マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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2年目:マイス「トトリとちむとマイス」

 

***マイスの家***

 

 

 来客。村の人でも、外から来た人でも、僕にとってはよくあることだ

 

 

 だけど、今日はちょっと変わっていた

 

 見た目が、ではない。…あっ、いや『錬金術士』的にはそう特別変じゃないってだけで、それなりに目立つ格好ではあるけど……

 

 そう、(ウチ)に来たのはトトリちゃん。いつも通りのトトリちゃんだ

 その腕で()(かか)えている存在を除けば、ね

 

 

「ちっちゃい……ホムンクルス?」

 

 見た瞬間にホムちゃんに近い感じがしたから、なんとなくだけれどそうだとわかった

 ただ、それにしても小さい。頭身は人よりも、金のモコモコ状態の僕に近く、単純な大きさだけでいえば金のモコモコ以下だろう

 

 そんなちっちゃな子が、ソファーに座るトトリちゃんに抱き抱えられたまま片手をピシッっと挙げた

 

「ちむー」

 

「……ち、ちむ?」

 

 ……たぶん、彼女(?)なりの挨拶なんだろう。でも、「ちむ」って…?

 

 

「マイスさん、紹介しますね!わたしのお手伝いをしてくれるちむちゃんです!」

 

「ちむ!」

 

 凄くニコニコした良い笑顔でちっちゃいホムンクルス…もとい、ちむちゃんを紹介してくれたトトリちゃん

 その紹介に合わせて、ちむちゃんは再び元気よく返事をした。眠そうに見えるのは目だけで、ずいぶんとやんちゃそうな子だ

 

「僕はマイス。よろしくね、ちむちゃん」

 

「ち~む~」

 

 挨拶をしたあと ちむちゃんの頭を撫でてあげると、ちむちゃんはニコーっと笑った

 …どうやらこの子は、ホムちゃんとは違って随分と感情が顔に出やすいみたいだ

 

 

「ホムンクルスってことは……もしかして、その子を作ったのってロロナ?」

 

「はい。えっとですね、先生が作った『ほむちゃんホイホイ』っていう機会みたいなものに「特別な素材」を入れたら、よくわからないんですけど、それが……こう…ガタガタと動き出して……」

 

 トトリちゃんがその時のことを一生懸命伝えようとしてくれるけど、途中から段々と言葉に詰まりだし、首をかしげだしてしまった。…おそらくは、トトリちゃん自身 その時に何が行われていたのかが理解できていないんだろう

 

 その結果、完全に言葉に詰まってしまったトトリちゃんは……

 

「こ、今度アトリエに来た時に見ればわかると思います!」

 

 ……説明を放り投げた

 まあ、仕方ない。それだけホムンクルスを作るというのは難しいんだろう

 

 

 それに、気になるならロロナ本人から聞けばいい……て、あれ?

 

「そういえば、ロロナはアトリエで留守番してるの?」

 

「本当は一緒にここに来るはずだったんですけど……その、クーデリアさんに連れていかれちゃって」

 

「クーデリアに?」

 

 何かあったんだろうか?猫の手も借りたい……そんな感じでロロナを?

 いや、もしかしたらロロナがクーデリアと何か約束していて、それをうっかり忘れてたとか?……前はよくあったからなぁ…

 

「それが、アトリエに来たクーデリアさんがちむちゃんを見て「でかしたわ、ロロナ!」…って言って、それで今日は一緒に飲もうって先生を連れて行っちゃったんです」

 

「ちむちゃんを見て?でかした?」

 

「ちむ?」

 

 いったい何のことなのだろう……?わからずちむちゃんを見てみるけど、ちむちゃん自身も当然わからないようで、僕と一緒に首をかしげた

 

 

―――――――――

 

 

 あれから『香茶』を淹れ、「ちむちゃんは『パイ』が好きなんですよ!」と言うから『アップルパイ』をお茶請けとして出した

 

 

「ええっと…それで、今日はちむちゃんを僕に会わせに来たのかな?」

 

 僕がそう聞くと、トトリちゃんは「あっ!?」と忘れていた何かを思い出したかのように、驚き口に手をあてた

 

