記憶のない青年と謎の世界   作:夢幻鎧武

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第5話

「人間風情に苦戦するとはね…情けない」

 

「しゃあねえだろう。俺様だって油断してたんだ。…それに聖騎士団がいちゃなあ。で、今度は邪魔者少ないし、とっとと差し出したほうが身のためだぞ。…あ、あとあんたにも興味あんだ」

 

 あのビリアとかいう謎の魔族を名乗る青年と、オレンジ色の長い髪に、同じオレンジ色の瞳をした女がさっと三人の前に姿を現した。

 おそらく、この感じからしてこのオレンジの女も魔族と呼ばれる存在なのだろう。

 その気配から、人とは思えない雰囲気を感じる。

 

「魔族が2体か…俺が引き付けるから、その隙に逃げろ」

 

 キャジャがそういったが、イスカスはそんなこと納得いくはずがなかった。

 魔族がかなりの強さであることは、前のビリアとの戦いで学んでいた。今回はそこに、謎のオレンジの髪の魔族までいる。

 どう考えても、キャジャ一人でどうにかなるとは思えない。

 

「何言ってんだ。さすがに、そんなことは出来ない。それにどうせ逃げても追いつかれる。なら、キャジャとともにこいつらを倒したほうが早い」

 

 あくまで魔族たちの狙いは、リールを手に入れることだ。

 だからこそ、逃げたところで追っかけてくるのは目に見えて分っている。

 

「なるほど、確かにな。ただ、しっかりリール殿は守らなきゃな」

 

 リールをいかに守るか、これがこの二人に課せられた使命のようなものだ。

 あそこで残って戦っているガ騎士団の他の面々のためにも、リールだけは守らなければならない。

 

「キャジャ、お前に任せていいか。俺が奴らの懐に飛び込む。リールの近くに来た方を相手してほしい」

 

 自分自身記憶はないが、待って守るよりも、自分から飛び込んでいくことのほうが得意であることはわかってきていた。油断できない相手だからこそ、自分の長所を生かそうと思っているのだ。

 キャジャもそれをくみ取ってか、反論しなかった。

 

「なるほど…リール殿、そういうことでいいか?」

 

「はい、お願いします。イスカス、キャジャさん、気を付けて」

 

 二人は頷くと、イスカスはさっと剣を握りしめたまま、ビリアとか言う魔族に斬りかかる。

 ビリアは嬉しそうに笑みを浮かべると、さっと二又にわかれた槍を呼び出し、さっとイスカスに振り下ろす。

 イスカスはさっと避けながら、剣をビリアに向けてつく。

 だがビリアも、さっとそれをよけると後ろに一っ跳びして間合いをとっていた。

 

「やはり、お前は面白いな」

 

「うるさい。戦いに面白いなどない。それに俺はお前の事が嫌いだ」

 

 なぜかわからないが、嫌悪感がずっとしている。

 恐らく、もとからこういう奴を受け付けないのだろう。

 イスカスはまた剣を構えるとビリアに向って、突進していった。

 

 その間にオレンジの髪の女は、さっとキャジャ達の元に姿を現している。

 元々狙いはリール。

 そもそも、人間が魔族に敵う筈もないと思っているオレンジの髪の女は、ビリアにイスカスの事を任せていた。

 

「さあ、大人しく渡しなさい」

 

 そう言ってきた女に、キャジャは剣をふるうが、何らかの力が働いて、剣を突き立てられない。

 女の目の前で止まってピクリとも、動かなくなってしまっている。

 

「なに」

 

「ほんと、人間なんて弱い者。全く、人間風情がこの私に勝てるはずないじゃない。全く馬鹿じゃない」

 

 キャジャはくやしさのあまり下唇を噛みしめる。

 魔族との力の差がここまであるとは、思ってもみなかったからだ。

 このままでは、歯が立たない。

 リールを任せられている以上、キャジャは戦わなくてはいけないのだが、正直どうしていいのかわからなくなって困惑していた。

 

「キャジャさん。諦めちゃだめです。イスカスだって、戦ってるんですから」

 

 そう、イスカスはビリアとか言う魔族と、ほぼ互角で戦っている。

 ビリアの様子からも、本気で戦っているのは見て取れた。

 だからなのか、オレンジの髪の女は思わずため息をつき、呆れた顔でそれを見ていた。

 

「あんた、何してんの」

 

 なんとかイスカスの剣を押さえているビリアが、それにすぐさま言い返した。

 

「しゃあねえだろう。こいつ強いんだから。こっちもバリア張ってんのに、それを貫いてくるんだ」

 

 その言葉に、オレンジの髪の女が驚くとともにため息をつく。

 そして何かをさっと決心したのか、ふっと笑うと、さっとリール達に右手を翳し、周辺の魔の植物でリール達を絡め取っていた。

 魔の植物はきつく締まっていく。

 キャジャは自分の持つ剣で払いのけようとするが、上手くいかない。

 

「私があの男を倒している間、大人しくしてなさい」

 

「貴様…くっ」

 

