マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 サブタイトルが、ある意味ネタバレ気味な気がしますが……ご了承ください
 そして、場面転換が多いのでもしかすると読み辛いかもしれません


4年目:リオネラ「すれ違っている二人」

 

 マイスくんの御好意に甘えて、マイスくんの家の裏手にある『離れ』を使わせてもらってから結構な月日が経った。これまでにも『青の農村』に訪れては泊まらせてもらってはいたけど、それらは一週間にも満たないことがほとんどだったから今回ほど長期滞在しているのは初めてかもしれない

 

 長期間になった理由は、ちょっと前までは諸事情で『アーランドの街』の近くにい(づら)く長期滞在し辛かったけど、それが無くなったから離れる理由が無くなって特別旅に出る必要がなくなったから

 

 でも、それなら昔みたいに街で部屋を借りて住んでも良かったんだけど……これまでに何度も『青の農村』に滞在しているうちに、いつの間にかすっかり『青の農村(ここ)』での生活に馴染んでしまっていて、なんとなく離れ辛くなってしまっていた

 それに、街でしたいことって人形劇の公演が(おも)だから、街からそう遠くない『青の農村』を拠点にしてても別にそこまで困ることはないし、それに…………

 

 

 と、とにかく、そういうことで、未だにマイスくんの家の『離れ』でお世話になっている……というわけだ

 

 

 ……それで、街や村なんかで人形劇をしたり、時々マイスくんのお仕事を手伝ったりしながら生活してたんだけど……

 

 

 そんなある日、マイスくんが家に女の子を連れてきた。なんでも、その女の子の冒険者のお仕事のお手伝いをするらしく、マイスくんの家(ここ)をその拠点にするらしかった

 

 その女の子の名前は、ミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラング

 私はその子の名前を聞いたことがあり、その顔も見覚えがあった。フィリーちゃんから聞いた「普段の仕事の話」で時々出てきた名前であり、他にもマイスくんの口からも何度か聞いたことがあった……確か、王国時代には付き合いがあったけど、いつからか嫌われて顔を見るだけで悲鳴をあげて逃げられるようになった、とか……。顔の方は、街の通りや街での人形劇の公演で時々見かけた程度だけど

 

 

 けど……今はこうしてマイスくんと一緒にいるわけだから、仲直りできたのかな……?

 

 

 

――――――――――――

 

 

***マイスの家***

 

 

「というわけで、一緒にゴハン食べたりする機会もできると思うから、ふたりともこれからよろしくね!」

 

 マイスくんはいつもの調子でそう言って笑顔を浮かべる。……でも、それとは対照的に、その隣にいるミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラング……えっと、ミミちゃんはすました顔で私に軽く礼をしてきた

 

「…………よろしくお願いします」

 

 そう大きく無い声で短くそう言ったミミちゃんは、すました顔を崩すような素振(そぶ)りは全く見せないでそのまま口をつむった。それ以上は何も言うつもりは無いみたい……

 

「こ、こちらこそ……」

 

「よろしくね、ミミ」

「おうっ! 居候(いそうろう)同士、仲良くしようぜ!」

 

 私に続いてアラーニャとホロホロが返事をすると、ミミちゃんは一瞬目を見開いたかと思うと……すぐに元に戻って「……どうも」と短く返してきた

 

 

 ……そういえば、今は私が『離れ』を使わせてもらってるから、ミミちゃんが泊まれるところが無い気が……

 

「あの、マイスくん。それじゃあ、私は移動したほうが……」

 

「ん? ああ、それは大丈夫だよ。ミミちゃんにはここの二階を使ってもらうから。それのほうが、身を隠しながら状況を把握しやすいだろうし」

 

 身を隠す……? どういうことなんだろう? それに、それじゃあ今度はマイスくんが寝る場所がなくなるんじゃあ……

 

 そう思って、改めてマイスくんに声をかけようとし……その前に、私が言おうとしたことをわかっていたのか、「しーっ」と口の前あたりに右手の人差し指を立てて何も言わないように……という意味かはわからないけど私に伝えてきて、口パクで「だ・い・じょ・う・ぶ」としてきた

 

 何か考えがあるのか、本当に大丈夫なのか少し心配だったけど、とりあえずは言われた通りにしてみることにした……んだけど…………

 

 

 たぶん、微妙に変な間ができたから……かな? ミミちゃんがほんの少しだけ(まゆ)を動かしたかと思うと、唐突に顔を横に向け、隣にいるマイスくんの顔を見てきた

 

 けど、マイスくんによる私へのジェスチャーと口パクはもう終わっていたから、何か勘付かれるようなことは無さそうだった

 マイスくんも、ミミちゃんが自分のほうを見てきたことに気付いたみたいで、いつも……よりはちょっとぎこちない感じだったけど、笑いかけながら口を開いた

 

「……! どうかした? 何かあったら遠慮な」

 

「…………別に」

 

 マイスくんの言葉を断ち切るようにして言ったかと思うと、そのままそっぽを向いてしまったミミちゃん。そして、マイスくんは……

 

