『ロロナ「探索後の昼下がり」』の後の話となっています。
※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、特殊タグ追加、句読点、行間……
幼馴染のロロナが錬金術のアトリエの店主になって――というか押し付けられて――王宮からの課題を達成するための素材採取を手伝ってあげたりするようになってから、それなりに時間がたった。
その手伝いをしているうちに、新しく知り合うことになった人がいるのだけど……最近また知り合った奴がいる。
最初に会ったのはロロナたちとの探索帰りの街道だ。
……とは言っても相手は意識が無かったので、初対面といえば初対面だが特に何かあったわけじゃなく、ただの人助けってだけのこと。面識ができたっていうわけでじゃない。
次に会ったのが、知らないうちに探索に行っていたロロナがそろそろ帰ってないかと思い、立ち寄ったアトリエ。そこでロロナと一緒にいるところだった。
なんでもロロナが「パイをごちそうするよ!」とのことを言ってお呼ばれされたらしい。
そこで、初めてちゃんとした対面をすることとなったんだけど……変わった奴だった。
―――――――――
***ロロナのアトリエ***
「それじゃあ、私、パイ作るからちょっと待っててね!」
そう言ってこのアトリエの主である幼馴染のロロナがコンテナから材料を用意しに行く。
となれば、当然残されるのはロロナたちと拾った例の
チラリとその子の方へ目を向けると、偶然か目があった。すると、あたしに向かってにっこりと笑いかけたかと思えば、ご丁寧にもお辞儀をしてきた。
「はじめまして! 僕はマイスっていいます」
「……そうね、あんたとしては「はじめまして」かしら」
「……? あっ!もしかして、ロロナさんたちと一緒に僕を助けてくれたっていう?」
「別に、たまたまよ。それに私は何にもしてないから」
「それでもです、お世話になりました!」
第一印象は「元気で素直なやつ」、ちょっとロロナと似たタイプなのかもしれない。まあドジをしたり変にネガティブだったりすれば本当に似ていることになるのだけど……。
「あたしはクーデリア・フォン・フォイエルバッハ。ロロナとは……ま、まあ、幼馴染ってところかしら」
「よろしくお願いします、クーデリアさん」
パイを作っているロロナはまだ杖で釜を混ぜているので時間がある。
それなら、
「あんた、いくつなの?」
「えっ…?」
「だから、歳はいくつなのって聞いてるのよ」
街道で見たときから思っていたんだけど、コイツの身長はあたしとあまり変わらない。今同じソファーに座っているのでもっとよくわかるが、ほんのわずかに
それで、何が問題になるのかというと「もし、マイスが年下だったら」という可能性だ。
年上や同い年ならまだ納得できるが、年下だとしたら低い慎重に少なからずコンプレックスがあるあたしにとっては悔しいというか面白く無いのよね……。
「その……ごめんなさい」
「……? なによ、教えたくないってこと?」
「ロロナにもさん付けで呼んでるんだから年下でしょうね」と高をくくっていたら、予想外の拒否ともとれる謝罪だったのであたしは苛立った。
「いや!?そうじゃなくて……。教えたくないんじゃなくて、教えられなくて」
「どういう意味よ?」
「その……」
言葉に詰まったかのように、口が止まった。
何故かチラリとロロナの後ろ姿を見た後、再びマイスの口が動き出す。
「僕は、街道で助けられる前の記憶は『シアレンス』っていう場所の家で寝たところまでで、どうして街道にいたのかっていう記憶が無いんです……」
それが年齢のことに何の関係があるのか。
そう思ったが、そこから続いてきた言葉は信じられないものだった。
「ロロナさんたちにもそれだけしか言ってないけど……でも、「無い記憶」はそれだけじゃなくって、本当は『シアレンス』は記憶喪失の僕が迷い込んだ町で、それよりも前のことはほとんど……」
「そう……」
「あっ!でも、『シアレンス』で思い出せたこともあって、自分の名前のこととか、お父さんやお母さんと話したこととか」
「っ……!」
少し辛そうな……悲しそうな顔をしたかと思えば、本当に心から楽しそうに話しだす。
記憶を失ってから時間がたっていて、いくらか余裕があるのかしら。
けど、その余裕が「希望」によるものなのか「諦め」によるものなのか、考えていると凄く悲しく感じてしまう。
「あんた……」
「なんですか?」
「この先、歳を聞かれたら「13」って答えときなさい。わざわざ長ったるい話につき合わせる必要はないわよ、別に不自然じゃない歳だとおもうし」
別にこれは同い年にしておけば身長による私への精神的ダメージが無くなるからであって、それ以外の意味は無い……そうだとも。
「……はい! ありがとうございます」
「なによっ、別に礼を言われることなんて――「できたー!」
元気の良い声が聞こえて反射的にそっちを見ると、パイを作り終えたロロナが嬉しそうに釜から出てきたパイをかかげていた。
ふんふんと楽しそうに鼻歌を歌いながら、パイを用意していたお皿に盛り付けていってる。
「ロロナさんから聞いてはいましたけど、本当に何でも作れちゃうんですね、錬金術って」
「ついこの前までは、普通に調理して作ってたはずなんだけどね」
それもこれも、ここの元店主の
「おまたせー! パイ、できたよー。あっ、あと香茶入れるからね」
「あ、手伝いますよロロナさん」
「大丈夫だよ、ほんとに出すだけだからー」
ちゃちゃっと香茶を取り出して人数分用意するロロナ。
でも、なんでかその顔は不機嫌そうだった……といっても「むー」とふくれているくらいでカワイイだけなのだけど。
「マイス君……?」
「はい?」
「私、「さん」って付けなくていいって言ったよね? あと、そんな堅いしゃべりはやめてって……」
「あっ、そうでし……そうだったね! ごめん」
途中、マイスがこっちをちょっと見てきたんだけど……?
ああ、なるほど。こいつもこいつなりの遠慮があったのかもしれない。
堅く話していた奴が、長くても数日の付き合いだけのロロナに砕けたように喋ると、ロロナのことを別段軽く見ているんじゃないかと思われるかもとか考えてたりしたんじゃないかしら? ……私の勝手な予想だけど。
もしそうなら、異様に気を遣ちゃってるだけなんだけど。
「そうね、あんたがそんな喋り方してたら なんか違和感があるわよ。変に気をつかわないで歳相応の話し方をしなさいよ」
「うんうん! くーちゃんの言うとおり! マイス君はもっとだらーんとしていいんだよ!」
「そうなのかな……? すぐには無理かもしれないけど、気をつけるよ」
……同意してもらったところ悪いんだけど、ロロナの言う「だらーんとして」はよくわからないわ。
「それじゃ、あらためて!パイを食べちゃおー!今日は自信作だから、すっごく美味しくできてるんだよ!」
それからはじまったお茶会はのんびり色々話したりながら、有意義な時間を過ごすことができた。
あと、わかったことなんだけど、ロロナはマイスの頭をなでたり 汚れた口元を拭いてあげようとしたりと、かなり年下を扱うように接していた。
マイスはかなり困惑していたけど、ロロナは楽しそうだからまあいいか………別に羨ましくなんてない。