ロロナと、ついでにイクセルと、マイスとトトリをどうにかしようって事を話し合ったあの日から数日経った今日。あたしはそう多くは無い仕事の休みを利用して『青の農村』のマイスの家へと向かっていた
会いに行くとは言っても、別に今日のうちに何かしらの作戦を実行したりするわけじゃない
むしろその前段階。二人の仲直り……というか誤解を解かせるための計画をたてるために、マイスの今現在の状態を確認したり、今後の予定なんかを聞き出したりするために今日は会いに行っているのだ
「どっかに行ってたりしなければいいんだけど……」
そう一応は心配しているのだけど、おそらく杞憂に終わるとは思っている
というのも、『青の農村』が出来てからはマイスが遠出することはほとんどなくなっていたからだ。それこそ、トトリの手伝いでついて行くようになるまでは、ほとんど『青の農村』と『アーランドの街』の行き来くらいしか無かったらしい
そして、知っての通り今現在はトトリとの交流がほとんど無くなってしまっているため、今、彼女の冒険の手伝いで外に出ていることも無いだろう
……マイスが外出している可能性があるとすれば、ここ最近あちこちの採取地から目撃情報が出ている「謎の光の渦」…マイスが言うのは『ゲート』というものらしい…それの確認・調査・破壊などを行っているという事態だろう
だけど、あたしの知っている限りでは昨日・今日には目撃情報が『冒険者ギルド』にも入ってきていない。だから、マイスが独自に情報のルートを持っていたりしない限りは大丈夫だ……と思う
「まぁ、一番の問題はトトリのほうなんだけど。そっちはロロナが「任せてっ!」て張り切ってたし……ちょっと心配だけど、
そう。マイスとトトリに元通りになってもらうには、順序がある
まずトトリのほうを軟化させて話をし、落ち着いた状態でマイスと会えるようにする。そうしてからトトリをマイスに会わせ、
まぁ、そもそもの考え方に差があるんだろう、という気もするけど……それはマイス本人とちゃんと話せば、トトリもすぐに気づけるだろう
そんな事を考えながら街道を歩き続けているうちに、『青の農村』の入り口付近にまでたどり着いた
街道のわきから伸びる村の広場まで続く道のわきには、この村に属している農家と、その一軒一軒が持っている木でできた柵に囲まれた畑がある。そしてその畑には青々とした野菜が
「今期も、全体的に豊作のようね。……って、あたしが心配するようなことでも無いけど」
そんな独り言をいつの間にかしてしまいながらも、あたしは『青の農村』へと足を踏み入れた
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***青の農村***
村に入ってからは、途中、顔見知りの村の人や旅の行商人なんかに声をかけられながら、マイスの家のほうへと進んでいった
当然ながら、この村の一員である青い布を巻いたモンスターたちにも会った
もうあたしは随分と慣れているつもりだけど……やっぱり、視界はじのほうから鳴き声を上げられると少し身構えてしまう。モンスターたちのほうからしたら、ちょっとした挨拶のつもりなのかもしれないけれど、こればっかりは慣れそうにも無い
モンスターといえば、この『青の農村』にはいろんな種類のモンスターがいるけど、同じ種類のモンスターでもいろんなヤツがいるみたいだ
その辺りで寝ているヤツ
まるで警備兵のように村を巡回しているヤツ
村の人になでられたり、ブラッシングをされているヤツ
畑で農家の手伝いをしているヤツ
改めて思ったけど、何も知らない人が訪れてしまったら間違いなく自分自身の目を疑うでしょうね……
……って、あら? なんだか少し騒がしいような……
そう思って、耳を澄ませてその騒がしさの発信源を探ってみる……すると、どうやらちょうど目的地であるマイスの家のほうのようだった
わたしは少しだけ歩く速度を上げた
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***青の農村・マイスの家前***
「あれは……」
マイスの家のそばまで来ると、騒ぎの原因がわかった
まあ、騒ぎと言っても、別段人だかりができているわけじゃなくて、騒がしくしている人が4人ほどいたというだけだった