「…………」

 

 表情をかたまらせて、何も言わないまま大きく肩を落としていた……

 

 

「……なにこれ」

「なんか、めんどそうなニオイがすんなぁ……」

 

 マイスくんとミミちゃんには聞こえないくらいの小さな声でアラーニャとホロホロが呟くのが、私の耳だけに届いていた……

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 ミミちゃんが来た翌日

 依頼の達成のため、ミミちゃんと……その付き添いのためにマイスくんが冒険に出発した

 

 私はお留守番で、マイスくんがいない間の家と畑を代わりにちょっとだけ管理することに

 これまでに何度も見てきた上に、時々手伝っていたこともあって、畑の作物への水やりと収穫は問題なくこなせた。けど、流石にマイスくんよりもすごく時間はかかっちゃったし、(たがや)したり植えたりはできそうにもなかった

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 マイスくんミミちゃんが冒険に出発してから数日後

 ふたりは無事依頼を達成したようで、『青の農村』に戻ってくる前に街の『冒険者ギルド』に寄ってきて、すでに達成の報告と次の依頼の受注をしてきたらしかった

 

 ただ……

 

 

 

「うう……」

 

 明日、また冒険に出発するために、必要な食料・道具を買いにミミちゃんが『青の農村』のお店の一つ……コオルくんのところへ行ったところで、キッチンで一緒に夜ゴハンの準備に取り掛かっていたマイス君くんが、いきなり肩を落とした

 

「わわわっぁ……!? ど、どうしたの、マイス君!?」

 

 私が聞くと、マイスくんは困ったような顔をして私を見て、「どうしたらいいんだろう……」ともらしてきた

 

「今回のことがミミちゃんとの仲直りのきっかけになると思ってたんだけど……でも、ゴハンの時も冒険中もほとんど話してくれなくて……」

 

「あぁー……マイスとあの子、初日からそんな感じだったわよね」

「マイスは頑張って喋ってる感じだったけど、妙な空気になったりしてリオネラも食い(づら)そうにしてたな。……んで、その度にオレたちが話を切り換えてやってさ」

 

 ホロホロの言葉に、申し訳なさそうに「ううぅ……ゴメン」と頭を下げるマイスくん。そして、そのまま続けて口を開いた

 

 

「それに、今回の冒険でミミちゃんが達成した依頼なんだけど……その報酬の半分を僕に無理矢理押し付けてきたんだ。「僕は何もしてないから」って言って返そうとしたんだけど、ミミちゃん、話も聞いてくれなくて……」

 

 ……あれ?

 

 マイスくんが言ったことに疑問を感じて、私はマイスくんに問いかけてみる

 

「何もしてない、って……マイスくん、お手伝いしに付いて行ったんじゃ……?」

 

「うん、そうなんだけどね。本当は凄く手伝いたいんだけど……でもやっぱり依頼を受けたのはミミちゃん自身だから、僕は手を出しちゃいけないかなって。だから、僕は討伐対象以外のモンスターの相手をしたり、道中のゴハンや夜の見張りとかを頑張らせてもらったんだ」

 

「なるほどな。つまり、オマエは依頼自体にはノータッチだから、報酬はミミだけのものだーって言いたいわけか」

「言いたいことはわからなくもないけど……でも、ねぇ?」

 

 アラーニャの言う通り、確かにマイスくんが言っていることもわかる。けど、依頼の邪魔になるだろう他のモンスターを倒したり、冒険の間の食べ物のこととかを全部されたとなると「何もしてない」というのには素直に(うなず)け無い気もする

 それに……

 

「あと、「次の冒険に必要な物はウチで準備するよ」って言ったんだけど、ミミちゃん、自分で買いに行くから()()にいらないって……」

 

「……それで、今さっきミミちゃんは買い物にでかけたんだね」

 

 私がそう言うと、マイスくんは肩を落としたまま頷いてきた

 

「うーん……でも、本当にどうしよう? 渡された報酬分、今日の夜ゴハンを一段良いものにしたらいいかな? そしたら、ミミちゃんの次の冒険の手助けになるだろうし……そうなると、今日の夜ゴハンのメニューは……」

 

 そう考え込み始めたマイスくん

 

 

 ……私は、なんとなく……なんとなくだけど、わかってきた気がした

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 そのまた翌日の早朝

 ミミちゃんは()()で冒険に出かけた。ミミちゃんが言うには「今回は近場での依頼だから敵も弱いから一人で十分」とのこと

 

 私とマイスくんは、ミミちゃんを見送った……そして、ミミちゃんの姿が見えなくなったところで、マイスくんがまた大きく肩を落として大きなため息をついた

 

「……うん。あのミミちゃんがあんなに頑張れてるから良い事だよね! ……でも、なんだか最初よりもミミちゃんとの距離が開いた気が…………そんなことない、と思うんだけど……」

 

 なんだか、どんどんマイスくんの目が曇ってきているような気が……

 

