記憶のない青年と謎の世界   作:夢幻鎧武

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第6話

「キャー、助けてください」

 

 森中に響き渡る女性の声に、イスカス達は急いでその場所にかけつけた。

 茶色の髪の女性が、魔物たちに襲われている。

 周りには、恐らく護衛に雇っていたであろう男が、傷ついて動けなくなっている。

 

「キャジャ、リールを頼む。あの数なら、俺一人で十分だ」

 

 確かに魔物でもあの灰色のよくいる魔物であるうえに、二体だからイスカス一人でも十分な事はキャジャにも分かっていた。素直にリールを守ると、イスカスに任せる。

 

 イスカスはさっと剣を抜くと、手前の魔物を貫き、一体倒したのち、残りの一体をそのまま横なぎに斬った。

 魔物たちはそのまま消滅していく。

 イスカスはさっと剣を払うと、鞘に納め怯えている女性の元に歩いて行った。

 

「もう大丈夫だ。どこに行こうとしてたんだ?」

 

 イスカスがそう言っている間に、護衛をしてた男の治療をリールがしている。

 ホーリースキルドクターの術は、イスカスも見たことがあったが、やはり不思議なものだ。

 薬草から得た薬をつかって、なにやら術を唱えると、その傷がみるみる治っていく。

 

「ありがとうございます。聖都に向おうととりあえずギャランを目指していたのですが、魔物に襲われ…本当に助かりました」

 

 よほど怖い思いをしたのか、女性はイスカスの前で倒れてしまう。

 イスカスはそっと、女性を抱きとめてそっと地面に座らせてあげていた。

 

「無理はよくない。ギャランなら俺達も向ってる場所だから、一緒に行かないか?」

 

「よろしいのですか?あなた方は聖騎士団とお連れの方とお見受けしますけど」

 

 イスカスはさっとキャジャに目を向けていた。

 キャジャも笑って頷いている。

 別に身分を隠しているわけじゃないから構わないという事だろう。

 聖騎士団は人の味方。人であれば、助けるというのが当たり前だという顔をしている。

 

「俺は聖騎士団じゃないけど、そうだ。だから安心して構わない。そういやあ自己紹介まだだったよな。俺はイスカス、あそこのホーリースキルドクターの見習いをしてるリールの護衛をしてるものだ。で、あの聖騎士はキャジャ。俺と共にリールを守ってくれている。それで、あんた達は?」

 

「私はマリア、そして彼は護衛のビック。神官長様に書状を届けるために旅に出ています。構わないのでしたら、お言葉に甘えますね。さすがに私達二人では、またあのような目に合うかもしれないですし」

 

「すまないな、マリア。俺がしっかりしてないばかりに」

 

「ビックのせいじゃない。ごめんね。無理させて」

 

 ギャランの話だと、一般の護衛では普通の魔物でさえ中々倒せないそうだ。

 だからこそ、イスカスの腕は十分聖騎士団でも通用するらしい。

 

「町に着いたら、その書状俺達が預かろうか?そのまま、戻るに戻れないだろうし、町の中なら安全なんだろ?どうせ、俺達聖都を目指してるんだしな。リールさえよければ」

 

「イスカスの言う通りです。私達で預かるべきかと。そうすれば、危険を冒さずすみますしね」

 

「御心遣いはありがたいのですが、父の命令で、これは自分でもっていかないといけないので」

 

 その言葉に、二人は申し訳なさそうにした。

 リールは魔族に狙われている。

 町はすぐそばだし、今のところ魔族が襲ってくる気配もないため魔物にさえ注意すればいい今の状態なら護衛できる。だが、それ以降はいつ魔族が襲ってくるかわからない状況だからこそ、その方が危険だ。

 

「そうですか。イスカス、町までは送りましょう。町にいけば他の護衛もいるかもしれませんしね」

 

「だな、じゃあ町までだけどよろしくな」

 

 マリアは嬉しそうに微笑むと、頷いていた。

 

 やはり不安だったようで、それが少しでも和らいだようだ。

 道中いろんな話をしていると、ふとマリアがイスカスに思っている疑問をぶつけてきた。

 

