で、ゼクスの頭を殴った。

 

「いてえ・・・貴様」

 

「そもそも、お前が勝手にこの世界に連れてきたんだろう。まあ、あの男に免疫が出来ていたからよかったものの、人にこの世界は…まあ、関係ないことか」

 

 なぜここまで、心配してしまうのかビルス自身わからなくなっていた。

 確かに、あの男を陛下に仕立てるとビルスは宣言したが、あの男はそれも望んでなかった。

 

『それでも、お前がここにいるなら、そうするしかねえか。お前ほどの頭脳の持ち主いないしな。俺も舞も、そういうの苦手だし』

 

 あの言葉が決めてになっていた。

 それほど、自分の事を必要とするのなら…

 しかし、あの男は本当に可笑しな男だ。

 あれほどの力を持っておきながら…

 

「何があったのか、結局わからないのだな」

 

「ああ、リクシアも探ったらしいが、舞様を神官長がどこかにやったってまでしか」

 

「あの力を、どうにかできるなど、考えたくないがな。まあ、昔聞いた話ではあの力自体は、あいつか舞様にしか使えない。だからこそ、悪用されることはないらしいが…その力を完全に失った上に、記憶すらないとは」

 

「まあ、元々人間だったってことが効いてんじゃねえか。力を封印されたからこそ、人に戻ったとか」

 

「筋肉バカの割には、的を得ている。どちらにせよ、あいつが戻ってこない限り手の打ちようがない。それに、お前が勝手な事をして、聖騎士に戻れなくなってる今、あっちの情報はリクシアとサリアに任せるほかないしな。難点は、リクシアはあいつの命令以外受け付けない事だが」

 

 リクシアとはリリアの本当の名だ。元々この世界で、陛下と呼ばれるあの男の護衛などをしていた。陛下の命令は聞かないと少し困った少女だが、それなりの実力を持っている。

 サリアは、ビルスの直属の部下だが、今はあの世界のどこかで探らせているようだ。

 

「その辺は、今回協力するって言ってるし、どうにかなるんじゃねえか。まあ、ワシも頭戻ってきたら、頭の命令しか聞かねえけどな。お前に協力しているのも今だけって奴だ」

 

 そんなゼクスに、ビルスはため息をついていた。

 

「なんで、この世界はこういう奴が多いのだ」

 

「そりゃ、頭の世界だからだろ。あんたも、頭のこと好きだから、片腕してるんじゃねえのか?」

 

「私が奴を…勘弁してくれ」

 

 そう言ったビルスであったが、正直のところよくわからなかった。

 ただ、あいつの居場所が本当に分らなかったときは、自分でもおかしくなるくらい心配していたのはわかった。

 今まで、こういう事がなかったためか、あいつを失うという意味を本当に実感していた。

 

「で、ワシはそろそろ、あの男の近くにでも行ってきやすかね。また、あの裏切り者に狙われるのも癪なんで」

 

「確かに、あの女にとられてはな。…ところで、あの女の姉はどうした?」

 

「ああ、相も変わらず籠ってるさ。恐らく、あの男が帰ってきているのも知らねえんだろうよ。まあ、教えるつもりもねえけどな」

 

「まあ、教える義務もない。さてさて、私は私で動くとするか」

 

「せいぜい、気をつけろよ」

 

「誰に言っている。貴様もせいぜいあがけ。筋肉バカ」

 

 そのままビルスが消えるのを、ゼクスはさっと睨みつけていたが、やがて深いため息をつくと、あの男がいる、あの場所に移動した。

 

 

 その場所は、静かな高台でこの世界の事を見渡せる場所であった。

 この世界の陛下と呼ばれし存在が、好んでよく来る場所である。

 

 見渡す限り、自然にあふれ、上空から差し込む光が、水面を照らしてキラキラ光り輝いている。

 記憶はないが、確かにいて苦にならない世界である。

 

「ここに何が…」

 

