マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 原作とは微妙に表現などが異なる部分が有ります
 それらが今後のストーリーにどれだけの影響を与えるかどうか……は、現時点では未定です


4年目:トトリ「わたしの3年間と、これから……」

 

***冒険者ギルド***

 

 

 

 三年前……『アーランドの街』に来たわたしは、ここで冒険者免許を貰って『冒険者』の仲間入りをした

 

 沢山の人と会って、いろんなところを冒険して……本当にいっぱい数えきれないほどの出来事があった

 けど、思い返してみると、冒険者免許を貰ったあの時のことは今でも鮮明に思い出せる。……なんだか、長かったようで一瞬のようにも思える三年間だったなぁ……

 

 

 そんなことを考えながら『冒険者ギルド』に来たわたし

 

 依頼の斡旋(あっせん)をしているほうではない、冒険者免許関係の仕事を取り扱っている方のカウンターを目指して歩いていく。すると、そのカウンターの向こう側にいたクーデリアさんがわたしに気がついたみたいで、していた作業を中断してこっちに向きなおった

 

「おっ、来たわね」

 

 「待ってたわよ」と、カウンターそばまで来たわたしにそう言って軽く微笑むクーデリアさん

 わたしは自然といつもよりも背筋を伸ばして、クーデリアさんの言葉に返事をした

 

「は、はいっ!今日で、よかったんですよね」

 

「ええ、そうだけど……って、なんでそんなにオロオロしてるのよ」

 

 そう言ったクーデリアさんは「はぁ」と短くため息をついた

 

「いえ……そのー、大丈夫だって頭でわかってても、緊張しちゃって……」

 

「まあ、当の本人以外の人が本人以上に不安がったり落ち着きが無かったりするくらいだから、あんたがそんな調子でも仕方がないわね」

 

「そうなんですよー。アトリエから出る時、先生ってば「トトリちゃんなら大丈夫だよっ!」って言って見送ってくれたんですけど……三日くらい前からずっとそわそわしっぱなしで、免許の更新以上に先生が調合に失敗しないかが不安で不安で……」

 

 そこまで言って、わたしは気になることがあって、クーデリアさんに尋ねてみた

 

「……あれ? クーデリアさん、最近、先生に会ったんですか?」

 

「残念ながら、ここ二、三日は忙しくて会えてないわ。……というか、やっぱりあの子もそんな感じなのね。トトリの腕を疑ってるとかじゃなくて、ただ単純に自分のことのように緊張してるだけでしょうけど」

 

「はあ……?」

 

 「うんうん」と一人で納得したように頷くクーデリアさん

 ……あれ? でもそれじゃあ、さっきクーデリアさんが言ってた、わたし以上に不安がってる人って誰なんだろう? 話の流れからするとロロナ先生じゃないみたいだけど……?

 

 

 

 不思議に、思い聞こうか聞くまいか……と、悩みながら首をかしげていると、クーデリアさんが「ああっ! いけない、いけない」と動き出して、カウンターの奥で何かゴソゴソとしだした

 

「ちょっと話がそれちゃったわね。はい、新しい冒険者免許。今日はこれを貰いに来たんでしょ?」

 

「あ……わぁ!」

 

 クーデリアさんが取り出し、差し出してきた(てのひら)ほどの大きさのそれを、わたしは両手でしっかりと受け取って目を走らせた

 

「わたしの免許ですよね? わたし、まだ冒険者続けてもいいんですよね!?」

 

「ええ。これであと二年くらいは続けられるわよ」

 

「ありがとうございます! ありがとう……二年?」

 

「うん。あと二年の予定よ」

 

 自分の耳を疑って聞き返してみたけど、「おそらく、それくらいになるわ」と、なんとも曖昧(あいまい)な返答だったけど、クーデリアさんはその期間を再び言った

 

 

 …………えっ?

