***マイスの家の前・畑***
朝の冷え込みの中、僕はクワを振るう。ザクッ、ザクッという、土を耕す音が澄んだ空気に良く響く……ような気がする
ここから見える範囲の村の様子は、早朝と言うこともあってまだ人の姿は少ないけど、寝床から起きてきたモンスター(青の布付き)を含め、ボチボチ多くなっていくだろう
『アーランド』で暮らし始めてから もう何年もたつけど、このあたりは冬になっても『シアレンス』のように頻繁に雪が降ったりしないようで、少しだけ勝手が違ったんだけど それにももう慣れた
『アーランド』の街の周辺はそういった安定した気候だけど、採取地のいくつかは年中暑かったり、逆に年中寒かったり……といった感じに、環境が変わらないような場所もあった
そっちは『シアレンス』の周辺にも春・夏・秋・冬で変わらない環境を持った場所があったから、そこまで驚かなかったけど、『アーランド』では『シアレンス』と違って、そういう変わらない環境に限って 畑に向いた土地が無いのが少し残念ではあった
環境が変わらない場所っていうのは、考え方を変えれば 年中同じ作物を育てられる……例えば、寒さの厳しい場所では年中冬の作物が栽培できるわけだ。…それができないのは少し残念ではある……その前に、採取地が離れているから行き来が大変かぁ
「よしっ…と!今日のところはこんな感じかな?」
色々と考えながらの作業だったけど、流れは身体が覚えきってい待っているから何の問題も無く種まきや水やりまでこなすことが出来た
「どうかね?最近の出来は」
「はいー、上々ですよ。質も量も安定してますし、みんなしっかりと元気に育ってくれてます」
僕はそう返事をしながら声のした方へと振り返った
「いらっしゃいませ。ジオさん」
「ああ、お邪魔させてもらっているよ」
綺麗に整えられているアゴ髭に触れながら、軽く微笑みかけてくるジオさん
「ふむ……相変わらず素晴らしいものだな、君の畑は。…そして、村のほうは来る度に前よりも活気にあふれているように思えるくらいだ。君の手腕が見て取れるようだ」
「ありがとうございます!…でも、村のほうは僕が凄いわけじゃないですよ。村のみんな一人一人が頑張ってくれて……「村の為に」って一丸になってくれているから、今のこの村があるんです。僕なんて、それこそコッチにしか能がありませんから」
そう言いながら、先程まで使っていた『クワ』と『ジョウロ』を手に取ってみせる
でも、ジオさんは首を振ってきた
「謙遜しなくていい。それに、君だからこそ ここに人を集められ永住させるに至る事が出来たというのは、疑いようもない事実だ。誇りたまえ」
「そうですか……?」
うーん……正直なところ、実感は湧かない。そもそも、村の運営については 農業関係のこととお祭りのこと以外はあんまり関わってないからなぁ…
そんなことを思いながらも、このまま立ち話もなんだと思って、ジオさんを家に招き入れた
―――――――――
***マイスの家***
「こうやって君の淹れたお茶を飲むのも久しいな。……うむ、やはり良いものだ」
用意した『香茶』を口につけ、ひとつ息をつくジオさん
「そうですね。…確か前に来た時は……」
僕はずっと思い返してみて、ジオさんと会った時のことを思い出そうとする……
「…そうだ!一年と少しくらい前に、僕の留守中に来たってコオルに聞いたんだった。……ということは、それよりも前……二年半前くらい…?」
確か、トトリちゃんが『
ジオさんも僕の言葉に頷いて、思い起こすように目を瞑った
「そういえば、そうだった。立ち寄ったものの君はいなくて、行商の青年から君が出ていることを聞いたんだったな。村ができてからは 街か村かしか移動していない印象があったから、あの時は「珍しい」と思ったものだ。最近も出ているのかな?」
「はい。知り合いの冒険者のお手伝いと、それと クーデリアからの『冒険者ギルド』の手伝いで、時々ですけど採取地に出かけてます!」
「ほう…?あのお嬢さんの手伝いか……。彼女は受付嬢をしていたはずだが、それで何故採取地に?」
ジオさんが反応したのは、ジオさんと面識のあるクーデリアのほうだった
「えっとですね、クーデリアが担当している『冒険者免許』…それのランクアップの基準になる冒険者ポイントの項目のポイント配分の見直しの為に、一度ちゃんと採取地で確認をしないといけないからーってことらしくて。それで、僕はその護衛を頼まれたんです」
「なるほど…。少し前に話には聞いていたが、冒険者制度の運営も一筋縄ではいかないというわけか」
納得したように頷くジオさん。ひと息つくように 再び『香茶』に口をつけた
……でも、『冒険者ギルド』って国営だから 何かしらあったら・あるなら報告とかがいくと思うんだけど……そのあたりの管轄は大臣さん辺りなのかな?
「あっ…!そうだ」
「む、どうかしたかな?」
「いえ、さっき言った 僕が手伝っている冒険者についてなんですけど、ジオさんにも縁があるかなって思って」
僕の言葉に「ほぉ?」と興味ありそうにこちらに目を向けてくるジオさん
「もしかしたら他の誰かから聞いたかもしれませんけど、その冒険者の子…トトリちゃんって言うんですけど、ロロナの『錬金術』の弟子なんですよ!」
「ロロナくんの弟子…だと…」
ジオさんは驚いたように目を大きく見開いた。…この様子だと初耳だったみたい
「そうか、彼女にも弟子が……なんとも感慨深いものだな…」
「それにしても……ロロナなら、ジオさんに会ったら真っ先に話しそうだと思ったんですけど…?『アトリエ』にいるロロナには会わなかったんですか?」
「ムムッ!?」
「……?どうかしました?」
変な声を出したジオさんに問いかけたんだけど、ジオさんは「いやっ、なんでもない…!」と首を振った
「いや なに、前を通りかかったんだが、ちょうど出かけていたようでな。私も時間がそうあるわけでは無かったから、会えなかったんだ」
「なるほどー、そんなことがあったんですね。ロロナは、これからはトトリちゃんの手伝い以外ではそんなに長い期間 アトリエを空けないらしいんで、今度時間がある時に会いに行ってあげてくださいね!」
「う、うむ。次の機会にはそうさせてもらうとしようか」
『青の農村』は監視の目がほぼ無いため、あちこち旅している最中に普通に立ち寄るジオさん
ジオさんが『青の農村』を訪れるのは、『アーランドの街』に寄る前or寄った後だと勝手に勘違いしているマイス君
『青の農村』に監視の目(主にハト)が無いのは、「マイスがいるから大丈夫だろう」という考えによるもの…………全てがバレた時が怖いですね!