「実は、マイスさんに頼みたいことがあって……」

 

「頼みたいこと?」

 

 申し訳なさそうにするトトリちゃん

 

「あの……また、一緒に調合してくれませんか?」

 

「一緒に、調合…?」

 

「ちむむ?」

 

 僕とちむちゃんは一緒に首をかしげた

 

 

 …けど、僕はふとある事を思い出した

 前にアトリエに行った際に、トトリちゃんとロロナが一緒に調合をして全部『パイ』になったという、あの出来事。その時、僕がトトリちゃんと一緒に調合してみて出来たものは、高品質の『中和剤』が湧きだす『アクティブシード』だった

 

 ……と、いうことは……?

 

 

「いいけど……何を調合したいの?」

 

「『フラム』です。最近、強い敵が多くなってきて爆弾の消費が早くて…。それで『中和剤』みたいに増やせたら、そのまま使うのにも、もっと強い爆弾の材料にも出来て便利かなーって」

 

 「なるほど」と僕は頷く

 

 確かに『フラム』は素材を厳選すれば、それ単体でもかなりの威力になる。だけど、爆発範囲や威力の上限を考えると、それよりも強い『メガフラム』と使い分けながら使用していきたい

 ……となると、『メガフラム』の材料でもある『フラム』のほうを、以前の『中和剤』のように『アクティブシード』で生産できたりしないだろうか、とトトリちゃんは考えたんだろう

 

「ハゲルさんのところの『量販店』で取り扱ってもらうことも考えたんですけど……出来るまでの日数や金銭的な理由で、少し厳しくて…」

 

「わかったよ。それじゃあどうなるかは保証できないけど、やってみようか!……それで、そっちのアトリエに今から行けばいいのかな?」

 

「あっ、いえ。使う素材は用意してきてますから、マイスさんの家の錬金釜を貸してもらえれば……」

 

「それじゃあ、隣の『作業場』に行こうか」

 

「はい!」

 

 良い返事をしたトトリちゃんは、膝の上に座らせていたちむちゃんをソファーにおろして、「それじゃあ、準備してきますね」と『作業場』のほうへと続く扉を開いて足早に言ってしまった

 

 

 

 『香茶』の淹っていたティーカップや『パイ』を乗せていたお皿を片付けてから、僕も『作業場』のほうへと行こうとしたんだけど……その途中、僕の左足が何者かに捕まれた

 驚いて足元に目を向けると……そこにいたのは、腕だけでなく全身で僕の足にしがみついている ちむちゃんだった。しかも、何故か涙目である

 

「どうしたの?」

 

「ちむ、ちちむ。ちむちーむ!ちむ」

 

 僕の問いかけに対し、足から離れたちむちゃんが身振り手振りを交えながら何かを伝えようとしてきた。

 

 何かを嫌がっているようなんだけど……だけど、具体的に何を言っているのかわからない。……もしかしたら金モコ状態になればわかるかもしれないけど、今 変身するわけにもいかないしなぁ…

 

 

 とりあえず、状況や今ある情報で、ちむちゃんが何を嫌がっているかを推測することにした

 

 今 僕が行こうとしていたのは『作業場』。そこには調合の準備をしているトトリちゃんがいる。……ちむちゃんが僕を止める理由はあるだろうか?

 

 色々と考えているうちに、ちむちゃん…ではなく、ホムちゃんのことを思い出した

 昔、ロロナのお手伝いをしていたころのホムちゃんは、採取地に素材を採りに行ったり、調合をしたりしていた。…おそらくは、トトリちゃんの手伝いをするというちむちゃんも、こんな小さな体でも同じようなことができるのだろう

 

 

 …ここで、ふと気づいた

 

 『フラム』って、ちむちゃんに作ってもらったらダメなんだろうか?

 

 いや、もしかしたらトトリちゃんは別のものの調合を頼んでいるのかもしれない

 だけど、もしトトリちゃんがちむちゃんに何も頼んでないんだとすれば……意外と辻褄が合うのではないだろうか?

