マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 お祭り回です

 『青の農村』で開催されるお祭り全てを毎回描写するつもりはありません
 …が、今回は『青の農村』にリオネラが遊びに来ている間に開催されたお祭りということで、書きました


2年目:マイス「『野菜コンテスト』と僕」

 

 

***青の農村***

 

 

 今日の『青の農村』は、普段の『青の農村』とは違った 賑やかさに満たされた世界になっていた

 

 理由は他でもない、今日が『青の農村』のお祭り…『冬の野菜コンテスト』の開催日だからだ

 

 

 『野菜コンテスト』は基本的に、『青の農村』で活動している各農家が その時期の 畑最高傑作といえる自慢の作物を出品し 競い合うお祭りだ

 その性質上、このお祭りは あくまで村の農家内での勝負であり、先月あった『カブ合戦』のように『アーランドの街』や他の地域からの飛び入り参加ができない。それが理由で お祭りっぽい盛り上がりは弱く、『カブ合戦』等と比べると ウケはいまいちだったりする

 

 だけど、それは「お祭りで ハメ外して騒ぎたい!」と思う人たちから見た感想。

 『アーランドの街』の食事処や商人にとっては、かなり重要なお祭りだ。「『アーランド共和国』の食糧庫」とも呼べる一大生産地の情報が このお祭りに丸々詰まっていると言っても過言ではないからだ。故に、『アーランドの街』の商人だけでなく 他所(よそ)の地域を拠点に置いた行商人も、『野菜コンテスト』の開催の噂を聞きつけて 『青の農村』に集まってくるくらいだ

 

 

 そう、『野菜コンテスト』は他のお祭りとは違った盛り上がりを見せる 大事なお祭りなのだ…

 

 

―――――――――

 

 

「…なのに、村長のマイスが そんなにヤル気無くってどうすんだよ」

 

 行商人のコオルが ため息をつきながら、僕にそう言ってきた

 

「だってー…」

 

 大事なお祭りだっていうのはわかるし、僕個人としてもお祭りは好きだ。だけど…

 

 

「どうして 僕が審査員席にいなきゃいけないの!?」

 

「そりゃあ 審査員は村長であるマイスが一番適任だからだろ。作物にも精通してるわけだし」

 

「僕だって 自分の野菜をコンテストに出したい!」

 

 僕の主張に対し、コオルはため息を吐きながら呆れたような視線を向けてきた

 

「『野菜コンテスト』初開催の年に大差で全季節優勝(四冠達成)したのはドコのドイツだ。あれじゃあコンテストになんねぇじゃねえか」

 

「それは そうかもしれないけど…」

 

 だからって、「殿堂入り」とかいって 審査員のほうに押し込まれるのは、どこか納得いかない…

 『シアレンス』じゃあ ずっと参加する側だったから、開催する側に立っていると どうしても少なからず違和感を感じてしまうのが現状だ。もう『青の農村』でのお祭り開催も 両手の指で数えきれないくらいになっているのに、だ

 

 

 でも、まあ…

 

「みんな楽しそうだから いっかー」

 

 村の『集会場』前の広場に(もう)けられた 審査会場を見わたした

 出品する作物を持ってくる『青の農村』の農家のみんな。その作物たちに目を光らせる商人や料理人たち。そして、村のあちこちにある出店(でみせ)とそこで商いに精を出す店員。村の中を楽しそうに行き交う人たち

 

 活気ある村の風景が 何か別の風景と重なった気がした

 

 …僕はなんだか嬉しくなっていた

 それは「歓声をあげたい」とか「小躍りしてしまいそう」といった嬉しさとは違う、内側からジワリと湧きだしてくるような感情だった

 

 

 

「……らしくない顔してるなぁ…」

 

「えっ?」

 

 不意に隣にいるコオルが ボソリとこぼした言葉が耳に入ってきた

 「らしくない顔」って、何のことだろう?タイミング的には僕のことだとは なんとなくわかってはいるんだけど……

 

「マイス、おばちゃんたちみたいな顔してたぞ」

 

「おばちゃん?」

 

 僕の疑問に「ああ」とコオルが頷いた

 

「『アーランドの街』の広場なんかにいるだろ、広場で遊んでる自分の子供を見守ってるおばちゃんがさ。さっきのマイスは それに似てたぜ」

 

「えぇと……つまりどういうこと?」

 

「そういうことだな」

 

 コオルはそう言いながらカラカラと笑いだした

 …これまでの付き合いから 大体わかるけど、こういう時のコオルは 大抵人をからかっているんだ。まったく…困ったなぁ

 

 でも、だたのからかいにしては なんだか声のトーンが低い気がしたんだけど……気のせいかな?

 

 

 

 ひとり悩み出した僕を見かねたようにコオルが明るい声で言ってきた

 

「まあ、マイスには 審査の後に仕事があるんだし、ソッチを目指して頑張ればいいじゃんか」

 

 審査の後に仕事……何かあったっけ?

 首をかしげて考えてみるけど、全然思い当たらない

 

「審査の後の仕事って……あっ!もしかして、『青の農村(ウチ)』からだしてた出店(でみせ)の店員やっていいの!?」

 

「村長に出店の店員はやらせねぇって、企画段階から言ったじゃねえか。そもそも なんでそんなに働きたがるんだよ…」

 

 呆れたような顔をして首を振るうコオル。……あれ?僕、最近 呆れられてばっかりじゃないかな?

 

 

 …で、結局 僕の「審査の後の仕事」って何なんだろう?

