マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 諸事情により、あの人の覚醒はすっ飛ばすこととなりました

 良い話で、ストーリー的にも重要な話ですし、インパクトも強いのですが……どうにも、この物語中では少しだけ扱いづらかったりします
 ただ、覚醒したあの人は今後登場予定はありますので、そこではしっかりと描写していこうと思っています


4年目:マイス「これまでと、これから」

 

 

***マイスの家***

 

 

 時折、自問自答しながらも少しの月日を過ごしていた僕だったけど、ついにその日が来た

 

 

 リオネラさんが『アーランドの街』のほうで人形劇をするということだった。一通り仕事も終わっていたし、特に予定も無かったから、お昼過ぎに街へ行くリオネラさんを見送る時に僕も一緒に行って観てこようかなー、なんて考えていた

 

 そして、リオネラさんとホロホロとアラーニャが「そろそろ出ようかな」って言った、その少し後……玄関のほうからノックの音が聞こえてきた

 

 

「あっ、マイスさん。それに、リオネラさんも……こ、こんにちは」

 

 玄関の扉を開けた先にいたのは、トトリちゃんだった

 なんでも、僕に話があるということだったから、人形劇の予定があるリオネラさんはそのまま見送る事にして……僕は家に残って、トトリちゃんとお話をすることに

 

 

 ……トトリちゃんの言う「話」というのが何の事なのか察しながらも、僕はいつものように来客用に『お茶』を用意するのだった

 

 

――――――――――――

 

 

「はい、おまたせ」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 ソファーに座っているトトリちゃんの前あたりのテーブルの上に『お茶』を差し出すと、トトリちゃんは軽く頭を下げながら受け取ってくれた

 

 それを確認してから、ソファーとテーブルを挟んで反対側に置いてあるイスに僕も腰をおろす。そして、自分用に用意した『お茶』に一口つけて、この後話すことになるであろうことに少し緊張しつつも心を落ち着かせて、正面にいるトトリちゃんのほうへと目を向ける

 

 

「それで、今日はどうしたの?」

 

「えっと、どこから話したらいいのかな……あっ、そうだ」

 

  最初、少しだけ悩むような様子を見せたトトリちゃんだったけど、ふと何かを思い出したのか、先程まで腰にさげていた……今は座っているソファーのその横に置いていた『ポーチ』の中を(あさ)りだした

 「あっ! あった!」という小さな呟きと共に顔をあげ、『ポーチ』から何かを取り出したトトリちゃん。その手にあったのは手のひらほどの大きさの封筒で、トトリちゃんはそれを僕に差し出してきた

 

「お話しの前に……これ、マイスさんにって、お父さんから」

 

「お父さん? っていうことは、グイードさんから?」

 

「はい。今日、家を出る時にいきなり渡されて……」

 

 受け取った便せんは、大きさや厚さ、そしてグイードさんからと言う点を含めて考えると、やはり手紙なんだろう

 

 封筒を表、裏とひっくり返したりして確認しながらの僕の問いかけに帰ってきたトトリちゃんの返答を聞いた僕は、ついついトトリちゃんのほうを見て目をパチクリとさせてしまう

 ……ただ、それを見て何か勘違いしてしまったのか、トトリちゃんがちょっと驚いたような顔をして首を必死に振ってきた

 

「別に中身はわたしも見てませんっ!? ……た、確かに、ちょっと気になったから()かしてみたら見えないかなーって思ったりはしましたけど……」

 

「いや、そんな事は聞いてなかったんだけど……? ええっと、そうじゃなくて、「今日」家を……『アランヤ村』を出発したの?」

 

 僕がそこまで言ったところで、トトリちゃんにも僕の疑問がちゃんと伝わったみたいで、「ああっ!」とポンと手を叩いてトトリちゃんは頷いてくれた

 

「この前、新しい道具を調合したんです! 『トラベルゲート』って言って……原理は少し複雑なんですけど、街と村を一瞬で移動出来たりするんです」

 

「ああ、なるほど。だから今日『アランヤ村』を出て『アーランドの街(こっち)』のほうに着いてるんだね」

 

 僕は納得すると同時に、あることを思い出して少し感慨深い気持ちになった

 というのも、トトリちゃんの言った『トラベルゲート』という移動用アイテムについては、以前にロロナから聞いたことがあった。あの時は「『リターン』の魔法と似たものもあるんだなー」くらいにしか思わなかったんだけど……こうしてトトリちゃんの口から「作った」という事を聞くと、「そんな難しいものを作れるようになったんだなー」と思えてきた

 ほんの二年くらい前は、錬金術士でもない『錬金術』を少しかじってるだけの僕が色々教えたりもしてたんだけど……気がつけば、いつの間にか立派な錬金術士になっていたみたいだ

 

 

 

 そんな事を考えていたんだけど、視界に「どうしたんだろうか?」と少し首をかしげているトトリちゃんが入り、現実に引き戻された

 

「ごめん。……とりあえず、これの中を確認してもいいかな?」

 

「あっ、はい。わたしも気になってるので、お願いします」

 

 確認をとってから、僕は封筒の封を切って中に入っていた紙を取り出した。やはり手紙のようで、その折りたたまれた紙を広げると、グイードさんが書いたのだろう字が目に入った

 

 内容は……

 

 

「あの……? 何が書いてますか?」

 

「えーっと、ね……謝罪とお願い、ってところかな? ……グイードさんが悪いわけじゃないと思うから、なんだか読んでるコッチが申し訳ない気がしてくるけど」

 