「その髪の色、とても珍しいのですが、どこから来たのですか?」

 

 その質問に、イスカスは苦笑してしまう。

 どう説明していいのか正直迷ってしまったが、イスカスはそのまま話すことにした。

 

「記憶がないんだよ。俺さあ、倒れているところをリール達に助けてもらったらしくて。まあ、そう言ったら不安になるよな。何者かわからないものなんて」

 

「ごめんなさい。言いにくいことを言わしてしまって。…でも、何者かわからないから不安とかないですよ。貴方は良い方だとそう思えます。だから、そういう心配は大丈夫です」

 

 マリアのそんな言葉に、イスカスはほほ笑んでいた。

 やはりここに人たちは皆優しい。

 助け合わなければいけないためなのか、人であればどこの馬の骨とかそんなことは気にしない。

 だからなのか、イスカス自身も不安がなくなっていく。

 

「ありがとう。なんかすごいなマリアは」

 

「そんなことないですよ。ここでは魔の植物に侵略されていますし、助け合うことが必要なんです。だからあんまり気にしないんですよ。それにしても、イスカスさんは本当に強いですね」

 

 町まで傍という場所だが、何度か魔物と戦ってきた。その様子を見ていたからこそ、マリアは感心したようだ。

 

「さあ、自分ではそう思わないけどな。あ、もうすぐ町につくみたいだな」

 

 かなり大きな町らしく、しっかりとした城門で守られている。

 周りには例のバリアで守られているらしく、魔物も近寄ってこなくなっていた。

 

「団長、待ってます」

 

 キャジャはそう言って、イスカス達について行く。

 まあキャジャもそこまで不安はない。

 

「やっと着きましたね。まだまだ先は長いそうですが、イスカス、これからもお願いします」

 

「リール、当たり前だ。俺はお前の護衛だしな。ちゃんと守る。だから心配しなくていいからな」

 

「はい。…でも、本当は申し訳ないですけどね。私のせいで魔族に狙われるなんて」

 

「気にしないでいいって。そもそも狙いが何なのかわからないけど、魔族が悪いことだ」

 

「そうですね…」

 

 リールは正直迷っていた。これ以上、イスカスや聖騎士団を巻き込んでいいのかそんなことを。

 一方、なぜかマリアがイスカスに近づいてくる。

 イスカスは不思議そうにしていると、マリアが耳元で静かに囁いた。

 

「今宵、どうしても相談したいことがあるので、二人きりで宿の裏であえませんか?」

 

「相談したいこと?なんだそれ。…まあ、いいけどなんで二人きりなんだ?」

 

「どうしても二人だけで話したいんです。おねがいします」

 

「了解」

 

 よくわからないまま、イスカスは頷いたが、なぜそのような事を言ってきたのかよくわからなかった。

 マリアはそのままビックと共に宿に入っていく。

 

「我々は、騎士の宿舎があるからそっちへ。団長戻ってくるとしたら、そっちだからな。団長を待ってから先に進もう」

 

「賛成だ。俺もファルコンの事は心配だしな。リールも構わないか?」

 

「当たり前です。ファルコン様にはお世話になっているんですし、それくらい待ってもいいかと。この町には結界が張っているので、魔族が入ってくることはないですからね」

 

 騎士の宿舎は、思ったよりも立派なものだった。そこら辺の宿屋よりもいいかもしれない。

 キャジャは慣れた様子で、事務処理をすると空いている部屋に案内する。

 中も綺麗に整備されており、ベットもかなり寝心地がよかった。一応、リールの部屋はキャジャとイスカスの間にとってある。

 

「待つ間、おすすめの料理屋あるから行くか?」

 

 キャジャは騎士団ということで、巡回でこの町にも何回か来たことがあるらしい。

 夜までにはまだ時間があるため、リールの護衛もありキャジャとともにイスカスは、キャジャおすすめの店に入っていく。

 

 かなり繁盛している店らしく、客でごった返していた。

 

「あっ、聖騎士様じゃないですか。いつもありがとうございます」

 

 キャジャを見つけた店主が、こちらによってきた。キャジャが何やら店主と話すと、店主が2階へと案内していく。

 

