記憶のない青年と謎の世界   作:夢幻鎧武

15 / 20
第15話

 イスカスが騎士団の宿舎に戻ると、ファルコンがイスカスに駆け寄ってきた。

 無事でいることを確かめ、ほっとしたようだ。

 だからなのか、イスカスは少し笑みを浮かべている。

 

「大丈夫なのか。急にゼクスと共に消えたから、心配したんだ」

 

 急に宿舎のイスカスの部屋が静かになったため、心配になって、聖騎士が飛び込んだところ、誰もいなかった。だからこそ、探し回っていたらしい。

 なんせ、護衛を頼んだはずのゼクスまでその姿がなかったのだから。

 イスカスは申し訳なさそうな顔をして、その問いに答えた。

 

「大丈夫だ。ちょっと散歩行ってただけだから。…それより俺はもう一度、神官長に会わなきゃいけない。案内してもらってもいいか?」

 

 自分一人で行けば、途中で護衛に捕まるのは目に見えている。

 特に魔族からの襲撃を受けて以来、神殿の防衛は強固なものになっている。

 だからこそ、ファルコンに頼むしかなかった。

 だが、今更また神官長にあいたいなんて、理由がわからないファルコンは首を捻っている。

 イスカスの事は信用しているから、反対するつもりはないようだが。

 

「構わないが、会ってどうするんだ?」

 

「女神様の力を借りようと思っている。この世界を救うには女神様の力が必要だからな。俺は女神に選ばれた英雄なんだろう?なら、きっと女神様も俺に力を貸してくれるはずだ」

 

 その目は真剣な目で、冗談で言っているようには思えなかった。

 そもそも、戻ってきたイスカスの雰囲気が若干だが変わっていた。

 何かを決心した、そんな目をしている。

 今までの迷いが全て消えたような目を…

 

「確かに、そこにかけるしかないか」

 

 どのみち、このまま手をこまねいていたら、何が起こるかわからない。

 聖騎士団でも、魔族相手に太刀打ちできるかどうかわからない状況。

 状況もどんどん悪くなるばかりだ。

 だからこそ、希望のためにも、イスカスを信じるほかなかった。

 

 

 ファルコンの案内の元、またあの神官長の部屋を訪れる。

 部屋の前には、あのリリアという神官が立っていた。

 リリアはイスカスから、事情を聴くと、すぐに神官長に取り次ぐ。

 そもそも、リリアにとってはあくまで、イスカスこそ自分の主であるから、反対するつもりはない。

 

「こっからは、ファルコンには席を外してほしいんだ。少し込み入った話も出るだろうから」

 

 真顔でそう話しかけられ、ファルコンは首を捻っている。

 

「込み入った?まあ、非常時だからそんなに騎士団を空けておけないからいいが…ちゃんとあとで顔を出せよ」

 

 そう、今はいつ魔族が襲ってきても仕方ない状況。

 ゼクスがいなくなってしまい、イスカスの護衛がいないのは少し心配だが、もはや人数も避けない状況だ。

 まあ、神殿内にも神殿の警護のため聖騎士達がいるので、なんかあったとしてもすぐに駆けつけるはずだ。

 だからこそ、イスカスを信用してここは任せることに決めた。もっとも、少し疑問に思ってこともあったが。

 

「そうするよ。…ファルコン、この世界の人たちを頼む」

 

「なんだいきなり?当たり前の事だ」

 

 ファルコンは不審そうに首をかしげながら、この神殿を後にしていく。

 そもそも、なんでイスカスが急にこんなことを言い出したのか、全く理解できないようだ。

 

 この世界の人たちを頼む…

 そんな言葉が、どこか耳に残って仕方なかった。

 なぜ今更そんな事を言ったのか…

 ファルコンは、少し嫌な予感がしていた。

 

 一方のイスカスも、戻ってきたリリアとともに神官長の元へ歩いていく。

 その途中で、なぜかイスカスはリリアに話しかけてきた。

 

