神聖国ヴァリアットの聖王都シャルアンまでは、かなり時間がかかるらしい。
一応聖騎士団とともに行動しているためか、魔物を退治するのも楽になっていた。
まあ、あれから数日キャンプをしながら歩いているから、次の町へも近くなっているそうだが…
「しっかし、すごいなほんとに」
聖騎士団の中でも若手であるキャジャという青年が、じっとイスカスの事を見つめてきた。
その視線に、さすがにイスカスも苦笑を浮かべている。
「そんなことないよ。キャジャもすごいじゃないか」
「いや、団長に比べたらな…まだ一撃で魔物仕留められないし」
そう言いながらも、キャジャは無傷でいる。
そもそも聖騎士団に入るためには入団テストがあって、それに合格しない限り入ることが出来ないらしい。入ってもしばらくは見習いで、腕のいい者だけが、正規の聖騎士団へ入隊となるそうだ。
そんなことを考えれば、キャジャはかなりの腕前ということがわかる。
「ファルコンってそんなにすごいのか?」
「団長は一人で10数匹の魔物を相手して、ほとんど一撃で仕留めたという伝説の持ち主だ。実際、団長の腕にかなうものは今まで見たことない。…ただ、あんたなら団長とどっこいどっこいかもな」
自分の実力というものをいまいちわかってないイスカスは、何とも言えない顔をしていた。
「それより、キャジャも魔物に何かひどい目にあわされたのか?」
聖騎士団は、魔物に恨みがある者の集まりだという話だからこそ、イスカスは気になっていた。
「まあな。俺は姉ちゃんを…まあ、ここにいる皆そんな感じだから。あんたは記憶ないみたいだけど、その腕前といいあんたもずっと魔物と戦っていたのかもな」
「わからない…確かに魔物を見ても怖いとは思わないけど。それに戦う事にも抵抗はない。だから、そうなのかもしれないし、違うのかもしれないよな。まあ、そもそもこの髪って珍しいんだろ?だから、どこか別から来たのかもしれないしな」
そう、このキャジャの髪も赤色であり、他のメンバーも黒い髪をしているものは存在していない。
前にリールがそう話してくれた通りだ。
「まあ、イスカスという名の通りだよな。黒い髪に黒い瞳なんて見たことないよな」
どう考えても名前といい、ヴァリアットが人の多いことはわかる。そこで見たことないという事は、やはり黒い髪というのは特殊という事だ。
それとともに、自分がどこから来たのか…それが凄く不安になってくる。
一体、自分の生まれ故郷はどこなのか…
「あんまり気にしないでいいですよ。人であることは変わりないんですから」
イスカスの隣にいたリールが、そう話しかけてきた。
イスカスもリールを心配させないようにと、にっこり笑みを浮かべてみせた。
「そうだな。どこで生まれようと、守りたいという気持ちには変わりないしな。…しかし、ずっとこんな森が続いているのか?」
「ああ、俺達も周辺しかいかないからあんまり遠くまでは知らないが、町以外はこんな感じだ。まあ、聖王都までには4つくらい町があるから、そこで休める。ただ、魔族がいればそうはいかないんだけどな」
キャジャの言うにはイスカスが思っているよりも、町は残っているらしい。
そのどこにも、神官により結界がほどこされているため、その町では安全であるらしい。
だが、今では若干違ってきている。
魔族が最近活発に活動している。
今まで、その存在はただ魔物を操る者としか知らなかったが、最近になって聖騎士団と激突するようになったらしい。
その際に、自ら魔族と名乗ったから、聖騎士団でもそう呼んでいるらしい。
「あいつは、なんなんだ?」
「わかったら苦労しない。敵であるとしかわからない。魔物を統率し、かなりの力をもっている。…そもそも魔物もそうだが、どこからやってきたのか、何が狙いなのか全くわからない。俺達もおかげで手を焼いている」
「じゃあ、なぜリールが狙われるかもわかんないわけだな」
「ああ、特定の人物を狙ってくるのは初めてだ。だから狙いなんて分るわけない」
狙いも分からず、リールはずっと狙われ続けるということになる。
守る側としても、かなり厄介の問題だ。