 そっと高台の近くにある、大きな木の傍に不自然に大きな石が置かれてあるのを見つけていた。

 イスカスはそっと近寄ると、その石に目を向ける。

 何も書かれていない、その石だが…

 なぜか、鼓動が高鳴っていく。

 さらには、目から自然と涙が溢れ落ちていた。

 

「なんで…」

 

 そっと溢れ出る涙を、手の甲でふき取る。

 それがなんなのかわからないのに、悲しくなってくる。

 

「こんなに涙が…なんで…」

 

 どうしたのか、自分でもわからない。

 イスカスとしての部分とは別の何かが反応している気がする。

 

「こんなとこにいたんですかい」

 

 泣いていたイスカスは急いで、涙をふき取ってさっと、声のした方に向きを変えた。

 

「ゼクス、お前どこいたんだ?」

 

「それはこっちのセリフですわ。ワシは言ったはずですぜ。はぐれたのは、自分じゃないですかい」

 

「そうだな」

 

 最初に足を止めたのは自分だった。

 結局、あの時なんで呼び止めたのか聞かなかったが、あのルキアという少年が呼び止めていたからだ。

 ゼクスは苦笑すると、そっと一言言っていた。

 

「頭って、おかしな奴で。ワシなんて、力だけであのゼクスに筋肉バカとしか言われないような男なのに、みんなそれぞれの個性って、それぞれ意味があることだから、ゼクスが必要だ。とか言ってくるんですぜ。でも、その言葉のおかげで、ワシは自身を持って頭の傍にいられるんです。まあ、頭は頭って呼ばれるの嫌ってますがね」

 

「どうして、頭の話をしてくれるんだ?」

 

「話したくなったんですわ。頭がどこにいるのか、あんたは知っているから。ワシはこうしていても頭に会いたいといつでも思っているんですぜ」

 

「そっか。ありがとうな。大切な人の話を、俺なんかにしてくれて」

 

 その言葉に、ゼクスは思わず笑ってしまう。

 

「まあ、あんただから話せたんでしょうな。それで、思い出せそうですかい?頭がどこにいるのかも」

 

「いいや、全く。ただ、この世界が俺がいた世界だというのはなんとなくわかった。ありがとうな、ゼクス」

 

「まあ、こんくらいなら」

 

 そのあと、イスカスは決心した瞳で、ゼクスを見つめた。

 

「あのさあ、こんなこと頼むと、何の力もないのにって言われるのはわかってる。でも、あの世界に戻してもらっていいか?俺はやっぱ、力なくてももがく方が性にあってる」

 

「そいつはダメですぜ。言ったでしょ。あんたは頭の居所を知っている唯一の手がかり。あの世界を救うのも頭しかいないんですから」

 

「それはわかってる。でも、このままここにいても、俺は何も思い出せないと思う。それならさ、足掻けるだけ足掻きたいんだ。人としてできることをやってみたい。例え敵わない相手でも、立ち向かって行かなきゃいけないんだ」

 

「そう言うとこだけ、あの方に似てるんすよね。しかし、どうやって足掻くんですかい?」

 

「さあて、どうしようかな…でも、ここに来たおかげで、何とかできる気がした」

 

「ここに来ても、何も変わりゃしねえと思いますがねえ。その答えじゃあ、戻すわけには」

 

 ゼクスにそう言われたイスカスは、なぜかゼクスに笑いかけた。

 

「そっか。やっぱダメか。じゃあ、散歩してもいいか。ここ飽きちゃって」

 

「まあ、ワシはあんたを押さえる権利ねえですから。あんたにはクラックを開く能力ありやせんし、好き勝手にしたらいいですぜ。ただ、ワシは一応守りやすが」

 

「そっか。でも、俺一人で行きたいんだよな。折角だし」

 

 そういうと、イスカスはそう言うと、さっと走り出していた。

 ゼクスは呆気にとられていたが、やがてまずいと急いで走るが、そもそも足が速いらしく、気付いたらその姿を見失っていた。

 