「そういやあ、探している人は見つかったのか?」

 

「いいえ。全く手がかりも」

 

「そっか。見つかるといいな」

 

 その言葉に、リリアも首をかしげていた。

 何か、イスカスが変だ。

 まるで、何かを覚悟しているような感じがして…

 それがとても、嫌な予感がしている。

 ただ、イスカスの顔はいつもの何事もない顔に戻っていたため、気のせいだとそう考えることにした。

 

 あの時のように、部屋を開けると神官長が執務室の椅子に座ってこちらをみていた。

 イスカスはその視線に笑みで返し、静かに用件を告げる。

 この場で、神官長への遠慮はいらない。

 リリアもそもそも、目的があって神官長の傍にいるだけで、決して神官長側ではない。

 

「女神様にあわせてくれ。一応、あんたに許可がいるんだろ?」

 

 この神殿の全権をもっているのは、この神官長のみだ。

 だからこそ、この神官長に話を通す必要がある。

 

「一応な…いいが、どうするつもりだ」

 

 女神像について知っている、イスカスに隠しても仕方ないことだが、理由を知る権利くらいあるだろう、そういう顔をしている。

 そもそも、前の件をイスカスとリリアが黙っているから、その貸しを返せるならこれくらいかまわない。そう思っているのだろう。

 

「ちょっとな…この世界を救うには、女神様の力が必要なんだよな。だからさあ、会って女神様にお願いしてみようと思っただけだ」

 

 その一言に、イスカスをじっと見つめていた。イスカスも、神官長の目をじっと、曇りなき目で見つめていた。

 

「分かった。ただ、女神様を怒らせるようなことはやめておけ。この世界に女神様は必要だ。怒らして出ていかれては」

 

「随分都合いいんだな。必要な時だけ頼むのか…ああ、それについては大丈夫だ。女神様を怒らせるつもりはない」

 

 その言葉に、神官長はホッとしている様子だが、イスカスはどこか冷めた目で見ていた。

 それを見ていた、リリアはずっと首を捻っている。

 イスカスの様子がどこか違っている。

 

「リリア、英雄殿を案内しろ」

 

「はい。畏まりました」

 

 リリアは、女神像の間に行く間、ふとイスカスに尋ねてみた。

 どうしても気になっていたからだ。

 

「女神様をご存知なんですか?」

 

「こないだ会ったじゃないか。女神像に。だからご存知だろう」

 

 その言い方が、当たり前のように言っている。

 嘘がない感じがするが…

 

「いえ、そうではなく。まるで、女神がなんであるのか知っているようだったので」

 

 その問いかけに、イスカスはいつもの感じで首を捻っていた。不思議そうに、リリアを見ている。

 

「そんなこと、知る筈ないだろう。神官長には勘で言っただけだ。…それに、女神様は凄い力を持ってんだろ?なら困ったら貸してくれる」

 

「そうですが…根拠なくですか。貴方らしいですが」

 

「なんか馬鹿にしてないか?…まあいいや。あと、あの部屋は俺一人で入っていいか?女神像と真剣に話をしてみたいんだけど」

 

「構いませんが、あの像は力を与えるだけで…」

 

「それでも、女神様はきっと見てると思うんだよな。神様なんだし、お祈りくらいは許されるだろう」

 

「わかりました。それでは、外で待っています。ただし、またあいつらが攻めてきたら、言ってください。貴方を守らないといけないので」

 

「まあ、そんときはな。じゃあ、そういうことで…絶対入ってくんなよ」

 

 そう言って、部屋に入っていく、イスカスに不思議な感じを覚えていた。

 リリアは取り合えず、イスカスに言われた通り、部屋の入り口で待っている。

 騒ぎ声も聞こえず、随分と静かである。

 もともと神殿でも、こんな奥までいるのは、少数の神官のみしかいない。だからこそ、静寂な雰囲気が醸し出されている。

 