「いつも聖騎士団で使っててな、2階を開けてくれているんだ」

 

 そう言って通された部屋は、個室風になっており回りに気がねせず、食事が出来そうだ。

 とくに何が食べたいとか分からないため、キャジャにおすすめを任せていた。

 

「しかし、魔族の狙いがわかんないな。何故そこまでリール殿を狙うのか…それに、あの様子じゃあまた来そうだしな」

 

「リール、心当たりはあるのか?」

 

「全く。私自身何故狙われるのか、わかってません。それに、あのとき私を捕まえられるのに、何故捕まえなかったのかも」

 

 確かにあのとき、あのマーガレットという魔族はリールを連れ去ろうと思えば出来ていた。それをせず、まるでいたぶるようにイスカスを狙ったわりには、何故そのまま逃げたのか、本当に不明だった。

 

「まあ考えても分からないだろう。魔族に問いただすしか、本当の目的や考えはわからない。まあ、奴等が答えてくれるか分かんないしな」

 

 イスカスはそう答えるしかなかった。

 正直、魔族については全くわかっていない。

 何故、魔物を操れるのか…何故知性をもち、怪しい力を使えるのか。

 本当に未知の世界だ。

 

「まあ、考えても仕方ないかと。私達は成すべきことをするしかないでしょう。もし、あの魔族や魔物を止める事が出来ればこの世界が救われますしね」

 

 リールの言う通りではあるが、そう簡単にいかないのは分かっていた。

 何か手を考えないといけないが、そんなもの思い付く筈はない。

 

「まあ、どっちにしろ聖都を目指すしかない。神官長様に相談すれば、もしかしたら答えが帰ってくるかもしれないしな」

 

 いまだに神官というものに会ったことないが、どうやら神官と聖騎士とは全く別なものらしい。勿論、聖騎士は神官やその神殿を守るが、神官ほど神の力と呼ばれる術を使える訳ではない。

 バリアを貼るなどは、神官が作業を行っている間、聖騎士が守るといった具合らしい。

 

「私も神官様には一度お会いしたことありますが、神官長様とお会いしたことはないです。ただ、お噂はかねがね聞いています」

 

 そんな話をしているとき、この部屋の扉が開け放たれた。

 そこに現れた顔に、一度は喜びの表情を浮かべる。

 

「信じてましたよ、団長」

 

「いやあ、時間がかかってすまなかった。それで、ここに来るまでの間、何か異変はなかったのか?」

 

 団長ファルコンとともに数名の聖騎士団がこの部屋に入ってくる。

 キャジャは一礼をすると、直ぐ様魔族の事やマリアの事を話していた。

 その話を聞いたファルコンは、渋い顔をしていた。

 

「どちらにせよ、状況はよろしくない。しかも、何故魔族が逃げたのか…わからない。まあ、マリアという女性には聖騎士を2名ほどつけよう。それならば、安全だ」

 

「確かに、そうしていただけると助かります。私も気になっていたので…どうしたの?イスカス」

 

「いやあ、そのマリアさんに、相談したいことがあるから、夜二人きりで会いたいと言われていて…どうしようかなあと」

 

 そう言った瞬間、キャジャをはじめ聖騎士団の面々が、飲んでいた酒を吹き出してしまう。

 一方のリールもまた、なんで吹き出すのかわからず首をひねっていた。

 

「あのな、それは…お前…記憶なくてもわかるだろ…その…マリアさんは…お前の事を」

 

 キャジャが一生懸命何やら説明しようとしているのを、何をやっているんだという目でイスカスは見ていた。

 

「何が言いたいんだ? まあ、相談とか気になるからどのみち行くから、その時に聖騎士の話もしておくよ」

 

「お前は、そんな無粋な話、その時にするな。マリアさんの気持ちも考えろ」

 

「はあ?意味がわからない。何が無粋なんだ?…まあいいや」

 

 イスカスの反応に、キャジャをはじめ聖騎士団の面々は思わずため息をついてしまった。

 その後、美味しい料理を食べながら、とりとめのない話をしながら、徐々に日は沈んでいった。

 

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