 でも、まだなんとか大丈夫みたいで、畑仕事や今月のお祭りの会議などはちゃんとこなしていた。……けど、やっぱりどこか

 

 

 

 そんなマイスくんを見ながら時に手伝ったりして過ごしてたんだけど、ある時、私のそばにいたアラーニャが私の耳元に寄ってきて、小声で呟いてきた

 

「ねぇ、リオネラ。やっぱりこれって……」

 

「……うん。たぶんだけど、その、マイスくんがミミちゃんのためにやってることが裏目に出ちゃってるんだと思う」

 

「だよなぁ。……でも、マイスのこと知ってんならこれ位の事をしてくるだろうってのも、それが純粋な誠意だってこともわかりそうなんだけどな? だからって、全部受け入れろってわけじゃねぇけど。それに、甘えちまってるオレたちがどうこう言えないかもしんないけどよ」

 

 ホロホロが言ったことに、アラーニャも「そうよねぇ」と同意を示した

 私も同じようなことを思っている。でも、それだけじゃあミミちゃんのやってること・やってたことに説明がつかないような気もするのも事実だ

 

 結局、これまでもほとんど話せていない、他人から聞いた話でしかミミちゃんを知らない、そんな私にはミミちゃんの性格や考えていることが把握しきれないから答えは出せそうになかった……

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 そのまた数日後

 

 私はミミちゃんが冒険から帰ってくるまでに、何でマイスくんがミミちゃんの手伝いをすることになったのかを調べた

 方法は単純で、ミミちゃんが受けている依頼を取り扱っているフィリーちゃんに聞いてみたのだ。偶然にも、フィリーちゃんはその場を見ていたらしく……その上、その大元の原因のロロナちゃんの『錬金術』の弟子のトトリちゃんとミミちゃんのケンカのことも教えてくれた

 

 ……ただ、その話をしている途中にフィリーちゃんが「……って、そうだった!?」っていきなり声をあげて……その後、これまでのマイスくんとミミちゃんの様子を詳しく聞かれた。途中から同情というか呆れ気味の様子で「マイス君……」って呟いてたりしてた

 ……最後に「こ、これ以上ライバルはつくらないようにしようねっ!」ってフィリーちゃんは言ってたけど……何のことかは、よくわからない。けど、アラーニャとホロホロはなんだかわかった様子だった。けど、聞いても教えてくれなかった……

 

 

 

 

 それで、ミミちゃんが冒険から帰って来たんだけど…………

 

 

「今度は付いて行ってないのに、ミミちゃんが僕にお金を押し付けてきたんだよ……。今度は前よりも多いから、もしかしたら報酬の全額かも……」

 

「また、オレたちにそんなこと言われてもなぁ。本人にキッチリいったらどうなんだ?」

「言ったから途方に暮れてワタシたちに相談しに来たんでしょ。マイスの顔を見たらわかるでしょ!」

 

 より一層落ち込んだ様子のマイスくんが、イスに座ってうなだれてしまっていた。ここまで元気の無いマイスくんは、前に一度同じくらいの時があったきりで、本当に珍しい

 

 だからこそ、このままだといけない気がしてならなかった……

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 これ以上は本当に大変なことになりそうだから、どうにかしたいんだけど……

 こういう時に頼れるロロナちゃんは弟子のトトリちゃんのほうにかかりっきりらしいから、相談するのは難しいだろう。他に誰か……

 

「どうしたら……」

 

「そんなの決まってるじゃない」

 

 そう言ったのは、アラーニャだった

 

「ワタシたちで何とかしましょうよ。最終的には本人たち次第だけど、その手伝いくらいはワタシたちにもできるはずよ」

 

「で、でも、逆に迷惑になっちゃうんじゃ……」

 

 私がそう否定しようとしたんだけど、それを(さえぎ)るように、今度はホロホロが言ってきた

 

「迷惑かけてるなんて今更だぜ。そんなら当たって砕けろってんだ! そうすりゃ、なるようになるだろ」

 

「それは……そうかも、だけど……」

 

 

「それにね、リオネラ……たまたま()()わせちゃったとか、そんなこと関係無しに……マイスが困ってるなら、何とかしてあげたいでしょ?」

「だな。少なくともオレとアラーニャはそうだぜ? お前はどうなんだ?」

 

 アラーニャとホロホロに言われて、私は改めて考えてみる

 

「私も、なんとかしてあげたい。できるかはわからないけど……」

 

「でしょ? なら決まりね! 今から作戦をかんがえましょう」

「リオネラも無い脳ミソひねくりまわして考えろよ! さて、どうしたもんかなぁ……」





 マイス君とミミちゃんが二人きりだと思った? 残念! まだリオネラが居候してたよ! ……そんな出落ち気味なお話


 次の話でミミちゃんの心情(ツンツン)を、そのまた次の話でマイス君とミミちゃんを……といった感じに描写する予定です
 マイス君とミミちゃんの絡みを楽しみにしていた方がいましたら、大変申し訳ありませんがもう少しお待ちください

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