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僕は数日間かけて、『霧の廃墟』に存在した『ゲート』とその周囲、そして
新たに分かったことも少なからずあったけど、ゲートについては分からないことだらけだった。
それは、そもそも僕がゲートやゲートの主な成分である『ルーン』について元々詳しくなかったことも、分からなかった理由のひとつだと思う
「それにしても、思った以上にゲートから出てきたって言う子が多かったなぁ…。でも、『シアレンス』で見かけるようなモンスターは全くいなかった……本当に『はじまりの森』に繋がっているのかな?」
そんな事を思いながら、ゲートへの対処の仕方を考えた
発生条件がわからない以上、やっぱりシアレンスにいたころと同じで とりあえず壊すしかないのかもしれない
……まあ、何はともあれ調査はいちおう終えたわけなので、『青の農村』の家へと帰る事にする
息を整えて、ある準備をする
「『リターン』!」
そう唱えると、僕の視界は光に包まれた
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***青の農村・マイスの家の前***
僕の視界をおおっていた光が消えると、目の前に見えたのは見知った家の玄関だった
……けど、そこで気がついた。
ドアの取っ手が目線よりも高い。…つまりは、僕が小さいんだ
あっ!金のモコモコの姿のまま帰ってきちゃったんだ!?
とは言っても、そこまで焦ったりはしない。なぜなら、『青の農村』自体は意外と金モコ状態で歩き回ったりして、村にいるモンスターたちから話を聞いたり、健康状態をチェックしたりしているので、村の人たちも金のモコモコにそこそこ慣れているのだ
……もちろん、金モコが僕だと知っている人はいないから、ついうっかり「モコモコー」など以外の普通の言葉を喋ったら大騒ぎになると思うけどね……
とりあえず、裏手のモンスター小屋か何処かで変身してから、改めて家に入ろう
そう思ったんだけど……
「じー……」
「モ、モコ!?」
視線……というか声を聞いて 慌てて振り返る。擬音語を口で言うような人物……その要素から思いついた通り、そこにいたのは……!
「わぁ!モコちゃんだー!!」
「モコ~!?」
ほとんど跳びかかるようにして 金モコ状態の僕をガッシリと捕まえたのはロロナだった。ロロナもフィリーさんほどじゃないけど、昔から金のモコモコのことが大好きなのだ
……ついでに言うと、ロロナには、その……なんとなくタイミングが無くて「僕=金モコ」だということを未だにあかせていない
僕を抱きしめたまま立ち上がった後、両手を僕のわきに通して腕を伸ばし……つまり、目線の合う高さに持ちあげた状態で、ロロナは僕に一方的に話しだした。
「久しぶりだねー!元気にしてた?」
「も、モコ」
とりあえず頷くと、ロロナは「そっかー!」と嬉しそうに笑った。
「トトリちゃんから「リオネラさんがマイスさんの家で
そう言われて思い出したのは、ロロナがアストリッドさんを探しに旅に出た頃のこと
『青の農村』ができたのもちょうどそのころで、ウチの人たちに農業を教えてた頃は金モコ状態になる機会も少なかった。そして、ちょくちょく帰ってきたりもしてたけど、本格的にロロナが街に帰ってきたのはつい最近で、その間は本当に金モコ状態では会っていなかったわけだ
そう考えると、ロロナにとっては本当に久しぶりの再会なんだろう……僕としては、つい先日に会ったんだけどね……
そんな事を考えながら、僕はロロナの言葉に首を振ってみせた
「ええっ? 何か違うの?」
「モコ!モコモコ、モココッ!」
身振り手振りを少し加えながら、「『青の農村』に住んでいるわけじゃない」と伝えようとする……伝わるかはわからないけど
そう伝えるのには理由がある。『青の農村』に住んでいると思われて、昔の…まだ「僕=金モコ」と知らない状態のフィリーさんのように「遊びに来たよ!」と村に来られると、少し困る。二重生活は思った以上に色々と大変なんだ……
「うーん……わかんないや…」
「モコー……」
「わわわっ!?そんなに落ち込まないで…! うーん……困ったなぁ…」
伝わらなかった事に肩を落とした僕(金モコ)を見て、ロロナは慌ててしまい、何故か悩み込んでしまった
「そうだ! おわびってわけじゃないけど、わたしのアトリエに『パイ』食べに来ない? …うん!そうしよー!」
「モコ!?」
僕の意思は!?
