マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 今回は、間隔短めで『サンライズ食堂』回。入れるならこのタイミングかなーと思いましたので…


 


2年目:イクセル「パッと見、祖父と孫」

 

***サンライズ食堂***

 

 

 俺はイクセル・ヤーン。アーランドの街にある『サンライズ食堂』を任されている……って、このくだりは もういいか

 

 

 陽も沈んだ『アーランドの街』。街の路地には 昼間の賑やかさはもう無いが、『サンライズ食堂(ウチ)』は昼とそう変わらないくらいに賑わっている

 違いと言えば……まあ、昼間よりもアルコールの匂いがするってところだろうな

 

 

 

 …で、今日の『サンライズ食堂』には マイスが来ている。もちろん 一人でじゃない

 前回はステルクさんと来ていたが、今回 マイスと一緒に来ているのは……

 

「もう『大臣』の座を明け渡してから随分と経つというのに、アイツときたらなぁ」

 

「あははは…相変わらずですからね、トリスタンさんは」

 

 マイスと対面するようにテーブルについているのは アーランドの『前大臣』メリオダスのおっさんだ

 

 

 実のところ、マイスとメリオダス前大臣は 結構交流がある

 俺が知っているのは、マイスが『青の農村』をつくる時にメリオダス前大臣が色々と助力したーなんて話があったころだけど、詳しくは知らないが 実際はもっと前から繋がりがあったらしい

 

 まあ 単刀直入に言うと、それなりに仲が良いってことだ

 

「第一なぁ、わしがアイツの歳くらいの時にはだな…」

 

「へぇ、そんなことが…」

 

 …仲はいいんだ。ただ、メリオダス前大臣はお酒が入ると愚痴っぽくなるうえにテンションの上がり下がりが激しくなるから 少し厄介で、この時ばかりは マイスも酒を(ひか)えて 聞き手に(てっ)している

 おかげで、店への影響は最小限に済んでいる

 

 けど、やっぱり はたから見ると酔っ払いに(から)まれている子供にしか見えず、不憫(ふびん)に感じてしまう

 …いやまあ、マイスは メリオダス前大臣と飲むのが嫌なわけではないらしいから、俺からは特別何か言ったりはしないんだけどな

 

 

 今日も メリオダス前大臣が酔いつぶれるまで マイスが話しに付き合わされるんだろうなー、なんて思いながら いつものように調理場でフライパンをふるう

 

「でも、同じ役職…立場に立ったことで、トリスタンさんも これまでのメリオダスさんの苦労を理解してくれてたりするんじゃないですか?」

 

「あの勤務態度では 少しも理解しているとは思えんが……そうだ!」

 

 何やら途中で声のトーンが変わったメリオダス前大臣。いったい、どうしたんだ…?何故か少しだけ嫌な予感がするんだが…

 

「トリスタンはまだ家庭を持っていない!アイツも とっくにいい歳を超えた、いい加減 嫁さんの一人や二人貰って。そうすれば それ相応の落ち着きや責任感も持つだろう!」

 

「お嫁さんを二人もつくったらダメだと思いますよ?」

 

 マイスのツッコミに対し、俺は「いや、そこなのか?」と心の中でツッコミを入れる

 

 

 にしても、嫁さんを貰う…つまりは結婚かぁ

 いかんせん、少し耳が痛い。俺も20歳(はたち)は超えたんだし、そういうのも考えなきゃいけねぇんだが……どうにもな…

 

 よくよく考えてみると、俺の知り合い連中も そういった浮いた話は全然聞かないな

 ロロナは昔から変わらず天然だし、クーデリアは時々「ジオ様ー!」って時はあるが そういう感じでは無いし、ステルクさんは相変わらずのお堅い騎士だし、エスティさんは……うん、まあ あれだし…

 でもって、マイスはマイスだしなぁ…

 

 

 俺がそんなことを考えている間にも、向こうは向こうで話が進んでいた

 

「フムゥ…今度、お見合いでもさせてみるとするか。仕事でなく見合い話なら さすがにアイツも逃げんだろう」

 

「それは…なんというか、ちょっと不安が残るような?あっ、でも、トリスタンさんって 街で見かけるときに女の人と楽しそうにお喋りしてるのを見かけたりしますから、お見合い自体は 上手くいくんじゃないですか?」

 

「だといいんだが……ひとつ気にかかることがあってな」

 

「なんですか?」

 

「トリスタンの服装が 他の者たちと比べて時代やら流行からズレている気がしてな。そのセンスが受け入れられるか心配なのだ…」

 

「ああ…なるほど。確かにズレてるかも…」

 

 

 ひとつ、ひとついいか?

 俺はマイスに言いたい「お前の服装も大概(たいがい)だろ!?」と

 

 いやまあ、マイス自身に似合ってるし、すごく遠いところの人間だから 文化が違って服のデザインに特徴があったりしても、ある程度は仕方ないと思うが…。それでも、年中 肩出しファッションはどうかと思うぞ?

