***とある街道***
『アランヤ村』周辺の採取地を全て周っておこう……というわけで わたしたちがやって来たのは、村から南西の方向にある半島
前は半島の手前の採取地までしか行ったことはなかったんだけど、今なら半島の端のほうまで行っても問題無い……と思う
「このあたりの道って、少し荒れてるよね」
いちおう、採取地と採取地の間を結ぶ 正式な道なはずなんだけど、結構大きい岩が転がってたりデコボコしてたりと、「良い道」とは言い辛い
「この半島の端には村とか人の集まる場所が無いから 人が通ることが少ないの。いても、私たちのような冒険者くらい。荒れてしまって当然だわ」
そう言うのはミミちゃん
『アランヤ村』に一緒に来てたから、今回の冒険に付き合ってもらってる
「俺は好きだぜ?こういう道。あんまり人が通ってないような道のほうが、未開の地を冒険してるって気がしてくるじゃん!」
そう元気な調子で言うのはジーノくん
わたしが『アーランドの街』に行っている間も『アランヤ村』で冒険者としての活動をしてたみたい
……あっ。ジーノくんが言ったことに、ミミちゃんが小声で「はぁ、発想が子供ね…」て呟いた。でも、そういう子供っぽいところがジーノくんだしなぁ
「そういえば……ジーノくん、凄く強くなったよね。前に一緒に冒険した時よりもずっーと」
前の採取地でのモンスターとの戦闘を思い出して言う
「まあな!一人で冒険したりもしたし、師匠に修行つけて貰ったりもしたからな!」
ニシシと笑うジーノくん
ジーノくんの師匠…ステルクさんはアーランドの元・騎士の強い人で、わたしのアトリエにも時々来てくれて、色々アイテムを頼まれたりする
そんな強い人が師匠にいると、やっぱり強くなるのかなぁ…?
わたしも、ロロナ先生がいたら もっと『錬金術』が……って、あれ?もう
「でも、師匠がいない時にも頑張らねぇとダメなんだ。もっともっと強くならないとな」
「えっ、なんで?ジーノくん、今でも十分強いと思うんだけど…?」
「いいや、まだまだだ。師匠に勝つにはまだ全然足りないんだ!」
「ステルクさんに?ジーノくんが?」
ステルクさんが強いって言うのは、時々聞いたことがある。あとは、わたしとジーノくんが『冒険者』になるために初めて『アーランドの街』に言った時の道中に、馬車を襲った強そうなモンスターを一瞬で倒して助けてくれた
実際に戦っているところは まだ見たこと無いけど、凄く強いはず
そんなステルクさんに ジーノくんなんかが敵うとは思えないんだけど……
「つーわけで、まずはマイスを目標にしようと思ってる!」
「へぇーマイスさんを…………マイスさんを!?」
ジーノくんは軽いノリで言ってるけど、どう考えても順番がおかしいよ!?
「村に来た時にメルお姉ちゃんに勝ったんだよ!?なんで、そのマイスさんがステルクさんの前段階なの!?」
それはまあ、メルお姉ちゃんとステルクさんのどっちが強いのかとか、わからないことは多いけど、それでもそんな気楽に挑む相手じゃないと思う。
「でもさ、あの時のメル姉 完全に油断してたじゃん。それにマイスはネギだったし」
「うん……ネギだったけど……」
だけど、そのネギ、斧を弾き飛ばすんだけど……絶対 普通のネギじゃないよ…
「それに、一緒に冒険した時の感じからして マイスは師匠ほどは強くは無いかなーって!だから、師匠の一歩前の目標にするんだ!」
「ふんっ」
「…なんだよ」
ジーノくんを鼻で笑うような態度をしたのは、話を聞いていたミミちゃんだった
「どうしたの?ミミちゃん?」
「別に。ただ、何も知らないのがおかしかっただけよ」
「知らないって、何のことだよ」
「やれやれ…」といった感じに首を振ったミミちゃん
「あんたの師匠だっていうステルクって人とマイスの実力はほぼ互角よ。それも見抜けないようじゃ、まだまだね」
「あれ?ミミちゃんって、ステルクさんのこと知ってるの?」
「まあ、街じゃあそれなりに有名人だから」
そうそっけなく言うミミちゃん