 

 

「えー!? ……な、なんで二年間だけなんですか!? 前より短いじゃないですか!?」

 

「あー、うん。言いたいことはわかるけど、心配しなくても大丈夫よ。別にあんたの活動内容が悪かったとか、そういう理由でこうなったわけじゃないから」

 

 カウンターに少し身を乗り出して問いかけると、少しバツが悪そうに答え、そのまま言葉を続けた

 

 

「ほら、冒険者の制度ってまだできてそう経たないから、結構あやふやなとこがあるでしょ?」

 

「はい、確かに……」

 

「それをこの際きれいに整備しようってことになってね。その作業に少なくともあと一、二年はかかるかなーって」

 

 

 そこまで言われて、わたしはあることを思い出した

 

 前に、先生とステルクさんとわたしと……その三人で冒険に出かけた時。街からの出発の前にマイスさんを連れたクーデリアさんと会い、色々あって途中の採取地まで一緒に行ったことがある

 

 あの時、道中でクーデリアさんから聞いたんだけど、クーデリアさんは冒険者免許の更新に必要になる冒険者ポイントの見直しのために、時々各地の採取地をまわっているらしい。以前に『アランヤ村』方面の採取地近くで会ったこともあったんだけど、その時も同じ理由で来ていたそうだ

 そして、一緒にいたマイスさんは一応のための護衛みたい。クーデリアさん(いわ)く、「いなくても採取地は周れるけど、いた方が余裕を持って調査ができる」から頼んだとのこと

 

 もしかすると、あれもその「冒険者制度の整備」の一環だったのかな?

 

 

 いやいや……今、重要なのはそこじゃない。ちょっと気になるけど

 

 改めて、今さっきクーデリアさんから言われたことを自分の中で反復して思い返し、情報をまとめる…………

 

「えっと……つまり、この免許は二年経ったら……」

 

「もう一回、延長の手続きが必要ってことになるわね。でも、その時は一生使えるものをあげられるから……たぶん」

 

「たぶんって何ですか!?」

 

「ウソよ、ウソ。こっちの整備の方は問題無く進んでるから心配はいらないわ。それに、仮に更新までずっとグータラしてたり、大問題を起こしたりすれば免許取り消しなんてこともあるかもしれないけど……あんたならそんなことないでしょ?」

 

 

 ええっと、つまり、冒険者免許を初めて貰った時は「『冒険者ランク』を一定以上にしないと免許剥奪」っていう制約があったけど、今回は無いってこと……なのかな?

 

 それなら、今回ほど緊張したりする必要は…………って、あれ?

 

 わたしが自分の中で納得して顔を上げてみると、何故かクーデリアさんがなんというか……笑ってるような、困っているような顔をしているのが目に入った。……? 何かあったのかな?

 

「クーデリアさん? どうかしたんですか?」

 

「……いや、いくらあいつの娘だって言ってもトトリだからね、うん。大丈夫……だと、信じてるわ」

 

「あっ」

 

 そこまで言われれば、クーデリアさんが何を言いたいのかがわたしにもわかった

 つまりはわたしのお母さんが街や村、そのほか採取地などで起こした問題のようなことを、今度はわたしが起こしたりしないか少し心配したんだろう。……でも、どうやらクーデリアさんはわたしの事をちゃんと信用してくれてるみたいだった

 

 

 

 

 お母さんのことには少し申し訳なく思いつつ、信用されていることには嬉しさを感じたわたし

 けど、それと同時にある疑問がわいてきて、それを聞いてみることにした

 

「あのー、わたしのお母さんって結構色々と問題を起こしているみたいですけど……冒険者免許を取り上げられたりしなかったんですか?」

 

「しなかったわよ。取り上げたところで被害を被るのはどっちにしろ『冒険者ギルド(コッチ)』だったもの。……そもそも冒険者制度が出来るよりも前から冒険者みたいな人だったし。というか冒険者の中でも特殊な存在で、あいつを冒険者にするまでに沢山苦労があって、その前にも後にもそれ以上の苦労が……(ブツブツ」

 

 ええっと……どうしてかわからないけど、知らないうちに聞かない方が良い事を聞いちゃったみたい……

 

 話し出したクーデリアさんの口は止まらないし、なんだか喋っていくにつれて言葉の節々にトゲが出てきている。さらには段々と怒気がこもってきている……あっ、コメカミがピクピクしだした……

 

 

「あ……あー、そーだったー! 明日が期限の仕事がまだ終わってないんだったー。早く帰って調合しないとー」

 

 クーデリアさんからの返事も待たずに、わたしは一言「それじゃあ、失礼しましたー」と言ってその場から離れた……

 ……この後にクーデリアさんのところに行く誰かに、心の中で「機嫌が悪いかもしれません、ごめんなさい」と謝りながら…………


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