マイスを護衛につけて、あたしは調査を兼ねた冒険へと出かけようとしていた その時
街のすぐ外で口喧嘩しているロロナと元・騎士を見かけ、そのそばにロロナの『錬金術』の弟子であるトトリがオロオロとしている場面に出会った
あたしと一緒にいるマイスはこんな光景は放っておけないタイプだろうし、あたしとしても、さすがにトトリがかわいそうに思えたから、とりあえず何とかしてみることに。……あと、ロロナが最近どうなのかも気になったし…
口喧嘩を続けている2人をよそに、トトリとあたしたちで色々と話した。……あたしが冗談半分で言った「あたしたちの冒険についてくる?」という言葉に、トトリが本気で考え出した時には少し驚いた
…まあ、そもそもトトリが目指している採取地は 大陸の東の端のほうで、あたしたちの最終目的地の『黄昏の玉座』とは方向が違うから一緒に行くにはどちらかが予定を変更しないといけないということが、話をしているうちにわかったりしたんだけど
そうしているうちに、口喧嘩していたロロナたちのほうもひとまず落ち着いたみたいで……
「…ん?彼女は何処に行った?」
「あっ、いた!トトリちゃん……って、あれ? なんでくーちゃんとマイス君がいるのー?」
……って、ようやくあたしたちに気づいたようだった
もちろん、ふたりはマイスから説教を受けた。…というのも、マイスも昔に今のトトリの様な状況になったことがあったみたいで……
「もう!ふたりとも仲が良いのは別にいいことだけど、あの時の僕みたいにトトリちゃんをほったらかしにしたらダメじゃないですか!」
……と叱ってた
…ただ、問題があるとすれば、マイスにはこういう「叱る」っていうのが難しいみたいで、一通り言った後 相手が「ごめんなさい」などの反省の色を少しでも見せたら すぐにコロッといつも通りに戻ること
ネチネチと言い続けるよりはいいかもしれないけど……マイスって、基本的に甘々なのよね……
っで、その後にトトリから
「ここでこうして会ったのも何かの縁ですし、途中まででも一緒に行きませんか?」
っていう提案が出てきた
確かに、トトリが予定していたルートと あたしたちが予定してたルートは、途中までは重なっているから不可能ではない提案だ
別にこっちからすれば何の損も無い…特に断る理由も無い提案だったから、提案を受け入れて『ネーベル湖畔』あたりまで一緒に行くこととなった
べっ、別にロロナと一緒に行けるから……とかじゃなくて!戦力的に 一緒のほうがお互い楽だろうって思っただけなんだから!!
――――――――――――
***ネーベル湖畔***
そんなわけで、あたしたち5人は数日の冒険の後に『ネーベル湖畔』にたどり着いたわけだけど……
「…ふぅ、こんなところかしら?」
この採取地で確認しておかないといけないことを一通り確認し終えたあたしは、ひとつ息をついてから辺りを見渡す
『錬金術』の材料になるものを採取しているロロナとトトリ。そして……
「てぇぃあーーー!」
「『
採取地のモンスターたちを一掃する元・騎士とマイス。
このふたりは、今現在アーランドにいる人の中で こと接近戦においては屈指の実力者。それこそ3本指くらいにははいるんではないか…というくらいには強い
そんなふたりが こうして一緒になって戦っているとあれば、まず敵は無いだろう
「……というかコレ、過剰戦力 過ぎやしないかしら?」
「えー?くーちゃん どうかした?」
一通り 採取を終えたロロナとトトリがいつの間にかそばまで来ていたみたいで、あたしの独り言を聞いていたロロナが首をかしげて聞いてきた
「大したことじゃないわよ。ただ、あのふたりがいたら、このあたりの採取地にいるモンスター相手に あたしたちの出番は無いだろうなって思っただけ」
そう言っているうちに、この採取地にいるモンスターたちは大方追い払い終えたんだろう。さっきまで戦っていた元・騎士とマイスがこっちに戻ってきだしていた
その様子を見ていたロロナとトトリは、納得したように軽く頷いている
「たしかに。ステルクさんもマイス君も とっても強いからねー!一緒の時はすごく頼りになるよ」
「そうですね。…それに今回はちょっと長めの冒険になりそうだから、アイテムの温存が出来て助かります」
トトリの言葉に「なるほど」と思った
確かに『錬金術士』には爆弾とかの戦闘で役に立つアイテムがあったりするけど、当然 使えば減る。もちろん、事前に多く調合しておけば問題無いだろうけど……温存できるならしておけたほうが良いに決まってる
それに、さすがにアトリエの外…採取地なんかで調合なんて出来っこないだろうし
……あら?そういえば、前にロロナとマイスと三人で『絶望峠』に言った時に、ロロナが戦闘中に『パイ』を調合してた気がするような……気のせいだったかしら?