「…………落ち着いたか?」
「えっと……どう?」
いつも以上に難しい顔をしている自称騎士。そしてそれと相対しているのはあたしが会いに来たマイス
そのマイスが「どう?」と確認しているのは、マイスの背後に隠れようとしている二人……
「ううぅ……まだ、ちょっと……」
「ご、ごめんなさい……!」
フィリーとリオネラだった
残念なことに、二人そろって
……いや、そもそもあの三人の中でマイスが一番小さいから、どちらか一人だけでも隠れるのは厳しい気がする。あのマイスの背後に隠れたいならあたしくらいの身長じゃないと…………自分で考えてて少し悲しくなった
「それにしても、この状況は……って、考えるまでもないわね」
あのリオネラがいること自体には少し驚きはしたものの、これまでにも『青の農村』に訪れていることは知っていたからそこまででもない。
そして、フィリーとリオネラ、それに加えて自称騎士のステルクとくれば、騒ぎの原因はもう決まったようなものだ
そう考えていると、リオネラのそばを漂っている二匹のネコの人形・ホロホロとアラーニャが、あたしの思っていた通りだと確信するようなことを言った
「久々で気絶しなかったのは良かったけどよ、怖い顔だからって悲鳴を上げんのはいい加減やめてやろうぜ」
「そうよ、リオネラ。そんな知らない怖い人じゃないんだから、ちゃんとしましょう? それに、ここまでくると失礼よ」
「わ……わかっては、いるけど……ヒィ!?」
マイスの背後から恐る恐るといった様子で顔を上げていったリオネラだったけど、ステルクの顔を見た瞬間、短い悲鳴を上げて顔を引っ込めてしまったようだ
そんな中、普段ギルドの受付で悲鳴を上げ慣れている(?)フィリーのほうは、もう立ち直ってきたみたいで、ステルクのほうへと顔を向けられていた
……だた、まだ恐ろしさはあるみたいで、目が少しでも合いそうになると勢いよく目をそらしていた
けど、ああしてマイスのそばにいるということは、もしかすると、この間まであっていた「フィリーがマイスと目を合わせない&マイスが出ていった後、一人でもだえる」問題はいつの間にやら解決したのだろうか?
……よくわからないけど、おそらく、状況的にはそう思えなくも無い
……と、そうやって目をそらしたフィリーの視界にあたしがちょうど入ったようで、一瞬だけフィリーの動きが止まって……そうしてから口が開いた
「ううぇ!?クーデリア先輩!?」
フィリーの声でソコにいた全員があたしに気付いたみたいで、視線が集中してきた
あたしはため息をつきながら、驚いているフィリーに言う
「あら?あたしがここに来ちゃいけなかったかしら?」
「べ、別にそんなことは…!? ただ、今日はお仕事があったんじゃないかな、って思っただけで……」
「今日のあたしの仕事は午前中だけよ。後は他の子たちに任せてあるわ……それにしても、相変わらず大変そうね」
そうあたしは途中から、フィリーとは別の人…ステルクのほうへと話を振った。言ったことはかなり言葉を削った状態だったのだけど、どうやら意味は問題無く通じたみたいで、ステルクは重い溜息を吐いてから重々しく口を開いた
「全くだ。少しこちらに用があったのと、王のことで聞きたいことがあったから立ち寄ったら……悲鳴二つで出迎えられるとはな……」
「そんなに落ち込まないでくださいよ、ステルクさん。二人ともステルクさんが嫌いとかそう言うわけじゃなくて、ただ単純に顔で驚いてしまっただけですから」
少し気を落しているように見えるステルクに対し、マイスがフォローになっているか微妙な言葉をかけた。当然、自称騎士のほうは何とも言えない顔になっていた
「顔だけで怖がられるというのは、たいがいだと思うんだが……?」
「目が合うどころか、声をかけたりする間も無く姿を見ただけで逃げられるよりはマシだと思いますよ?」
「……どうしたんだ?少し見ない間に、随分と卑屈気味になった気がするんだが……?」
「あははは……、ただの例え話ですよ」
フィリーとの関係は修繕された様だったから
その事に一人頭を抱えながら、あたしはどうしたものかとため息を吐いた……
次の『トトリのアトリエ編』の更新で、やっとマイスとトトリが久々の対面……の予定です