マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 この話は前回の話とくっつけようかとも思いましたが、視点が変わる事と長くなりすぎることから、分けることとなりました
 前回、前々回に引き続き、「原作改変」「捏造設定」等が多々含まれます

 今回でマイス君とミミちゃんの過去話は一旦終わりになります
 


2年目:クーデリア「あの人との思い出・下」

***フォイエルバッハ家***

 

 

「…それで、その後はどうなったのよ?」

 

「そのあとですかー…?ミミちゃんが当主(とーしゅ)(ちゅ)ぐためのあれこれを手伝ったりー色々と教えたりー…」

 

 あたしの問いかけに、やや呂律が回らなくなってきた口で答えを返すマイス

 

 マイスが話しやすくなるために勧め飲ませたワインだったけど、思った以上の効果…というか、マイスが思った以上に早いスピードで酔ってしまっていた。それだけ、マイスが精神的に弱っていたのだろうか?

 

 

「それから1年くらい経ったころにですねー、ミミちゃんがいきなり「もうくるなー!今度シュヴァルツラング家の敷地に足を踏み入れたら許さないわよー!」って言って…」

 

 そう言いながら、マイスがプルプルと震えだした

 どうしたのかと思ったけど、(うつむ)き気味の、マイスの顔をよく見てみると、その目からは涙がダバダバと溢れ出てきていた

 それを見た瞬間、「あっ、コレはダメね」と察してしまう

 

 

「あははは、きっと…きっと僕は知らないうちにミミちゃんに悪い事しちゃってたんだー!だから(きりゃ)われたんだ、うわーん!!」

 

「ああ、もうっ!アンタももういい大人なんだから、そんなみっともない泣き方しないの!」

 

「だってー!」

 

 泣きながらテーブルに突っ伏すマイスを見て、あたしはついため息をついてしまう

 …それにしても、泣き上戸になっちゃってるマイスって、ロロナの泣いてる時に似てるわね…

 

 

 

 …そして、ふと気づいた

 

 泣き上戸……いや、それ以前にマイスが泣いているのを見るのは、何気に今回が初めてなんじゃないかしら?

 

 あたしとロロナ、それにあの騎士とで行った探索の帰り道でマイスを拾い『アーランドの街』まで連れて帰ったあの時から、もう10年くらいの付き合いにはなるけど、これまで一度も泣いたところを見たことは無かった

 

 もしかしたら、あの時…マイスがアーランドで生活するようになって1年くらい経ったころのマイスがすっごく元気が無かった時。あの時はマイスは、あたしの前でも泣いたりはしなかったし、弱音すら吐かずに気丈に振る舞っていた。

 ……あたしの前ではそうだっただけで、他の人には涙を見せていたのかもしれない。だけど、少なくともあたしは見たことは無かった

 

 

 家事も、戦闘も、農業も、鍛冶も、薬の調合も、果てには『錬金術』さえできるマイス

 微妙にズレた感覚を持っていたりはしてるけど、あたしがロロナとケンカした時には、アストリッドにいきなり押し付けられても、何かを察してくれたのか、何も言わずに色々と手を貸してくれたりした、本当にお人好しなヤツ

 

 そんな「何でもできるんじゃないか」と思えるマイスでも、それこそロロナとケンカした時のあたしのように、こうやって 嫌われたくないとか考えたり、過去の自分の行動を悔んたり悩んだりするのだ

 

 

 

 テーブルに突っ伏したままのマイスに、あたしは言葉を投げかける

 

「…いつも元気で頑張り屋なのがマイスの取柄だけど、たまにはこうやって弱音吐いちゃってもいいんじゃない?あんたの周りにいるのは、そんな頼りない奴だけじゃないでしょ?」

 

「…………。」

 

 マイスからは、返事は無かった

 

 …というか

 

「すぅ…すぅ……」

 

 いつの間にか、嗚咽が聞こえなくなっていたかと思えば、代わりに僅かだけれど寝息が聞こえてきた

 

 

 

「…たっく、しょうがないわね」

 

 あたしは立ち上がってマイスのそばまで行き、テーブルに突っ伏しているマイスを力づくで引っ張り上げ、半ば引きづるようにしてベッドのほうへと運ぶ。…マイスはそんなに大きくないはずなんだけど、流石にあたしではどうしても力不足気味だ

 

 そして、放りだすようにしてマイスをベッドへと投げ出し、その後、簡単にマイスに布団をかける

 

 

 

「ふう…」

 

 あたしはテーブルのほうへと戻って、再びイスに座る

 マイスが大半を飲んでしまい、五分の一ほどまで減ったワインを自分のグラスへと注いで、それを少しずつ喉に通していく

 

 

 …今回、マイスが話してくれたことで、おおよそだけどマイスとあの高飛車娘(ミミ)の関係は大体わかった

 前に高飛車娘が言ってた「借り」というのは、おそらくは母親のことか それ関連のことだろう

 

 

 ただ、結局あの高飛車娘が何でマイスを拒絶するようになったのかは わからないままだ。母親がいなくなってから何かあったのだろうか?マイスが何かよからぬことをしでかしたとか?

 

 状況だけから考えるなら、相続される遺産を高飛車娘が幼いことをいい事にチョロマカした……なんてところだろうけど…

 

「マイスがそんなことするはずないわよね…」

 

 ベッドで小さな寝息をたてているマイスに目を向ける

 

 というのも、性格的にも、金銭的にも、マイスがそんなことをするはずがなかった

 性格のほうはいわずもがな、金銭のほうも問題無い。だってマイスは『青の農村』が出来た頃にはもうすでにアーランド(いち)の大金持ちになっていて、『貴族』の遺産なんかに興味を持つはずもない

 

 

 …となると、別に何かの出来事があのふたりの間にあったのだろう

 

「でも、大したことじゃなさそうなのよね…」

 

 そう思う理由は、今日『冒険者ギルド』でマイスから逃げた高飛車娘の反応を見ていたからだ

 大声で叫びはしていたものの、その目には「恐怖」や「敵意」といったものは感じられなかった。そこにあったのは「驚き」とか「焦り」とか、そういった(たぐい)のものだった…と、少なくともあたしはそう感じた

 

 ……もしかして、高飛車娘が着替えているところにマイスが入ってきたとか?

 …いや、ありえそうな…ありえなさそうな……微妙なところだけど…

 

 

 

 と、ここで、グラスに注ぎ足そうと傾けた瓶からワインがこぼれ落ちなくなった。空っぽになってしまったみたい

 

 最後にグラスに残ったわずかな量を飲んでしまい、グラスを置く

 

「……今から部屋に戻るのも手間ね」

 

 イスから立ち上がり、その時の感覚であたしも酔いが回ってきているのを自覚し、この客室から自室までの移動を断念する

 

 そして、この部屋のベッドに身を倒す

 …ふと、すぐそばにマイスの顔が見えたけど……気にしないことにした

 

「……おやすみ」

 

 

―――――――――

 

 

 ……翌朝

 

 酔いが醒めた状態で目覚めたあたしが、目の前にあったマイスの顔を文字通り叩き起こしてしまったのは……その、不可抗力だということにしてほしい





 なお、マイス君が泣いたのは『ロロナのアトリエ』の「訪れた そのとき」、「マイス「切り離された存在は、何を思う」」、「マイス「僕の秘密」」等など、それなりに(?)泣いてはいます。比べる対象がないので、パッとはしませんが

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