「どうだったっけ?」と思い出そうとしているうちに、元・騎士とマイスがそばまできた
「こちらは一通り片付いたが……そちらはどうだ?」
「大丈夫ですよー、ステルクさん。私もトトリちゃんも採取はばっちりです」
「クーデリアはどうかな?」
「こっちも問題無いわ。元々『
あたしの言葉に頷きながら「よかった!」と言うマイス
……そのマイスの視線がピタリと止まった。マイスの向いているほうへと あたしも目を向けてみると、ロロナの斜め後ろにいるトトリが何かを何かを考え込んでいた
当然、マイスが見逃すはずもなく、トトリに問いかけた
「トトリちゃん、どうかしたの?」
「あっ、えっと……実はマイスさんとステルクさんに聞きたいことがあるのを思い出して……」
「私たちにか?」
意外そうに言う元・騎士と、「何だろう?」と軽く首をかしげながらも トトリに、遠慮せず言うようにうながすマイス
「昔あったっていう『武闘大会』っていうお祭りで、マイスさんとステルクさん、どっちが勝ったんですか?」
「…ん?」
「ぐふぉっ!?」
盛大なリアクションをしたのは元・騎士
トトリが王国時代のイベントを知っているのには あたしも驚いたけど、元・騎士の驚き様は異常ともいえる取り乱し方だった
「何処で聞いた!?…いや!どこまで知っている!?」
ロロナが「す、ステルクさん!?落ち着いて!」と止めているが、トトリは元・騎士の反応が予想外だったらしく、こちらもかなり驚いていた
そこからトトリが説明しだして、わかったことなんだけど……
どうにも、前にトトリの幼馴染のジーノと それと高飛車娘…ミミの三人で話していた時に「マイスさんとステルクさん、どっちが強いのか」という話題になって、その時に街出身のミミが王国時代に行われた『武闘大会』について話したらしい
そして、マイスと元・騎士が互角の勝負をしていたことは憶えていたけど、肝心の勝敗は忘れてしまっていた……ということらしい。
「……で、さっき二人がモンスターと戦っているのを見て、改めて気になった。そういうことね?」
「はい」
他の皆も状況を飲み込めたようだ。特に元・騎士は一人で何やら安心しきった顔をしていた
…ああ、そういえば あの『武闘大会』の決勝戦でロロナに負けたのを引きずってるんだったかしら? 「人には知られたくない…」とか言っていた憶えもある
けど、当時では一年に一度の大イベントで沢山の人が観客としていたわけだから、口止めなんてあんまり効果無いような気もするんだけど…
……それで、最初のトトリの質問に戻るんだけど、あたしもロロナも……当然、当事者である二人も結果は知っているわけだ。…そんな中で一番最初に口を開くのは……もちろんマイスだった
「あの時は僕が負けたんだ。「決まった!」って思ってちょっと気が抜けたのが敗因かな…?」
「とはいえ、接戦だったな。……それに、今でもさほど差は無いだろう。僅かな差で私が勝ち越せてはいるが、それでも一進一退と言ったところだ」
マイスに続いて、元・騎士のほうも当時の事を思い出したりしながらトトリに話した
けど、その話に食いついたのはロロナだった
「えっ!?最近でも戦ったりしてたんですか!?」
「ああ。ごく最近まで、街の近くまで寄った時には いつも少なくとも1,2回は試合をしていた」
「ついでに言うと、その何回かは『
あたしがそう付け足すと、元・騎士とマイスは「そんなことがあったのか?」「ええ、まあ」と軽く受け答えしていた
「そうだったんですか」と、とりあえず納得したトトリだったけど、またオズオズと……今度はマイスにむかって問いかけてた
「その……昔から武器は『ネギ』だったんですか?」
「「「おたま(ね)(だよ)(だったな)」」」
あたし、ロロナ、元騎士が声をそろえて言い、そしてマイスは……
「おたまじゃなくて『アクトリマッセ』ですよ?」
そう抗議していた……
――――――――――――
***黄昏の玉座***
『ネーベル湖畔』でロロナたちと別れてからも、あたしとマイスは途中に別の採取地に寄りながらも無事『黄昏の玉座』へとたどり着いていた
さすがにこのあたりの敵となると マイスもあまり気を抜けないみたいで、武器も『ツインネッギ』から『プラチナエッジ』というちゃんとした剣の見た目のものに持ち替えていた
少しだけ時間がかかりながらも、特にこれといった問題も無くモンスターたちを倒せた
そして、ようやく調査や地図の確認を開始した
けど……
階段のように段々になっている崖を登った先にある、この採取地の名称の由来にもなっている、まるで大きな玉座のような形をした…人工物か否かもわからない岩
その近くに、不思議なものが見えた
揺れながら渦巻く光の塊
光なんだけど不思議と眩しくはなくて、なんとなく淡い感じの光だった
「……何かしら、あれ?」
「どうした…の……えっ!?」
あたしの後をついて来ていたマイスが、その光を見て驚いているのが横目に見えた
その顔に浮かんでたのは驚き。ただし、あたしのように「未知のモノ」に対する驚きではない
「アレが何だかわかるの?」
「うん。とりあえず
「…わかったわ」
「光を壊す…?」と疑問に思いながらも、ここはマイスに任せることにして、その光に対して剣を振るうマイスの様子を見守った
少ししてからピシュンッと音を立てて、その光は消えた……
それからマイスから話を聞いたんだけど、あれは『ゲート』というモンスターが出現する穴のようなものらしく、今回みたいに攻撃しても何もモンスターが出てこないのは運が良いらしい
「でも、どうしてだろう…。僕が前いたところではよく見かけたけど、アーランドでは初めて見たよ」
「あたしも初めて見たわ。聞いたのも初めてよ。……もしかすると、他の場所にもあったりするのかしら?」
「わからない…。でも、もし何かあったら『冒険者ギルド』に情報がくるんじゃないかな?」
マイスにそう言われて「また仕事が増えるの…」と飽き飽きとした
でも、もしマイスの言う「モンスターがわいてくる」というのが事実であり、他の場所にこの『ゲート』が出現しているとするなら無視はしておけないだろう
なんにせよ、『
そういうわけで、マイスと共に 調査と地図の確認を再開した