マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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3年目:マイス「モコ!モコモコー!」

 

***霧の廃墟***

 

 

 『アーランドの街』から西の方角に行ったずっと先にある採取地『(きり)廃墟(はいきょ)

 その名前の通り、年中 大抵の時間霧が立ち込めている地域にある廃墟の周囲一帯の呼称だ

 

 

 この採取地にある廃墟のような、以前は人が使っていたであろう…しかし、今現在は誰もいないような場所・建物といったものは、それほど多くは無いものの 大陸に点在している

 こういった荒れた家には当然ながら人の気配は無くて、一般的に周囲には幽霊(ゴースト)系のモンスターが多くみられる傾向がある

 

 モンスターに襲撃でもされたのか、何か流行り病でもあったのか、他の土地に移住したのか……その理由はわからないけど、なんだか物悲しい雰囲気が漂っている……気がする。もしかしたら、僕の先入観からくる勝手なイメージかもしれないけど

 

 

 

 …さて。僕は今、その『霧の廃墟』に()()()()()()()()()()姿()で来ているわけなんだけど……それには理由があった

 

 

「情報通りなら、ココかな……?」

 

 

 建物の屋根が半分くらい壊れているからあまり役割の意味が無い、蝶番(ちょうつがい)がさび付いている扉を開けて……その中にある()()に目を向けた

 

 揺れながら渦巻く光の塊……そう、『ゲート』だ

 

 

 

――――――――――――

 

―数日前―

***冒険者ギルド***

 

 

 それは、ある日の午後

 

 トトリちゃんが『アランヤ村』に帰るという事を聞いて、以前に『サンライズ食堂』で一緒にゴハンを食べた時に約束していた「二十歳になったツェツィさんへのプレゼントの『青の農村』産のお酒」をトトリちゃんに渡し、見送った後、そのまま『冒険者ギルド』へと行ったんだけど……

 

「あら、マイス。ちょうどいいところに来たわね」

 

 そう言って『冒険者ギルド』で僕を出迎えたのはクーデリアだった

 

 

「やあ、クーデリア。…それで、「ちょうどいい」ってどういうこと?」

 

「あんたに知らせるために、時間を作って『青の農村』へと行こうかと思っていた…ってことよ」

 

「何かあったの?」

 

「前にあたしたちが『黄昏の玉座』で見た光……アレと同じかもしれないモノを見たっていう目撃情報が冒険者からあったのよ」

 

 その話に僕は驚いた

 

 確かに、理由は不明とはいえ一度発生していたのだから、同じ場所…もしくは別の場所で発生していてもおかしくは無いとは思う

 だけど、これまで目撃情報が無かったから「()()()が特別だったのだろう」と思っていたんだけど……。これは本格的に色んな場所に発生していてもおかしくないことになりそうだ

 

 

「それで、目撃情報のあった場所は?」

 

「ここから西北西にある『霧の廃墟』。その廃墟の中にあったらしいわ」

 

「わかった。僕が今から行ってみるよ」

 

 僕がそう言うと、クーデリアは少し驚いたような顔をし……その後、「キッ!」っと僕を鋭く睨んできた

 

「マイス……一人で行く気なの? 確かにあんたの強さならそこらのモンスターに遅れは取らないとは思うけど、まだアレには分からないことが沢山あるのよ?」

 

「アレって『ゲート』のこと?」

 

「そうだけど、そうじゃないわ。マイスはアレを自分の知っている『ゲート』ってものと一緒だと断言してるけど、もしかしたらそうじゃないかもしれない……もっと危ないものの可能性だってあるわ」

 

「それはそうだけど……でも、一人じゃないと調べられないこともあるから」

 

 僕の言葉に、クーデリアは「何よ、それは?」と視線と表情で問いかけてきた

 僕は周りを見渡し……聞き耳を立てていそうな人がいないことを確認してからクーデリアに顔を近づけて、クーデリアだけに聞こえる様に小声で言う

 

「モコモコに変身して、その採取地にいるモンスターたちに話を聞いてみようと思うんだ。そうすれば、『ゲート』がどうやって発生したかっていう情報が手に入るかもしれないし……それに、もしかしたら『ゲート』から出てきたって言う子もいるかもしれないと思うんだ」

 

「……つまり、そうやって情報を得るために警戒対象になる人間は近くにいないほうがいいってことかしら?」

 

「うん。『青の農村(ウチ)』にいる子たちは人に慣れているからそんなことは無いんだけど、他所の子はどうしても人に敏感だから……」

 

 そう言うと、クーデリアは腕を組んで悩み……大きく息を吐いてから首を振った。

 

「わかったわよ。……でも、自分の身の安全を第一に考えてよね? 『青の農村』の近くならともかく、あの状態のあんたは、毛目当ての人に襲われかねないんだから」

 