 どれ程経ったのか、リリアにはわからないが、それにしても静かすぎる。

 確かに、あの部屋にはイスカスと女神像しかいないのだから、話し声がすることが、おかしい。

 ただ、こうまで静かだと不安にかられる。

 

 確かに記憶をなくしているとはいえ、リリアにとっての唯一仕える主であることは、間違えない事実である。

 もし、何かあっては…

 

 ガシャン

 

 そんなとき、突然大きな物音が辺りに鳴り響く。

 嫌な予感がしたリリアは、すぐさまその扉を開いて飛び込んだ。

 何があっても、イスカスは守らないといけない。

 

「な…なにをやってるんですか…」

 

 あまりに驚愕の出来事に、リリアは固まってしまっている。

 そもそも、目の前に起こっている事を理解できない、そんな顔をしていた。

 

「何って?見ての通りだ」

 

 剣をまた振り上げ、目の前で女神像を破壊しているイスカスが、何事もなかったように話している。

 だからこそ、信じられない様子でリリアはイスカスを見つめていた。

 こんなことをするような男ではない事を、誰よりも知っているためだ。

 

「見ての通りって…なぜ、それを壊しているのです」

 

 そう言って、イスカスを右腕を見たとき、リリアは固まってしまった。

 女神が力を与えていた、あの植物の封印がとけ、黒い紋様がイスカスの腕を覆っている。

 どう見ても、普通じゃない状態だ。

 それも、前と違い動けなくなるのではなく、その力をまるで利用しているかのように動かしている。

 何より、その視線がありえないくらい冷たい。

 

「邪魔をしないであげてください。陛下がご自分の意志でなされていることですから」

 

 そう言って、突然現れたのはマーガレットだ。

 いつものようにオレンジの髪をなびかせ、冷たい目でリリアを見ている。

 リリアもまた、裏切り者に容赦はしない。

 全てこいつが絡んでいるのはわかる。

 

「陛下の意志だと…貴様、やってはならないことをしたな。こんなこと…もはや許さない」

 

 リリアがそう叫んだ時だ。

 勢いよく扉が開き、神官長とファルコンが飛び込んできた。

 その目はまるで信じられない者を見る目で、現状を見つめている。

 

 今まででは感じられないほど、冷たい目でイスカスは二人を見ている。

 持っている剣から、女神像を壊したのはだれかすぐにわかった。

 だからこそ、信じられないのだ。

 

「あらあら、観客が増えてしまいましたね。陛下、そろそろお暇しましょう。もはやここにいる必要はないでしょう?」

 

「そうだな。ここにいる必要はない」

 

「何が必要ないだ。お前どうしたんだ?お前は…」

 

 ファルコンのその言葉に、イスカスはふっと冷たく笑っていた。

 

「そうだな。ようやくわかったんだ。俺は元々人ではなく魔族いや魔王だな。…女神はやがて邪魔になる。だからこそ、消しただけだ」

 

 そう、それが当たり前のように話している。

 まるで、人がどうなろうと別にかまわない風で。

 そこには敵意しかない。

 

「そんな…こんな事って。私は認めません」

 

 我慢できなかったリリアが、持っていた神官の杖でマーガレットを狙う。

 そのマーガレットを、イスカスは剣でリリアの杖を防いで守っている。

 剣と杖での攻防はしばらく続いていた。

 

「なんで…こんな事って」

 

 そんな悲しいつぶやきをリリアが言った瞬間、イスカスはさっと、蹴り飛ばした。

 リリアはその力により、壁にぶつかってしまい、その衝撃で血が出てしまう。

 もはや、疑いようのない魔族化に、ファルコンもイスカスに斬りかかろうとした。

 

「これ以上はつきあえきれない。戻るぞ」

 

「はい、かしこまりました。陛下」

 

 マーガレットの力により、その剣はイスカスに届くことなく、その姿を消していった。

 残されたのは、ただ茫然としている神官長と、怪我をし動けないでいるリリア、そしてもはや剣の向ける相手がいないファルコンのみだった。

 

 

    

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。