「何考えてるんですか」

 

 ゼクスはそう叫びながら、急いで探し回っていた。

 そんなゼクスをしり目に、わからないところで木に登って隠れていたイスカスがさっと地面に飛び降りる。

 

「さてと、こっちから声が聞こえたよな」

 

 ずっと気になっていた。

 女性がすすり泣く声が、あの高台にいた時から聞こえていた。

 それが気になり、聞こえてきた場所へ行く。

 ゼクスをまいたのも、それが目的だった。

 

 そこには薔薇の中に、一人しゃがみ込み涙している女性がいた。

 美しいバラから、いい匂いが周辺に充満していた。

 

「何泣いてんだ?何かあったのか?」

 

 イスカスに声をかけられた女性は、冷たい目でイスカスを見つめている。

 

「貴方は何者です。ここは貴方のような人間が来るべき世界ではない。早く戻りなさい」

 

「戻りたいけど、戻る方法がなくて…それでここから泣き声が聞こえたから気になって」

 

「仕方ない。どこから来たの?」

 

「異世界としか…連れてこられたから」

 

 連れてこられたという言葉に、女性は怪訝そうな顔つきをする。

 

「最近開かれたクラックの痕跡を探って、送るわ。二度と来ないで」

 

「ありがとう。助かる」

 

「別にあんたのためじゃない。ここで私は静かにいたいの。邪魔されたくないからよ」

 

 イスカスはもっていた、ハンカチのような布をさっと女性に渡していた。

 女性はふっと笑うと、それを受け取っている。

 先ほどまで泣いていたのがウソのようだ。

 

「なんかしんないけど、あんま思いつめないほうがいい」

 

 そう言って心配そうな顔つきでいるイスカスに、女性はふんというと言い放った。

 

「あんたになんか、わかんないわよ。…さあ、行きなさい」

 

 そう言って、さっとクラックと呼ばれる入口を開くと、その先にあったのは聖都の姿だった。

 見覚えあるその姿をみて、そっとイスカスはほほ笑んだ。

 

「ありがとう。もし誰かが俺のこと聞いても、黙っててもらえないか」

 

「生憎、私は主様しか興味ないから。勝手にいきなさい」

 

「そっか。…じゃあな」

 

 女性は不審そうに見届けると、また薔薇の花のあの場所に戻る。

 なぜか、先ほどの青年が忘れられない気がしていた。

 その顔には自然と笑みがこぼれている。

 そんな女性の元に、ものすごい形相をしたゼクスが来たのは、それからしばらく後の事だ。

 

「ここでクラック開いた気配がしたんだが、ここに変な男こなかったか?」

 

「変な?さあ。私は今忙しいの」

 

 そっと布を隠しながら、女性はそう言っている。

 ゼクスはクラックを開いた先を追おうとしたが、そもそもこういう術はこの女の方が上で読み取れない。

 

「貴様、あいつを勝手に送っていったんなら許さねえぞ。あの男は人間。あの男になんかあったら」

 

「なんかあったら、何よ」

 

「大切な存在を失う事になるってわけだぜ。お前が探し求めたな」

 

 だが、女性はただただ笑っていた。

 

「何の話。だから、ここには誰も来ていないから。あんたも変な事言っている暇あるなら、その男探せば」

 

「ちっ、あとで覚えておけよ」

 

 消え去るゼクスに、ふっと笑った女性は、そっとしまいこんだ布に目をやっている。

 

 これでいいんですか?

 せめて、私にできる罪滅ぼしです。

 あの子を止められなかった。

 私にはあの子を倒すことはできない。

 記憶がなくても、貴方は変わっていません。

 私にとっての主は貴方のみです。

 

 ローズはそう心の中で告げると、もう泣くことはなかった。

 主が無事でいることを、確認できたそれだけで、もう前に進むことが出来る。

 自分が出来ること、やることをただ頭の中で考えるだけだった。

 

 

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