「あはははっ……うん、それは命一杯気をつけるよ」

 

 

 

―――――――――

 

―現在―

***霧の廃墟***

 

 

 そんなわけで、こうして金モコ状態で『霧の廃墟』まで来たんだけど……

 

「うーん、やっぱり僕の知っている『ゲート』と同じっぽいなぁ…」

 

 『ゲート』を構成している光の色は赤…つまり「火」の属性の『ゲート』で、火の属性での攻撃は通じないはずだ

 

「『黄昏の玉座』で見たのは白で「光」だったっけ?……色々属性があるのも僕の知っている『ゲート』と同じだね」

 

 …となると、後はこの『ゲート』からモンスターが出てくれば ほぼ確定なんだけど……

 そう思いながら、僕はジィーっと『ゲート』を見つめ続ける

 

 

 

 …何分間か経っても『ゲート』はうんともすんとも言わなかった

 

 原因を考えるとすれば、この『ゲート』の周囲にモンスターが十分にいすぎて、これ以上出てこないように制限のようなものがかかっているか……それか、そもそもモンスターが出てこない…僕の知っている『ゲート』とは別物か……

 

 

「…とりあえず、この採取地にいるモンスターたちから話を聞いてみるかな」

 

 そう考えて、廃墟から出たんだけど……

 

 

「ケケケケケッ!!」

 

「うわぁ!?」

 

 出てすぐに遭遇した幽霊系のモンスター『スケアファントム』たちは、話をするなんて気は無さそうで、すぐさま襲いかかられた

 

 

 そう。僕が金モコに変身したからといって、絶対にモンスターに襲われないわけじゃないのだ

 話が通じないわけじゃない……とは思うんだけど、襲ってくるモンスターも結構いる。それも「この種族のモンスターは襲ってくる」と断言できるわけでもなく、同じ種類のモンスターでも個体によって違ったりもするみたい

 

 考えられる原因は、そのモンスターの「食性」、「縄張り意識」、「性格」など。そのあたりの違いによって襲ってくるかどうかが決まっているように感じる

 

 

「ハァ、ハァ…!やっぱり幽霊系のモンスターは話を聞いてくれそうにもないなぁ…」

 

 幽霊系のモンスターは「怨念の集合体」だなんて言われていることもあるけれど、そういうところが理由なのかな? とはいっても、調べようもないからどうしようもないんだけどね

 

 

「ええっと、ここにいる他のモンスターは……」

 

 キョロキョロとあたりを見わたすと、金モコ状態の僕の背と同じくらいの高さの 黄色い棒のようなものが二本並んでいるのが見えた。ゆらゆらと揺れるその棒のようなものの正体は……

 

「ぷに~」

 

 黄色いぷにの頭(?)の上から生えている耳(?)だった

 ……実際にそれが耳なのかは不明だけど、その二本がウサギの耳のように見えるためかその種類のぷにには『耳ぷに』という名前が付けられている。なお、体が白い『耳ぷに』は『うさぷに』と呼ばれたりするようだ

 

 

 何はともあれ、僕はその『耳ぷに』と話をしてみることにした

 

「こんにちは!」

 

「ぷににー!」

 

 ファーストコンタクトは成功だ。この調子で話を続けてみる…

 

「実は少し聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」

 

「ぷに?ぷににーに、ぷにぷぷっ」

 

「アッチにある光の渦の事なんだけど、何か知らない?」

 

「ぷにににぷに?ぷに、ぷにっぷ。ぷにぷにー……ぷにに、ぷっぷぷにーぷぷににに!」

 

「ええっ!?本当!?」

 

「ぷに!ぷに!」

 

 なんということだろう!

 この『耳ぷに』は、人間に倒されたと思ったら いつの間にか知らない場所にいて、そこで自由気ままに過ごしていたそうだ。そして変な光があったから不思議に思い触れてみると、ここ…つまり『霧の廃墟』にいつの間にかいたらしい。…で、その時そばにあったのがあの光の渦『ゲート』だったそうだ

 

 つまり、この子はあの『ゲート』を通ってきたようなのだ

 ということは、この『耳ぷに』が言っている「知らない場所」というのは おそらく『はじまりの森』だろう

 

 

「…でも、なんでだろう? アーランド(ここ)の人たちがモンスターを倒しているのは、ロロナの手伝いをしている頃から見てるけど……『タミタヤ』の魔法で『はじまりの森』にかえしているところは見たことないんだけどな…?」

 

 そもそも、アーランドには魔法自体ほとんどないようなもので、リオネラさんが不思議なチカラを持っていたりと、ごく一部の人がそれっぽいものを使っているだけのはず……。

 

「うーん……どういうことだろう?」

 

「ぷぷに~?」

 

 そばにいる『耳ぷに』が、首をかしげている僕を不思議そうに見つめていた……


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