 キャジャはなんとか抜けようともがくが、そう簡単にいかないため、どのみち抜け出せないでいた。

 正直大人しくしていたくないが、抜け出すにも時間がかかりそうだ。

 リールもまた、この謎の魔族を睨み付けていたが、そんなものには目をくれず、苦戦しているビリアのもとに駆けつけていた。

 

「たくっ…こんな人間相手に何をやってるの?」

 

「本当に強いんだ。お前本当に人間か?」

 

 実際、オレンジの髪の女は、イスカスを見ていないため、その実力をわかっていなかった。だが、ビリアがそういうのなら、よほど強い相手のようだ。

 ビリアも魔族の中ではかなりの実力を持っている。

 それよりも心外なことを言われたイスカスが、さっとビリアを睨みつけた。

 

「人間だ。…そもそも、俺は人の味方だ」

 

 さっとビリアに回し蹴りをして吹き飛ばしたイスカスであったが、オレンジの髪の女はその隙に、さっとイスカスの正面に現れ、蹴りを入れようとするが、イスカスはさっとそれを察して蹴りを避けて、オレンジの髪の女を睨み付けていた。

 

「人間風情が意気がるな。何が人の味方だと…汚らわしい人間と我らでは格が違う。それにその目…まるであの方のような目。人間がその目をするな」

 

「なんの事だよ。俺はぜってえお前らに負けない」

 

 オレンジの髪の女は、じっとイスカスのその目を見ているうちに、何か考えはじめてしまった。

 さっきまでの高圧的な態度が緩んでしまいそうになる。

 だからこそ、さっと構えて、イスカスに問いかけた。

 

「貴様、名はなんという。そもそも、お前はどこ出身だ」

 

 その高圧的な態度に苦笑しつつ、イスカスは冷静に返した。

 

「自分から名乗るのが礼儀だろ?」

 

「まあ、名は隠している訳ではない。答えよう…私の名はマーガレット。これでいいでしょう?」

 

 そこに蹴り飛ばされていたビリアが、ムクッと起き上がり、イスカスに襲い掛かっていく。

 イスカスは上手くそれをよけると、並んだ二人の魔族と距離をとる。

 さらにイスカスに襲おうとしたビリアを、なぜかマーガレットはさっと止めていた。

 

「まだ、質問の答えを聞いていない。それからで構わないことじゃない」

 

「ちっ、お前も物好きだな。あんなに人の事を毛嫌いしてるのに」

 

「そこの男の目が、気になっただけ」

 

 もっとも、イスカスはそんなことに答えるつもりはない。

 こんなやり取りをしている間に、そっとリールとキャジャの元にむかって、謎な植物から解放しようと己の持つ剣で蔦に攻撃を加えていた。

 

「ちょっと、人の話を無視しない」

 

「うるさい。魔族かなんか知らないけどな、弱者を虐げるような奴の言いなりになんてなってたまるか」

 

 そう言ってイスカスは謎の植物を叩き斬り、二人を見事に救出する。

 キャジャは結局助けられたためか、申し訳なさそうにイスカスに頭を下げているが、当のイスカスは気にしていない様だ。

 笑って、リールとキャジャに手を貸している。

 

「まさか、それすらも斬るとは…やっぱ、ほっといたらやばそうだな」

 

 そう言って襲いかかろうとしたビリアを、なぜかマーガレットが止めていた。

 

「今回は分が悪いわね。引くわよ」

 

 マーガレットが発した意外な言葉に、ビリアは信じられないという顔をしていたが、どうやらマーガレットの方が力が上な様で文句を言わずただイスカスにこう言い放った。

 

「覚えてろよ。この屈辱、いずれは返す」

 

「返り討ちにしてやる。リールに手を出すこと許さないからな」

 

「いずれ戻ってきます。その時は覚悟しなさい。…さあ、戻るわよ」

 

 そのままマーガレットとビリアは姿を消していった。

 残されたリール達であったが、素直に撃退したと喜べないでいた。

 

「あいつらの狙い、なんなんだ?今回もあえて逃亡したようだし」

 

「確かにな。あんだけ人間を蔑むなら、リールを手に入れるってのもおかしいし。それに、イスカスを恐れて逃げたわけでもなさそうだしな」

 

 キャジャの言った通りだと、イスカスは考えていた。

 さっきの逃亡の仕方は、何か考えがあってのことだ。

 つまり、今後奴らはなんらかの策を練ってくる可能性が十分ある。

 

「でも、今回はなんとかなってよかったじゃないですか。…とりあえず、魔族や魔物に襲われるわけにもいかないので、次の町を目指しませんか?」

 

「確かに、ここでぼんやり考えてたら、また奴らが襲ってくる。早いとこ町に向ったほうがよさそうだな。団長たちも終わったら向かうはずだしな」

 

 たしかに、魔物の巣窟でずっといてリールを危険な目にあわせるわけにも行かない。

 イスカスは、腑に落ちなかったがそれはまた後で考えるとして、魔物が闊歩する森をキャジャとともにリールを守りながら抜けていくのであった。

 

 

 

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