 

 これは本当に言ってしまおうか迷ったのだが……そういえば、『錬金術士』の服装も 負けず劣らずの個性が鋭く尖った 特徴のあるデザインが多かったことを思い出して踏みとどまった

 

 ロロナの師匠のアストリッドさんの服装は、まだ全然常識の範囲内だった。

 ロロナの服装は、杖と帽子がちょいと目立ってはいたが まあそれ以外だけ見れば、少しフリルが有るくらいで そこまででも無かった

 んで、ここ最近知り合った ロロナの弟子のトトリは……手には杖を持って、頭には特徴的な装飾品、服は足を中心に肌の露出多めで スカートがやや透けていて フリッフリのフリルが……

 

 正直、トトリのは どうしてあんな風になったのかが全然見当がつかない

 

 

 

 俺が「もし仮に トトリに弟子ができたら、もっと個性的な服装に…」なんて考えていると、例のテーブルから 面白そうな話が聞こえた

 

 

「そういえば、マイス君。キミもそろそろいい歳じゃないかい?誰かそういった相手はいないのかね?」

 

「僕にですか!?」

 

 自分にその手の話をふられたのが予想外だったらしく、マイスは驚き、その後 難しい顔をして腕を組んで悩みだした

 

「うーん……考えたことなかった…」

 

 「だろうなぁ」と俺はひとり心の中で頷いた。これまで マイスのそういう話を聞いたことは無かったし、関心を持ったりしている様子も全く無かった

 

 

 けど、マイスはその気になれば そう問題無く相手が見つかると思うんだよな…

 他所(よそ)の出身ってこともあってか 少し感覚や考え方が独特な部分があったりもする。だが、仕事をちゃんとし、『鍛冶』『薬学』など様々な知識や技術を持ち、それでいて 人当たりや面倒見もいい

 基本的にマイスは良いヤツで、顔も広く 人気もあるんだ

 

 きっと探せば『アーランドの街』にもマイスに少なからず好意のあるヤツは何人かいるはずだ。それが 恋愛感情とかじゃなく 信愛・尊敬等の別の感情かもしれないが

 

 『青の農村』には「いるはずだ」とかじゃなく間違いなく「いる」だろう

 マイス本人はどうやら知らないみたいだが、『青の農村』を中心に『マイスファンクラブ』っていう組織が秘密裏にある…らしい。大体は 童顔のマイス「村長」をマスコット的な立ち位置に確立させようっていうノリだそうだが……まぁ、十中八九 マイスの熱烈なファンが所属していると思う

 

 …ああ、ついでに言うと『マイスファンクラブ』の話は 雑貨屋のティファナさんから聞いた

 ティファナさんは 昔からマイスのことを気にかけたり可愛がったりしていたから ファンクラブとやらに入っていても別段驚かなかった。けど、「イクセル君も入ってみる?」と聞かれた時には どう反応すればいいかわからなかった

 

 

 

「…やっぱり、思い浮かびそうにないです」

 

「そうなのか?なら キミにもお見合いをセッティングしようか?」

 

「あはは…いや、遠慮しときます。今は 色々とやりたいことがありますから」

 

「まぁ…意外な縁から始まったりするものだったりもするからな。そう()くこともないか」

 

 むこうも とりあえずはその話はまとまり、次の話題に移ったようだった

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 時間は経って、メリオダス前大臣は とうとう酔いつぶれてしまった

 とはいっても、それ自体はあまり珍しくは無い。よくあることで、いつもマイスが背負って家まで送り届けるところまで いつものことなのだ。最初の時こそ 小柄なマイスが心配だったが、何度もあって 俺ももうその光景に慣れてしまっている

 

 が、今日はいつもとは違うことがおきた

 

 

カランカランッ

 

「…やっぱり、ちょうど予想していたタイミングだったね」

 

 そう言って『サンライズ食堂()』に入ってきたのは、タン…じゃなくて トリスタン現大臣だった

 

「まったく、お酒を楽しんで飲めるのはいいことだけど、毎度毎度 他の人に迷惑をかけちゃダメじゃないか」

 

 そう言いながら、トリスタン現大臣はマイスが背負いかけていたメリオダス前大臣のもとまで行って、マイスに代わり (みずか)ら メリオダス前大臣を背負った

 

 

「トリスタンさん、どうしてここに?」

 

 そう聞いたマイスに トリスタン現大臣はいつもの調子で返した

 

「ああ、さっき言った通り 毎度キミに迷惑かけるのもどうかと思ってね。それで、これまでの経験から「そろそろ酔いつぶれるころかな?」って思って ここに来たんだ。ちょうどだっただろう?」

 

「そうだったんですか!それはわざわざ ありがとうございます」

 

「こちらこそ。親父ったら キミと飲みに行く日は決まって機嫌がいいんだ」

 

 そう言って笑うトリスタン現大臣は、ある意味突拍子もない提案をマイスにした

 

「そうだね…キミが大臣になったらどうだい?そしたら親父もすごく喜ぶし 僕も…」

 

「なら、代わりにトリスタンさんがウチの畑仕事を…」

 

「うん、この話は無かったことにしよう。それじゃあ!」

 

 そう言って メリオダス前大臣を背負ったトリスタン現大臣は店を出ていった

 

 

 …この後、会計に来た際に マイスから聞いた話だと、トリスタン現大臣は ことあるごとに大臣の仕事を地位ごと押し付けようとしてくるそうで、さっきのようなやりとりはよくあるとのことだそうだ

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 トリスタン現大臣が『サンライズ食堂(ウチ)』に来て「知らないうちに見合い話を進められてた!匿ってくれないか!?」と転がり込んできたのは、その1週間後のことだった…


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