マイスさんのほうは……わたしが初めて『青の農村』に行く時に、よくわからないけど「行かない!会わない!」って言ってたから、何かしら知ってるってことは知ってたけど……
そんなことを思い返していると、ジーノくんが不思議そうに首をかしげながら ミミちゃんに言った
「互角って何だよ?あのふたりって戦ったことでもあるのか?」
「あるわよ。王国時代にあった『王国祭』で『武闘大会』っていうのがあったんだけど、それで戦ったことがあるの。…聞いた話じゃあ、それ以降も何度も戦ってるそうよ」
『王国祭』…そういえば、前に『青の農村』でのお祭りの時に会ったステルクさんが、なにかそんなことを言っていたような気もする
わたしは実際には知らないけど、昔はそんなお祭りが街であってたんだ…
「『武闘大会』っ!なんだそれ、おもしろそうだな!…っで!師匠とマイス、どっちが勝ったんだ!?」
「うぅ!?そ、それはー……どっちだったかしらー?まだ私が小さかった頃の話だから憶えてないわ。…でも、凄い接戦だったのは確かよ」
その答えにジーノくんは「ちぇーっ」と、結果を知れなかったのを残念がりながらも、「その『武闘大会』っていうの、またないかな?俺も出てみてぇ!」とテンションをあげていた
わたしは…ミミちゃんが途中 目が泳いだ気がしたのが少し気になったかな?
―――――――――
そんな事を話しているうちに、次の採取地のすぐ手前に差し掛かった
けど、そこで 遠目にだけど誰かがいるのが見えた
「あっ、あれってもしかして、マイスさん…?それにその近くにいるのは……クーデリアさん!?」
街からも『青の農村』からも遠いこんな場所に、マイスさんはともかく なんで受付嬢のクーデリアさんまで!?
むこうもこっちに気がついたようで、マイスさんが軽く手を振って来た
けど、なんでかわからないけどマイスさんの動きがピタリと止まって……何故かガクンと肩を落としちゃってた。代わりにクーデリアさんが口を開いた
「奇遇ね、こんなところで会うなんて」
「そうですね!でもなんで、クーデリアさんがこんなところに?モンスターもいて危ないですよ?」
「そのためにマイスを護衛でつけてるのよ。…とは言っても、このあたりの敵なら あたしだけで十分だけど」
そう言うクーデリアさんは、受付で仕事をしている時と変わりない様子で余裕の表情だった。嘘を言っているような気はしないんだけど……信じられないなぁ…
「クーデリアさんって、強いんですか?」
「そこそこには、ね。まあ、昔はよくロロナの素材集めに付き合ったりしてたから、嫌でも実戦経験が多くなったってだけよ」
あっ、そっか。クーデリアさんってロロナ先生と幼馴染だったから、先生が駆け出し『錬金術士』のときから色々手伝ってたって、前にアトリエに来た時に話してたっけ?それなら、なんだか納得できるかも
…でも、ジーノくんはそうは思えなかったみたいで……
「えっ!ちっちゃいねーちゃんってつえーのか?うっそだー」
「あら?どこに風穴開けて欲しいのかしら?」
いつの間にかクーデリアさんの手に小型の『銃』が握られていて、ジーノくんに突きつけられていた
この事態に、さっきまで肩を落としていたマイスさんが、慌ててクーデリアさんの手を抑えた。そして……
「そ、それじゃあ、三人とも 気をつけて冒険してね!」
「ちょっ、離しなさい!!」
マイスさんが何か小声で言ったかと思うと、何か光り……マイスさんとクーデリアさんが消えてしまった
……もしかして、何か『錬金術』のアイテムでも使ったのかな?
「……よくわからないけど、行こっか?」
そう言ってわたしはジーノくんとミミちゃんに……ってあれ?
「あれ……ミミちゃんは?」
ミミちゃんが見当たらず 周りをキョロキョロしていると、そばにあった木の陰からミミちゃんの顔がヒョッコリ出てきた
「どうしたの?」
「……もう行った?」
「行ったって、マイスさんとクーデリアさんのこと?…ならもういないけど」
わたしがそう言ってから、ミミちゃんは辺りをよーく見渡した後、木の陰から出てきた
「変なミミちゃん」
「何か言ったかしら?」
「ううん、何も?」