 手紙の内容はおおよそ「口止めしてすまなかった」、「トトリに例の話を伝えた」、「話を聞いたうえでトトリは俺に船造りを頼んできた」、「できればこれからもトトリの力になってあげてほしい」というものだった

 途中、予想外の内容があったものの、大体の話は把握することが出来た。その上で僕がトトリちゃんと話すべきことは……

 

 

「……今日、トトリちゃんがしに来た「お話」って、ギゼラさんが船で海へ出た、って話なんだよね?」

 

「えっ!? 何で知って……もしかして、お父さんが手紙に……あっ……」

 

 最初、驚いたように言ったトトリちゃんだったけど、僕の顔を見て……たぶん、手紙を読んでいた時の僕が驚いていなかった事をわかってか、何かを察したように言葉を押し留め……再び口を開いて、別の言葉を発した

 

「……もしかして、マイスさんは知ってたんですか? お母さんのこと」

 

「うん。トトリちゃんが『青の農村(ここ)』に来た後、一緒に『アランヤ村』に行ったあの時。あの時にグイードさんにこっそり教えてもらってたんだ……ゴメンね、ずっと黙ってて」

 

「い、いえ、いいんです。お父さんも、おねえちゃんも、メルおねえちゃんも……村の人みんなが、黙ってたことですから」

 

 トトリちゃんは顔を伏せ気味になってしまった。その様子を見て、僕は胸と胃が締め付けられるように苦しくなったような気がした……だけど、それは黙っていたことへの当然のむくいだと思い、僕はトトリちゃんの次の言葉をジッと待ち続けた……

 

 

 

「あの……マイスさん」

 

 しばらくの静寂の後、トトリちゃんがそう僕に言ってきた

 

「話を聞いた時、マイスさんも、お母さんはもう……死んでいると思いましたか?」

 

 僕からしてみると、そのトトリちゃんの問いかけは予想外だった。だって、グイードさんの手紙の中に書いてあったから……「船が壊れただけで、そのせいで帰ってこれないだけで、お母さんは生きてるかもしれない」、だから「船造りを頼んだ」のだと

 でも、今の問いは、まるで生きているか死んでいるか……どっちなのか迷いがある様子だった

 

 何故、トトリちゃんはそんなふうに迷っているのか、僕の勘違いなのか……

 それを確かめる方法も、問いただす方法も持ち合わせてなかった僕は、これまで黙ってきたということもあって、聞いた当時に思った通りの事を口にすることに決めた

 

 

「話を聞いた時……薄情かもしれないけど、悲しいとか、心配とか、そういう気持ちはほとんど無かったんだよね」

 

「…………」

 

「だって、僕にとってギゼラさんはヒーローっていうか、一番すごい人だったんだ。フラウシュトラウトっていうモンスターの恐ろしさを全然知らないから言えるのかもしれないけど……そんな奴に()()ギゼラさんが負けるなんて、僕には想像できなくてね」

 

「……船、壊れちゃったんですよ?」

 

「グイードさんが造った『フラウシュトラウト』に壊されない船だから、簡単には壊されないよ……とは言っても、僕が知ってるだけでも、一人だけ壊せる()()もいるけどね。ほら、橋とか遺跡とか壊した何処かの誰か……とかね」

 

 僕がそこまで言ったところで、トトリちゃんの身体が肩を中心に少し揺れた

 

「それって、お母さんが自分で船、壊しちゃったってことですか……?」

 

「かもね、って話だよ」

 

「……ふふっ。村でも色々壊されたマイスさんが言うと、なんだか説得力がありますね」

 

 顔を上げたトトリちゃんの顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた。なんだか、さっきまでよりも元気があるような気がする

 

 

「そっか……あの時、お父さんが言ってたのって、マイスさんのことだったんだ」

 

「……? 何のこと?」

 

「わたし、お父さんたちに言ったんです「船が壊れて帰ってこれなくなっただけかもしれないじゃない」って。そしたらお父さん、少しだけ笑って「そうか……お前()()そんなふうに考えるなら、本当にそうかもしれないな」って呟いてたんです。一緒にいたおねえちゃんは、何のことかわからないみたいでしたけど……」

 

 トトリちゃんのお姉ちゃん……ツェツィさんは、僕とグイードさんがその話をしていた時、グイードさんに言われてトトリちゃんが来たらわかるように家の玄関の前で見張り役をしていたから、僕がグイードさんに何を言ったのか知らなかったんだろう

 

 

――――――――――――

 

 

 それから、トトリちゃんからこれからの事を聞いた

 

 どうやらトトリちゃんは船造りのために、グイードさんから言われた素材を集めて調合をしていくらしい。そして……

 

 

「それで、持っている素材も必要な数が多くて足りなかったり、まだ見たことの無い素材なんかも集めないといけなくて……」

 

「その辺りは『青の農村(うち)』で採れるものとかだったら、いくらか用意できるよ。それに、どこか険しい採取地に行くって言うなら、遠慮しないで僕に声をかけて! 色々と力になれると思うから!」

 

「えっ! でも、マイスさんはやっぱり村長さんだし、冒険に付き合ってもらうのは……」

 

 申し訳なさそうに言うトトリちゃんに、僕は首と手を振って「いやいや」とそんな事は無いということを伝える

 

「『大食い大会』みたいな、新しかったり、もの凄く準備が大変なお祭り以外は、僕がいなくても村のみんなでやっていけるから大丈夫だよ。それに……」

 

「それに……?」

 

「「心配してない」なんて言っちゃったけど、やっぱり僕だってギゼラさんには会いたいからさ。……僕にも、手伝わせてくれないかな?」

 

「……わかりました! それじゃあ、お願いしますマイスさん」


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