そう思い、反論して止めようと思ったのだけど、それよりも早くロロナが僕を改めて抱きしめ、移動を始めてしまう
「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
「モ……モコォ…」
息ができなくなるほどではないんだけど、少し強く抱きしめられてしまって、逃げられず苦しいなか、ロロナに運ばれてアーランドの街へと連れていかれてしまうのであった……
――――――――――――
***ロロナのアトリエ***
「そこでちょっと待ってね。すぐにできるからー」
そう言って抱きしめていた僕をアトリエのソファーに降ろしたロロナは、コンテナへと向かって行った
「モココー…」
それにしても、どうしようか……
アーランドの街と外とを区切る門にいた門番さんは、ロロナに抱き抱えられた僕を見て驚いた顔をした……が、何があったのかすぐに笑顔になって通してくれた。街に入ってからすれ違った人たちも大体同じ反応だった
…考えられるとすれば、やっぱり首に巻いている『青い布』の効果なのかな?
昔、ジオさんが提案して広めてくれ、その後、『青の農村』の由来ともなった青い布。元々はたまたま金モコ状態の僕が身につけていただけだったんだけど、そこから広がっていき、僕の家の周りに住み着くようになった「人に友好的なモンスター」の証となっていった
それが『青の農村』内だけでなくて、ちゃんと街の人たちにも定着したのかもしれない
…それはそれで嬉しいことなんだけど……この状況、どうしよう?
鼻歌交じりに「ぐーるぐーる」と言いながら『パイ』を調合しているロロナを見る
このままここにいてもそこまで問題ではない。もちろん、色々としなきゃいけないことはあるんだけど、必死になって逃げてまですることじゃない
やっぱりまだ金モコ状態で一人で街を歩くのには不安がある。……まあ、いざという時は アトリエの裏手の陰にでも隠れて変身すれば問題は無い……かな?
「モコ~…」
それに……
「ふーんふーん、ふふふーん」
ロロナがあんなに嬉しそうにしているんだ。いきなりいなくなっちゃったりしたら、悲しんでしまうかもしれない。だから、少しだけの間、このまま付き合ってもいいよね?
コンコンコンッ
そんな事を考えていると、アトリエの玄関の扉がノックされる音が聞こえてきた
「はーい、どうぞー」
ノックにそう答えるロロナを見て、僕は「昔は集中し過ぎてノックの音に気付かなかったり、逆に集中を乱して慌てちゃって爆発させちゃったりしていたのに、成長したなぁー」なんて思っていたんだけど……
「お邪魔します…」
「あぁ、ミミちゃん。いらっしゃーい!」
ああ、本当だ。お客さんはミミちゃんだったのかー……って、ミミちゃん!?
そう驚く僕をよそに、釜をかき混ぜるロロナが申し訳なさそうにミミちゃんに言った
「ごめんねー。トトリちゃん、まだ『アランヤ村』に行ったままなんだー」
「そう、ですか。すみません、何度もお邪魔しちゃって……」
「いいよー、気にしないで。…あっ、そうだ! 今ちょうど『パイ』を作ってるところなんだ。もうすぐ出来るから、せっかくだし食べていってよ!」
そんなロロナの誘いにミミちゃんは「ええっと……それなら」と少し悩みながらも頷いたようだった
「それじゃあ、その子と待っててー」
「……? その子?」
ロロナにそう言われて首をかしげたミミちゃんは辺りを見渡し……そして、ソファーに座っている僕に気がついた
「…………」
「モモコー…?」
どうしていいかわらず、こんにちは…?といった感じに軽く頭を下げてみる
「…………どうも?」
…どうやらミミちゃんのほうも どうしていいかわらなかったみたいで、なんとなく頭を下げて僕の隣に座ってきた。…そこまでモンスターには敵対心…というか嫌悪感は無いみたいだ
その後、ロロナが作ってくれた『パイ』を一緒に食べたんだけど、金モコ状態では初対面なわけだから当然と言えば当然だし、モンスターであることを考えればいいほうだったのかもしれないんだけど、ミミちゃんとは何とも言えない距離感のままだった
……でも、普段避けられてるから、それに比べたら凄く距離が近く感じてしまうのが悲しいところだなぁ……
それと、ロロナからの久々のモフモフは、とても疲れた…