『サンライズ食堂』回。久々で雰囲気を忘れ気味
つなぎの回といった感じで、内容は薄めです
***サンライズ食堂***
俺はイクセル・ヤーン。毎度おなじみ、アーランドの街にある『サンライズ食堂』を任されているコックだ。
陽も沈み、街中の街灯が路地の石畳を照らす『アーランドの街』。そんな夕闇の街の一角にある『
それはさておき、今日はマイスのヤツが来店している。しかも、少しいつもと違った顔ぶれでだ
「「かんぱーい!」」「ええっと…かんぱい?」
マイスと一緒になってテーブルについているのは、ロロナとトトリだった
この三人、繋がりがあるかどうかといえば、「十分すぎるほどにある」。だが、こうして三人で『
……いちおう補足しておくと、一人一人では結構 顔を出しに来る。それに、ロロナとトトリは、アトリエと店が隣なこともあって食べに来たりする。マイスとロロナは、ロロナが旅に出るまではクーデリアやステルクさんなんかを交えながら飲みに来ていた時期もあった
そんな初めての組み合わせの三人組だが、さっそくトトリが他の二人のペースを掴めずにいる
お酒が注がれたグラスを傾けるマイスとロロナの様子にチラチラと目をやりながら、ジュースの注がれたグラスに口をつけた。おそらくは二人の
実際のところ、その判断は間違ってはいない。というか、自分で立ち位置を見つけられなくても問題無いとは思う
マイスもロロナも、マイペースで独特の感性を持ち 我が道を行くヤツらだけど、決して周囲が見えないわけでは無い。特に身近な人には気がまわるから、様子を見ているトトリに気づけば 自ら手を引きに出るだろう
問題があるとすれば、
…まあ、ロロナは酔っても普段と方向性は同じだし、マイスもロロナと飲みに来る時はいつもストッパー側にまわるから、そんな大変な状況になったりはしないだろう
「えへへー。マイス君とこうやってお酒飲むのも久しぶりだねー」
「そうだね。ロロナが旅に出て、それから帰って来てからも中々タイミングがなかったからね」
「えっと…先生とマイスさんって、昔はよく飲みに来てたんですか?」
トトリの問いかけに、マイスが料理に手をのばしかけていた手を止め、そして少し考えるような仕草をした後、頷いた。
「そこまで頻繁にでは無かったけど、それなりにって感じかな?他にもステルクさんとかと一緒だったりした時もあったよ」
「マイスさんとステルクさんが……何だか想像がつかないかも」
確かに、トトリの感想には頷けなくはない
俺は昔からマイスとステルクさんが一緒にいるところを見てきたから慣れたが、あの二人が並ぶと、似合わないというかアンバランスなんだ。身長差はもちろんのこと、いつも明るくニコニコしているマイスに対し、ステルクさんは仏頂面。かなり違いがあるように感じられる
だが、実際のところ、以前『サンライズ食堂』に二人で飲みに来ていたように、結構仲は良い。想像だが、一見違うように見える二人は、共に根が真面目なあたり そりが合うのかもしれない
……まあ基本は真面目でも、マイスは身内に甘く ちょっとズレていたりするし、ステルクさんは頑固で 不器用だったりする。…やっぱり、微妙に似てないな…。むしろそれが良かったりするんだろうか?
「他の人と飲みに来たっていったらー…?そうそう!マイス君が初めてお酒を飲む時、くーちゃんも一緒だったけど、くーちゃんも初めてで二人とも大変だったんだよー」
「あの時は僕もクーデリアも飲み方がよくわからなくて……すぐに酔いつぶれちゃったね」
「へぇー…」
あの時は、最近の
二人ともそう体格が大きいわけでは無いが、完全に寝てしまい力が抜けている体は重くて、運ぼうとしたロロナが潰されていたのを憶えている
「そうだぁー!トトリちゃんがお酒を飲めるようになったら、一緒に飲もうね!ねっー!」
「え、ええっ?」
「うん!それは良い考えだと思うよロロナ。今14歳だから……6年後だね」
「楽しみだけど、ちょっと待ち遠しいなぁー」
「6年後……6年後、か」
ニコニコ笑っているマイスとロロナだが、当のトトリは少し複雑そうな顔をしていた
……その視線と両手がトトリ自身の胸にいっていたのは……まあ、そう言うことだろう。気にしているんだな…
―――――――――
料理を食べ進めたり、ロロナが酒の追加を注文したりしながら、時間が過ぎていった
そんな中で、ふとマイスが何かを思い出したように はたと手を止めた。それを不思議に思ったロロナがマイスの顔を覗きこんだ
「どーしたの、マイス君?」
「いや……ひとつ思ったんだけど、トトリちゃんが14歳ってことはツェツィさんはそろそろ20歳だったりするのかな?」
「うーんと、わたしとおねえちゃんは5つ違いだから……来年で20歳です」
「そっか。なら、その時には何かうちのお酒でもプレゼントしようかなー?」
「うちのお酒…?マイスさんって野菜とかだけじゃなくてお酒も造ってるんですか?」
「うん。育ててる果物類を材料にしてね」
「そうなんですか!?…それじゃあ、今日 先生やマイスさんが飲んでいるお酒も…?」
「まさか…!」といった様子で尋ねるトトリ。その問いに先に答えたのはロロナだった
「違うよー?マイス君のお酒、街に出回って無いもん」
「えっ、そうなんですか?」
「『
そうなんだ。その酒はこの『サンライズ食堂』にも
以前、『青の農村』の祭に参加した際にマイスに飲ませてもらったが、あれはかなり美味く感じた。個人的には是非とも『
アレをプレゼントされるとなると、正直 羨ましい限りだ
トトリは「そんなもの、貰ってもいいのかな…?」と少し不安げだったが、相手はマイス、別にそんな心配する必要は無い。それに来年のことだから、今色々考えても意味は無いだろう
……ふと思ったんだが、作物等の生産はもちろん 加工品なども作っている『青の農村』は、『アーランド共和国』の最大にして中心である街にほど近いという好立地なこともあって経済的にかなり安定している
さらには、特産品と呼べるものや、だいたい月一である「祭り」なんかも、人の行き来による村の活性化に役立っているだろう
そう考えると、片手の指で数えられる年数でここまでの村を作り上げたマイスは、なんだかんだ言って有能なんじゃないだろうか?
……何事においてもマイス自身が楽しむために始めているふしがあるが…、結果オーライだろう
―――――――――
結局、その日はトトリがいたこと自体が良いストッパーになっていたのか、マイスもロロナもそこまで酔っぱらうことは無かった
ただ、当のトトリは店を出るとき「ちょっと食べ過ぎちゃったかも…」と言っていたが……まあ、普通に歩けていたからきっと大丈夫だろう。…もしかしたら太る事を気にしていたのかもしれないが…