 

 ホムちゃんは、会ってすぐのことが特にそうだったけど、命令を第一とし、それをこなすことだけに存在意義を持っていたふしがあった

 ちむちゃんも同じだとすればどうだろう?自分の役目であるはずの量産を『アクティブシード』に盗られてしまうとあれば、気が気でないのかもしれない。そうだとすれば、調合をやめて欲しいと訴えるかもしれない

 

 

 その考えが正しいかどうか確かめるために、僕はしゃがみ込み ちむちゃんに問いかけた

 

「もしかして、『フラム』を作るのをちむちゃんがやりたいのかな?」

 

「ちむ!ちむ!」

 

 勢いよく頷くちむちゃん。どうやら僕の考えは当たっていたようだ

 だけど、そうなると気になることがひとつ…

 

「ちむちゃんって、今、トトリちゃんからお仕事 何も頼まれてないの?」

 

「ちむー…ちちむ、ちむ」

 

 首を振って、何かを撫でるようなアクションをした後、僕の足にしがみついた

 

「ええっと……」

 

 誰が何を撫でて、何にギュッとしがみつくのか……

 

「もしかして……トトリちゃんはちむちゃんを撫でたり抱きしめたりするだけ…ってこと?」

 

「ちむ!ちむ!」

 

 再び大きく頷くちむちゃん

 健康的で元気なことからもわかるけど、ちむちゃんはちゃんとゴハンはもらっているみたい。だけどどうやら、お仕事はもらえてないようだ。…可愛がられているみたいだけど、それでは ちむちゃん的にはかなり悲しい部分があるだろう

 

 

 

「でも、さっきトトリちゃんに「いいよ」って言った矢先に、「やっぱりダメ」なんて言えないしなぁ…」

 

「ちむ!?」

 

 ガーン!?といった感じに涙目になるちむちゃん

 

「いや、でも大丈夫!トトリちゃんに、ちむちゃんにもお仕事させてあげるように言ってあげるから!ね?」

 

「ちむむ?ちむー!」

 

 「本当?」と聞いてきたような気がしたので頷いてみせると、喜んで僕の胸に飛び込んできた。それは、僕を止めようとした時の抱きつき方とは随分と違っていた

 

 

 さて、そうと決まればまずは『作業場』に行って、トトリちゃんと調合してこよう

 

 

 

――――――――――――

 

***マイスの家・作業場***

 

 

 

「……で、なんですかこれは…」

 

「『アクティブシード』だよ。…初めて見るカタチだけどね」

 

「ちむ~」

 

 

 トトリちゃんとの調合は上手くいき、錬金釜の中には拳大の種が出来ていた

 

 ただ、問題があった

 どんなものだろうと、さっそく床に落して『アクティブシード』として落してみたんだけど……

 

 生えてきたものは、『チャームブルー』…こっちで言うとリリー…ユリとかそのあたりの植物を大きくした感じで、花弁が真っ赤なものだった

 ……ただし、花は開いてなくてつぼみの状態で、『アクティブシード』特有の生きているような動きをしている

 

 

「マイスさん、これって『フラム』が元になってるはずですよね?……でも、前の『中和剤』の時みたいに『フラム』そのものはどこにも…」

 

「うーん……たぶんだけど、この子が外敵に反応する戦闘タイプだってことだと思う。前の『中和剤』の時は『水場草』に似てたから補助中心の子だったから、てっきりこっちもそうなると思ったんだけど…」

 

 考えられるのは、今回調合したのが『フラム』という戦闘用のアイテムだったということだろう。その方向性が取り込まれて完全に戦闘向きな『アクティブシード』になった……と、まあ あくまでも予想だけどね

 ただ、例が少ないため断言はできない

 

「そうですか…。でも、少し残念でしたけど、せっかくですから今度の戦闘の時に使ってみますね!」

 

 そう明るく言うトトリちゃん

 

 

 

 何はともあれ、これでちむちゃんに『フラム』を量産するっていう仕事を頼むように、トトリちゃんに言えるわけだ

 

 ……でも、あのフラムユリ、暴発しないか少し心配だなぁ…

 大丈夫だよね?使う人は爆発に定評のあるロロナじゃなくてトトリちゃんなわけだし……大丈夫、だよね?


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