「ということは、奴らの根城がどこかもわかんないってことか。…なんか奴らさえどうにかなれば、この世界を救うことできそうだよな」
魔物を操ることが出来れば、この世界で人々が魔物に襲われることもなくなるという事だ。
つまり今の現状がどうにかなるということだろう。
「そう、上手くいけばいいんですけどね。なんか、強そうですし、話聞いてくれなさそうですしね」
リールのいうことも一理ある。
話など聞いてくれそうにない存在であるため、やるのは戦うほか残されていないということだ。
「まあ、魔物操る時点で、敵でしかないんだ。躊躇する必要もないしな」
「そうだよな。…すまない。まだここの事よくわからなくて」
「記憶がないんなら仕方ないだろ。こっちとしてはお前のような強い奴が味方でいてくれれば、それだけでありがたいんだしな」
何者かわからないのに、聖騎士団の皆は人というだけで、温かく迎え入れてくれる。
それがとても、イスカスにとってありがたかった。
「こっちも、ありがたいよ。何も知らない俺に、色々教えてくれるんだしな。…っと、どうやらまた魔物だな」
ここずっと、こんな感じだ。
人数が多い分楽にはなっているが、危険なのはかわりない。
こうやって話をしている間にも、魔物が10匹ほどこちらに近づいてきた。
「しかも、上位の魔物がいる」
今までみた灰色の魔物とは違い、赤と黒の体に、変な角のようなものを持つ魔物が姿を現した。
他には緑色で鋭い爪をもつものなど、明らかに今までの魔物より強そうなものたちだ。
「まずいな。…イスカス殿、キャジャとともにリール殿を守って先に行け。ここは我らで何とかする」
「しかし、あんた大丈夫なのか?俺も戦うが…」
団長であるファルコンが強いことはわかったが、それでもかなりの数相手となる。
確かに他にも3名ほど聖騎士が残るようだが、かなりつらい戦いになることは目に見えている。
「嫌な予感がする。そもそも、こんなに上位の魔物が集まるなんて、まるで操られているようだ。…つまり魔物がどこかにいて、隙を狙っている。だからこそ、リール殿を守ることに専念してもらいたい。それに、我らを馬鹿にしてもらいたくないものだ。こう見えて、聖騎士団の精鋭なんでな。…次の町ギャランで会おう」
それでも渋っているイスカスの腕を、キャジャが握り、リールと共に逃げていく。
キャジャとしては聖騎士団長であるファルコンの意志を尊重しているようだ。
「大丈夫。団長は強い。それより、気を抜くな。魔族が狙っているのはわかってることなんだから」
キャジャのいう通りであることは、イスカスにもわかっていた。
ここを魔族が狙ってくるのは目に見えている。
そうなったとき、リールを守れるのはキャジャとイスカスしかいないのだから。
「そうだな。…リール、あんまり離れるなよ」
「わかってます。皆さんに迷惑をかけたくないですしね」
リールはできるだけイスカスから離れないようにしていた。
キャジャがリールやイスカスの前を進み、イスカスは後方を注意しながらリールと共にそのあとを追いかけていく。
そんな中でも、激しい戦闘の音はここまでも聞こえてきた。
やはり、聖騎士団長とはいえ、そう一筋縄には行ってない様だ。
「前を見ろ。団長を信じろ」
キャジャがそうイスカスを諭した。
確かに、ここでファルコンの元に向ってしまっては、ファルコンたちの意志を無駄にしてしまうことになる。
「そうだな。短期間だけど、あの人なら信じられると思える」
何度かファルコンとイスカスは話す機会もあった。
その話で、ファルコンの誠実さと本当にこの世界を救いたいという意思を確認できた。
だからこそ、イスカスはファルコンの事を信頼することが出来た。
「当たり前だ。最強なんだからな。…さてと、やはりこっちを狙ってきたみたいだ。気をつけろ」
気配でわかる。
明らかに空気が一変していた。
黒い、黒い、何か怪しいそんな気配。
急に寒気さえしている。
だからこそ、イスカスはすぐにリールを守るようにし、剣を抜いた。
キャジャも同じく、剣をさっと構えなおす。
そんなに簡単じゃない相手だ、実際どうなるかわからない。
それでも、リールを守ると二人はそう誓っていた。