 

 僕の疑問を察してくれた…というよりは さっきの会話の流れのままに、コオルが口を開き、そのことを話してくれた

 

「祭りの村を案内して 一緒に見てまわらなきゃだろ?」

 

「コオルと?」

 

 苦笑いのコオルが「ちげーよ」と言いながら 他所(よそ)指差(ゆびさ)した

 つられてそっちへ目を向けると、『野菜コンテスト』の審査会場、そのまわりにつくられた観客席があった

 

 そして、そこの一角にはリオネラさんが座っていた

 リオネラさんも 審査員席にいる僕が見てきたのに気がついたようで、微笑みながら こっちに手首を動かし小さめに手を振ってきた。ついでに そばにいるホロホロとアラーニャも手を振ってきた

 

 リオネラさんたちに対し、僕も笑顔で手を振り返したのだけど、その途中 隣のコオルが僕に小声で耳打ちしてきた

 

「せっかく来てくれてる客をエスコートするのも、村長…いや、ひとりの男としての(つと)めだろ?」

 

 なるほど、それが審査の後の仕事ってことか

 

「うん!やっぱりコンテスト参加者以外の人にも お祭りを楽しんでもらわなきゃね!」

 

 僕が笑顔のまま 隣のコオルに返事をしたんだけど……何故か、コオルは苦笑いをしていた

 

「はぁ…、まあマイスがそういうヤツだってのは知ってたけどさ。…エスコートって言うくらいじゃ遠まわし過ぎたか?やっぱ そっち方面は頭ん中に無いんだろうなぁ(ボソリ」

 

 

 ……?コオルが何かボソボソ言ってるみたいだけど、うまく聞き取れなかった

 

 それと、よくよく考えてみると、それって「仕事」っていうよりも ただの「友達との付き合い」じゃないかな?

 

 

 そんなことを考えたが、そろそろ『野菜コンテスト』の審査の時間が(せま)ってきている事に気がついて、気持ちを切り替えた

 

 …さあ、今季のみんなの作物の出来はどうなっているのだろう?

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 審査、そして 結果発表および賞品授与

 全てを終えた僕は、ひとまず かたづけまでは自由となった

 

 コオルは本職の商人として用があるということで、他のところへ行った

 

 

 

「さて…と」

 

 それなりの人が行き交う広場で あたりを見わたし……そして、広場の(はじ)のほう…人の流れが無い位置に リオネラさんを見つけた

 

 見つける事自体 思いの(ほか)簡単だった。なにしろ、人混みを避けるために 普段より少し高い位置でフワフワ浮かぶホロホロとアラーニャが目印になっていたからだ

 

「リオネラさん!」

 

 キョロキョロしているリオネラさんに、僕が早足で駆け寄りながら名前を呼ぶと、リオネラさんも気づいてくれた

 

「あっ、マイスくん」

 

「よぉ。仕事 終わらせてきたか?」

「お疲れ様。なかなかさまになってたわよ」

 

 リオネラさんのもとにたどり着くと、ホロホロとアラーニャが(ねぎら)いの言葉をくれた

 今回のお祭りは、さっきの審査の他には、出店用の食材をウチから出したり 会場の設営にちょっと手を貸したくらいだったから、あまり疲れたといった感覚が無いんだけど……労いの言葉は素直に受け取った

 

 

「今回の『野菜コンテスト』はどうだった?」

 

「うん、とっても良かったと思うよ。ちょうど去年も来たけど、その時よりも全体的に作物の質も上がってて……さすが、マイスくんに教わった人たちだなーって」

 

 「えへへ…」と嬉しそうに言うリオネラさんに、僕は少し笑いながら返した

 

「僕が教えたからってわけじゃないと思うけどなぁ。参加者の農家さんの…ひとりひとりの頑張りが 結果として出ただけだよ」

 

「でも、頑張ってきたのはマイスくんもだよ」

 

 そう言ってニッコリと笑いかけてくるリオネラさん。その言わんとすることはわからなくもなかった

 

 

「そうだね。…似たようなこと 考えてたんだ」

 

「そうだったの?」

 

「うん。コンテストの前 リオネラさんと手を振り合う少し前に、ね。「あの古い一軒家にひとりで住んでたのに、いつの間にか賑やかになったなぁ」って。「いろんなことに挑戦したり、頑張ったなぁ」って…」

 

 

 もちろん、まだまだ やりたいことはある

 特に『魔法』のことは 未だに思い通りにはいっていないことの筆頭だ。杖に事前に付与するタイプについては ほぼ完璧に万人に使えるようになってきたけど、杖無しとなると、全然上手くいかないのが現状だ

 

 

「でも、ここまでやってこれたんだから、これからも やっていけるんだと思えるんだ」

 

 不思議と不安は無かった

 

「…ふふっ、そうだね。きっと」

 

 

 

 

 

「なぁなぁ、せっかくの祭なんだからよ、見てまわろうぜ」

「ちょっと!なんで今 そんな話で入っていくのよ?」

 

「だってよ。オレたちはマイスんとこに泊まってるんだし、今わざわざしんみり話さなくてもイイじゃねぇかー」

「それはそうかもしれないけど…」

 

 

 ホロホロとアラーニャのそんなやりとりが僕らの耳に入ってきて、僕とリオネラさんは そろって少し吹き出してしまった

 

「あはははっ、そうだね。ホロホロの言う通りだよ。コンテストは終わったけど お祭りの終わりまではまだ少し時間があるんだ、せっかくだから 楽しもう!」

 

「そうだね!行こう ホロホロ、アラーニャ、マイスくん」

 

「おうよ!」

「はーい」

 

 

 僕らは『冬の野菜コンテスト』の余韻が冷めない村を歩きはじめた

 さて、何処を見てまわろうか…





 わかる人にはわかる(かもしれない)三択の雰囲気

「でも、頑張ってきたのはマイスくんもだよ」

・そうだね
・そうかなぁ…
・食ちゃ寝してました

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